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 浴室に反響する自分の声が恥ずかしくてぎゅうと唇を噛み締めた。それを見たカイトは、切れてしまいますよ、なんて言ってきて開かせようとちろちろと舐め回してくる。それと同時に指を動かすのも怠らず、あちこち這い回り仕掛けてきて、声をあげさせようとしているようだった。
 好きだと、数回、熱の籠もった声が渡され、そのたび体がじわりと疼くのを感じた。ただ頷きを返して息を吐き出そうとすれば、煽るような喘ぎが口をついて出そうになる。今されていることが厭でないことなど、どうせ丸きり勘づかれているのだろうと思うと、余計、言葉にするのを躊躇わせた。

「やめますか」

 カイトは訊いてくるくせに手を止めることもしない。俺の両手首を一纏めに掴んだまま放さずにちくちくと撫で回してくる。単に洗っているだけではないだろうと感じるのは、内股を撫でていく手付きによく覚えているから。とくとくと快を示し始める体に、取り繕いようもなかった。
 しかし、強く出たかと思えば、急にしゅんと落ち込んだような表情をみせたりして、まったく計算してやっているのかと問い質したくもなるが、覗き込んでくる瞳は実に不安げに惑うので否定など出来ない。そしてそれが少しかわいいと思う自分は、もう随分と深みに嵌っているらしい。

「……ッ」

 昂らせておいて今更何を、と言ってやろうかと思ったが、あらぬ声をあげてしまいそうでじっと睨みつけた。対するカイトはぱっと目を見開いたかと思うと、直ぐに柔らかな弧を描いて微笑んだ。普段なら好ましく思うその表情も今は無性に腹立たしい。

「泡、流しますね」

 脇の下に回された腕がぐっと持ち上げるような動きをして、膝立ちになるようにと促された。
 きゅ、きゅっと蛇口が回され、湯が飛び出してくる。カイトは数秒、壁に跳ねさせて、温度と強さが安定するのを待った。その些細な動作ひとつひとつに大事に想われているといつも気づいている。
 頭上で繋ぎ止められていた拘束が解かれると、そのまま片腕に湯が当てられて、さあさあと泡を流し始めた。反対側へ、首筋へ、背中へ……、ゆったりと移動していくシャワーに奇妙なもどかしさを感じながら、しかし取り上げるような力も入らず、されることに任せた。
 ふくらはぎから外腿へ移動したそれは暫くそのまま湯を流していたが、失礼しますと声がしたかと思うと、軽く両足を広げさせられ、直後、ノズルがぱっと上向いた。

「っ……ぁ……、」

 同時に伸びてきた指が、泡を拭おうと肌を弾いていく。後ろを掠めたそれに小さく喉が鳴った。その僅かな声も聞き洩らさずにカイトは嬉しそうに笑みを零す。
 咄嗟に退いた背中がタイルに当たって、冷たい感触と高まる熱の温度差に体をふるわせた。

「……よし、」

 呟きと共にシャワーは壁に掛けられ、湯を出したままざあざあとタイルに降り注いだ。飛沫を上げて叩きつけられるそれは、蒸気で浴室を霞ませていく。

「……?」

 カイトの腕が腰に回ってきたかと思うと、ふいに体が浮き上がり視界が反転した。ついしがみ付くと彼は微笑んで、冷えてしまいますねと言って湯舟に下ろされた。全身あたたかな湯に包まれれば、二の腕を引かれて淵に寄せられる。

「今、髪の毛洗いますから」

 少しだけ引き上げられて湯舟から身を乗り出すような体勢となった。下を向けば、先程より緩めのシャワーが頭部を濡らして伝い落ちていく。ぽたぽたとタイルに滴る雫を見るとも無しに目で追いかけた。
 ややあって、よく泡立てられた石鹸が髪に絡められると、僅かに刺激しながら地肌を洗い始めた。こそばゆいほど細やかな手付きは、悪寒めいてぞわぞわと肌を粟立たせる。首筋から爪先に至るまで、痺れていくかのように全身を浮つかせた。

「気持ち良いですか?」
「ん……」

 半分夢心地で返事をする。温かくて心地良くて、――少し物足りないような感覚。下を向いているから表情は見えないが、鼻唄交じりに言うカイトもどうやら楽しいらしい。

「目を瞑っていてください」

 言われて瞼を下ろすと再びシャワーが近づいてきて、それでもなるべく顔に掛からないように髪を撫でられながら泡が流されていった。暫くそうしていると蛇口のひねる音が聞こえ、シャワーの弱くなっていくのを感じながら薄らと目を開けた。横でカイトの動く気配がして顔を上げる。

「はい、いいですよ」

 視線を遣った先には背を向けた彼が居て、浴室の扉へ手を掛けているところだった。

「ゆっくり温まってくださいね」
「あ……、」

 まさか出て行くつもりかと咄嗟に腕を伸ばして引き止めていた。

「待、て」

 絡み付いてきた湯がばしゃりと音を立てて跳ね上がる。
 するとカイトは振り返って、はい、マスターと続きを伺うようにして首を傾げた。

「っ……、お、前は?」
「着替えますよ」

 少し濡れてしまいましたし……。そう言いながら、水を吸って色の変わったコートの袖や裾を広げてみせる。
 俺は、ああと頷きながら、中途半端に浮いた片手を下ろして横を向いた。ふかぶかと湯舟に浸かり直して腕を組む。高調した体を隠すように。

「……」

 上手く言い出せない。そのまま入らないのかとか、煽っておいて行ってしまうのかとか。別にひとりでもいいけど、――こんなにあたたかいのに。
 カイトはじっと見つめてきて、それだけで落ち着かずに、窓を開けるふりをして背を向けた。直後にがちゃりと音が響き、涼やかな空気が伝ってきたのは、カイトが外へ出ようとしたのだろう。

「開けてしまっていいんですか」
「あ……?」

 腰を浮かせてガラスに手を触れたところで、制止するような声が響いた。軽く振り向いた時にはもう遅い。

「誰かに聞かせるのはいやです……、貴方のこんな声」
「っあ……、はぁッ……、ぁ、んあ、っ」

 不意を食って胸と胯座を同時に攻められ、声も殺せずに善がっていた。

「ふ、っあ、カ……、かい、と……っ」

 背面から抱き込まれて身動きが取れない。隔たりなく密着する素肌に、彼が僅かの間にコートもインナーも外へ脱ぎ捨てていたことが分かった。
 再び口の閉ざした浴室はもくもくと熱気を立ち込め、薄く曇っていた。

「もっと聴きたいです、マスター……」
「……っ、は、……ン、」

 追い立てるように摩擦される熱にくらくらとしながら歯を食い縛る。息を吐き出せないのは辛いけれど、跳ね返ってくる声が羞恥を駆り立てどうしようもない。それでも抑え切れなかった喘ぎが鼻に掛かって抜けていき、泣きそうになった。

「マスタぁ」

 ねだるような声音と共に腰へ押しあてられた感触に、かぁっと頬が熱くなるのを感じた。脈々と示される昂奮に堪らず背筋を反らせると、僅かに擦れたのか、甘い吐息が耳元で零される。煽られるばかりのそれに眉根を寄せて身をふるわせた。

「貴方から伝わるもの全部、嬉しいんです、……だから、ください」

 胸を弄っていた指先がするりと移動し、唇に乗せられた。二本が割り入って口腔を侵し始める。舌を突付かれ引っ込めようとすると、押さえ込まれて唾が溜まっていく。口の端から溢れそうになれば、空いた指が掬ってべたべたに濡らした。

「んん……っ、……ふ、ぁ」
「貴方の舌、やわらかくて……、時々冷たいですけど……、今はただ、」

 カイトは淡々とそう告げてきて、口内から指が引き抜かれた次の瞬間、

「ないてください」
「ッはああ、あ……」

 続けざまに急所をぐりっと抉られて身も世もなく声を溢れ出していた。



 言葉にもならない本能をとくとくと曝け出す口を塞いでしまいたくて、手を持ち上げようと力を籠めた。しかし思いのほか強く抱き込んでくる両腕が、微小な動きをも引き止めるようで叶いそうにない。耐え間なく触れられ、差し出される熱の高さに目が眩みそうだった。瞼を伏せて堪えようとすれば、いっそう研ぎ澄まされる感覚に息の上がっていくばかりだ。

「あぁ……っ、ぁ、む……、ぐ……っ」
「マスター……、吐き出したほうが楽でしょう」

 なお、唇を噛み締める俺に、そっと伺うような響きが耳元を掠めた。舌先がころころとピアスを突付いた後、生温い感触を伴い、耳の中へ侵ってくる。ぴちゃ、ぴちゃと音を立てながら粘膜を舐って、出し入れが繰り返された。

「……っ、ん……、ぅ……」

 ぞくぞくと背筋を這い上がる快楽を抑えようもなく全身をふるわせる。

「きもちいいですか……」

 吐息混じりに吹き込まれる声音に、膝から崩れてしまいそうになった。

「は、っ……ぁ……」
「マスター……」

 心臓がどくどくと血を巡らせて跳ね上がる。もう喋らないでくれと言ってやりたかった。訊かれなくたってカイトのすること全てに、隠しようもなく応えを示している。わからないかな。お前が思っている以上に、俺はお前を想っているって。言わないけど。
 引き摺られそうな思考の渦中で、どうしてこれ以上乱されずに済むか考えていた。

「も……、離、せ」

 立っているのもやっとの中、絞り出した声音はところどころ浮き上がり、自分で聞いても縋っているようにしか思えなかった。

「いきそう?」
「……っ、」

 耳朶に唇を這わせながら愛おしむように彼は言う。その言葉にすら反応してしまって、今また手酷くされたら言い返せそうにないけれど、まだ意味のある声を発せているうちに翻弄されるばかりの熱から抜け出したかった。

「違、……ふ、……っ」
「こんなにしてますよ」

 局部を弄っていた掌が、溢れ出た蜜を絡め取り目の前に翳した。つやつやと濡れた指先に劣情の証しをはっきりと見せられる。
 知っている。今、自分がどんな状態かなど。

「お、前……、っは……」

 意地が悪いとか、験されているとか、大した事でもなかった。浴室から出て行きそうにしたのを咄嗟に引き止めたのは本当だし、触れられるのだって、――厭、ではない。ただ、余すところなく露わにしていくような熱度にぐしゃぐしゃに乱されて泣きそうだった。俺ばかりずるいと言ったら、カイトはそんなことないと言うのだろう。

「ひとりでするんですか」

 肩にカイトの頬が寄せられ、覗き込むようにされながら伺う声がする。注がれる視線にちらと好奇が宿って鈍く光った。

「そん、な……、する、かっ……」

 今じっと見られているところで慰めるなど、恥ずかしくて死んでしまう。ただでさえ熱くてのぼせそうになっているのに、どうしてそんなことが出来るだろう。

「そう……」

 カイトは残念そうに声を落とすと、べとついた掌を舌先で舐めた。ちろちろと上下するそれに耳の中で蠢いていた感触を思い出して、ぞくっと肌が粟立つ。相変わらず抱き締められる体に、ああやっぱり離してくれないかと思った。

「ッカイト……」
「はい……、マスター」

 打てば響くようにカイトは返事する。もっとくださいと彼は言ったが、それなら俺だってもっと歌わせたい。息継ぎする間も無く、秩序も何も置きざりにして湧き上がるまま伝えてやる。余裕そうにしていられるのも今のうちだ。

「俺にも……、」
「え……、あ……っ」

 体を預けるようにしてぐっと寄り掛かると、俺が足を滑らせるのではないかと思ったのか、カイトは腕をずらして掴み方を変えようとしてきた。そこを逃さず、僅かに力の弱くなったところを振り解いて体を落下させた。ぱしゃっと跳ね上がる湯を被りながら何とか抜け出すことが出来た。

「触、らせろ……」
「マスター……!」

 そのまま素早くカイトに向き直り、眼前に示される昂りをぱっと掴んで口に含んだ。

「っん……、ぁ、ふ、」
「待……っ……! そ……な……っ、は……」

 驚愕して叫ぶ声が浴室に響いて返ってくる。予測外のことだったようで慌てふためく様子が面白い。

「何で……、俺が……してやって……の、に」
「だから……っ」

 カイトは俺の腕を掴んで引き剥がそうとしてきた。残念ながら離してやるつもりはない。散々触れたがるくせに、触れられて焦るところは可愛げがあっていい。

「大人しく……っ、……感じてろ、ばぁか」

 上目に見ると、小刻みに胴を震わせ、眉根を寄せる彼と目が合った。細々とした吐息が零されて白い靄の中に溶けていく。

「……ん、……マ、す」
「ふ、ぁ……っむ、……あ、ふ」

 丹念に舐め上げていけば、どんどん硬度を増して口の中一杯に拡がっていった。

「もう……、本当に離して、くださ、い……」
「別、に……っ出せ、ば……?」

 俺がそう言うとカイトは、かっと耳まで紅くなって喉を鳴らした。そんなに嬉しいなら時々ぐらいしてやってもいいかなとぼんやりした頭で考える。はっはっと荒くなる呼吸を聞きながら、更に追い立てるように掌と舌を動かした。

「う……、く……」

 尖らせた舌先で抉りながらずず……っと吸い上げてやると小さく嬌声があがった後、口内に熱が放たれた。

「ん……っ」

 脱力して息をあげるカイトをぼうっと見上げながら、こくりと喉を上下させていると、凄い勢いで両肩を掴まれた。

「マスタぁ! 飲まないでください……!」
「何で」
「か、体に、悪いから……」

 大慌てにするカイトが何だか可笑しくて、ふっと口元に笑みを浮かべた。
 自分だっていつも飲み込むくせに、そんなとんでもないことをするという表情をしなくてもいい。ああまた昂奮していると見て取れてどくどくと鼓動が高まった。
 しかし、恐らく大事そうなことは喉に引っ掛かり、何一つうまく言えなかった。焼け付きそうに熱くて堪らず、ぐるぐると体中を駆け巡っていた。



 ふっと視界が上昇して、纏わり付くような蒸気霧の中へ放り出された。微細な水分が喉に張り付いてきて上手く息が出来ない。それでもひり付いて渇きを訴える全身は、今カイトに抱き上げられて宙を舞っていた。

「もう……、知りませんから」
「何だよ……」

 タイルに貼り付けられた背中が冷え冷えとしたが、そんなことに構っている暇も無さそうにみえた。しかし寧ろ熱を上げる体には心地良く、荒々しさを宿らせ覗き込んでくる瞳に惹き付けられるようにして彼の体へ腕を伸ばした。

「あんなことをして……、止められません」

 言い終わると共に唇を食まれて舌が割り入ってきた。歯列を突付いてから上顎の裏に押しあてられて、数秒留まり感覚を麻痺させていく。ぬらぬらと舐められ、粘度の高い唾が絡んだが、飲み込むことなど出来ずに口内を蹂躙した。眉根を寄せて堪えても溢れ出てくるのは露に濡れた音の実。

「ん、っん……、あ……ふ……、カ……っ」

 触れるたび熱を伝わす指先が腰骨を撫でながらそのまま後ろへ下りていった。肌を弾いて目的の処に着くと、伺うような動きでやわやわと入口を突付く。

「少し……、足を……」

 唇が離されて息を整える間も無く、熱を帯びた瞳に捕えられた。

「ひらいて……」

 耳元でそっと声がして、首筋から染め落ちるような羞恥に侵されていく。

「い……ぁ……っ」

 瞼を伏せて顔を背ければ、べろべろと頬を舐められ、狗のように懐かれる。数回、ぐるりと円を描いた指先が、つっと緩慢に内側へ這入ってきた。

「柔らかくなってますね」
「ッは……、あ、……ぁ、っ……、ぐ……」

 ずり落ちそうな体を尚、引き止められ宙を彷徨う感覚は、冷たさと熱さと痛みと愉悦とが綯い交ぜになり、ぐちゃぐちゃになっていた。してほしい、してほしくない。苦しくて熱くて、焼け付きそうで――。

「ここ、ですよね」

 とうに知られている弱い処をぐぐっと突かれ、腰が浮き上がる。ずきずきと奮えて血が集まってくる。縋り付くように回した両手がカイトの背中に爪を立てていて、彼の僅かに微笑む気配がした。

「……ッ……ん……、は……っ」
「声、出して……」

 未だ、ぎりぎりで残っている理性か意地か判らないものが、彼の言うことに対して厭々と首を降った。吐き出してしまえば楽だろうと、そんなことはよく解っている。
 零れる音色ひとつひとつを拾っては、カイトは嬉しそうにするから、尚のこと落ち着かずに口を噤んでしまいたくなった。

「っ……く……、う……」
「強情なんだから……」

 中に新たに指を増やされて、それぞれが内壁を抉るように動き始めた。

「ふ……、ぁ……っ」
「マスター、もっと……、よくしてあげます」

 体を抱き上げていたカイトの力が緩んで、重力に支えられずにずるずるとタイルから滑り落ちた。這入っている指をより深く呑み込まされていくような感覚に息を詰めると、足が床に届いてそのまま壁へと凭れ掛かる。
 一方、カイトは床へ腰を下ろしていて、軽く腕を引かれて直立するように促された。震える膝を何とか立たせて彼の肩に手を付き支えにすれば、眼前に晒すことになった猛りをあっと思う間もなく、口内に含まれていた。

「あぁあ……っ、カ、あ……、ん、っあ……は、」

 筋を辿って吸い上げるのと同時に体内を侵す指先がばらばらに掻き回してきて、強すぎる快楽に意識が飛びそうになった。口を塞ぐ余裕など無く、耳を覆いたくなるような嬌声が浴室に響いて返ってきた。

「ふ……、マス、た……」

 それに満足したのか、カイトは愉しそうに目を細めながら、更に動きを速めて攻め立ててきた。

「は、あぁっ、……ゃ、……い、や……っ」
「どう……して……」
「恥ず、か……し……、厭、だぁ……」
「そんなに気持ち良さそうにしているのに」

 見上げてくる視線にかっと全身が熱くなり、立っていられなくなる。咄嗟にカイトの首へしがみ付くと、咥えていた口が離されて腰が落下した。しかし尚、中に入ったまま侵し続ける掌に阻まれて、中途半端な膝立ちになった。

「カい……とぉ……」

 がたがたに崩されて甘えるような声音になっているのは自分でも分かった。だけど頭が痺れてもう確りと保つことなど出来そうになかった。

「なぁに……、マスター…」
「……ッ……い……」

 柔らかな返事に促されても、舌が回らず上手く喋れない。こんなに恥ずかしくて止めてほしくて、止めてほしくなくて堪らないのは、想いが込み上げてきてどうしようもないから。

「もっと聴かせてください……」

 カイトは深くは言及して来ずそう言うと、

「……ッ」

 一気に指を引き抜かれて、びくっと体が跳ね上がった。脇の下から背中に回ってきた腕に、軽く持ち上げられて視線が合う。

「……泣かせたいわけじゃないんですけれど」

 瞼に浮かぶ涙を見たのか、舌がそっと近づき絡め取りながら言った。

「バ、カが……」
「すみません……、大好きなんです、貴方が……」

 憎まれ口を言うとカイトはふわり微笑い返してから、彼に背面を向けるように抱え直されて、ゆっくりと中心に向かって体を下ろされた。耳元でどくどくと鼓動が煩く鳴り響いていた。

「ぁ、あ……ッ!」

 迫り上がってくる。焼け付くような想いを高々と示して、内側を啓こうとしてくる。

「マスた……、唇、切れ、てしまいます、って……」

 圧迫感で浮きそうになる体をカイトに繋ぎ止められ、はっ、はっと浅い呼吸を繰り返した。重力に助けられながら少しずつ奥深くまで埋めた。

「大、丈夫……、ですか……」
「ん……っ」

 覗き込んでくる視線にこくっと小さく頷いて返した。

「貴方も耳、弱いですよね……」

 首筋に口付けられて柔々と這い上がり、耳元に熱い吐息が降り掛かる。再び舌を差し出されれば、もどかしいような感覚が全身を沸き立たせた。

「も……、い……っから、動、け」
「また、煽る」

 低い声が言いながら軽く腰を回され、ひくっと喉が鳴った。

「泣いて乞われても離しませんよ」

 嗚呼やばいなと頭の片隅で信号を発したが、揺すぶられ始めて直ぐにそれは掻き消えた。

「ふ、あっ……、は、ぁ……、っん……ぅ」
「熱い……」

 胸を弄られながら上下に強く動かされてもう何も考えられなくなってきた。

「も、少し……、ゆ……っく、い……」
「……」
「カ、ぁ……、ぃ……っ……、ひ、ぁ」

 カイトは聞こえない振りをしているのか、追い付けない速さで突き上げてきて再び意識を飛ばしてしまいそうになった。

「あっ、あ……、や……、待……」
「何です……」

 返事はするものの律動は止まらない。頭の中が白くなるほどの甘苦を逃がし切れずに、自分の中心へと手を伸ばしていた。

「……、ィ……き、た……」
「マ、スた……、ひとりでよくなっちゃ……、ぃや、です……」

 遠くで咎める声がしたかと思うと、触れようとした手を抑え付けられ前後不覚に悲鳴をあげた。

「カイトっ……、かい、とぉ……っ」
「……マスターはずるい、そんなふうに縋られたら……」

 とくとくと蜜を滴らせ濡れた中心をカイトに握り込まれて息を呑んだ。

「いいですよ、……出して」
「あ、ああぁ……っ」

 促されるままだらだらと色情を零れ出させた。止められないのは自分も同じだ。
 それでも言葉にならないことは余りに単純で、体の中で浮かべていたって仕方がないけれど上手く形になど出来ずに知らない振りをする。カイトは幾度も追い詰めてきて、その度くださいと耳元で囁き続けた。



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