A kiss charms a boy
「なあ、レノ」
「あー?」
リビングのソファでドラマを見ていたがいきなりレノに話しかける。いつもなら、呼び捨てにするな、と怒るところだが、特に気にしていない様子でレノは返事を返す。
「キスしたことある?」
「あるぞ、と」
「……ふぅん」
「何だ、はしたことないのか、と」
キッチンで珈琲をマグカップに二つ注いだレノがマグカップをもってソファの隣に座る。
ふんわりと風呂上りのシャンプーとボディソープの匂いがレノの鼻腔をくすぐる。「ほら」とお揃いのマグカップの片割れをに差し出すとはそれを受け取って、もうミルクも砂糖も入っている珈琲に口をつけた。
甘くて美味しい。正に自分の好みの味では満足そうにそれを飲む。
レノに言わせればお子様。
「なあ……レノは…キスしたこと…あるんだよな?」
「それ以上の事もあるぞ、と。何だ、どうした?」
むぅ、と少し膨れた顔をしているに気付き、レノが不思議そうな顔をする。つまるところ、判っていないのだ。彼は。
「俺もレノとキスする」
「…は!?」
飲んでいた珈琲を吹き出しそうになるくらい驚いて、レノはをまじまじと見る。
赤茶色の髪の毛が照明のライトに反射して可愛いなぁ、とか、いきなりいわれた言葉に反するように違うことを考えて頭の中で言葉がぐるぐると回転する。
「…」
若干冷静になって、レノは平静を装いながら持っていたマグカップをテーブルにおいてのほうをむく。
「兄貴をからかうもんじゃないぞ、と」
「からかってなんか!」
ぎゅっとがレノの服を握り締める。その握り締めた手が微かに震えていて、レノは思わず苦笑する。
「…レノが…俺じゃ嫌だっていうなら、俺、諦めるから」
ぎゅうと握られた手がもっと震えて。
「本気なのか、と」
諦めたようにレノは呟く。冷静に装っているが、その実、心情としては物凄く悪魔と天使が戦っている。最終的には悪魔が勝つに違いないのだが。
「初めてはレノがいー…」
服をぎゅっと掴んでいる手を外して、レノはの顎に指をかける。
僅かに傾斜をつけて唇に触れるだけの、軽いキスを落とす。辛うじて触れたと判る、本当に軽いキスにが膨れた顔をする。こういう軽いキスなら子供の頃から何度もレノはに対して行っている。他愛もない、子供の悪戯で済んでいるうちはよかった。
「不満なのかよ、と」
キスはキスだといわんばかりにレノが珈琲を飲み干す。珈琲が入っていたマグカップはもう冷えて、陶器で出来たマグカップの内側には珈琲が入っていた後がありありと判る痕がついていた。
「レノは。俺の事が嫌いなんだ」
「なんでそうなるんだよ、と。ちゃんとキスしてやっただろ?」
むぅむぅとがうなる。
「レノは…彼女にああいうキスばかりするのかよ」
「だから、俺達は兄弟だから、と」
たしなめるようにレノは言う。こんなとき、そんなありきたりな言葉しかいえない自分が本当にもどかしくて、レノは次の言葉を何て言えばいいのか判らずにの髪をいじりながらの言葉を待つ。
兄弟だから?
……だから、何だというのか。
「俺はレノが好きだもん」
がしがし、と髪を何度かかいてレノは低い声で「あー」と唸る。
「ベロチューは…ダメだぞ、と」
低い声音でレノは言う。
それだけはダメなんだ、とレノは自分自身に言い聞かせる。は確かに自分の可愛い弟で、多分、目の中に入れても痛くないし、物凄く溺愛しているのは自分でもわかる。だが、それでも叶えてあげられる願いと叶えてあげられない願いがある。
僅かに視線を下に向けて今にも泣きそうな表情のを見てレノは軽い溜息をつく。
(…ま、俺が何とか我慢すればいい話ですか、と)
ソファの背中にの背中を押し付けてレノがの額にキスをする。
少しだけ開いた唇を塞ぐようにキスをして、歯列を歯でなぞりながらゆっくりと舌を口腔内へと侵入させる。いきなり入り込んできた舌に驚きの表情を浮かべながら、はそれに応えるように必死に舌を絡ませる。
半分押し倒される状態で必死にすがり付いていた指の力がふっと抜ける。何の音もしない部屋の中に、ぴちゃぴちゃと唾液が絡まりあう音だけが響き渡る。
角度を変えて何度も舌を絡ませ、ついばむように唇を吸う。
何度その行為を繰り返しただろうか。
自然の摂理なのか、の口から小さな喘ぎともとれる吐息が漏れる。
誰に習ったわけでもなく、ごく自然にがレノの背中に手を回して。もっと、と目でせがむ。
「今日はこれでおしまいだぞ、と」
これ以上はマジでヤバいから、と。と、心中で呟いてレノはもう一度の唇にキスを落として身体を離す。
少し膨れているの頬にもキスを落として、なだめてレノはの隣に座る。そのまま肩に手を回して自分のほうに引き寄せながら、多分、この関係が崩壊することを感じていた。
FIN…or…To Be Continued………?