【一人にはさせない】





 また派手に傷を負っちまった。もうすぐ怒られんだろうな。
 病院に来るって連絡を寄越した、オレの彼女に。

「エドー!」
「ほらきた」

「なにがホラキタよ!? 心配ばかりさせて!」
 は片手を腰に当てて歩いてくる。椅子に座って持っていたバッグを膝の上に置いた。

 ここは個室だ。さっきまで中尉やらアルやらがいたけれど、どっかに行ってしまった。そんなわけで、今はオレとの二人しかいない。
 怪我は入院を要するものだったが、それでも身を起こすくらいのことはできた。俺と目線の高さを同じにしたは言葉を続けた。

「あのね、こんな頻繁に入院してたんじゃ、しまいには呆れてお見舞いにきてあげないわよ? 命に関わらなくて良かったようなものの」
「よかねーよ。足止めだ、動けない、石の手掛かりが逃げちまう」
「……えどわーど」
 彼女は半眼になって、オレのことを本名で呼んだ。愛称ではなく。それによって、なんとなくが悲しんでいる気がした。ちょっと調子に乗りすぎたか。

「……悪かったよ」
 謝ると、彼女は拗ねた表情のまま、少し視線をずらして台の上に飾られた花を見た。青い花だったが、名前はよく知らない。しばらく眺めた後、はやっと呟いた。
「もう、怪我しないでよ?」

「がんばる」
「エドったら」
 ふぅっと息を吐いて、は鞄の中をあさり出した。何を探しているのだろうか。

「エド」
「なんだよ?」

「お見舞い品」
「ああ、そりゃサン…キュ…」
 出てきたのは、牛から分泌される白い液体。の入った瓶。

「いるかそんなんー!」
「あっ、間違えちゃった」
 事も無げにはまた探す。……わざとか? わざとなのか? なんで牛乳がそんなところにあるんだよ!

「こっちこっち」
 今度こそ差し出されたのは、ラッピングされた箱だった。両手に入るぐらいの大きさのそれを、は笑って手渡してくれた。

「これは?」
「チョコレート!」
 さらに笑みが深くなる。

「一応自分で作ったのよ? 集中力を高めるにはこれがいいんだって。…ミルクチョコだから、ちょっとだけカルシウムも入ってるだろうし」
「……へえ」
「あたしにはエド達のことを止められないけど」
 手から離れた箱を見つめながら、は脈絡のないことを言い掛けた。自然と口から出たようで、彼女は困ったように口元に手を当てた。
 でもオレは続きを聞きたかった。根気よく待ってみる。と目が合って、しばらく見つめあった。

 は席を立って、オレの方に近づいた。かがんで、顔を寄せる。唇と唇がゆっくり重なった。

 少し頬を染めながらも、彼女はちゃんと続きを言ってくれた。
「……いるから。ちゃんと」

……」
 一瞬だけ、注がれる眼差しがとても儚く見えた。

 オレとアルは元の体を取り戻したい。そのためには賢者の石が必要で、お金で買えるようなものではない。危険を冒さなきゃいけない。それが代価だ。
 わかってる。彼女のことを巻き込めるわけがない。どちらにしろ巻き込まない。でも、それだけじゃ恋人の関係としては不安なんだ。はもっと近づきたいんだ。一緒にいたいんだ。オレと同じく。

 ずっと、傍にいてみせる。悲しませたりなんてしない。
「いるなら、明日も来いよ」
「……できたらね」
「お……が」
「え?」
「――お前がいないとがんばる理由が一つなくなるだろ! ああもう!」
 一気に言い終えて、やけくそに貰った箱を開けてチョコをほおばると、甘い味が口いっぱいに広がった。

 ちらりと彼女のほうに目をやると、は可笑しそうにオレを見ていた。
「うん! ……口の周り、ついてるよ?」










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  ★あとがき★
  なんなんだ、この締めくくり方……。妙にまとまっちゃったよ。
  途中まではBoAの『メリクリ』みたいな甘い感じだったのに(そう?)
  最後には私の耳は演歌調になってしまいました(苦笑)

  この夢はフリーですが、著作権は放棄していません。
  サイトに載せるときはどうぞ作者の名前を消しませぬように。
  ちなみにソースをペーストしただけでもデザインは変わりません。
  ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
  ゆたか   2006/02/14

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