何処へでも、何処へでも
  貴方について行こうと想うのです
  温かい土をじかに踏みしめて


   【第三話 神の領域・後編《あなたの錬金術師》】





「アル。さっきからがいないけど、知らないか?」
「え…う、うん、用事があるって言ってた…」
「――そうか…」
 それっきり黙り込む兄の姿を、アルフォンスはじっと眺めていた。

 コーネロへの取り次ぎ願いが受理されて少し経った頃だった。アル達は、ロゼや教主のいる場所へ案内する男三名と共に歩いている。薄暗いうえに長い廊下だ。

 ――兄さんってやっぱ、のことが好きなのかなぁ……。

 内心で淡々と考えてみる。自分ものことは好きだが、それは、どちらかというと友達に対する『好き』だ。細かく言えば、天使のような歌声について、尊敬の念もあるが。しかも可愛いし。
 今、目の前にいる兄は、どう見ても沈んでいる。どのくらいかって、この廊下くらいに。
「兄さん」
「……なんだ? アルlll(黒いオーラ)」
「…ううん、なんでも;」
 そんなに落ち込まんでも。宿屋に行けば会えるはずなんだから。
 そう言いたかったアルだが、それさえ憚られた。そういう問題じゃない気もするし。

 宿屋に戻るまでこの調子かと思われたが、意外な所でエドの気分転換の機会が与えられた。
「さぁどうぞ、こちらへ」
 通された部屋で。
 教主コーネロに命令された男達が、兄弟の口封じをしようとしたからだ。


「ストライク!」
「ボクの頭投げないで!」
 あっさり失敗したけど。



     *     *     *



「あーぁ、空振りぃ〜…」
 教会の資料が豊富にある書庫の中で、は溜め息を吐いた。
 ここはラストに教えてもらった部屋だ。彼女が現在進行形で荒らしている為ある程度は散らかっているが、それでも必要最小限は片付けているようだ。
「……まだ大丈夫だよね?」
 扉の方をちらりと見て耳を澄ます。誰かに見つかったら大変なのだ。捕まるのもそうだが――何よりあの兄弟ともう会えなくなってしまう、かもしれない。はもう引き上げることにした。もともとデンジャラスなことは避けたい性分なのだ。
 さて。ここまでして彼女が求めるものはなんだろう? それは。

 ――賢者の石。もしくは、それに関する情報の発見。



     *     *     *



「単刀直入に言う!」

 教主が『招き入れてくれた』部屋で、エドは声高々に叫んだ。
「賢者の石をよこしな! そうすれば街の人間にゃあんたのペテンは黙っといてやるよ」
 対するコーネロ教主は怯まない。既に『奇跡の業』を錬金術だと見破られ、指輪につけている賢者の石のこともばれていたが。
「はっ!! この私に交換条件とは…貴様のようなよそ者の話など信者どもが信じるものか!」
 自分を取り囲む全ての者を馬鹿にしきった目で、教主は言いよどむ。
「奴らはこの私に心酔しておる! 忠実な僕だ! 貴様がいくら騒ぎ立てても奴らは耳もかさん!! そうさ! 馬鹿信者どもはこの私に騙されきっておるのだからなぁ!!」

「いや――――さすが教主様! いい話聴かせてもらったわ」

 言いたいだけ言わせておき、エドはおざなりな拍手をする。心なしか企んでいる笑みと一緒に。
「確かに信者はオレの言葉にゃ耳もかさないだろう。――けど!」
 そこでちらりと弟のアルに視線を送る。アルは――鎧の胸の辺りにある金具を外した。
 中に隠れている人物を出すために。

「彼女の言葉にはどうだろうね」

 さらけ出した鎧の中には、ロゼがいた。



     *     *     *



「…でも、見つけてどうするのかなぁ」
 無意識に言葉がこぼれる。はラストたちが具体的に何をしているのか知らない。おぼろげに「賢者の石がほしいのかなぁ」と感じ取るだけ。だからこそ情報を求めるのだけれど。
 はまた溜め息を吐いて部屋を出た。そして背伸びをしようとした、そのとき。


「……、エド?」


 どこかで声が聞こえた気がした。急いで耳を澄ます。すると――
「…こっちだ! 多分!」
 自然と彼女は駆け出していた。この建物の壁は分厚そうで、たとえ本当にいたとしても普通は聞こえないはず。それなのに、どうしてには聞こえたのだろう。不思議だ。それでも。
 迷わず体が動いていた。



     *     *     *



 威勢のいい音と同時に、今まで何もなかったはずの壁に扉が現れた。兄弟達は逃げられまい、とタカをくくっていた教主は、驚愕で口があんぐりと開く。
「出口が無けりゃ作るまでよ!!」
 そう叫ぶなりロゼを抱えたアルを連れ、エドが走り出す。一瞬遅れて失態に気づいたコーネロは、慌てて教徒達に命令した。
「何をしておる! 追え! 教団を陥れる異教徒だ!! 早く捕まえんか!!」
 教会のため、と慌てて武器を取る男達。だがエド達の勢いは止まらない。というわけで、適当に足蹴にされる男達…。

 そうやって次々と騒ぎを起こしていくうちに、三人はある部屋に行き着いた。なにやら大掛かりな機械がゴロゴロと置いてある。
「この部屋は…」
「放送室よ。教主様がラジオで教義をする…」
 ロゼが簡潔に説明をする。まだ教主様と言っている辺り、複雑な心境なのだろう。
「ほほ――――う」
 とってもいーことを思いつき、ニヤリとエドはほくそ笑んだ。弟に素早く耳打ちし、作戦を伝える。 と、そのとき。意外な人物が駆けつけた。

「エドッ!」
「え……ぁ、!?」

 息を切らしながら走ってくる彼女に、皆唖然とする。こんな所で会うなんて思わなかったのだ、当然のことだろう。一方彼女は、三人に追いつくと、ぜいぜいと肩で息をして呼吸を整えた。
 が落ち着いたのを見計らって、アルが恐る恐る尋ねた。
、用事ってここにあったの…?」
「え? …あ、そうだよ。アル。ロゼも」
 決して嘘ではない。
「なんか……騒ぎが聞こえて。急いで来てみたの」
 本当に聞こえたのはエドの声だったが、なぜか本人の前で言うのは恥ずかしい気がした。
 首を捻りつつ、はエドの方へ振り返る。彼は俯いていて、金髪が表情を隠していた。

「そっか。――じゃ、ボクとロゼは外に出てるから。兄さんをよろしく」
 そう言ってアルはロゼを促す。話の経緯が見えてないは、目を軽く見開きつつも頷いた。
「へ。…う、うん…」
「何処で何をするの?」
「いいからロゼ…」
 アルとロゼが行ってしまうと、周りがすごく静かになった。まだ追っ手は来てないらしい。
 エドは相変わらず下を向いている。困ったは苦笑して問い掛けた。
「えっと…。どーすればいいの? エド」
「――ここに入るぞ、
 エドはふぃっと背を向けて放送室の中に入ってしまった。しかし、はエドが少し苦しそうな表情をしているのを見逃さなかった。太陽に黒点の翳り。



     *     *     *



 放送室のマイクがドアの近くに置かれる。次いでエドは、そのスイッチをOFFのまま手に取った。
「エドって機械義肢(オートメイル)だったんだね」
 不自然に静かな時間には戸惑う。…どうして応えてくれないの?
 せめて少しでも笑って欲しいのに。

 心配そうに顔を覗き込む彼女にエドはやっと微笑した。しかしそれも苦笑に近い。苦い笑み。
 じっとを見つめる。完全に一つになった視線。一呼吸ほどそうしてから。
「――あぁ。そうだな」
「え?」
 悟られないよう拳を軽く握る。行儀悪く机の上に座ると、やけに通る声で話し始めた。

「オレ達は、最大の禁忌を冒したんだ」

「――――」
 は目を見張る。驚きすぎて、やっぱり…とか、なんのこと? とか、どんな合いの手も思い浮かばない。黙ってただ耳を傾けていた。


 ――母の死をめぐる人体練成の話。

 自分とアルの体のこと。
 マスタング大佐に出逢って、国家錬金術師になったこと。
 二人は、延々と賢者の石探しを続けている…。


「だから、アルの鎧の中は空っぽだ。俺のこの腕と脚もそのときに」
「…どして、私にそんな話を…?」
 衝撃を受けつつもは尋ねた。無意識に胸にあてた手は、激しい鼓動を捕らえている。

「なんか、言わなきゃいけない、気がしたんだ」
 言葉を選びながらエドは応える。そうしながらも、いきなりこんな話をしてしまった自分自身に驚いているようだ。金色の頭をガシガシと掻く。

 ただ知って欲しい。どうせなら全部。オートメイルを見られたとき、本当は無意識にそう思った。
「ま、にとっちゃ、信じられない話だろうけど。…信じなくていいけど」
「……」
 強がりを言うエドに、は不思議そうな表情をした。しかし、それもすぐに消える。
 明るい呟き。
「何で信じちゃいけないの?」
「な、……」
 言葉を詰まらせるエドに、はぽつりと言った。
「私だって…あんまり変わらないし」
「――? 今なんて」
 エドの疑問に、はただ微笑んだ。まだ話せない。話せるわけがない。
 この体に根付いた罪は分けられない。

「そんな辛いこと、話してくれてありがとう」
 言いながらはエドに近づいた。そっと彼の両肩にそれぞれ手を乗せる。左右で違う感触が伝わってきた。それでも。
「エドが鋼なら、私は心になろうかな」
「…何が」
「心の錬金術師。ホントの錬金術は苦手だけど…幸せをあげるのが仕事っ♪」
 私の笑顔とあなたの笑顔を等価交換、と。
 花みたいな、極上の笑みを向けられて、エドは束の間ボケーッとした後、不意に赤くなった。
「い、いいいいいいッ!!///」
「んー? なんて言ってるの、エド;」
 これでは賛成しているのか拒否しているのか、イマイチわからない。
 と、そんな絶妙なとき。
 バン!
「小僧ォォ――もう逃がさんぞ〜〜〜、ぉ?」
「!!」
 放送室の部屋に飛び入りしたコーネロは、妙に気が削がれた。
 一見、可愛い少女が、生意気なガキに手ェ出してる構図。
「…なんだかなぁ」
「へ? なに? このヒト」
「……(いーとこだったのに)」
 エドはこっそりと溜め息をついた。エセ教主め。
 絶対いいようにペテン振りを街中に知らしめてやる…!(怒)
 コーネロの死角でマイクのスイッチをONにすると、素知らぬ顔で口を開く。彼女は驚くだろうが、こちらが何かしようとしているのは知っているので、なんとかなるだろう。
「もう諦めたら? あんたの嘘も、どうせすぐ街中に広まるぜ? ……」



     *     *     *



 エドの作戦は面白いほどにうまくいった。コーネロのペテン振りは、マイクを通して、ダイレクトに街中に伝わったのだ。ただし、教主の指輪に嵌めてある賢者の石は偽物だったが。エド自身がキれて、教会をめちゃめちゃにしてしまったが。
 これも成果のうちだろう。

「なぁ。…本当に本気か?」
「もっちろん」

 へらりと笑っては力こぶを作る真似をした。大して意味はないのだが、あくまで気の持ちようだ。
 ちなみに何が本気なのかと言うと――がエルリック兄弟について行く、と言うことだ。

「何か用事があって旅してたんじゃないの?」
「目的はあるけど、目的地はないんだ」
「どういうことだ?」
 兄弟からの交互の質問に、彼女は一瞬間を置いた。

「――探し物――」

「「 え? 」」

「賢者の石じゃないよ。でも、すごく大切なもの」
(きっと)
「だから、心配御無用。気ままについていけるよ♪」
(一緒じゃないとわからない)

「……やっぱ、ダメ?(キラキラ)」
「「 い、いえ……///// 」」
(わがままを許してね。何処までも、ついて行きたいから…)

 ――こうして、(半ば強引に)のパーティー入りが決まったそのとき、近くにいたロゼがやっと口を開いた。
「うそよ…」
 放心したように座り込んでいるロゼ。教主の教えにはもうすがれない。
 約束したのに。亡くした恋人を、生き返らせてくれると。
 彼はもういないのだ。一年前から。そして、これからも永遠に。
「だって…生き返るって言ったもの…」
「諦めなロゼ。元から――」
「…なんて事してくれたのよ…これからあたしは! 何にすがって生きていけばいいのよ!!」
「ロゼさん…」
 名前を呼んだきりは何も言えなくなる。ロゼの瞳から溢れてくる涙が、ひどく光って見えた。
「教えてよ!! ねえ!!」
「そんな事自分で考えろ」
 にべもないエドの返事に、は驚いて目を見開いた。何か言おうとしかけたが、彼の真剣な視線に制される。そう、真剣な。

「立って歩け、前へ進め」

 言いながら歩を進める彼を、とアルは慌てて追いかけた。
 小さな鼓動が早鐘を打つ。
「あんたには立派な足がついてるじゃないか」
 ――――――――――……
 彼女と彼女はそれぞれ、このときの彼の言葉をずっと忘れないだろう。





     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆










  ★あとがき★
   こんにちはゆたかですー。
   出逢いエピソード、とうとう完結っ! どんどんパフパフ!!
   微力ながら尽力させて頂きました。…いかがでしたか? は、ダメ。 ……やっぱ??

   ここで冒頭の歌詞のことを。SPEEDの『WHITE LOVE』です(いや、知ってるか…)
   SPEEDは、私が歌手で一番最初に好きになった方々なのです。
   この曲が出た頃、私は塾でけっこう根詰めてまして、辛かった時期でもあったのですが、
   『WHITE LOVE』の話題は塾の先生もけっこう出してきて、楽しかった思い出があります。
   一旦解散してしまったときはもう悲しくて。せっかく四人の名前覚えたのに(そっちかよ)

   じつは私のPN、この四という数字にちなんで、最初は「四季川美貴」でした。
   それがいつのまにかこんな平凡なのになっちゃったんでしょうね…。人生って不思議♪

   『祈り歌姫』、これからどんどん書いていくつもりです。
   アップするのが遅いかもしれませんが、お付き合い頂けたなら幸いです。
   それでは、今回はこの辺で。またあなたに会えますよーに…。
                         BY.ゆたか  2004.06.23


追伸(あとがきの灰色の部分について)
※著作権の問題のため、歌詞を自作のものに変えましたのでご了承ください。※  2005.09.08

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