除夜の鐘が鳴り響く。
炬燵に入った青年は大きく息を吐くと、古ぼけた天井を見上げた。
長年こうして過ごしてきたが、毎年、この時間は哀愁にくれる。
この一年あった事、そして来年の事、それらを考えながら、炬燵の上のアイスに手を伸ばす。
食べている最中、誰かの視線を感じ、辺りを見回した。
足元に丸まっていたポチ君が顔をあげ、寝ぼけ眼で彼を見上げた。
「そうですよね。いつもこの日は私とポチ君だけで」
そうは言いながらも、やはり誰かの気配は消えない。
何となくもう一つ湯飲みを取り出し、熱いお茶を注いだ。
買い置きしてあったアイスの封を切ると、向かい側にそれを置く。
「まあ、どなたか知りませんがよろしければどうぞ」
心霊関係は好きでも嫌いでもないが、神仏ごっちゃ混ぜな彼としてはそこに誰かがいると思ったのだろう。
特に深い意味はない。
ぼんやりと年末番組を眺めているうちに、舟を漕ぐ仕草が増えはじめる。
眠気に耐え切れなかったのだろう。畳に横になり。
遠くなっていく意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。


「んもう、日本ちゃんったら、こんなトコで寝て」
頬を膨らませ、畳に横たわる日本を見下ろす着物姿の少女。
それに気がついたのか、ポチ君は耳をぴくりと立て、起き上がった。
大きく欠伸をして、回りを見回し……やがて少女の姿を見つけ、尻尾を大きく振る。
「うん、ポチ君もちゃんと寝床で寝ないとダメだよ。
さーてっと」
大きくため息をつくと、彼の着物の袂をひっぱり、ベッドに誘導しようとする。
しかし、他の国々から比べれば華奢とはいえ、体格の差は歴然で。
ぴくりとも動かない彼に、二度目のため息をつく。
座り込み、寂しそうに笑うと彼の頬に触れる。
「風邪ひいちゃうよぉ。
……昔はボクの方が大きかったのにな。今はこんな大きくなって。ボクじゃ運べないよ」
潤んでくる瞳を手で拭い、首を大きく振る。
自らの着物の袂をめくり揚げ、力をこめ、彼を運ぼうとした時だった。
誰かの気配に彼女はぴくりと顔を上げ。

「HAPPY NEW YEAR! 日本、新年のパーティするから今から来てくれというか迎えにきたゾHAHAHAHA!」
妙にテンションの上がったアメリカがいきなり乗り込んできた。 
その後ろから、やはりテンションの高いフランスやらイタリアやらが楽しそうに続いて入ってきて。
「え、あっと、その皆さんどうかしたあぁぁぁぁっ!」
有無言わさず、拉致される日本を呆然と見送るポチ君と少女。
嵐のような出来事に立ち尽くしていると、頭に温かい手がのせられた。
顔を上げる。そこに居たのは呆れた顔をしたイギリスとノルウェーの不思議コンビ。
「すまんな。騒ぎに巻き込んで」
「どうせじきに騒ぎを起こす側になるべ」
すかさずノルウェーが突っ込みを入れると、眉を潜め、一瞬視線を逸らすイギリス。
誰に対してもあまりかわらぬ二人の言動に、思わず彼女は噴出し、くすくすと笑い出した。
彼女の笑みに、イギリスとノルウェーの顔にも笑みが浮かび。
「んじゃ、お前も行くか。俺のトコの妖精達も来ているし」
戸惑いの表情を見せ、見上げてくる彼女。
それはそうだろう。彼女は座敷童子という異質の存在なのだから。
だが、ノルウェーは手を彼女に差し出した。
「どうせ皆酔ってる。一人ぐらい増えたってどったことね」
「そうそう。逆に増えた方が賑やかでいいって」
イギリスも手を差し伸べてきて。
二人の顔を交互に見やり、それから満面の笑みを浮かべ、大きく頷いた。
「うん。それじゃぁ。あ、でも」
指をぴっと立て、イギリスの顔を見つめる。
「イギリスお兄ちゃんは酔うと日本ちゃんいじめるから、ほどほどにね」
誰よりも大人な発言に、イギリスは苦虫をかんだような表情を。ノルウェーは苦笑を浮かべ。
「ぜ……善処する」
イギリスは反射的に日本の口癖が出てしまい、再び彼女は笑い声を零した。
「それって『いいえ』って事だよ。
もう、イギリスお兄ちゃんったら」
つられて彼ら二人も笑い声をあげ……


星が綺麗な夜。賑やかなパーティの中で囁かれた噂。それは……
男二人に手を繋がれた楽しそうな少女が見えたとか見えなかったとか。




初出 2011年お正月
期間限定だったSSを再掲載。
座敷童子ちゃんが見れる二人は、きっと良いお兄さんになるでしょうね。
ただ、片方は酒を飲んだ時点で、姉と弟状態になりそうですが。


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