白い雪が降りしきる。
薄暗い室内で、ぼんやりと座り込む男。
誰もいない。一人きり。そんな事はもう慣れた。
慣れたけれど。

「……今日ぐらいは誰かと過ごしたかったな」
ぽつりと呟いて、窓の外を見つめた。
音が雪に吸収され、世界に自分だけという錯覚に陥りそうになる。

暖炉の側に立てかけられた写真。
昔、昔の写真。大きな家で、皆一緒だった頃。
皆が一緒で。大変だったけれど、楽しい日々。
「……別に寂しくなんてないよ」
笑って見せた。とても悲しげに。
目をつぶるとゆり椅子に身体を預ける。暖炉の火が彼の身体を照らし出し。
「……寂しくなんて……ないよ」


――夢の中、思い出されるのは昔の事ばかり――


「ね、なんで僕から離れようとするの?
なんで僕と一緒じゃだめなの?」
部屋の中に漂う獣のような匂い。その匂いは本能に忠実な男と女の香りでもあり。
彼の腰が動くと、女が叫び声に近い泣き声をあげる。
濡れた音が響く。その度に、男の背筋に快楽が押し寄せる。
女を征服する感覚に、更なる興奮が彼の下半身を熱くした。
モノを強く締め付けるくる膣壁。腰を引くと、壁に擦られる感触に頬が緩んだ。
「ほら、姉さん、僕のが欲しくて欲しくてたまらないんでしょ。
もっともっと欲しいんでしょ。だから、側にいなきゃダメ」
涙目で自分を見つめてくる彼女の唇を強引にふさぐ。
柔らかな唇から、微かに血の味がした。
唇をかみ締めている時に、傷をつけたのだろう。
だけれども、その血の味ですら愛おしい。だって、愛する姉の一部なのだから。
舌を進入させ、口の中まで犯す。
唇、舌、顎、頬、舌が届く範囲全てを。
くぐもった声が愛おしい唇からこぼれた。
明らかに感じているのに。
それでも自分を責めるような瞳を向けてくる。
唇が開いたら、きっと自分を責める言葉が出るのだろう。
だから。
「そんな目で見ないでよ。僕は姉さんを愛している。愛してるから一緒にいたいだけなのに」
手を伸ばし、布を手にとった。
柔らかな布。一瞬だけ男の表情が陰り。
「……これ、姉さんがくれたものだよね。嬉しかったんだよ。
僕には姉さんしかいないから。姉さんが好きだよ」
部屋の隅に視線をうつす。


暖炉の横、そこには何も身にまとわない少女が横たわっていた。
男と同じ髪色をした少女。虚ろになった瞳で天井をただ見つめる。
体中の擦り傷。手足には赤みがあり、何かに束縛されていた事は明らかだ。
そして……下半身から溢れ出す赤みの混じった白濁液。
そんな少女の姿を見て、男の笑みが深くなった。
「ベラはね、僕を好きでいてくれるんだよ。
だから、好きにしてみたんだけど……壊れちゃった。面白かったんだけどさ」

「ベラルーシちゃん……ロシアちゃん、もうやめて……私たちはもう」
「煩いなぁ。姉さんは僕を愛してくれればいいんだよ。
僕だけを愛してくれればいいの」
微笑。その笑みは純粋な狂気で占められていて。
思い出の篭ったマフラーで、彼女の瞳を塞ぐ。
視界が暗闇に包まれた事に、女性は大きく肩を震わせた。

「これで、僕以外は見れないね。
本当は誰かを見ようとする瞳なんてえぐってあげたいけれど」
彼も彼女も熱いはずなのに、彼に触れられると身体の芯が冷たくなる。
頬に触れる彼の手を振り払いたかったが、手足を拘束されているから、抵抗もできない。
鎖が冷たい音を立てる。
ねっとりとした舌が彼女の瞼を舐め、

「姉さんの瞳は好きだから、それは許してあげる。だから、僕だけを見て」

マフラーに視界を閉ざされ、手足まで拘束されている。
もう彼女にはどうする事もできない。
「好きだよ。姉さん。大好き。愛してる。だから、僕の側にいて」
大きすぎる胸を手で鷲づかみし、尖った先端を唇で軽く噛む。
何度も何度も、腰を打ちつけ。
子宮の入り口に亀頭が当たる度、彼女は身体を震わせる。
「ひゃっ、やっ……ダメ、ロシアちゃん……んぐっ、やぁっ! そんな……突いちゃ……」
唇から出てくるのは快楽の声。少しだけ彼は安堵のため息をつき、更に進入を速める。
くちゅくちゅと溢れ出す愛液を潤滑油とし、更なる刺激を求める。
「ああ、いいよ。やっぱ姉さんは最高。こんなにぎゅっと僕を求めて」
奥に強く打ち付けると、一度動きを止める。
びくびくと陰茎を締め付けてくる。それはまるで獲物を手繰り寄せる底なし沼。
ひどく柔らかいのに、絞りとるかのように強く束縛し。

「姉さんが僕を放さないんだね。わかったよ。ずっと一緒にいようね」

軽く腰を引き、勢い良く奥まで貫き。
「やぁっ! ダメ! そんな事しちゃ……んっ、ヤぁっ!!」
大きく身体を震わせ、彼女は果てた。
マフラーの隙間から流れ落ちる一筋の涙。
それを見つけた彼は、少しだけ寂しそうに笑い。

「……姉さん愛してる」

唇を軽く重ね……もう一度腰を動かし始めた。
彼女の声は、真っ白な雪に吸収され……誰にも届くことはなかった。

 

 

 

「……嫌な夢見ちゃったな」
いつの間にか、暖炉の前で寝てしまっていたのだろうか。
ぼんやりと時計を見ると、今日という日は終わりに近づいていた。
あの日、あれだけ彼女達を束縛していたのに。離さないようにしていたのに。
それなのに、何故か、彼女達は自分の元から去ってしまって。

今日も一人。

特別な日のはずなのに、一人きり。

「……ま、いっか」
もう誰も来ないだろうと、再びまどろみの中に意識を置き……
「……兄さん結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚」
「うわぁぁぁぁっ!」
聞きなれた誰かの声に、反射的に頭を抱えた。
いつの間にか、彼の後ろには少女が立っており。
「あっちゃー、ベラルーシさんってば折角の計画を……」
「いいじゃない。ベラルーシちゃんがやることは全部正しいんだよ」
「……リトアニアは、見事な思考してるね」
呆れた笑いやら、輝いた笑みやら、ため息交じりの笑いを浮かべてドアの近くに立っていたのはバルト三国だった。
「もう、ベラルーシちゃんってば、ロシアちゃんの事が本当に好きなのね」
その後ろで、朗らかな笑みを浮かべ、ウクライナが立っていた。
いきなりにぎやかになった部屋に、彼……ロシアはただ戸惑うしかできなかった。
そんな彼に気がついたのか、ウクライナが4人に目配せをする。
一同は小さく頷いて、後ろ手に隠していた何かを取り出した。

鮮やかなひまわり畑。

自分の目を疑っていた。そんな光景が一瞬目に入ったから。
だけれど、よくよく見てみれば、各自、ひまわりの花束を手に持っていたのだ。
にこやかに微笑む一同はその花束を彼に差し出し。
『С Днем Рождения』
祝いの言葉を一斉に口にした。
あまりの出来事に、ロシアの動きは止まったままだった。
そんな彼に、姉妹は楽しそうに微笑むと、彼の手をとる。
「ほら、今夜はみんなでパーティするから、急いで。皆集まってるわよ」
「……兄さんがいないと始まらない。大丈夫、予算は日本もちだから」
会場にむかって駆け出す兄弟。その後ろをついていくバルト三国。
みんな笑顔で。
つられてロシアも本当に幸せな笑みが浮かび……


フランスが半裸で暴走し、イギリスもそれに続いて。
アメリカが怪しげなお菓子を持ち込み、日本が顔を青ざめ。
それを不思議そうな顔をしてそのお菓子をつまむ中国がいたり。
女の子にさり気無くアタックし、ことごとくかわされるイタリアがいたり、
あまりの一同の暴走振りに、切れるドイツがいたり。
いつもと変わらない賑やかさに、ロシアは呆れた笑いを浮かべていた。
日にちが変わっても、その誕生日パーティは続き、結局は皆、年明けまで一緒に騒ぐ事になってしまった。
二日続けての大騒ぎ。
流石に酒を飲まぬ者すらもつぶれた頃、ロシアは一人ウォトカを傾けながら彼らの顔を眺めていた。
先ほどまでの静けさとはうって変わり、頭が痛くなるぐらいの賑やかさ。
だけれども、寂しがりやな男にはコレくらいが丁度良いのかもしれない。

「……馬鹿だね。皆……本当にありがとう」

滅多に口にしない感謝の言葉。
小さく口の中で呟くと、もう一度ウォトカを大きくかたむけた。




初出 2010/12/31
ロシア誕生日SSでした。
寂しがりやなロシアさんは非常に可愛らしいと思います。







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