目の前にある物体を凝視し、彼女はため息をついた。
元は食べ物だったはずなのに、なぜこのような状況になるのだろうか。
背中に冷たいものが流れたのがわかったが、満面の笑みを浮かべている彼の顔を見ていると、何もいえそうに無い。
「あ〜うん、イギリス君、あんなぁ?」
「そんな遠慮しないで食べてみろ。今回のは自信作だからな」
彼女の言葉に、瞳を輝かし、その黒い物体を薦めてくる。
鼻先をくすぐる苦い香りに彼女は大きくため息をつき。
「どうやったらこないなるん?」
呆れた彼女の声に、その物体の出来があまり好ましいものでないと理解できたのだろう。
肩を落とし、彼女から視線を逸らした。
「はは、うん、お菓子大国のベルギーのお口に合うようなものは難しいってわかってるさ。
うん、悔しくなんてねぇからな。どうせ俺のお菓子なんて」
手元のお菓子を引き寄せ、顔を拳で拭う。どこか声すらも涙声で。
「相変わらずやなぁ〜もう」
涙ぐむ彼の姿に、二度目のため息をつく。
それから、彼が抱えていた皿から黒い物体を一切れ取り出し、口へと運んだ。
「ちょっ、待て」
静止する彼の言葉には耳を貸さず、口の中に広がる焦げ臭い味に眉をひそめつつ、口の中でしっかりと味わう。
「うーん、砂糖が少ないせいでバターの風味が生かされてないかな。
それにラム酒がちょい強いんや。
焼き方も……中が生の割りに、外側は真っ黒で。オーブンを温めるの忘れたん?」
彼女の的確な指示に、大きく頷き、素直に耳を傾ける。
あまりに珍しい光景に、彼女は微笑を浮かべ。
「ん?」
口の中に妙な違和感を感じ、そっと取り出した。
中に入っていたのは、可愛らしい指輪だった。
「これ……?」
「おっ、ベルギーのとこに入ってたか。それは俺んとこのおまじないの一つで」
「へぇ〜」
軽くナプキンで拭い、自らの指にはめてみる。
きらきらと光り輝き、彼女の薬指を華やかに演出する。そんな姿に見ほれたのか、彼はしばし言葉を失い。
「で、このおまじないの意味ってなんや?」
「あ、うん、指輪は早くけ……」
そこまで口にしておきながら、その意味を思い出し、口ごもった。
頬を赤らめ、視線を逸らす。
「あーえーと、その、なんでもない。幸せになるって事だ」
「なんや? 何で教えてくれへんの?」
頬を膨らませ、抗議をしてみるが、彼はちらりと見ただけで、更に顔を赤らめ、視線を逸らすだけ。
「なぁ、教えてーな。なぁなぁ」
諦めず問いただそうとするベルギーと、視線を逸らしまくり、後ずさるイギリス。
左手の薬指にはめられた指輪を一瞬だけ見て、イギリスは彼女に聞こえぬよう呟いた。

「……いえねぇよ。指輪は早く結婚できるだなんて」

壁に飾られたヤドリギの下まで追い詰められ、イギリスは大きくため息をつき。
真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ、頬に手で触れ、そして――

――教会の鐘が聖なる夜に響き渡る。そこにいる者達を祝福するように――




初出 2010年クリスマス
お菓子大国のベルギーと飯マズ大国のイギリスの話でした。
きちんとアドバイスを貰っても、なぜか得体の知れないものをつくりあげる姿が思い浮かびます。





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