「だから! お兄ちゃんにはついてないんや!」
大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
肩が震えている。おとなしい彼女は滅多に大声を出す事がないから仕方が無いだろう。
少し癖のある金色の髪が呼吸に合わせて揺れる。
息を整え、もう一度彼……兄であるオランダをにらみつけた。
「お兄ちゃんも黙ってないで!」
大きく息をしようとするが、しゃくりでうまく呼吸ができない。
視界を邪魔する涙を拳で拭い、彼の次の言葉を黙って待つ。
しかし、彼は瞳を伏せるだけで何も喋ろうとしない。
煙管から紫煙が揺蕩い、空気に溶けて消える。
玉座に身体を任せ、一瞬だけ視線を妹のベルギーに向けてから、天井を仰いだ。
「兄である俺の命令にさからぁのか ?」
ぽつりと呟く。酷く冷たい声で。
その声に、彼女はびくりと身体を震わせた。
長年一緒だったから彼の冷酷さはよくわかっている。
だから、彼の前ではおとなしくしてきた。理に適わない事でも、ただ頷いていただけ。
でも。
「もう子供やない! 私やって一つの国なんや。だから民を…」
「うるせぇ」
冷たい声。巨体が玉座から離れた。彼女の方に向かって歩いてきた。
今まで見たことの無いような恐ろしい表情で。
本能が危険を告げる。慌ててその場から去ろうと背を向け。

「逃げんな」
腕を掴まれた。節だった男らしい手。
必死に抵抗してみせたが、女である彼女の腕などたやすく押さえつけられてしまう。
「いやや! お兄ちゃん離して!」
腕を振りほどこうとする。だけれども、彼の手は強く彼女の細い腕を掴み、離そうとしない。
それどころか、突き飛ばされ、玉座の上へと移動させられた。
襲い来る恐怖に肩を抱き寄せ、それでも気丈に彼をにらみつける。
ゆっくりと歩み寄ってくる男。煙管を大きくふかしてから、玉座の横へとそれを置き。
「お前は俺のだ。誰にも渡さん 」
狂気の炎が宿った瞳が彼女の顔に近づく。
射すくめられ、動けない彼女の頭を手で支え、唇を奪った。
彼女は最初は目を見開き、何が起こったのかわからず、彼の顔をみていた。
唇から入ってくる生暖かな舌の感触と煙の味に、やっと何が起こったのか理解できたのだろう。
彼の身体を腕で押しのけようとした。
だが、屈強な身体は彼女の細腕でどうにかできるはずもなく。
唇をふさがれたまま、彼女の腕は玉座の背後に回される。
冷たい何かの感触で手の動きは封じられた。それは鉄製の拘束器具で。
動けなくなったのを確認すると、彼は深い笑みを浮かべ、口内を荒らす。
「ふ……んぅ…やぁ……うぅ…」
部屋の中に水音が響き渡った。涙を零し、抵抗する彼女の口を楽しそうに犯し。
「俺ん前から消えようとすんやったら、俺がいなければ生きていけんようにしてやる」
残酷な微笑みにより、彼女の身体は凍りついた。

――そして、残忍な時が流れ始める――

露になった白い太腿。大きく開かされた足には、荒縄が巻きついており、擦れて赤い痕ができていた。
その荒縄はしっかりと玉座に縛り付けてあり、足を閉じる事はできない。
「いやや……お兄ちゃん……ほんまやめて」
涙を浮かべた彼女の懇願など耳に入らないかのように、彼はスカートに手をかける。
両端を手で握り締め、勢いよく引っ張る。
引き裂かれる布の音に、彼女は堅く目をつぶった。
大きく引き裂かれたスカートから見えるのは、純白の下着。
指で真ん中をなぞり揚げる。ぴくりと肩を震わせる彼女。
彼は無言で何度も何度も下着の上からなぞり。
徐々に下着の色が変わってくる。白い布が濡れて、茂みがうっすらと透けてきた。
口元に笑みを浮かべ、下着の隙間から指を入れ、直接蜜を指で拭う。
「嫌いってェえる割にはぁ、もうこんなぁだ 」
指先についた蜜が光に照らされる。男の言葉に彼女は首を振り、否定しようとする。
「嫌や…こんな事嫌やぁ……んっ」
「見ろ。これがお前の蜜だ。感じてんや。俺に弄られて 」
蜜のついた指先を突きつけるが、彼女は必死に抵抗し、それを見ようとしない。
苛立ちの隠せない男は奥歯をかみ締めると、指を無理やり彼女の口の中に押し入れた。
「なぁ、お前の蜜の味はどうや。兄の俺に弄られ、こねェー蜜だしやがって 」
口内に入れた指を動かし、荒らす。溢れ出す唾液が彼の指を伝い、垂れ流れる。
くぐもった声が彼女の唇からこぼれる。小さくうめき声をあげ。
でもそれだけ。小さく声を上げるだけで、大きな抵抗はしない。
昔からの上下関係のせいか。今、抵抗しても無駄だと思っているのか。

「かわんねぇな。いっつも俺やルクセンブルクの後ろに隠れてなぁ 」
一瞬だけ何かを思い出すかのような瞳でどこか遠くを眺め……すぐに狂気の炎が宿った。
「ちまい頃は可愛かってもたな。何時で俺の後追い掛け回して」
胸元に白銀のナイフが差し込まれる。冷たい金属の感触に身体を大きく震わせ。
勢いよくナイフが振り下ろされる。下着と共にドレスがひき裂かれ、白い肌が露になった。
大きく豊かな胸。その頂で咲く小さな花の蕾。
女らしい丸みを辿ると、折れてしまいそうな細い腰。
絵画のような美しさ。しかし、男は憎らしげに彼女の身体をにらみつけた。
大きな手が彼女の膨らみを握り締める。男の手にあわせ、胸が柔らかく歪む。
「おぼこな頃はあんなァぁに可愛かってたのに。いつの間にかこねェー大きくなりやがって。
……誰を誘惑してまうつもりや? あのスペインっつー奴か 」
「そない事ない! 私はそんな事……ひぃっ」
胸の突起を歯でかまれ、悲鳴をあげた。
強くかんだからか、彼が口を離した途端、突起にじんわりと血が滲んできた。
「甘い声かぁ。ほんまいやらしい奴だ。こない胸大きくなったから、いやらしくなりやがって」
白い胸に次々と歯を立てていく。赤い痕がどんどん増えていく。
「いやぁ……んっ、ひぃっ……んぁっ」
耳を劈くような悲鳴。その中に徐々に甘い声が混じり始めたのを、彼は聞き逃さなかった。
憎憎しくその変化に耳を傾け。
「成長すんな。俺の側にずっといたらァぁいいのに 」
下着をナイフで切り裂き、蜜壷をも露にする。
荒々しく指を突っ込み、中をかき回す。
水音が絶え間なく響き渡り、彼女の喘ぎが次第に大きくなり。
それと比例するかのように、男の険しくなっていった。
「勝手に成長しやがって。勝手に大きくなりやがって。
……勝手に俺の手からぁ離れんなや。ベルギーは俺の後ろからぁついてくればいいんや。
ちっちぇえ時のまンま」
いつもクールな兄の微かに寂しそうな声。
「兄者……?」
身体を駆け巡る快楽に耐え、彼の瞳を真っ直ぐに見据え。
「んな目でみんな」
氷のように冷たい瞳が彼女を睨みつけた。
彼女の細い腰を持ち上げる。ズボンを下ろし、そそり立った凶器を彼女の蜜壷に焦点を合わせる。
その行動で瞬時に理解した彼女は、息を大きく飲み、涙を浮かべ、首を横に振る。
恐怖でもう声はでない。
「お前がわりぃ。勝手に大きくなってもたお前がわりぃんや 」
腰を荒々しく押し付ける。ぬるりとした感触が男の脳裏に叩き込まれる。
かなり狭い扉。まだ誰も侵入を許していない証。
「ひっ、やっ! やめぇっ……やぁぁぁぁっ」
男の腰を遠ざけようと腕を振り回そうとするが、腕はしっかりと拘束されていて動きそうに無い。
喉から血がでそうなぐらい声をあげる。
震える肩を押さえつけ、更に奥に侵入してくる男の感触に意識が遠くなりそうになる。
だが、扉を破壊された痛みがそれを許してくれない。
「ややぁぁっ!! やぁっ! いややぁっ!!」
男が腰を動かすたびに、痛みが体中をかける。
快楽などひとかけらもありはしない。
泡立つ液体に赤いものが混じる。痛みの度に男の凶器を締め付ける。

だけれども。

「こんなぁ大きくなってもてェぇ……ちっちぇえうちにやっておけばよかってもたんだ。
ちっちぇえうちに俺のものと印をォつければ、こんなぁ大きく… 」
彼女の身体を弄ぶ男の瞳には、『今』の彼女の姿は映っていない。
幼い頃、必死についてきた少女の幻影が彼に微笑み。
「ああ、やっぱかわえェな。そっか、ずっと俺の側にいてくれるんだな 」
ぼんやりと呟き……彼女の中に征服した証を焼き付けた。


――それから、どれくらいの日がたったのだろうか――

彼女は玉座に捕らえられたまま。
数回の食事を口移しで与えられ、何度も何度も何度も身体を占領させる。
入りきれなかった白濁液がこぷりとあふれ出しても。
美しい金髪がこびりついた液体でごわついても。
白い胸に残された痕が痛々しくなっても。
男は気にせずに攻め続ける。
女は悪夢から目覚めるのを待ち続け。

「……うぁ…あ」
連日の戦いで彼も疲れていたのだろうか。
彼女を犯した後、手枷を付け直す事をせず、ふらりと部屋をあとにしていた。
途切れ途切れになる意識の中、それに気がついた彼女は不思議そうに自由になった手を見つめる。
それから、震える膝をどうにか押さえ、部屋からゆっくりと歩み出た。
久しぶりに見た空はどんよりと曇っており、肌に数滴の雫が落ちてきた。
重い風。嵐が近いのかもしれない。
「…誰か……誰か……」
雨粒がどんどん増えていく。汚れた彼女の身体を強く打ちつけ。
力なく歩みを続ける。
壊れかけた心をどうにか保つ。愛おしい民の為に。
ここで壊れてしまってはいけない。
だけれども、一人ではこれ以上心を保てない。
瞳の先に暖かな光が映った。
その光に向かって歩み。

「ん? 誰や? こない時間に。……!! ベルギー……」
誰かの優しい声に、彼女は力なく微笑み。
大きな太陽の中に飛び込んでいった。

 


「なんや? またきたんか? 喧嘩すんなら買うで」
姿を消した妹を求め、スペインの家を何度も訪れる。
しかし、いつもスペインに門前払いを食らう。
男は言葉少なめにスペインを睨みつけ、あっさりと背を向けた。
燻る煙管。大きく息を吐き出し、歩みを進めた。
「親分、またお兄ちゃんが来たん?」
「ん。だけど親分が追い払ってやったぞ」
背後から聞こえる明るい妹の声に少しだけ頬を緩め。
「幸せなら……いい」
感情に不器用だったから、妹に与えてやれなかった愛情。
だけれども、今はスペインの手によって育まれている。
だから彼は安堵のため息を一つつき。
彼は黙ってその場を後にする。

いつかはまた素直に顔を合わせられる事を夢見ながら……
















書き下ろし
祝オランダ兄ちゃんと思い、すれ違い兄妹を書こうと思ったのですが……
何でこうなったんだろ。不思議だ。





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