【小春日和】





 目の前でいろんな人が横切っていく。
 今日はいい天気だ。陽気で歩くだけで頬が上気してくる。
 最近寒い天候が続いていたので、皆内心うきうきしながら歩いているのだろう。


、早く来いよ」
「…はーい」
 は少しうんざりしながらも窓の外から視線を外した。ここは図書館だ。
 今日はエドワード・エルリックの調べ物の手伝いの約束をしていたのだった。

「エドってば、こんなにいい天気なのに、本当に予定通りなんだね」
「当たり前だろ、嵐じゃあるまいし」
 いや、正論なんだけど。

 エドは奥の方にある窓際の席を陣取ると、手早く本を何冊か持って来た。の方にも少し寄越してきた。そして説明をする。
「こっからここをな、こういう風に書き写していって欲しいんだ」
「ふうん? わかった」

 エドの向かい側の席に座り、は素直に仕事を始めた。一度引き受けたらちゃんと最後までするのが信条だ。それにエドに変に子供っぽいなんて思われたくないし、とこれは内心ちらりと舌を出して考えたことだが、これは内緒だ。
 言われた通りに本のページを捲り、用意していた紙にペンで片っ端から書き付けていく。書き間違えないよう、できるだけ丁寧にするので、自然と集中した。

 それでしばらく時間が過ぎた。

(……なんか、いかにも二人だけって感じ……)
 あんまり集中すると、極端に近い気配しかわからなくなることがある。
 作業の途中、は一度だけそう思った。



       *       *       *



 科学者に言わせると、太陽が三十度ほど傾いた頃。
(…ふー。結構終わったな)
 さすがにペンを持つ手に痺れを感じてきて、は顔を上げた。
 手元には自分が築き上げてきた結晶が何枚か重なって置かれている。後は最後の一冊の数ページだけ処理すればいい。

 エドはどうしたろう?

 ふと素朴な疑問が沸いてきて、はこっそりエドの方を盗み見た。
「……」

 彼は熱心に本を読み続けていた。
 目が滑らかに文字を追って、ときどき重要と思われる言葉を用紙に走り書きしていく。真剣そのものだ。年齢も見た目も子供な癖に――小さいと言うと怒られるが、こうして本を読んでいるときだけは大人っぽく見えるから不思議だ。は感心しながら眺めていた。

 不意に、今まで雲に隠れていたらしい太陽が顔を出して、エドの後ろの窓を明るくした。

 窓にカーテンは掛かっていなかった。もろに光がくる。は目を細めたが、次の瞬間、思わず息を呑んだ。

 一枚の絵に見えた。

 窓からの白い光がエドの髪を照らす。金色が淡くぼやける。逆光になるので表情は却ってよく見えないが、瞳だけはくっきり見える。やはり金色が。

「――――? どうした?」
「……ぇ///」
 さすがにじっと見られていることに気づいたエドが、不思議そうに問い掛けた。びっくりしたは、一瞬対応に戸惑う。

「……な、なんもないよ」
「? そうか…」
 首を傾げながらも、エドはそれっきりまた自分の作業に戻ってしまう。はほっとした。

(――いけない。きっと疲れてんのよ。きっとそう)
 まだ少し仕事が残っていることに気づき、慌てて自分もペンを握り直す。それでも、さっきのシーンは、どこかに残っていた。



       *       *       *



 そして三十分後。

「……エドー。終わったよー」
「おっ、サンキュー」

(あーもーだめー)
 任務を遂行して一気に疲れがくる。机にへばるようにしたに、エドは労うように声を掛けた。

「悪かったな、今日は手伝ってもらって」
「えー?」
 何かを言おうとして、ははたと動きを止めた。奇妙な沈黙が訪れる。
「……どうした?」

 数瞬考え込むような表情をした後、は小さく笑った。思いの外機嫌の良さそうな彼女に、エドはますます訝しげにする。
?」
「あはっ、そんなに悪くなかったよ」
「何が」
「教えてあげない」
 エドがさらに質問しようとする前に、はさっさと話題を変えた。

「ねえ、そっちも終わったの?」
「あ…あぁ。ちょうど同じくらいに」
「そっか。じゃ、帰る?」
「おう」
 帰り支度を始めるに首を捻りつつも、エドもおとなしく倣う。本を片付けて持ち込んだ物を残らず鞄に押し込むと、出口に向かった。

 図書館は静かだった。もともとそういう所ではあるが、今日は特に人が少なかったのだ。そんな中を、二人は小さな声で話しながら歩いた。

「あー、もう夕方かぁ。晩御飯どうしよう」
「そうだな…」

「ねっ、うちで食べてく?」
「え、いいのか?」
「いいよ。今日うち誰も居ないから、なんかさもしーのよ。遠慮しないで。それに……」
「それに?」

 不意に言葉を区切ったに、エドは先を促す。すると。

「誰か食べる人がいると思えば、料理作るのも楽しいしね☆」

「……っ」
 隣で咲いた満面の笑顔に、エドは思わず息を呑んだ。

「さっ頑張るぞー!」
 図書館を出たは足取りも軽く先の方を歩いていく。それをしばらく眺めてから、エドはふと音のない溜め息をついた。

「――――あいつ、さっき、今晩誰も居ないって言ってたよな。……自制できるだろうか……」
 こんな調子で。

「ん? なーに、何か言ったー?」
「別に」
 至って平静を装って答えると、彼は小走りに彼女に追いついた。夕陽で長くなっている影法師を踏んで。


 そう。こうして小春日和は終わっていく。
 誰かの幸せを、少しずつ作りながら。










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  ★あとがき★
  あと来年まで2時間半というところで今年最後のドリーム完成です!
  あーよかった! ぎりぎりですね。でもやっぱり良かった。
  この分だと来年もきっと大丈夫! ……だと思う。

  これは途中に出てくる「一枚の絵」のシーンから生まれた作品です。
  どうやってこのシーンを書こうか悩みました。
  ちゃんと書けてるかな…?

  ちなみに時間軸ははっきりしていません。
  それで初期でも最近でも、アニメだとエドがロンドンに行った後でもいけるようにしました。
  だから弟は出せませんでした。ごめんね、アル。

  最後に、ここまで読んで下さってありがとうございます!
  ゆたか   2004/12/31

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