アクセサリー店のガラスケースの前で眉をひそめる男性。
周りにいる店員は、あまりの威圧感に声をかける事もできず、遠巻きに眺めていた。
そんな状態が小一時間ほど過ぎた頃だろうか。
他の客が店に入ってこれないという異常事態に困り果てたのだろう。店長らしい壮齢の店員が男性に近づき。
「はぁ……」
大きなため息に、店員一同がびくりと肩を震わせた。
固まる店員を尻目に、男性は肩を落としたまま店を後にしたのだった。


黄金色の液体がロウソクの炎で神秘的な輝きを見せる。
向かい側で幸せそうにビールのグラスを傾ける彼女の姿に、少しだけ肩の力が抜けた。
手元に隠してあるプレゼントの包みを視界に入れ、彼女に気がつかれぬようため息を一つ。
気合を込めようとグラスのワインを一気に飲み干す。
鼻をくすぐる麦の香り。炭酸が喉を刺激し、心の重荷が落ちていくような気になる。
大きく息を吸い込み、微笑む彼女を真っ直ぐに見つめた。
「リヒテンシュタイン。これがクリスマスプレゼントだ」
手のひらに汗が出て、呼吸・鼓動共に速くなっているのが彼にもわかった。
顔の紅潮もあっただろう。
だが、満面の笑みを浮かべる彼女の顔を見ると、彼の頬も緩んだ。
「まあ、ありがとうございます。
……あけてもよろしいですか? ドイツ様」
「ああ」
それ以上言葉を放つと、きっと上擦ってしまうだろうから、簡潔に返事をした。
可愛いリボンを解き、包装紙を破かぬようそっと広げ。

彼女の表情に微かに悲しみの色が陰った。
「あの……コレ、どういう……」
「すまない。つまらないプレゼントだろう。
様々な文献を調べたのだが、女性の喜ぶプレゼントというものがわからなくてな。
最初は無難にアクセサリーでもとも思ったのだが、
ある文献に『自分の趣味に合わないアクセサリーは貰っても邪魔なだけ』と書いてあったもので。
それならば服でもと思ったが、服もやはり個々の趣味というものが反映されてだな……」
視線を逸らし、長々と理由を述べるドイツとは対照的に、悲しそうに沈黙するリヒテンシュタイン。
だがも、そんな彼女には気がつく様子はない。
「……というわけで、現在お前が不足しているもの、そしてお前が欲しているものとして……
実物は流石にどうにもできないから、代替としてそれを」
ここでやっと彼女に顔を向けた。

――まるで捨てられた子犬のような瞳で。

そんな顔で見られたら、怒る事も泣く事もできない。
彼女は少しだけ視線を落とし、彼の言葉を待つ。
「だが、俺は大きい方が好きというわけではなく、お前のような小さいのも嫌いではない……というか、
リヒテンシュタインの全てが無条件で好きなのであって……」
彼の視線がプレゼント……高級胸パッドに向けられた。
それからもう一度彼女の顔を見つめ、微かに首をかしげた。

目の前で繰り広げられる彼の百面相に、彼女から小さな笑い声が零れた。
最初は押さえていたのだが、徐々に大きな声になっていき。
「あ? えっ、な、何か変な事いったか?」
おろおろとする彼を前に、悲しい気持ちが段々と消えていった。
彼は悩んで悩んで悩んでこのプレゼントを選んでくれたのだ。
ランジェリーショップで延々と悩んでいる姿が容易に想像できる。

あまりに不器用で真面目で一直線な男。
そんな彼がとても愛おしくて。

戸惑う彼の顔に近づき、頬にキス。
顔を真っ赤に染め、動きを止めた彼に、彼女は満面の笑みを浮かべた。

「愛しています。ドイツ様。
でも、もう少し女心についてお勉強してくださいまし」

それからもう一度顔を近づけ、唇を重ね。

 

――教会の鐘が聖なる夜に響き渡る。そこにいる者達を祝福するように――





初出 2010年クリスマス
ということで、ドイリヒでした。
不器用なドイツさんが好きです。



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