なあ、どうしているんだ?



   【おさらい】





「よう、ヴォルフ」
「……か。久しぶりだな」
「え、何? ヴォルフの知り合いか?」
 馬に乗っているヴォルフラムの後ろからひょっこり顔を出した人物は、きょとんとしたあと興味津々に僕とヴォルフを見比べた。黒髪に黒目。いろいろ想像はしていたが、随分と予想外な王様だ。

「お初お目に掛かれて光栄です。僕はと申します」
「ぼく…って、え? 男の子? でも外見は」
「ああ、これは単純に癖です。粋がって剣で生計を立てているので。周りが男ばっかだから自然とこんな口調になったんですよ。気になさるようでしたら直しますけれど」
「あっいいよそれなら。敬語使われるのはあんまり慣れないし」

「ここで何をしている? 平気なのか、のんびりしてて」
 ヴォルフラムが割って入るように声を出した。

「大丈夫さ。こんな、森に近い場所ならな。おまけに余計な障害物も無くて、見晴らしもいい」
「ん? どーいう話なんだ、それ」
「なんでもありませんよ」
 にっと口の端を吊り上げ誤魔化した。元仲間から無敵の笑みと評判だった行為だ。本心を悟られぬからと。
 言えるわけがない。僕は―――――なのだから。

「本当はここでのんびり昼寝でもしてやろうと思ったんだけどな。……因縁の場所ってのは皮肉なもんだな」
 低く呟いた。そんなつもりはなかったのだが、自嘲気味になったかが心配だ。

「よし!!」
「!?」
「うわっ、耳元で大声を出すな、ユーリ!」
 突然でかい声で叫ぶと、王様はいそいそと馬から降り始めた。ちょっと下手だ。無意識に手を貸してやる。どうやら第27代魔王は本当に希少価値の王様らしい。

 自分の足で地面を踏みしめた王様は、妙にキラキラした笑顔でこう切り出した。
「ようするにあれだろ、生き別れてたってやつだろっ?」
「は……まぁ、一応そうですが」
 それを言ったら別れは大抵そうだ。

「やっぱ大切な再会はじっくり噛み締めないとなぁ! というわけで、おれは帰る」
 はい? 何を食べるって?

「ユーリ!? 何を言っているんだ! お前はただでさえ目立つんだから、ぼくと一緒に……」
「そんなのヴォルフといたって同じだろ。大丈夫、行きと一緒の道で帰ればなんとかなるんだろ? 歩いてどうにか帰れる距離だし」
 言いながらも王様は既にこちらに背を向けて歩き出している。言うことを聞く気はなさそうだ。
「それじゃーごゆっくり」

「おい……あーもう」
「い、いいのか? 護衛しなくて」
「もう知らん! まったく、いくらぼくでもいい加減怒るぞ、へなちょこめ」
 いや、こいつはいつでも怒っている気がする。それに「へなちょこ」って言っちゃっていいのか? 僕でさえ丁寧に話しているのに。

 とか考えている間に、ヴォルフラムも馬から降りた。さすがに動作は板についている。
「で? 昼寝はしないのか?」
「……あぁ。とりあえずそこに一本木があるから、そこまで行くか?」
「勝手にしろ」
 そう吐き捨てつつもちゃんと付いて来る。素直じゃないな、他人のことばかり言えないが。

 こうして奇妙な時間は始まった。



       *       *       *



、逃げろ!』

 木陰は涼しかった。
 横たわったまま上を見上げる。葉や枝の間からすり抜ける白の光が淡く眩しい。お、これは詩人っぽい言葉だな。腕を頭の後ろに組みながら少しだけ気恥ずかしくなった。

「どうかしたのか?」
「……なんでもねぇよ」
 ヴォルフはそうかと言って僕の隣りに座った。ちなみに馬は木に繋げてあるみたいだ。ま、別に興味ないけど。

『そんなことは出来ない!』

「本当に久しぶりだよな。2年くらいまえか?」
「…そうだな」
「今日は王様と散歩に来たのか? いつもここに来ているのか?」
「いや、きょうはたまたまだ。普段は滅多に来ない」

「なー」
「なんなんださっきから。騒がしいぞ」
『うわっやめろ!』
「あいつら、処刑されたのか?」


「あぁ」
「そっか」
 ぼんやりと上を見ながら考える。2年前、隣のこいつと初めて会ったあの日の全て。
 いや、会うだなんて、きちんとしたものじゃなかったな。どさくさに紛れて知り合った。耳障りな騒音の中で、不思議とこいつの顔と声と名前だけくっきりと覚えた。腹立たしかったのに。

「もしかして、後悔しているのか? あいつらを見捨てたことを」
「してねーよ」
 ヴォルフは納得していないような顔になる。なんだよ。

「……気になっただけだ。もともと付き合い薄いからな」
「ふん。どうだか」

『止まれぇ!』
『うわっ』

『やるな……。ここまでだと言いたいところだが、時間が足りないな』
『…そりゃ残念だったな』
『その力に免じて、名前を訊いてやるよ』

「それはそうと、お前、少しは強くなったのか?」
「お前とはなんだ。最初から強いぞ」
「嘘つけ。僕に負けたじゃないか、剣を飛ばされて」
「負けてなんかないぞ! あれはを押し倒した時点でぼくの勝ちだ」
「おし……っ。せめて『組み倒した』って言えよ」
「あんまり変わらないじゃないか」
 いや、色気のレベルが違うと思う。

 樹木に遮られていない空の部分が刻一刻と変わっていく。
 雲が流れていく。今はあまり判らなくても、青い空気もいつかは赤く染まるのだろう。中間の紫色の空は見たことないけれど。
 そう、変わっていく。どんなことでも。……僕のことでさえ。

「今はもう危険なことはしてないぞ」
 ヴォルフが目を見開く気配がした。真上を眺めていたから気配だけだが。
「さっき王様の前ではああ言ったけどな。ある学者の家に世話になってんだ。頑固で偏屈で、人使いの荒い爺さんだけど、僕の素性は一切聞かないんだ。変な奴だろ?」
「一人身なのか? そいつは」
「ああ。まーでも、今日は知り合いの家がオメデタとかで、家を空けてるんだ。久しぶりにゆっくり何をしようかと思っていたら……ここに来ていた」
「…………」
 もう何もかもがどうでも良くなった気がして、僕は目を閉じた。肌に当たる風が心地よい。
「たとえ2年が経っていようが、捕まるときは捕まるのにな。僕も変だ。爺さんのが移ったかな」


「ちょっと前は盗賊団の一味だったくせに」


 僕は―――――なのだから。
 僕は、元盗賊団員なのだから。

「でも変わったのだろう?」
「え?」
 ふっと目を開けると、ヴォルフラムが真剣な表情をしてこちらを見つめていた。
 おかしいな。軽く受け流すだろうと思ったのに。

「確かにもし、お前がまだ昔と同じ事をやっていたのなら、ぼくも捕まえようと思った。でも本当に違うんだな? 胸張って言えるんだな? それならいい。今更だしな。……今回はぼくもほんのちょっと変かもしれないな」
「ヴォルフ? 何が……」
 ヴォルフラムは少しの間黙っていた。でも大きく息を吸い込むと次の言葉を吐き出す。
 心なしか頬が赤い気がした。

「あのときを捕まえなくて良かった気がするんだ」


「――――ヴォルフ」
「な、なんだ! 悪かったな、言い訳で! でも本当にほんのちょっとだぞ!?」
「ヴォルフ、いいからちょっと、こっち来てみ」
「な……」
 片手でヒラヒラと手招きをする僕に、ヴォルフは戸惑っているようだった。だが渋々ゆっくりと顔を近づけてくる。
 手招きをしていた手を素早く動かして、その襟元を思いっきり掴んだ。

 キスするために。

「!? おまっ…」
「……本当に強くなったのか?」
 唖然としているヴォルフにニパッと笑い、手を離して言ってやった。
「あのときも確かこれで油断したっけ?」
「う、うるさいぞ!///」
「はいはい」

 慌てているヴォルフラムを横目にゆっくりと起き上がった。背伸びをする。空は少し夕焼けに近づいているみたいだった。
「さて、そろそろ帰るかな」
「っておい! ……一人で納得して帰るな」
「じゃあどう納得すればいいんだ?」
「ぼくにも納得させろ」
「どうやって?」
 ヴォルフラムは一瞬躊躇ったみたいだった。でも一瞬は一瞬だ。すぐに続ける。

「こうやってだ」

 キスされた。

「……」
「よし、今度はぼくの勝ちだな」
「あ、あのなぁ」
 一人満足したヴォルフは先に立ち上がった。上機嫌で馬の方へ行く。
「もういいぞ。帰るのだろう? 送ってやってもいいぞ?」
「だっ誰が!///」

「またここに来てもいいぞ」
 落ち着いた声音に、不意に僕は黙った。

『おい! 絶対捕まるなよ! お前はぼくが捕まえるんだ!』

 頷いた。
「…あぁ!」


 ――なあ、ヴォルフラム。
 これも『さらわれた』うちなのかな?










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  ★あとがき★
  一応言っておくと、これはノーマルカップリングのドリーム小説です(笑)

  最後の方、力尽きました…。へなちょこに(苦笑)
  どうでしょう、これ。混乱とかしませんでしたか?
 「人間なんて大っ嫌いだー!」ネタで行くつもりだったのですが、いつの間にか変化してますね。

  考えてみれば、夢小説で男勝りのヒロインは初めてかも。あ、むしろ小説自体かな?
  ヒロインは「ぼく」系と「おれ」系どちらにしようか迷って、結局「僕」になりました。
  ヴォルフラムとかぶるんですけどねー。「おれ」にしてもユーリとかぶるし。どうせならと。

  ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
  ゆたか   2005/02/06

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