部屋で一人で休んでいると、来客の報せがきました。
それを知らせてくれた者はとてもにこやかで、名前を訊くのも忘れて私は言ってしまいました。
「お入りなさい」
「……はい」
「! 来てくれたのですね! 嬉しいわ」
「私も、元気なウルリーケ様に会えて良かったですー」
久しぶりに顔を見せたは、相変わらず私の好きなで、思わず私は笑ってしまいました。
椅子に座ってもらって、常備しているポットでお茶を淹れて勧めました。がお土産に持ってきてくれたお菓子は甘くて、お茶に良く合いました。
しかしそれも束の間、妙なことに気がつきました。口で説明がしにくいのですが、こう、覇気がないのです。落ち込んでいると言ってしまったら、間違いなのでしょうか。とにかくそう思ったのです。
「…どうしたの? 元気がないように見える」
「実は、質問したい事があって」
さっと真面目な様子になっては切り出しました。なんだか渋そうな表情をしています。
「……何かしら?」
「今の私って、本当に役に立っているんですか?」
「え?」
「確かに、旅に同行したり、陛下の言われた通りに人間の治療をしたりはするんです。でも用心棒にはなれるわけがないし、物事の説明もまともにできないし、守られてばっかりで……。私、このポジションでいいのか、急に不安になって」
堰を切ったようには捲くし立てました。漠然とした闇を振り切ろうとしているかのように。
「そう……」
「それに、このままじゃ仕事に…――」
「? なぜ?」
「……いえ、やっぱりなんでもありません///」
あらあら。病気でもないのに顔が赤くなってる。何を言おうとしていたのでしょうね?
「。誰かが貴方に、そういったことを苦情として訴えたのですか?」
「えっ? い、いえ、とんでもありません! 皆、とっても親切です」
「それなら心配することはないと思いますが?」
「…でも…」
「、このままでいいのですよ。冷静に、てきぱきと仕事をこなすのは貴方らしくありません。それを私が望んでいたとしたら、最初から別の人物に頼んでいるでしょうし」
「それはそれで落ち込むような……」
「何を言っているのです。どんなときでも自分らしくいるのは貴方の良いところですよ、。ああ、それとも……」
不意にある事に思い当たり、私はふと口を閉ざしてしまいました。言うのが少し勇気の要る事。
「ウルリーケ様?」
「――本当に、『立場』が不安なのですか?」
「……」
は答えませんでした。それが却って返答だと感じました。
「やはり、『力』なのですね」
「……はい」
そこで初めて、は顔を背けました。表情もいっそう暗くなったような気もします。
「使っていないのですか?」
「今は。使うような機会がないし、あったところで……自信が……」
声も段々しぼんでいきます。本当に恐れているのが良く判りました。
我侭だと言われるだろうけれど、私は、そんな貴方を見たくない。
「…。どうしても使いたくないのなら、いいのですよ。私には結局、無理強いはできないのですから。陛下の御元にいるだけでいいです。…それに、貴方にはそうでなくても、私はあの『力』を嫌いにはなれません」
「ウルリーケ様……」
「他でもない、貴方のものだから。が操るのなら、恐くない」
「……買い被り過ぎですよ」
がやっと表情を和らげるのを確認して、私はほっとしました。
本当に嘘はついていないのよ、。だからもっと安心していていいのですよ。
「ありがとうございます。元気が出てきました。…ウルリーケ様のところに来て良かったなっ」
「うふふ、嬉しいわ。……そろそろ城に戻った方がいいですよ。陛下をお呼びしますから」
「え、そうなんですか!? 早く言ってくださいよー!」
慌ただしくは帰り支度を始めました。残りのお茶を飲み切って、ごちそうさまと言いました。律儀でマイペースなところがあるのは、本当に相変わらずです。
「それじゃ、ウルリーケ様、また今度にっ!」
「あ、待って、最後に一つ」
「…え?」
席を立って早くもドアノブに手に掛けていたは、きょとんとしてこちらを振り返りました。
私はにっこりと笑いかけ、静かに問いました。
「貴方が以前言っていた方には、もう会えましたか?」
質問と言うよりかは、確認の色合いで。
「……はい」
「そうですか。良かったですね♪」
「もう。わかっていたくせに」
は今回一番の笑顔を見せて去って行きました。それを見届けてから、私も部屋を出ました。
貴方に幸福があるように。
友人として巫女として、心の中でそう祈りながら。
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★あとがき★
新展開へと繋ぐために、幕間なぞを作ってみました。なぞなぞ。
夢本編とは違う感じを出したくて、語り手をウルリーケに代えてみました。どうでしょ?
『力』とは何か? 治癒能力のことじゃないの? …は、これから書いていきます。
これは何編になるのか迷って、魔笛編に入れる事に。まぁでもプロローグと同じ感覚です。
ちなみに時間軸としては、ユーリを迎えに海へ行く直前、ということで☆
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
ゆたか 2005/03/28