中国の中でも治安が安定している
街大連でも、時々、ミステリーと呼んでも可笑しくないような巧妙な不動産トラブルを
身近で体験することがある。
幸い、私自身に実質的な損害はなかったが、身近でそんなことが起こると気持ちが悪い事は確かである。
「私の友人の親戚の人も、不動産トラブルに巻き込まれた」そうだ。
この街では、個人の家主が所有している分譲賃貸マンションや店舗物件 がやたらと多いのが眼につく。
当然、不動産のトラブルも日常茶飯事のように起きている。
日常茶飯事のように不動産のトラブルが起きているのにも係わらず、相変らず不動産業者へ払
う手数料を節約するために、直
接、賃借人と不動産の賃貸契約をする個人の家主も多いのが現状である。
そして、日々、私たちの想像もつかないような不思議な不動産トラブルが起こる。
だ から、店舗を所有する家主は、必要も無いのに自分の所有している店舗の見回りによく来る。
理由は、店舗の繁盛具合を把握するためとトラブルを防止するためだそうだ。
もちろん、家主の頭の中には賃料の値上げのことしかない。
私は、通 算15年ほど大連で生活をしているが・・・・・
近年の急激な大連の不動産の値上がりには、経済的な要因だけではなく個人の家主のエゴが多分に含まれて価格に繁栄してい
るような気もしないではない!?
そんな家主連をあざ笑うように・・・・・そして家主連の「上前をはねる」のも平気な人間も大連には多い。
だか ら、不動産トラブルと言う名のミステリーが生まれるのかもしれない!?
トラブル防止の為に、家主が用事も無いのに自己所有の不動産の見回りに足繁く通うのが日課になってい
る。
一、人を見たら鬼と思え オーナー受難
2007年、私は、大連星海自由港というマンションの104号室に住んでいた。
隣の103号室と105号室は、個人のオーナーに より賃貸に出されていた。
私の住んでいたマンションの隣りの部屋で、立て続けにミステリー小説のような不動産のトラブルが起こった。
私 は、103号室の家主とは、その不動産トラブルが起きるまで面識も無かった。
103号室の借家人は女性で、年齢は20歳代後半で長身、美形、細身、色白だった。
いつも、彼女は身嗜(みだしな)みが良く、値段の高そうなブランド風の服を着て、シャネルの匂いをプンプ
ンさせていた。
彼女は、好感度も満点だった。
私は、隣室の103号室の彼女ともほとんど面識が無く、マンションの玄関で、彼女と出会っても「ニイハオ」と、簡単な
挨拶を交わすぐらいだった。
彼女が運転していた車は、新車のBMWの7シリーズで、黒龍江省ナンバーだった。
私は、隣の部屋に黒龍江省出身の裕福な家のお嬢さんが住んでいるのだと、勝手に想像していた。
たぶん、103号室の家主も、私と同様に、彼女のことを見ていたのだろう。
しかし「いかなる時も、油断は禁物である!!」と言うことを・・・・・私は知らされた。
以前一度だ け、私は、隣りの彼女の部屋の中を覗くチャンスがあった。
その時、彼女の部屋の中には家財道具が一つも無かった。
BMWに乗っているの にも関わらず、彼女の部屋に家財道具が一つも無いのが、私にとって凄く印象的で納得ができなかった。
しかし・・・・・反面、これが中国式のイージーライフスタイルかなと、自分で勝手に解釈していたのだった。
私は、毎年、年末から年始にかけて奈良の実家へ帰っていた。
その年も、年末から2週間ほど奈良の実家に帰って、一月に大連に戻って来た。
大連空港からマンションまでタクシーに乗った。
私がタク
シーを降りて、星海自由港のマンションの玄関を入ると、103号室の家主が心配そうな顔をして、部屋を出たり入っ
たりしていた。
その家主が、私を見つけて声をかけてきた。
「103号室の女性を知りませんか?」
「どうか、しましたか?」
「行方不明なのです」
「6ヶ月分の家賃が未払いなのです」と、家主が私に言った。
「私は、2週間ほど大連を不在にして日本へ帰っていたので、知りません」と、私はその家主に言った。
ここに長居は無用と、私は急いで自室に戻り、持って帰って来たスーツケースの荷物の整理を始めた。
その後、家主が103号室に一週間ほど泊まっていたが、BMWの女性は戻って来なかった。
それから少し 経って、103号室が売りに出された。
その家主が老
後の利殖のために購入したマンションだが、この事件が原因で、不動産のオーナー業に嫌気が
さしたのである。
家主が、前払いで少しでも多くの家賃を請求するのは不動産賃貸業の鉄則だ。
ルールを守らないと、隣室の家主のよ うに痛い目に遭うのである。
二、人を見たら泥棒と思え テナント受難
そのトラブルが起こった日、私は、大連マイカルへ買い物に行っていた。
買い物をして帰って来ると、隣の105号室のドアが開いている。
部屋の中では、その部屋の家主と借家人が揉めていた。
105号室は、この揉め事の起こる一週間ほど前、新婚夫婦が引っ越して来たばかりだった。
こ の新婚夫婦が引っ越して来てから一週間ぐらいは、順風漫歩のような生活を送っていた。
しかし、105号室の家主が家賃を取りに来て、この事件が発覚したのだった。
その家主が知っている借家人は、消えていたのである。
そして、その家主の全然面識の無い新婚夫婦が105号室に住んでいた。
この部屋の家主も驚いたが、既に、入居していた新婚夫婦はもっと驚いた。
新婦に至っては、泣いていた。
新婚夫婦は、先月の末に結婚して、幸せな新婚生活をスタートさせた矢先のトラブルであった。
新婚夫婦は、偽の家主に 3か月分の家賃を払って賃貸契約をして105号室に入居した。
最初、6ヶ月分の家賃を請求されたが3か月分に値切った。
新婚夫婦が入居する前に住んでいた借家人は、出掛けの駄賃として3か月分の家賃を持って行ったのである。
「継続して、この部屋に住むのなら家賃を払ってください」と、105号室の家主が新婚夫婦に言った。
新婚夫婦 は、「不動産詐欺に遭った」と、110(ヤオヤオリン)で警察を呼んだが、事件の解決には至らなかった。
「中国人の私たちでも簡単に騙されるんだ。貴方は外国人なので、部屋を借りる時は要注意ですよ」と、新婚の夫婦が私に
言った。
助言は有難かったが、私の部屋は賃貸ではなく、私自身の所有だった。
今
回、私の隣りの部屋で起 こったミステリーのような不動産トラブルの内側には、目覚しい経済発展を成し遂げて来た
大連の実情と問題が詰まっているようだった。
その反面、私の心の中では、
「彼らは、やっぱり匪賊の末裔だ」
「なかなかやるな」と、私は思った。
後 日、私がパソコンの中の写真を整理していると、行方不明になっている隣室の人たちの写真が出てきた。
一枚は、105室の借家人が中庭のベンチに座って
いる写真である。
もう一枚 は、103号室の女性がBMWに乗るところを写したものである。
私が、もう少し早くそれらの写真を見つけていれば、何かの役に立てたかもしれないが、少し写真を見つけ
るタイミングがずれた。
仕方が無いので見つけた写真を封筒に入れて、103号室と105号室の郵便箱に投げ込んでおいた。
私の行動も、ほんの少しだがミステリーじみているような気がした。
なぜ、私は、隣室の人たちの写真を撮って保管していたのか、不思議である。
私は、写真を撮るのが好きではないのに・・・・・ 了