「桜……欲しいんだけど」
いつもは無口の少女が珍しく、私に話しかけてきました。
長い白金の髪、吸い込まれるような藍色の瞳。
不機嫌そうに眉をひそめ、口をへの字に曲げて、私の返事を待つ少女。
彼女の名はベラルーシさん。あのロシアさんの妹……いろんな意味でロシアさんによく似ている少女です。
普段はロシアさんの事ばかり。
脳内はロシアさんが9割、残りの1割にその他のことが詰まっていることでしょう。
国際会議で数回顔を見合わせた程度でしょうか。
毎回、ロシアさんに結婚を迫ったり、リトアニアさんの手をパキパキにしたりしていて、
とてもほほえましすぎて、思わず一里ほど離れて眺めたくなるような印象しかありません。
そんな彼女が、私にお願い事してくるだなんて、珍しいのにも程があります。
「もしかして、明日は雨ですかね」
「……それが望みならば、血の雨でも降らせる。リトアニアのでいい?」
お約束的な冗談を、真顔で返してくる彼女。周りの方々から、『冗談が通じない』とよく言われる私ですが、ここまで冗談が通じない方がいたことに、少しだけ驚きました。
私は愛想笑いを浮かべ、声に出し、彼女の言葉を確認する。
「えっと、貴女は私の家の桜が欲しいってことですよね」
「耳ついてるの? 最初からそう言ってるじゃない」
この歯に衣着せぬ発言。さすがはロシアさんの妹君です。
最近流行の『妹型ヤンデレ』と受け取っておきましょう。
私ももう良い年のじじぃなのですから、若者の他愛も無い発言にいちいち腹を立てるわけにもいきませんし。
「その用件ですが……商談でしたら、こちらに何か見返りがありますよね」
私の物言いに、彼女は言葉をつまらせ、下を向きました。
ええ、知っています。彼女の経済状態を。だからこそ、問いたのです。
私に利益の無い商談なんて、アメリカさんだけでお腹いっぱいなんです。
しばらく沈黙し、不意に鋭い瞳が私に向きました。
「金は無い。物も無い。でも、私がある」
ほほう……その物言いは、つまり……
「いわゆる『身体で支払う』というやつですか」
「それ以外に何か意味があるか?」
表情をぴくりとも変えず、問い返してくる彼女。しかし、少しだけ頬が赤らんだのは見逃しません。
この微かな恥じらいさえあれば、ご飯何杯でもいけます。
そう、いつもはぶっきらぼうな少女が、頬を赤らめ、視線を逸らし、恥ずかしそうに『ばかぁ』とでも呟いた日には!
もちろん、『ばかぁ』はひらがなの雰囲気で。個人的には漢字やカタカナは邪道です。
言葉尻は消え去りそうな感じだと、更に最高ですね。
でも、あまりやりすぎるのは諸刃の剣。素人にはお勧めしません。やはりここは……
「とっとと終わらせるから」
私の思惑とは違い、勝手にするすると服を脱いでいく彼女。
あああああ、脱がしていく過程も楽しみの一つなのに!!胸元のリボンに手をかけ、『好きでもない人に脱がされるのはどんな気分でしょうね』とじらしつつ、ゆっくりとリボンを解き、
大きく開いた襟から覗く乳房。腰紐を解き、ファスナーをおろすと、落ちかけるワンピース。
手で押さえ、恥じらいをみせる彼女の耳元で『おや、いいんですか』と息を吹き……
ワンピースが床にぱさりと落ち、可愛らしいショーツがお目見えして。
ええ、もちろん靴下は脱がしません。裸靴下は正義です。それなのに。それなのに。
恥じらいすらなく、堂々と脱ぎ捨てる姿は、逆に男らしいです。
一瞬だけ、下着を脱ぎすてる時に動きがとまったのは、よかったとは思いますが。私の目の前には、裸体をさらす彼女の姿。
手で隠すこともしていません。
さすがはあの巨乳大魔神ウクライナさんの妹君だけあって、胸は中々あります。
……貧乳の方が好みですが。
ふっくらとした臀部や太ももに、細い腰、そして雪のような肌はまるで芸術作品のようにも思えました。
血気盛んな男性……たとえばアメリカさんのような人でしたら、この時点で襲っていたでしょう。
商談など忘れて。でも、私は彼女の身体を値踏みしながら、商談を続けました。
「で、貴女のスペック……いえ、商業的価値は?」
「……処女」
「……商談成立です」まさかとは思いましたよ。あれだけロシアさんに結婚を迫っているのに、未だに処女だなんて。
てっきり、もうすでにロシアさんを襲っているものだと思っていました。
処女とわかれば……いろいろ楽しみようはあります。「では、まずは……私をその気にさせていただけますか?」
「ん、わかった」
ためらいなしに、私の着物を剥ぎ取り、褌を解き、下半身に食らいつき……
「ちょっ、まっ、待って下さい! その、恥じらいとか、嗜みとかどこいったんですか」
「ふぁ? ポレーシエ湿地に投げ捨てた」
「ちゃんと拾ってきてください!」
「嫌」
息子が手で包み込まれ、彼女の舌が亀頭をくすぐる。
し、処女のわりに妙に手馴れている気がするのは気のせいでしょうか。
もう少し戸惑う姿とか、おっかなびっくり触れる姿に萌えたかったのですが……
こうなってはしかたがありません。素直に快楽を楽しむといたしましょう。
私の前に跪く彼女の髪を1房とり、感触を楽しみ……
「髪触んないで。からまるから」
……雰囲気を楽しむこともダメですか。
可愛らしい少女が必死にしゃぶる姿は魅力的です。本来は。
『動いたら刺す』という目で私を見上げ、機械的に手でこすり、舌を這わせる姿のどこに萌えればいいのでしょうか。
いえ、これでも萌えの文化を持つ私です。これすらも萌えの対象にしてみせましょう!
――初めて目にした性器をどう扱ってよいか、悩む彼女。
でも、悩む姿を他人に見せたくないという心理が、彼女を突き動かした。
知識のみの行為は、彼女の動きを機械的にし、必死な行動は、威圧的な態度となって現れるのだった――
よし、これで問題なしです。問題なしなんですから、もう少し反応してください。わが息子よ。
これで反応してなかったら、彼女に『不能』とか呟かれるに決まっているんですから。しゃぶるのに疲れたのか、上目使いで私を見上げ、
「不能? 年のせい?」
ああああああああ、やはりぃぃっ!!
あーもう、このまま引きこもりたい。鎖国が懐かしすぎます。一人万歳。こうなったら、言葉攻めです。
恥ずかしそうにする彼女の姿をめにすれば、もう少し盛り上がれるはずです。「こんな姿をロシアさんが見たら、どういいますかね」
「隙あれば兄さんをいつも襲ってるから、何も言わない」ああ、言葉攻めもダメですか。
この少女の恥じらいは本当に湿地帯に沈んでしまったのでしょうか。
こうなったら、こちらから攻めるしかないんですかね。
私も年ですから、あまり激しい事はしたくないのですけれども。「もうそこは終わりでいいです。
そろそろ私に楽しませてくださいね」跪いている彼女を立たせ、直立の姿勢にさせます。
まずはじっくりと観察。いわゆる視姦というやつです。
白く弾力のありそうな肌、豊かな胸の先に実る桜色の果実。
滑らかな曲線を描き、魅力的な腰つき、その下に微かに茂る白金の林。
すらりとした足に、整った指先。
これで恥じらいがあれば完璧なのですが。
じっくりと全身を見つめ、胸の先の果実にそっとふれた。
すでに堅くなって、刺激を求めているはずなのに、彼女の表情には変化はありません。
「悔しくないし、感じてもいない」
ああ、だからここでもう少し萌える台詞を……いえ、そういうのを求めるのはもう無駄というものですよね。
仕方がないので、たわわに実る乳房を優しくもみあげます。
もみごたえはありますが、どうもしっくりときません。
やはり、手にすっぽりと収まるサイズの方が控えめな感じがして素敵なのですが。
胸元を吸い上げ、赤い痕をつける。うん、白い肌に赤い華が美しいです。
いっその事、たくさんの華をさかせ、これでお花見というのも風流かもしれません。
赤くなった華を舌で味わう。やはり蜜の味はしませんが、ほんのりしょっぱいのもそれはそれで。ん? 少々、彼女の呼吸が荒くなってきた気がします。
ほんのりと頬も赤くなってきたようで。
「おや?感じ始めましたか?」
耳元で囁きました。囁く際に、耳に息を吹き込むのをはお約束ですかね。
「感じてなんか……いない。ただの反応でしかない」
そうは言っても、声に甘いものが混じってきたのははっきりとわかります。もう少しですかね。
「そうですか。それでは、この茂みであふれ出している泉も『反応』でしかないんですよね」
指を割れ目に這わせ、泉へと静かに入水する。
水音を立て、指が沈み込みました。出し入れするたびに、あふれ出す泉の音が、涼しげです。
ああ、やはり水音は落ち着きますねぇ。
芭蕉が、蛙が井戸に飛び込む時の事を俳句に表現した気持ちがよくわかります。
静寂の中に、響き渡る水音。なんて風流なんでしょう。
「ん……」
飛び込んだ後、井戸の中にこだまする蛙の声。
……あ、さすがに蛙とは失礼ですね。こんなかわいらしい声なのに。
適切に言い表すならば雀の雛あたりですかね。
『すずめの子の、ねず鳴きするにをどり来る』
ああ、そう、清少納言は良い言葉を残してくださいました。
『うつくしきもの』いわゆる萌えですよ。萌え。
萌えは素晴らしいです。萌えるもの。
濡れた泉を露にする少女。
触れば甘い声だすスズメのような娘。
若い少女が、我慢している途中、思いがけない刺激に、
ちっちゃい声で「……ん」とあえぐのモエス。
長い髪をかき上げないで、首を斜めにし、こちらを見ようとしてるのもアホカワイイ。ええ、萌えてきましたよ。萌えフィルター古来から完備してますから。
息子も元気になってきましたし、これならば中に入れる事だって可能なはずです。臨戦態勢になった息子を装備し、あふれ出す泉へとセット。
さあ、戦闘開始です!!「……勃つと、皮あまらないのね」
……折角、いい雰囲気になったのに、私を泣かす気ですか? 鳴かすのはこちらの役目のはずなのに。
とりあえず、聞かなかったことにし、足を開かせ、立ったまま、挿入する。
温かな入り口を楽しみ、まとわり突いてくる肉壁の感触を味わう。少々きついのが、いとうつくしい。
中に入り込んだ異物の痛みに耐える表情も、一種の萌えですね。
「くぅ……とっとと精液出しなさい。この包茎野郎が」
……聞こえません。聞こえませんたら。
彼女の口からは、可愛らしいあえぎ声しかきこえませんよ。はい。しかし……立ったままというのは少々腰に負担がきますね。
畳に押し倒してからやればよかったです。
しかし、大和魂です。まだまだ若いものには負けませんよ。
腰を支え、強く動かし……動か……
「す、すみません。少々横になっていただけますか?」
「うぅ……ん……や、やっぱり、年?」
ええ、そうですよ。こう見えても童顔じじいなんです。すみません。
何で行為をするだけで、私はこんなに泣かされそうになっているのでしょうか。
数回深い呼吸をすると、彼女はつながったまま横にな……って! えええええっ!
なぜ、私の方が横になっているのでしょうか。いぐさの香りが鼻に優しいです。
私の上にのり、彼女は見下ろす……いえ、見下すという表現の方があっている気がします。
「これで……私のペースでヤれる」
不敵な笑み。そして彼女は恐怖の運動を開始しました。「んっ! ふぁっ! あっ!」
ぽよんぽよんと上下に揺れる胸。振り乱れる髪。荒い息と汗と女性の香り。
上下に動かれるたびに、痛いくらいの刺激が襲う。
と、年寄りにはこの刺激は少々辛いものがあります。
そんな私の心理などいざしらず、彼女は踊り狂います。
白い肌、白金の髪、そして冷たくも情熱的な瞳はまるで雪女のように恐ろしいほど麗しい姿です。
「……くっ」
「イくの? ん……とっとと中に出しなさい! くぅっ」
〆とばかりに強く息子を締め付けてくる感触に、とうとう私は爆発してしまいました。ああああ、年月というものは、こんなに残酷なのですね。
一発出しただけで、しばらく動けそうにありません。
しかし、さすがは若いだけありますね。彼女は搾り取るだけしぼりとると、一人手早く服を着始めてしまいました。
下着をつけ、ワンピースを着、ショーツを手にしばらく迷っていた様子でした。
仕方が無いでしょう。彼女の中から、私の精液がたえまなくあふれ出ているのですから。
この状態でショーツをつけたら、汚れてしまうでしょうし。
「……ま、いいか」
小さく呟くと、ショーツを下におくと、靴下を履き始めました。どうやら、つける気は無いみたいです。
なんてことでしょうか。ノーパンですよ。ノーパン。最後の最後で萌えの骨頂をかましてくださるとは!
中々あなどれません!……じゃなくて、彼女が帰る前に聞いておきたいことがありましたよ。
「はぁ……と、ところで、桜は何のために?」
そう、身体をはってまでも、桜が欲しい理由がわかりませんでした。
確かに桜は綺麗です。春になれば、各所を桜色に染めてしまう光景は、息を呑むものがあります。
でも、何で彼女にそれが必要なのか?横たわった私の前まで歩いてくると、見下ろし、彼女は少々切ない瞳を見せました。
「……兄さんにあげたいの。日本の桜、気に入っていたから」
ああ、そういうわけですか。
麗しき兄妹愛。行き過ぎな所もありますが、やはり兄妹なんですよね。
「わかりました。
それならば、手によりをかけ、見事な桜を咲かせてあげますから、覚悟しておいてくださいね」
瞬時に桜を植えるための計画を立てる。
寒い所でも強い桜の苗を用意しなければならないでしょうし、それにあった肥料も必要です。
ああ、専門の樹医もいりますね。これらを準備するのは少々骨が折れますが。
だけれども……あの兄妹が桜を見上げている姿を想像すると、自然に頬が緩みます。
「何、ニヨニヨしてるの? 気持ち悪い。死ね」
「はははは、ヤンデレですね。わかっています」
彼女にもう何言われても大丈夫そうです。私は笑ってさらりと流しました。
私の反応に首をかしげ、しゃがみこむ彼女。手にはショーツを持っていました。
そのショーツを私の頭にかぶせ
「おまけ。じゃ、とっととお願い」
それだけ言うと、彼女は私の前から去っていきました。
――ノーパンのままで――頭にかぶせられたショーツすら、取る気力もありません。
一見、ただの変態にしか見えないでしょうけれど、どうせ、今日は誰も来ない予定ですから。
身体がだるい。日差しも気持ちよいですし、このまま眠りについてしまいましょうか……
柔らかい日差しの中、私は目をつぶり……
「HAHAHAHAHA! にほーん、新しいコンピュータ、割り増し価格で大特価だから売りつけにき……?」
ちょっ! な、なんでこういう時に限って、空気読めない読む気ないアメリカさんが来訪してくるのですか!
いつものように垣根を破壊しながら、来訪なさったアメリカさんの表情が凍りつきました。
ええ、わかっています。この姿でしよう。
着物は崩れ、息子まるだし。畳みに残る精液のあと。
ついでにほんのりと部屋全体に情事の残り香が漂っていて、更に頭にはショーツ。
これでは、「まるで」ではなく「まんま」変態ですよ。
フランスさんやイギリスさんとタメがはれるくらいの変態さんです。
「えー……と、あー、俺、用事思い出したから、帰るゲイツ。
後で銀行に振り込んでおいてくれればいいから」
すぐさま、回れ右をして、アメリカさんは壊された垣根からかえっていきました。――もう、何を言ってもダメでしょうね――
涙にくれる私の傍らには、ただぽち君だけがいてくれました。あああああ、また鎖国したいです。
……まあ、鎖国はロシアの桜が満開になったのを見届けてからでもいいでしょうね。
2009/04/26初出
萌えクリエイターVS萌えクラッシャー対決。
どうも日本は積極的にはそっち方面を楽しんでくれなさそうなイメージなんだよな。
二次元には絶好調なのに。