「何だこれは」
不機嫌そうな声とともに彼の居るサロンに入ってきたのはベラルーシだった。
読みかけの詩集を机の上に置き、ワインを傾けると、彼女に向かって微笑を浮かべた。
「素敵だろ。ベラルーシちゃんに似合うと思ってな」
「素敵じゃない。フランスごときにモノを貰う謂れなんぞない」
殴り捨てようと大きく手を振りかざし、動きが止まる。
一度はひどく寒い時期を味わったせいか、物は粗末にはできない。
大きく振りかざした手をゆっくりと下ろし、綺麗に包まれたプレゼントを胸に抱える。
「……素直じゃないね。いや、逆に素直なんだな。そういうとこ俺は好きだな」
「死ね」
無表情でスカートの中にしまわれていたナイフを取り出し、フランスに襲い掛かった。
だが、彼は余裕の表情でナイフを避け、さり気無く彼女の腰に手を回し、抱き寄せる。
バランスを崩した彼女は、必然的に彼の膝の上に乗っかる状態になり。
「殺されたいのか?」
ナイフを首筋に当てながら、威圧的な空気で攻撃に転じようとしたのだが、
彼はそんな事は気にせず、彼女の柔らかな感触を楽しみながら、ナイフを掴む手を押さえ込んでいた。
「君にならば殺されたっていいさ。愛の為に死ぬってのも悪くない」
優しい声に、彼女の肩から力が抜けた。大きくため息をつき、身体を押しのけ、少しだけ彼から離れる。
視界はやや上から。いつも見下ろされているのが気に食わなかったから。
「……なんで私をそんなにかまう」
大きな手が彼女の頭に触れた。慈悲に満ちた彼の笑みに、妙な居心地の悪さを感じる。
「何でって……君が好きだからに決まってるだろ。
みんなに怖がられているみたいだけど、きっちりと反応を返してくれるは君だけって事しってるかい?」
彼の不可解な言葉に首をかしげる。
真っ直ぐに彼の瞳を見つめ。
「嫌だったら嫌だといってくれるし、拒否もする。嘘の表情を見せないからな」
そこで彼は大きくため息をつき。
「最近の女の子はね、愛想笑いとかうやむやにしてみたりとか……相手を傷つけないような技術が上手いんだよ。
それを全く持たないのが君というわけで」
頭に乗っけていた手を下ろし、今度は彼女の頬に触れた。
だが、今度はすぐに振り払われる。
「ははっ、やっぱり素直だねぇ」
赤くなった手のひらを気にする事も無く、笑いを浮かべ。
「どけ。私はもう行く」
どう反応をしていいのかわからなくなったのだろう。顔を伏せ、彼の膝の上から降りようと試みた。
しかし、彼の腕はしっかりと彼女を押さえつけたまま、首筋に唇を近づけ……
「百回、死ね」
頭突きが彼に襲い掛かった。
いきなりの事に、彼は小さくうめき声を上げ、顔を押さえ込む。
長い髪を手でかき上げ、蹲る彼を見下ろす。
「……今日はこれで勘弁してやる」
翻し、サロンを後にしようとしたのだが、途中で足が止まった。
床に転がってしまった彼のプレゼントを手に取り、両手で抱きしめる。
「捨てるのももったいないから、貰っておいてやる」
「はいはい。身に着けたらお兄さんに見せにおいで。絶対に似合うからさ」
赤くなった顔を撫でながら、苦笑を浮かべ、彼女の後姿を見送り……

「さて、また戻ってくるんだろうな」

ぽつりと呟いた言葉通り、彼女はすぐに彼の元に戻ってきた。手には数々の凶器を持って。
「お前は何ていうものをプレゼントに選ぶんだ? これは殺せという事だよな」
「あー、似合うと思うんだよな。サイズもぴったりだと思うし」
けらけらと笑いながら、彼はなにやらいくつかの数字を口にし。
途端に彼女の顔が赤くなった。ふるふると手が震えだし。
「やっぱり殺す。一度殺してから、二度も三度も殺る!」
「はっはっは、積極的な女の子は大好きだよ」
お気楽な声とともに、彼は席を立ち。
ナイフを片手に、逃げ惑う彼を追い掛け回す。

いきなり賑やかになったサロンの中心に、原因となった物が転がっていた。
可愛い包み紙から見えるのは、やはり可愛らしいセットになった下着。
それにはしっかりとクリスマスカードが添えられていて。

「私のデーターをお前の頭から消してやる!」
「あ、怒るって事はやっぱりあっていたんだ。流石お兄さん♪ 女の子のサイズ予想は完璧だね」
飛び交うナイフと、軽やかに避けるたびに舞い散る薔薇の花びら。


――そして教会の鐘が聖なる夜に響き渡る。そこにいる者達を祝福するように――



初出 2010年クリスマス

フラベラでした。
ベラのような怖い女の子でも、きちんとレディ扱いしているんだろうと思いまして。


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