「お前が悪い」
彼が発したのはそれだけ。それだけで隙を与えず壁に追い詰める。
戸惑う彼女の腕を掴み、壁に押し付ける。
彼女が言葉を発する前に、唇がふさがれた。
「ん……んぅ…」
唇から零れるくぐもった声。明らかに快楽を感じている声だ。
舌を差し入れる。少々、牙が邪魔だが仕方が無い。
何度も彼女を味わったはずなのに。いつもよりも興奮する。
最初は彼女も唇の感触を素直に味わっていたのだが、賑やかな会場の物音に不安げな表情みせた。
「そんな気になるか。それならば」
カーテンの内側に追い込んでもう一度口付け。
「お前が悪い。無防備なお前が悪い。こんな服では」
大きく開いた胸元に手を滑り込ませ、なだらかな丘をなぞる。
白い肌が目に痛い。
首元に飾られた金色の装飾が、彼女の呼吸に合わせ、澄んだ音を立てた。
「俺の獣を呼び覚ますのが悪い。お前がこんなに肌を見せるのが悪い」
肩に唇を落とし、軽く歯を立てる。
白い肌に赤く歯型がついた。その痕を舌でなぞり揚げ、耳元まで舌を這わす。
「お前は俺のモノだ。他の誰かに肌を見せる事は許さない」
いつもよりかなり短めのスカートの中に手を差し入れた。
下着の上から何度も何度も執拗に指でなぞり、あふれ出してくる蜜を指で絡める。
「だからお前が悪い。だから、お仕置きが必要だ。この悪い妖精にな」
髪に飾り付けられた華飾りを取り去り、スカートの裾へとくくりつける。スカートがめくられ、下着が丸見えになるように。
「おとなしく狼に食われろ。リヒテンシュタイン」
ここで初めて名を呼んだ気がした。
こんな姿の彼女を見た途端、強い独占欲に襲われて冷静な行動ができなかった。
いや、現在も冷静な判断はできていない。
「お前は俺のモノだ」
真っ直ぐに彼女の顔を見つめる。頬に当ている手を愛おしそうに頬ずりし、彼女は頬を赤らめた。
「はい。私はドイツ様のモノです。愛しています……」
今度は彼女からの口付け。唇を合わせるだけの軽いモノだったが、それで十分。
従順な行動に、彼の頬が緩む。途端にあふれ出してくる加虐心。
「俺のモノならば……楽しい遊びをする事にしよう」
タガが外れた彼にブレーキをかける事はできない。いや、彼女もすすんで行う。彼を喜ばせる為に。
「ヴェ〜ドイツ楽しんでる?」
普段からテンションの高いイタリアが更にテンションが高くなって、一人黙々とビールを傾けていたドイツに絡み始めた。
体を動かさず、ちらりとイタリアを見つめ、小さくため息をつく。
「楽しんでるから気にするな」
椅子に腰掛けたまま、空になったグラスにビールを注ぎ、もう一口。
楽しそうにイタリアはドイツの横の椅子に腰掛け、ワインを口にする。
いつもよりテンション高く、今日のナンパの成果を語りだすイタリアの頭を撫で……
下で行われている事に気がつかない事に微かな笑みを浮かべた。
テーブルの下……そこに彼女はいた。
まるで籠に囚われた妖精のように、テーブルクロスに隠されて。
露になったドイツの下半身に必死に舌を這わす。乱れた服装のまま。
「ん……んちゅ……じゅぅ」
立て膝のまま、大きくなった陰茎に舌を這わす。
外から聞こえてくるざわめきと人の気配に身を震わせながら、それでも幸せそうにしゃぶり続ける。
さらけ出した胸を彼の足に押し付け、丁寧に舌を動かす。
彼の足先が微かに動く。丁度足先には彼女の股が当たっており。
「……くぅ……ん」
小さな声を上げ、口を離した。溢れそうになる声をどうにか押さえ、亀頭を口に含んだ。テーブルクロスの隙間から微かに見え隠れする健気な彼女の姿に、気分が高揚しそうになる。
だが、ここにいるイタリアに気づかれてはいけない。
表情を変える事もなく、いつものように冷静にイタリアの姿を観察し。
微かに目が赤いようにも思えた。
「ん? またパスタでも切らして泣いたのか? それとも迷子にでも」
「あ、うん。まあ、そんなとこ……かな」
珍しく歯切れの悪い言い方をするイタリアに首を傾げるが、まああまり深く気にしてもいけないだろう。
ポケットから微かに見えるピンク色の布もやや気になりもしたが、
ドイツの視線に気がついた途端、ポケットの奥に押し込み、気まずそうな笑みを浮かべたので、やはり気にしない事にした。
「そ、そういや、リヒテンシュタインちゃんがいないね。どこいったんだろ」
そんなイタリアはごまかすように周りを見回し、少女の姿を探した。
「さあな。どこかで休憩でもしてるんじゃないのか?」
できる限り冷静に。下半身の感触に意識が集中せぬよう。
だけれども、少しだけ足先を動かし。
「ふぁ……」
机の下から微かに聞こえた甘い声。それが聞こえたのだろう。イタリアが首をかしげた。
「あれ? 何か聞こえたような。子猫のような」
「猫でも入り込んでいるんじゃないか。ギリシャも参加してることだし」
「あ、そっか。にゃんこー♪」
猫を探しにぱたぱたと駆け出すイタリアの足音に、テーブルの下の少女は安堵のため息をつき。
「……お仕置きだな」
ぽつりと呟いたドイツの言葉に、机の下の彼女は大きく身体を震わせた。
「あっ、やぁ……んっ、ふぁっああっ」
木に手をつき、小さな身体を震わせる。
露になった胸を強く掴まれ、赤い痕がつく。それでも先端の突起を指でつままれ、首を横に振る。
「嫌なのか? だが仕方が無いだろ。お前が悪い。
あそこで声を出して。あんなに淫乱な妖精は……いや、もしかして夢魔だったりするのか?」
首筋に噛み付き、更に赤い痕を残す。
大きく腰を引き抜き、もう一度叩きつける。絶え間ない水音が夜の庭に響き渡った。
溢れ出す蜜は滑らかな脚を通り、土へと吸い込まれていく。
快楽に耐え、彼女はどうにか顔を上げる。まだ明るい会場の窓。ちらりとみえる人影。
パーティは現在も続いているのに、こんな場所で背徳的な行為をしている。
「狼に喜んで食われているだなんて皆が知ったらどう思うか」
耳元で囁かれる言葉に、彼女の身体の熱が高まる。
頭の中が白くなっていく。
「ほら、窓辺から手を振っているのはフランスだろ。こんな痴態を見られているんじゃないのか」
どうにか顔を上げる。会場の窓に背を向けた一人の男。こちらに視線を向け、にこやかに手を振ってきた。
丁度、彼の姿は木に隠されているだろう。しかし、彼女の姿はどうなのか。
ここで紅潮する顔を見せる事はできない。
優雅に微笑んで、軽く手を振り返し。
「ふぁ……やぁ」
その瞬間を狙って彼は大きく腰を打ちつけた。
彼女を抱き寄せ、木の陰へと隠す。身体に腕を回し、薄いピンクの唇に食いつく。
整った歯茎を舌でなぞりながら、窓辺から眺めていた男の様子を見る。
もうこちらには視線を向けていない。どうやら興味がなくなったのだろう。
心の中で安堵しながらも、新たな欲望が浮かんでくる。
快楽の涙に濡れる彼女の目元に口付けを一つ。
「俺以外の男を見るんじゃない。お前は俺のモノだ。俺の……」
木に彼女の背中を預け、腰を掴む。
荒々しく腰を押し付け続け、快楽に浸る。どんなに荒くしても、彼女はしっかりと快楽を感じてくれる。
黒くなりそうな欲望にも恐れず、優しい羽で包み込んでくれる。
――だから――「愛してる愛してる愛してる。リヒテンシュタイン愛してる!」
「ふぁ、私も……です。んっ……ドイツ様」何度も重なる唇。溢れ出す悦楽の声。留まる事を知らぬ二人は何度も何度も絶頂を迎え……
「ドイツ様……そろそろ出てきていただけると」
誰もいない会場の机の前で座り込んでいたのはリヒテンシュタイン。
首をかしげ、テーブルの下を覗き込んでいた。
視線の先には……テーブルの下で彼女に背を向け、膝を抱えているドイツの姿。
「……ああ、またやってしまったまた俺は……」
「私は気にしていませんから。だから出てきてください」
説得はしてみるが、出てくる気配はない。
彼女は一つため息をついた。――いつもの事。自分の欲望を抑えきれずに彼女を襲い、そして精を放ち、それから深く深く落ち込む。
いつものパターンなのだが――肩にかけられた上着から見え隠れする紅い痕を愛おし気に撫で。
独占欲を素直にぶつけてくれるのは嬉しい。たまにしか見せてくれない弱い部分なのだから。
本当ならば、強く身体を抱きしめてあげたい。けれど、机の下にもぐるわけにもいかず。
大きくため息をつき、会場を見回した。アドバイスをくれそうな人物はいそうにない。
「ドイツ様……」
彼女はただ黙って目をつぶり、何かを考え始めた。反応を見せなくなった彼女に、落ち込んでいたドイツはやっと顔を上げた。
いきなり振り返る勇気はないが、動きが無い彼女に疑問を抱いた。
「……リヒテンシュタイン?」
まずは彼女の名を。それでも反応がなかったので、ゆっくりと振り返り。――ちょこちょこと揺れる猫じゃらしが一本――
ソレがどういう意味か理解できず、しばらく脳が停止し、それからやっと言葉が出てきた。
「……リヒテンシュタイン……」
視線を向けると、必死に猫じゃらしを動かす彼女の姿があった。
どういう意図があったのかは彼には理解できないが、それでも彼の為にけなげに頑張る姿は評価したい所だ。
少々悩み、どうにか手を動かす。狼の手袋を纏い、その猫じゃらしに手を振り下ろした。
反応にびくりと身体を動かしたが、すでに猫じゃらしは彼の手の中にあった。
まん丸にした彼女の瞳と、照れくさそうな彼の瞳が合う。
「……猫じゃなくて狼なんだがな」
「わかってます。私の可愛い狼さん」
彼の手を包み込み、静かな微笑みを向けた。
お互いに笑みをうかべ、自然と顔が近づき……「ん、ここなら誰もいないな」
会場に入ってきた誰かの気配に、二人は慌てて机の下に潜った。
身を寄せ、息を殺す。現れた人物に気がつかれぬように。「いやや。もう、フランス君、やぁ……ん」
「嫌よ嫌よも好きのうちってな。さっきのじゃ満足できてないだろ。
たっぷり可愛がってあげるからな。ベルギーちゃん」
後ろから胸を揉みしだきながら、会場の電気を消した。
真っ暗の中、フランスの手にしていたカンテラだけが二人の姿を照らし出す。
ベルギーを抱き上げて、テーブルの上へとのせる。
「暗闇ならば恥ずかしくないだろ。さて、秘密の洞窟を探検だ〜」
「だから嫌……んっ、やぁっ」
甘い声と水音。机が軋む音。
いつまで続くかわからない行為が行われているその真下で。「……どうしましょうか」
「……フランスの馬鹿が」
テーブルの下に隠れている二人は、脱出の機会を失い、ただ頭を抱えていた。
初出 2010/10/29
近作のハロウィンネタはどこかにつながりがあったりします。
探してみるのも一興かと。
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