「ない。なんか腹たったから帰る」
不機嫌な表情をし、ベラルーシはその場を去っていった。
残されたのは震えるダンボールが一つ。
中に誰か入っているようだが、中々出てこようとしない。
去っていったベラルーシの足音が遠ざかったのを確認すると、ダンボールの中の人は小さなため息をついた。

「……ベラルーシ…相変わらず理解不能な人…」
鈴を転がしたかのように可愛らしい少女の声がダンボールから聞こえた。
一度大きく震えると、ダンボールの蓋が少しだけ開く。
中から顔を出したのは女の子らしい帽子をかぶった幼い少女。少し短めの髪が肩口でさらりと揺れる。
大きな瞳に疲労の色が見えた。大きくため息を一つ。
「いい加減…ダンボールに詰められるのどうにかしないと…スロバキアにいちゃに笑われる…」
気合を入れてみようと両手を握り締めたが、ダンボールの中では格好がつかなかったため、外に出ようと試みた。
大きなダンボールだから、少女一人で脱出するのは苦労するようだ。
足元に転がるしめじを踏まぬよう、必死にダンボールから抜け出そうと四苦八苦している所で、
近づいてきた誰かの足音に気がついた。

「ベラルーシ…? 何で…」
反射的にダンボールの中に避難する。
すぐに先ほどどうにかしないとと思っていた事を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「…でも、ベラルーシ…怖い…」
今までされてきた事……つつかれたり、切られかけたり、穴開けられたり、
ニシンでアレされたりと散々な目にあえば、パブロフの犬化してしまうのは仕方が無い事だろう。
彼女の足音に小さく震えながら、無事に通り過ぎてくれる事を期待し……
途中で足元が彼女のモノでない事に気がついた。
いや、気がついたからといって、どうできるわけではないが。
とにかく、その人物が通り過ぎるのをおとなしく待っているだけで。
足音がダンボールの側で止まった。
箱の内側からもわかる妙な威圧感。
ダンボールをごそごそと触れられる感触。瞳をぎゅっとつぶり、その者が去ってくれるのをただ待っていたのだが。
「……シーランドにもってかえってやっか」
低い男の声が聞こえた。その後、ふわりと身体が持ち上がる感触。
「…やっ」
彼女は小さな悲鳴を上げる。
しかし、外の男は気にもせず、少女の入ったダンボールを軽々とどこかへ運んでいった。



「ん、土産だ」
どさりとダンボールが床に下ろされた。
外からは先ほどの男の声と温和そうな男の声、そして少年の声が聞こえてきた。
こっそりとダンボールの隙間から外の様子を眺めてみた。

「わーいお土産ですか? パワーレンジャー変身セットだと嬉しいですよ♪」
鼻歌を歌いながら飛び回る海兵スタイルの少年と呆れた顔をした少しふくよかな青年。
「スーさんたら、もうすぐクリスマスなんですよ。折角僕がプレゼントしようと思っていたのに」
「ん、すまん。フィン……んだども、変身セットじゃなぐ……」

ふくよかな青年と、やたらと顔が怖い男。その二人には見覚えがあった。
「…ひっ、き、鬼神……まさか…そんな」
折角、ベラルーシから解放されたと思っていたのに、今度はスウェーデンとフィンランドという鬼神二人組。
そんな二人に見つかったら何をされるかわからない。身体の震えが大きくなる。

「あれ? 震えるダンボールですか? 中身見るですよー」
少年の手がダンボールの蓋にかかり……慌てて押さえようとしたが、一瞬遅かった。
まぶしい光が彼女に降り注ぐ。思わず瞳を閉じ、身を縮ませた。
「えっと……スーさん、まさか幼女売買? さすがにそれは」
「違う! めっけたダンボールに入っていただけだ。勘違いやんな」
慌てて否定するスウェーデンに、フィンランドは微笑を浮かべた。かなり怖い笑みを。
「つまり、ダンボールに入れて誘拐してきたと? こんな幼い子を……」
じりじりと歩み寄るフィンランドに、冷や汗をかいて後ずさるスウェーデン。

中々貴重な光景だったが、今の少女にそんなの見ている余裕は無かった。
姿を隠そうと、身を丸くしてしゃがみこみ。
「あれ? この子って確か……チェコとかっていう奴ですよー」
ダンボールを覗き込む少年の言葉に、スウェーデンとフィンランドは顔を見合わせる。
二人ともダンボールを覗き込み、少女の顔を確認した。
確かに世界会議で見たことのある顔。あの時は兄のスロバキアに隠れてあまり見えなかったが。
フィンランドは安堵のため息を一つ。一般市民を誘拐してきたわけではなかったという事に安心したのだろう。

だが、まだ問題は山積みだ。
「スーさん、じっくりとお話しましょうか」
「だから、めっけただけで……」
いつもは温和なフィンランドの攻撃に、スウェーデンは追い詰められていく。
さすがはサンタクロースの国。子供の味方なのだろう。

静かな攻防が繰り広げられている一方で、少年は興味深そうにチェコを眺めていた。
「チェコ〜何でダンボールの中入ってるですか? ダンボール面白いですか? ……えいですよーっ」
ためらいもなく、ダンボールの中へダイブしてきた。
子供が二人とはいえ、さすがに結構キツイ。
顔がやたらと接近し、彼女の頬が赤くなった。
顔を逸らそうとするが、狭いダンボール内で、あまり顔を合わせた事のない……
というか、本当に顔を見たことのない少年と二人きりという異常事態に、彼女は凍り付いていた。
「えっと…その…あなた…誰?」
「シー君の名前知らないですか? シー君はシーランドっていうですよ。
いつかきっと大国になるから、覚えておいて損はないですよ」
耳にかかるシーランドの息。触れ合う肌。めくれたスカート。露になった足に彼の手が触れていて。
「うーん、あんまり楽しくないですよ。ねー、外でて遊ぶですよ〜」
首筋に息が吹きかけられ、ピクリと身体が反応してしまった。
呼吸が荒くなる。頬が更に赤くなる。全身に熱がこもり。
「ああ…神様…」
とうとうチェコの心はガラス細工のように砕け、ダンボールの中で意識を失ってしまった。

 

彼女が次に目を覚ました時、何故かダンボールに囲まれていた。
気を失う前まで入っていたダンボールではなく、それなりに広いダンボール。
いや、正確にはダンボールハウスというべきか。一人ぐらい軽々と寝れるくらいの広さ。
チェコぐらいの身長ならば、立ち上がれる程度の高さ。
小さな北欧の家風に作られており、光を取り込むための窓までついている。
窓の外に広がっていたのは、先ほどまで目にしていた家の中の光景。
壁には簡易な机(やはりダンボール製)がついており、湯気を立てるコーヒーにさり気無く角砂糖が添えられていた。
カップに角砂糖を放り込む。さらりと溶けていく感触に少しだけ心が和んだ。
「…やっぱり、角砂糖は…最高」
「そうですよ。食べても美味しいです」
耳元に響く賑やかな声。
さび付いたロボットのように首を横に向け……そこにいたのはいつの間にかシーランドが座り込んでいた。
しばらく二人は見つめあい…
「あ…ああぁ…」
反射的にシーランドの首根っこを掴み、窓を大きく開いて投擲しようとする。
「ちょっ! やめるですよ! シー君窓外投擲はやめるですよ!!」
が、彼の必死の抵抗により、未遂に終わった。
まあ投擲されても、窓の外は家の中なだけだから、実害は無かっただろうが。

向かい合って肩で息をする二人。
「何でシー君をいじめるですか? シー君、嫌いですか?」
唇をかみ締め、上目遣いで睨んでくるシーランド。
その姿に少しだけ妙な思いを抱いてしまったのは、彼女の心の奥にしまっておいた。

視線を逸らし、震えそうになる肩をぎゅっと抱きしめる。
「…嫌い…じゃないと思う…でも、良く…あなた…わからない…わからないから…少し怖い」
「それならば、もっとシー君の事を知って欲しいですよ」
その言葉とともに、身体に何かが触れた。肩を強く抱かれ、視界が海の色に染まった。
唇に触れる何か。
しばらく何が起こったか理解できず、瞬きを数回。それでも海の青は消えること無い。
唇を割って、生暖かい何かが進入してきた事で、やっと何が起こったかを理解した。

それはキス。所謂口付けで。相手はシーランド。
初めてのはずなのに、唇を征服されていても嫌悪感を抱かない。
逆に腰が砕けそうなほど気持ちよいものだ。
拙いながらも、彼女も舌を動かし、彼の舌に絡める。
「ふ……ぐっ」
驚いた表情を見せるシーランドが楽しくて、もう少しだけ舌を絡めて見せた。

ダンボールでできた秘密基地でキスをする少年少女。

本来ならば微笑ましい光景なのだろうが、何故か妙な雰囲気をかもし出していた。
「……んっ、……なんで、そんな冷静ですか? いきなりキスしたのに」
動揺していたのはシーランドの方だった。唇が離れた途端、疑問を口にすると、彼女はちょこんと首を傾けた。
「…キスぐらいならば…挨拶だし…こんな事で慌てるほど…子供じゃ」
当然のような表情を見せる彼女。そんな態度に彼は頬を膨らませた。
「シー君だって子供じゃないですよ! 大人の自己紹介の仕方だって知ってるですよ!」
顔を真っ赤にして、彼は彼女の上にのしかかってきた。
彼女の手首を頭の上で押さえつけ、足を開かせて固定する。

「大人の自己紹介は肌を合わせることです。これで奥の奥まで理解し合えるですよ」
首もとのリボンを解き、彼女の柔らかな首筋に軽くキスをする。
時折、彼女の様子を見ているのがわかる。きっと、彼女が慌てふためくのを期待していたのだろう。

だが、彼女は妙に冷静だった。
(…確かイギリスの…弟…変態紳士のイギリス…うん、変態ならば…仕方ない)
大きく深呼吸する。真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「…どいて…」
「嫌ですよ。シー君を理解してくれるまでたくさん遊ぶですよ」
やっと思い通りの言葉が出た為か、やや興奮気味で胸元のボタンを外そうとし……苦戦していた。
彼女はため息を一つ。

「…服破かないで…自分で外す…」
いつの間にか解放された彼女の手が、器用に自らの服のボタンを外していった。
服の隙間から見えていた白い肌が露になった。
まだ膨らみすらしない小さな胸。それでも男の身体より柔らかい曲線を描いている。
頂に咲く蕾はほんのり桃色で。
空気の刺激なのか、それとも彼の手の動きのせいか、すでに空を向いていた。
あっけにとられる彼を横目に、スカートをたくし上げ、可愛らしい下着を露にした。
子供特有のふんわりとした内腿。ためらいもなく、下着を膝まで下ろす。

「ちょっと待つです! 女の子ならばもっとためらいを…」
「セックス…するんでしょ? どうせ…裸になるんだから…」
あまりに積極的な彼女の言葉に、彼は顔を真っ赤にした。途端に彼女の身体から視線を逸らす。
「お、女の子がそんな事言っちゃダメですよぉ〜」
「じゃあ…何? 性交渉? エッチ? 交わり?」
次々と彼女の可愛らしい口から卑猥な単語が出てくる。
ある意味羞恥プレイのような状況に、段々と彼の落ち着きが無くなって来た。
もそもそと足を動かし、一部分がきつくなったズボンを気にし始めた。

主張をし始めた男性器に、彼女の瞳が留まる。
「…キツイんじゃ…ない? 解放してあげたら?」
彼女の手がズボンのチャックに伸びた。彼が気がついた時にはもう遅く、すでに男性器は引きずり出されていた。
ぷるんと顔を出したまだ幼さの残る男性器。
幼さが残るといっても、それは色だけで、すでに臨戦態勢を取っていた。
彼女の手の感触に、びくりと震える男性器。
「…これが…」
少しためらい気味に両手で包み込む。手の中でびくびくと反応するのが何となく面白くて、亀頭を優しく撫でてみた。
頬を染めた少女が、男性器を面白そうにいじる。ただし押し倒されたままで。

襲っているのか襲われているのかわからない状況に、ただ混乱しているシーランド。
一生懸命に、イギリスから貰った性教育のビデオを思い出す。
途端に濃厚に絡み合う男女の姿が頭に浮かんだ。甘い声を漏らし、身体を重ね……
「あ、穴に棒を入れれば!」
すでに大人の自己紹介の事など忘れ、ただ行為の方法だけが頭を占めていた。
前戯というものも大切だとビデオで説明もあったが……もうそんな事頭の片隅に追いやられていた。
教科書通りの女性器……のはずだったのだが、つるつるの割れ目が一つあるだけ。穴などありはしない。

「穴がないですよ! 何でですか!」
混乱した彼は割れ目に指を荒く突っ込み、
「……んくっ…」
微かにもれた彼女の甘い声。半分は痛みによるものだったのだが、混乱している彼には気がつきようがない。
「何かあったですよ! ここに突っ込めば」
小さな突起の下……小さな小さな尿道に男性器を押し付ける。だが、尿道にそんなものが入るわけはない。
しかし、押し付ければ押し付けるほど、すぐ上の突起を刺激する事になり、
彼女の口から切なそうな声が溢れ出す事となった。
とろりと溢れ出す蜜は、まだ幼い男性器を濡らし、凶悪なものへと変化させていった。
何度も何度も挑戦はしてみるが、さすがに尿道に入る事はない。
時間がたてば立つほど、更に混乱してくるシーランドと、思考回路が快楽に支配されかけているチェコ。
「んっ……ふぁ…やぁ……やだぁ…」
快楽に底知れぬ恐怖を感じ、彼の背中に腕を伸ばす。彼を抱き寄せ、熱い吐息を彼の耳元で漏らし、
「あああ、シー君ダメです!」
突起を攻め立てる男性器が爆発し、白い液体を割れ目に撒き散らした。
とろりと流れ落ちる精液。突起を伝い、床へと垂れる感触に、彼女の快楽も限界まで高められて。
「…んっ」
こちらは声をできる限り押さえ、小さく身体を震わせ、絶頂を迎えた。


大きく息を吐き、身体を重ね合わせる二人。
お互いの体温が気持ちよい。お互いの鼓動が心地よい。
しばらく、初めての絶頂の余韻を楽しみ……
「…あんな事…やったわりに…童貞?」
結構ずばりと言い放つチェコの言葉に、シーランドは頬を膨らませた。
「悪かったですよ! チェコは本当は処女じゃな……」
「処女…です」
ぷいっと視線を逸らし呟いた彼女に、彼はしばし言葉を失い。
「だって、せ、セックスとかあんな積極的だったですよ!」
「…性都プラハと…呼ばれる事もあるから…そっち方面は…知識としては…でもまだ…」
大人ぶろうと背伸びをしているシーランドと、知識だけはあるチェコ。
結構似たもの同士だったという事に今更気がつき、顔を見合わせ、笑みをこぼした。
裸のまま、足を絡め、腕を絡め、お互いの事を話し始める。
彼女が何故かダンボールに詰められていたか、このダンボールハウスは誰の作品か。
お兄さんの事。フィンランドとスウェーデンの事。綺麗なガラス細工の事。
今の時期はサンタの準備で忙しくて留守がちな事。

交互にお互いの事を話し。
それは二人が睡魔に襲われるまで続き……


「……スーさんちのあの過激な性教育をもう少し見直しませんか? あと、イギリスさんにも協力してもらって」
「ん……だな」
ダンボールハウスの中、裸のまま幸せそうに抱き合って眠るシーランドとチェコの姿を見て、
仕事から戻ってきたスウェーデンとフィンランドは頭を抱えていた。

 

2009/11/30初出
ほぼオリキャラチェコ娘。
最近、『シーランドくんとラトビアちゃん』がアップロードされ、中の人の詳細がわかりつつありますが。
それが出る前に書いたので、少々の誤差は目をつぶってください。
散らばしたチェコに関係する単語に気がついてくれれば幸いです。

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