「ヴェー♪ 青い海~青い空~綺麗だね」
目の前に広がる光景に、素直な感想を述べてくれるイタリア。
つれてきてよかったと、心の底からそう思った。
自分の家に向かう船の上、セーシェルは微笑んだ。最初のきっかけは、『君んちに行きたいな』という、ありきたりなナンパだった。
別に本当に家に行きたかったわけではない。話のきっかけを作りたかっただけなのだ。
しかし、どこか世間ずれしている彼女に、そんな事わかるはずは無い。
「ならば、案内しますよ! よし、とっとと行きますです!」
テンションのあがった彼女に、準備するまもなく拉致されるように客船へと乗せられ、
セーシェル諸島へと向かう事になったのだ。女の子のやることには、全て好意をもって接する。
それが信条のイタリアは、特に何も言う気はなかった。
逆に、素直に案内してくれる彼女に強い興味を抱いた。
甲板で潮風に髪をなびかせる少女は、とても魅力的で。
肩にそっと手を置き……
「あ、あそこ、アオウミガメです! 結構人懐っこくて、一緒に泳ぐと気持ちいいんですよ」
手すりに身を乗り出した為、彼の手は空振りに終わった。
だが、嬉しそうに案内をする彼女の笑顔に、『まあいいか』と小さく呟くと、
彼女の真似をして体を乗り出した。
「あははは、船と競争してる~可愛いねぇ」
「ほら、トビウオもいます! あ、あっちにも!」
「え、どこどこ?」
彼女の指差す方に視線を向け……彼女の唇が間近にある事に気がついた。
少し動かせば、口付けぐらいはできるだろう。
素早く、顔を近づけ、彼女の唇を奪おうと
「きゃっ!」
したとき、船か大きく揺れたため、彼は危うく海へとダイビングしそうになった。
彼女の腕力が意外とあった事が幸いし、それはどうにか免れたのだが。
甲板に投げ出され、ぶつけた頭をさすっていると、再び激しい衝撃。
「ヴェ~」
ごろんごろんと転がるイタリアを必死に追いかけるセーシェル。
目を回したイタリアを捕まえた頃には、甲板に不審な人影が多数現れていた。
顔はマスクで隠し、手には銃器を持った、体つきの良い男が数人。
男達は武器で乗客を脅す。
イタリアは数日前の会議の内容を思い出した。この海域で海賊が横行しているという事を。
各国が海軍を出すとは言っていたが、今のいままで、そんな事すっかりと忘れていた。
海賊に襲われたということよりも、彼女とのデートを邪魔された事に落ち込む。
――まあ、こちらから手を出さなければ、金品だけの被害だろうし、
きっと他の国が助けてくれる――
いつものようにお気楽に構え、怯えているであろうセーシェルを慰めるため、
肩に手を伸ばし……伸ばしたが、そこには彼女はいなかった。
慌てて周りを見回せば、海賊に食って掛かっている彼女を見つけた。
「私の珊瑚礁を荒らすなです!! このやろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
いつの間にか手にしていたのか、冷凍カジキマグロを振り回し、海賊に突撃していた。
イタリアは頭を抱えた。そういえば、彼女は意外と沸点が低い。かっとなって暴走しやすいのだ。
しかし、悲しいかな。カジキマグロで対抗などできそうにない。
あっさりと海賊の一人に身を拘束されてしまった。
腕をつかまれ、小柄な身体が宙に浮く。
「離しやがれです! イギリス秘伝のスコーン兵器でお腹一杯にし殺すですよ!!」
「なんだ? この小娘は」
「うーん、まあいい。中々上玉じゃねーか。こいつもいただくとするか」
男達は手荒く彼女を縄で締め上げると、床に転がした。鈍い音がした。彼女の目じりに浮かぶ涙。――その涙で、イタリアの何かのスイッチが入る――
「ダメだよ。女の子は丁重に扱わないとさ」
にこにこ顔で近づいてくる彼に、男達は卑下た笑いをあげる。
「けっけけ、お前イタリア人だろ。ヘタレなんぞに何ができるんだ……げはっ」
周りで見ていたものは、その時何が起こったか理解できていなかった。
男の身体が大きく揺れると、倒れこんだ。傍にはりんごが一つ。
「食べ物は無駄にしたくは無いんだけどさ」
にっこりと微笑む彼に、ただならぬ殺気を感じたのか、男達は銃を構え、
「えいっ♪」
気の抜ける掛け声とともに、彼は足を動かした。途端に男達の視界が閉ざされる。
酸っぱい香り、そして顔にはりつく何か。
目を開けようとするが、その何かの汁が目に入ると、激しい痛みが襲ってきた。
「スペイン兄ちゃんちのトマトの味はどうかな?」
「ちくしょうが!!」
目に入るトマトを振り払い、がむしゃらに銃を振り回す。
「あ、言っておくけれど、その状態で撃ったら暴発するからね。
どうせあまり手入れしていないんでしょ。その銃は」
急いで銃口を確認してみれば、中に何か詰められていた。細長い何か。これは……パスタか。
目をトマトで封じられ、銃口にパスタ。
戸惑う男達に、彼はいつもの笑みを浮かべた。
「ごめんね。俺、ヘタレだから、もしかしたら、当たっちゃうかも」
手には数本の銀製のフォーク。いつの間に食堂から拝借したのだろうか。
ダーツの要領で、フォークを男達に投げつける。
風を切る音がし、銃を構えた男の右腕をかすり、続いて銃本体にあたり、
男の手から離れ、転げ落ちた。
「あ、動いちゃダメだよ。コントロールに失敗して、目とか首に当たるといけないよ。
そんな光景、女の子には見せるわけにいかないしさ」
微笑んではいるが、得体の知れない気配に圧倒される。「ぐっ!!」
敵わないと思ったのが、一人の男が床に転がされていたセーシェルに駆け寄った。
肩をつかみ、首筋にナイフを押し当てる。
「ヒャハァ! こいつを傷つけたくなければ、おとなしくしてろ」
三流悪役の行動と台詞。
あまりにテンプレート過ぎて、映画にしたらアメリカから
ゴールデンラズベリー賞をいただく事間違いなしだろう。
「あーもう、何か泣きたくなるよ」
口ではそういっていても、余裕な態度は消えそうに無い。
へらへらと笑いながら、男にじりじりと近づき、
「……セーちゃん、ちょっと目をつぶっててくれる?」
彼の言葉の意味もわからず、素直に従い、硬く目をつぶった。――首元から、ひんやりとした金属の感触がなくなり、鉄の香りが漂う。
「知ってる? イタリアってね、11人以下か女の子のためならば、世界最強にもなれるんだよ」
鈍い音とともに、男の手が彼女の肩から離れた。
驚いて目をあけると、頬を赤く腫らし、手すり近くで伸びている男の姿。
「で、どうする? まだ俺とやる?」
意識のある男達は、顔を見合わせ、舌打ちし、自らの船に戻っていった。
「あ、忘れ物だよ」
伸びた男をその船に向かって放り投げる。
あっけにとられている乗客に深々と一礼すると、
「ごめんなさい。りんごとトマトと、パスタ、ダメにしちゃった。
俺んちで買い取るから、領収書送ってね」
それだけ言うと、セーシェルの荒縄をナイフで切ってやり、抱き上げて船内へと歩き出した。
あてがわれた貴賓室の扉を開ける。
彼女にとっては、どうせ甲板で海の風を浴びながら向かうと考えていたから、
あまり利用する機会がないと思っていた部屋。
キングサイズベッドにそっと身体が置かれる。
不意に彼の顔が歪む。右手を後ろに隠し、少しだけ笑って見せた。
「ワンピース汚れちゃったね。ゴメン。
今度、可愛いワンピース買うから許して。もちろんワンピースだけじゃなくて、一式買うからさ。
きっと可愛いだろーな。あ、今も十分可愛いけど」
饒舌に話し始める彼とは対照的に、彼女は妙に冷静だった。
肩口にべっとりとついた血液。だが、彼女の身体には傷一つ無い。
「イタリアさん」
「ヴ、ヴェ~何かな。セーちゃん。顔怖いよ。ほら、笑って。ね、……うっ」
いきなり右手を彼女につかまれ、苦痛に顔をゆがめた。
手のひらには一筋の傷。傷口はふさがっておらず、血があふれ出していた。
原因は容易に想像できる。先ほどの海賊との戦いの中、
彼女に向けられていたナイフの刃を握り締めたためだろう。
気まずそうに笑うと、左手で傷口を隠す。
「もう、女の子には血なんて見せたくなかったのに」
特にセーシェルは血生臭い事に慣れてはいない。だから殊更見せたくなくて。
「ゴメンね。俺、あっちいってるから、セーちゃんはゆっくり休んで」――泣きそうになる彼女の顔なんて見たくなかったのに――
一番見たくないものを目の当たりにし、彼は顔を俯けて、彼女に背を向けた。
「……ずるいです……」
空耳のような小さな声。彼の足が一瞬とまり。
「ずるいです!! イタリアさんの馬鹿ぁぁっ! ココナッツに頭ぶつけて死にさらせですぅぅっ!!」
がこーん
彼女の放った豪華な時計が、彼の頭にクリーンヒットした。頭を抱え、しゃがみこむ。
その間にも、次々と物が飛んできた。
メモ帳、電話、ぬいぐるみ、りんご、えとせとらえとせとら。
段々と投げつける力が弱まり、かわりにしゃくりあげる声が大きくなってくる。
「ずるいです。ずるいです。
何で私を責めないんですか! 何で謝るんですか! ずるいです! ずるい……」
「だって、セーちゃんは悪くないもん。
俺がもう少ししっかりしてれば、怖がらせる事もなかったのに」
慰めるために、彼女の横に座り込んで、頬にキス。だが、泣き止みそうに無い。
「それがずるいんです! なんで……なんでそんなに優しいのぉ……」
ぽろぽろと涙をこぼす彼女の髪を手で梳き、肩を抱き寄せる。
「うーんと……君が好きだからじゃダメかな」
「ダメです。……言葉だけじゃ、嫌です」
自然と二人の唇が重なった。最初は軽いキス。それから、お互いを求め合うキス。
「……止まらなくなるけどいい?」
女性を大切にするイタリアとしては、彼女に同意を求める。
潤んだ瞳が彼を見つめ
「嫌」
雰囲気を壊す台詞に、彼の肩ががくっと落ちた。
膝を抱え、ベッドの隅に行ってしくしくと涙を流し始める。
「どうせ俺はどーてーだよ。甘い雰囲気なんてつくれないもん。ヴェ~ヴェ~」
「あーもう、そうじゃないです!!」
まだ血に染まっている彼の右手にキスを落とす。
痛々しい傷に少しだけ眉をひそめるが、ハンカチを取り出して、手に巻きつけた。
「出血多量で死ぬ気ですか?! ……もう」
今度は彼女から唇を重ね、
「……止まらなくなってください。たっくさん欲しいです」――そして、そこから二人の理性の糸は切れた――
ワンピースのファスナーを下ろし、日焼けした肩に口づけする。
鼓動する胸に顔をうずめ、手で滑らかな背中の感触を味わう。
「いいなぁ。やっぱ女の子の香り、気持ちいいや」
ほんのりと潮の香りがするのは、ここが海の上だからだろうか。
『海は全ての母』その言葉が頭に浮かぶ。
桃色の突起を舌で転がすと、口に含んでみる。
両手で乳房をもみながら、何か出ないかと期待をしてみたが
「さすがに出ないかぁ」
「んぁ……ば、馬鹿な事、言わないでくださ……ゃぁ」
胸からは何も出なかったけれど、甘い声が聞けたからよしとしておこう。
舌を徐々に降ろして行き、くびれた腰、そして魅惑の下半身へとたどりついた。
ふっくらとしたお尻の手触りが気持ちよい。
下着の上から、何度もなで上げると、筋がじんわりと表面に現れてきた。
だが、わざと筋にはふれず、内股を集中的に攻める。
「ふぁ……ゃ、そこじゃな……くぅ……ん」
じらされ、足をこすり合わせ来る彼女がとても可愛らしく、唇を重ねた。
とろんとした瞳で、彼の舌を受け入れ、貪欲に求めた。
唇を重ねている間にも、手は身体を這い回る。
下着の上から、主張し始めた豆を軽く触り、反応を確認する。
「ん……触ってくださぁ……もっと……触ってくださぁっ」
指の動きに合わせ、小鳥のように反応する彼女が楽しくて、わざと直接は触れようとしない。
「ああ、もう可愛いな」
割れ目に顔をうずめ、潮の香りを楽しむ。唇で布越しに軽く噛むと、大きく反応する。――さて、そろそろかな――
すでに意味を失った下着を脱がし、指で静かになぞる。
自らのズボンも脱ぎ捨て、男根を割れ目に沿わせ、
「くぅぅんっ」
急激な刺激に手を振り回し、丁度そこにあった頭のくるんを握り締め
「ちょっ、や、そこは! ま、待ってふぁーーーーっ!!」
「えっぐうっぐ……やっぱり俺、ヘタレだよぉ~」
ベッドの片隅で膝を抱え泣いているイタリアに、彼女は気まずそうな顔でかける言葉を考えていた。
入れる前にかけられた精液がちょっとべたべたするが、そんな事気にしている時ではない。
「えっと、その……ゴメンナサイ。イタリアさんの頭のくるんがそんな敏感だとは知らなくて。
でも、もう少しでしたから、もう一回挑戦すれば」
「う~女の子に慰められる俺、情けないよぉぉぉ」
「あー……ほら、楽しみが少し伸びたと思えば」
「どーてーも少し生き伸びたよ。このままだと魔法使いになっちゃうよぉぉぉ
女の子の中、知らないで死ぬのは嫌~ヴェヴェー」
「魔法使いって……はぁ」
大きくため息をついた。
こんな状況では何を言っても無駄なのだろう。
背中合わせになったまま、イタリアが泣き止むのを待つしかないセーシェルであった。「……好きですよ。ね、好きです。
だから、私の家についたら、もう一回しましょうね」
彼の頬にキスをし、背中のぬくもりを感じながら彼女は何度目かのため息をついた。
2009/05/03 初出
『ソマリア沖:イタリア客船が海賊船と“交戦”し追い払う 』という時事ネタ
海や少人数だったら強いみたいです。
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