イジメダメゼッタイ。 * 4

 体の中が引き裂かれる音を確かに聞いた。
「っひ、ひいっ、ひいいっ……!」
 信じられないほどの深くまで、あり得ない場所までペニスが侵入してきている。死んでしまいそうなほど強烈な痛みと不快感がする。これまで何も入ったことのなかった場所に、あんなに太いペニスが入ってきているのだ。苦しくて当然だった。
「ひっ、あ、がっ……!」
 あまりの苦痛にびくびくと体が痙攣し、言葉など話すことができない。松原はすぐには動かなかった。けれど、楽しそうに暴言を投げてくる。
「どうだ? 処女喪失した気分はよ? 散々嫌がってたけど、おまえはもう非処女なんだぜ。チンコ奥まで入ってんの分かるか? びっくびくしてるぜ」
「うう、……う、う!」
 そのどれもが、男である自分に向けられた言葉だとは信じられないものだった。事実、分かっていて松原は言ってきているのだ。これが過去に、彼の恋人を半ば強引に襲ったことへの復讐。わざと彼はこうして女扱いをしてきているのだ。
「ぬ、抜け、抜けえっ、死ね……!」
 全てを埋め込んだまま、松原は動きを止めていた。広げられている部分がじんじんする。今にも裂けてしまいそうなほど強烈な異物感だった。耐えきれないような怖気が走り、肌がぞわっと粟立つ。
 繋がっている部分を覗き込むように、松原が尻を掴んで外側へ開いた。
「うわ。こうやってケツに入ってるとこ、生で見ると壮絶だな! すげえ。ぎちぎちじゃん。木戸、カメラ持ってこいよ」
「あうう……!」
 再びアヌスを覗き込まれていることを悟り、佐伯は暴れようとした。だが腹に突き刺されたペニスが苦しくて、動くたび、ほんの少し向きを変えるたび体の中にその質量を感じてしまって動けない。意識の何もかもがセックスに持っていかれているような、強烈な感覚だった。体は異物を押しだそうと抵抗しているけれど、松原は全く腰を引いてくれない。けれどアヌスはびくびく収縮している。そのせいでより一層、彼のペニスの形がよく分かる。
(あんな、あんなものが、俺の、中に!)
 なぜ、どうしてこんな目に遭わされているのか――。佐伯はこれまで何本ものアダルトビデオを見たことがある。アナルものだって興味本位でいくつか見てみたことがあった。と言っても、わざわざ買ったりなんてするわけがない。インターネットでアップロードしてあるサイトを探して、アクセス。こうやって無料で見られるものを金出して買うなんて馬鹿じゃんと思っていた。
 そのとき、うわあ、と思ったものだ。うわあ、肛門なんかにチンコ入ってるよ。ありえねー。グロいな、と。それなのに今は自分があの部分にペニスを挿入されているのだ。痛くて締め付けて、余計にその大きさを感じてしまう。
「わあ、本当だ。……こりゃ酷いな。ついさっきまで指一本でもきつかったのに、一気にチンポだもんな」
 木戸も覗き込んできて笑っている。そしてカシャカシャとまた、あの音がした。
(撮られてる、また……カメラで!)
 一枚二枚ではなかった。尻を大きく開いたり、撮る位置を変えたりしながら木戸はレンズにいくつも痴態を収めていく。シャッター音の方向が変わることで佐伯はそれに気がつき、強く目を閉じた。
「ビデオも近づけてくれよ」
「了解」
 軽く答えて、木戸が離れる。――途端、松原は腰を動かし始めた。
「うぎゃあああっ! ああっ! あああ、ヒイッ! あぐあっ!」
 ずる、ぐちゅ、ぶちゅ、ぶちゅ。大きな音が結合部から響く。内臓を直接持っていかれるような気持ちの悪さに佐伯は叫んだ。
「ばっちり撮れてるよ。抜けてくとこも入ってくとこも、ケツの皺まで丸見えだ」
「あがっ、がああっ! っく、っぐぐ……っ!」
 木戸が揶揄するも、その意味を理解できるほどの余裕は佐伯からなくなっていた。ただひたすら、松原のペニスの凶悪さに苦痛の呻きを洩らすのみ。ぐじゅぐじゅと腹の中を攪拌される生理的な気持ち悪さは、経験者でなくては分からないに違いない。
「っ、く、結構、いいぜ」
「ひい、あっ、あああ、っああ!」
 ぱんぱんと腰がぶつかってくる。何度も激しく動かれるうち、始めほどの苦痛はなくなってきた。だが、一層穴が広がってしまったような感覚がある。自分の体が、想像すらしたこともなかった風に変えられていく恐怖。痛みとおぞましさの中で佐伯は必死に身を捩った。
 抜けていくたび、大きく開いた亀頭の笠が、穴の中でも感覚のある部分を擦る。そのたび自分が今、レイプされているのだということをまざまざと佐伯は認識させられた。レイプ。何て残酷な言葉だろう。こんなにも鋭い、この世のものとも思えない苦痛が、たったの三文字で表現されてしまうなんて。
 カリカリと何らかの機械音がした。続いて、おっ、よく撮れてるよという木戸の声。彼は今撮影したものがきちんと映っているかを確認していたらしい。その間にも松原は激しくペニスを挿入し続けている。佐伯は目を閉じてひたすらそれをやり過ごそうとした。
「……せっかくだから、本人にも見せてあげようかな。おい、目を開けろよ」
 近づいてきて木戸が、ぐいと顎を引っ張ってきた。佐伯は一層強く瞳を閉じ、彼に背く。目を開いたらそこには凄惨な画像があるに違いない。それが分かっていて、目など開けられるものか。
「開けなって。もしかして言うこと聞かない気? 聞かなきゃ酷い目に遭わすよ!?」
 木戸が荒々しく怒鳴った。その、本当に何をしてくるか分からない語調に佐伯はびくりと身を竦ませた。その間にも背後からは、松原がペニスを突き込んできている。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのか分からず、ついに佐伯は瞳をそっと開いてしまった。――そしてその途端、もはや叫ぶことすらできず、硬直した。
 プレビュー部分の枠が、面積の大半を占めるタイプのデジタルカメラだった。その部分に映されていたのだ。惨いほどにグロテスクな光景。ぶれなく映された、大きな、ローションでてらてらと光るペニスと、自身の肛門が。その部分にはずっぽりと性器がはまりこんでいた。こんなものが入っているなんて嘘みたいなほどの光景だった。けれど実際に、ペニスは挿入されているのだ。そして幾度も幾度も抜き差しされ、肛門の中を擦っているのである。剥き出しにされた自身の尻は哀れなほど白く、埋め込まれている性器の黒々とした威圧感が一層強調されている。
 こんな様子が、カメラという複製可能な媒体に記録されてしまった。いや、それだけじゃない、設置されたビデオもリアルタイムでこの様子を非情に映し込んでいる。
「こんなに開いちゃってるなんて信じられないでしょ? 掘られる前の画像も見せてやろうか? ほら」
「――ひっ……、うっ、うう、ううううっ、っく、ああ!」
 ついに佐伯は、慟哭を上げてぼろぼろと大粒の涙を零し、室内に響き渡るほどの大声で絶叫した。木戸がボタンを操作し切り替えていった画面には、ペニスの埋め込む深さが変わって犯されていく画像が映し出されていたのだ。けれど真に佐伯を絶望させ、絶叫させたのは強姦時の画像ではなかった。その前だ。レイプされる前のきつく閉じた肛門を、佐伯は強姦されながら見せつけられてしまったのだった。
 初めてしっかりと見せられた自分のアヌスは、先ほど彼が言った通り、深々と皺が刻まれていた。その奥に狭く締まった穴がある。そんな部分を本当に撮られてしまった部分の羞恥、そして、そのきつい部分にあんなに太いペニスが入ってしまっているのだという絶望。松原は佐伯に、おまえはもう非処女なんだぜ、と敢えて女扱いをして先ほど言った。その意味を心から深く佐伯は実感した。この狭い部分に、あんな大きなペニスを入れられた――。汚された、レイプされた、もう駄目だ。味わったことのないほどの深い絶望だった。
「泣いてやんの! いい気味だな」
「っああ、あああーっ! ひうっ!」
 松原は全く同情することもなく相変わらず腰を動かしている。その手が、胸元へと伸ばされ乳首に触れた。くりくりと両手でくすぐるようにこねくり回される。唐突に走った甘い痺れにも似た刺激に佐伯は叫んだ。
「ぎゃーぎゃーうるさい奴だな。あんた、高校時代に俺が泣いたとき、どうしたか覚えてる? なあ?」
 木戸が呆れたように言い、顔を真っ赤にして泣き叫ぶ佐伯の顔を再びシャッターに収めていく。ペニスを激しく突き込まれながら、乳首をいじられる。左右同時に指先で摘んで、ゆるゆると。下肢の不気味なほどの感触に比べるとそれは陶然としたものだった。思わず、はあっ、と快感から息が漏れ、体に力が入ってしまう。
「うわ。乳首いじられて感じてるよ、こいつ。いじるのに合わせてケツの穴がぎゅうぎゅうチンコ締めてきやがる」
「どうしようもない変態だね! 強姦されて感じるなんて、頭イカレてるよ」
「うう……!」
 二人は罵倒しながら好きなようにし続けた。木戸はあちこちから痴態を収め、松原は強姦に励む。激しく動くばかりではなく、時にじっくりと、散々の時間を掛けて抜き、突き刺した。そうするとこれまでで一番深く挿入された心地がして佐伯は泣き叫んだ。そして、乳首をいじられるたび、かぶりを振って身もだえた。
「んーっ! んーっ! んっ!」
 苦痛を与える目的で尻を掘られているこの状況に、胸への刺激は甘すぎたのだ。その快楽が唯一の救いであるような気さえした。松原も、乳首に関しては敢えて快感を与えてきている。思い切りつねることも爪を立てることもなく、ぐりぐりと左右をこね続けているのだ。
 ペニスの動きにはいつまでも慣れなかった。裂けるのではという恐怖こそ薄れてきたものの、突かれるたびに衝撃は強まっていく。いつ意識がブラックアウトしてもおかしくないほどの、強すぎる刺激。そんなとき、松原が言った。
「うっ、そろそろ、出そうだ!」
「えっ……! あ、ああっ、ひっ!」
 腰の動きが一層速まり、ペニスの角度が更に増していく。そして硬度までもが。奥の方でまで分かるほどの堅さ。
 ぐちゅぐちゅと響いていた音が、間隔を開けず素早くなっていく。がくがく揺さぶられ佐伯は耐えきれず絶叫した。
「ああーー! ひい、ひいっ、あああ!」
「くっ……!」
 そうして腰を動かしていた松原が、ずんと一番深くまでペニスを沈み込ませてきた。そのまま腰の動きが止まる。その意味すら分からないうちに、びくんっ、と肛門の中でペニスが大きく痙攣した。
「あ、ま、まさか……うああ、ああ!」
 びゅっ、びゅっと断続的に熱い液体が吐き出され、体内に撒かれていく。松原が射精を始めたのだった。彼は尻を抱えて腰を強く押しつけ、一匹でも多くの精子を佐伯の体内に残そうとでもするかのように、踏ん張って吐精をした。灼熱の液体が佐伯を犯す。強姦の証を体に刻みつけようとでもするかのように。
 中出し。男の身でありながらそれをされる屈辱に佐伯は泣いた。
「うっ、うっ、ああ……!」
 けれど松原は容赦してくれない。彼は微塵たりとも動かずに奥で射精をし続け、最後に一際大きくぶるりと震えると、これまでで一番多くの精液を吐き出した。体内で急速に性器が小さくなっていく。その感触を佐伯ははっきりと覚えさせられた。
「……はあ」
 ずるりと力を失ったペニスを引き出しながら、松原が息を吐く。佐伯は尻だけを上げたまま、身を震わせて泣いていた。
「すげー。ヤったあとってやっぱ、弛むんだな」
「ああ。佐伯、分かる? お前のケツ、穴がずっぽり開いちゃってるよ。カワイソーにな」
 全く同情などしていない口調で木戸が言うと、またもカメラの音がカシャカシャと鳴った。強姦の前と最中だけに飽きたらず、彼は、その直後の哀れに緩んだアヌスまでもをデータとして残すことにしたのだ。
「っあ、ああっ、……うう…」
 それでも、終わった。肛門はじんじんと激しく痛むし体中が軋むようで、精神もずたぼろにされてしまったけれど、だけど終わったのだ。そう思えばどうしても安堵のようなものが広がり、佐伯はぼろりと大粒の涙を零す。
「おいおい。もしかして、終わりだと思ってるのかよ!」
「ひぐっ!」
 松原が尻を平手でべしりと叩いた。中に出された精液がその瞬間にいくらか噴き出た。その精液を指で掬い取り、肛門の中に収めながら、今度は木戸が笑う。
「まだ俺、何もやってないじゃんか。……高校のとき、俺のこと何て言っていじめてくれたっけ? そのチンポであんたのケツ、掘ってやるよ」

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