「寒い寒い寒い寒いです! なんですか! この極寒は!
暖炉ついててなんでこんな寒いだなんて」
暖炉のまん前を陣取り、身を縮まらせて身体を震わせる少女が一人。
そんな彼女を不可思議な物のように眺める少年。
「まだそんな寒くないじゃない。部屋の中はもう5度になって……」
「ナンですかぁ! 暖房いれて5度ってそれ本当に暖房ですか!
マイナスの世界ってなんですか! ああもう、動物が冬眠する理由がわかった気がします。
いっその事、冷蔵庫ください。冷蔵庫の方が温かいですよ!」
ぶるぶると震える少女に呆れた瞳を向け、大きくため息を一つ。
「それならば僕んちに来なくたって良かったじゃない。僕がセーシェルんち行っても……」
「それはダメです」
きっぱりと言い切られ、少年は再びため息をつき。
彼女はかけられた毛布を抱きかかえ、上目遣いで少年を見つめ、少し口ごもり。
「だって……アイスランド君ちのクリスマス楽しみたかったんですもん」
「セーシェル……」
アイスランドは微かに頬を赤らめ、彼女に歩み寄り、背後から手を広げ。
「それに、アイス君の美味しいお菓子、期待してますから」
ロマンより食い気な彼女の発言に、彼の肩をがくりと落ちた。
深々とため息をつき、触れようとしていた手を引っ込めた。
「しょうがない。それじゃリコリ……」
「黒い味覚破壊兵器なリコリスは勘弁です」
言葉途中できっぱり拒否されて、少しだけ拗ねた表情を見せる。
そんな彼の姿を見て、彼女の頬にも笑顔が浮かび、何かを考えるかのように斜め上を見つめ。
「あ、私何か飲みたいです。何もなければ水道水でもいいですよ」
「馬鹿いわないで。アイスランドモスティ入れてくる」
むすっとした表情で腰を上げ、台所へと向かう。
台所から微かに漂ってくる甘い香り。これは焼き菓子だろうか。
ゆらゆらと揺れる暖炉の炎を眺め、彼女は念入りに身体を温める。
それから台所に立っている彼の背後に忍び寄り。
「えいや!」
毛布を広げ、彼の背中に抱きついた。
少し冷えた彼の体に、彼女の体温が移動する。
目を丸くし、戸惑いを見せる彼に、少し背伸びをして頬を合わせた。
「どうですか? 温かいですか?」
「馬鹿じゃない。危ないよ。急に……」
そっぽを向く彼の反応が楽しかったのか、更に身体を押し付ける。
「馬鹿言わないでください。もう、せっかく暖めてあげようとおもったのに」
「煩い。邪魔」
「あー、もう素直じゃないんですから。えりゃぁっ」
そっけない彼の反応に怒る事もなく、更に身体を摺り寄せる。
出会ってすぐならば、彼の態度に怒りを覚えていただろう。
だが、このそっけない態度は彼の照れ隠しで。

「本気でうざい。離れろ」
「嫌です。もっと温めてあげますよ」
抱きついてくる彼女の手を振り払い、合間を取ろうとするが、すぐに彼女は抱きついてきて。
身体を動かしている間に、寒いという感覚は無くなったのだろう。
セーシェルは実に楽しそうに笑い、それにつられてアイスランドも口の端に笑みが浮かぶ。

不意に彼女の動きが止まった。顔をあげ、窓の外を眺める。
彼も不思議そうに同じ方向を眺め。

「ここでも教会の鐘の音は聞こえるんですね」
「当たり前だよ。だってクリスマスなんだもん」
顔を見合わせ、どちらかともなく噴出し……笑い声が家の中にこだました。

 

――教会の鐘が聖なる夜に響き渡る。そこにいる者達を祝福するように――



初出 2010年クリスマス
クリスマス期間限定だった拍手SSです。
ちなみに、アイスランドの水道水は結構美味しいらしいです。




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