「イらっゃいマセ。まタ指名アリがとうでス」
拙い言葉、あどけない笑顔。見た目はまだ幼い少女なのに。
「失礼シます」
手馴れた様子で男の服を脱がし、下半身に舌を這わす。
小さく温かな口がもたらす快楽は、あっという間に男の快楽を高めてしまう。
「ふぁ? んっ」
口の中でびくびくと動く感触に、唇をつぼめ、男の欲望を受けとめた。
唇の端から零れ落ちる白い液体。褐色の肌に白というコントラストが非常に官能的で。
ぬるりとした下半身が彼の腿に擦り付けられる。髪の毛と同じ茂みが微かに生えていて少しくすぐったい。
照れた笑いを浮かべ、腰を浮かせる。横たわった男の上にのしかかり、いきり立ったモノを中へと導き。
「くっ、ちょっと待て。そんな事やったら店長にまた……」
静止しようとする男の唇をふさぐ。少しだけ寂しそうな笑み。
「お客サんと……ううん、あナたと繋がっテる時だけが幸せダから……」
壁に張られた『本番行為禁止』の紙。それならばせめてと机の避妊具に手を伸ばした。
「少し待ってくれ。ゴムをつけ……んぐっ」
「優シいね。大丈夫、もう子供デきないカら」
唇が離れた途端、健気に笑う。瞳の奥に悲しみを秘めたまま。
「タくさん愛シて」
そして彼女の中へと進入する。幼いのにするりと男のモノを飲み込む。
だが、締め付けは最高で。
男の上で腰を振る少女。肩に新たな傷跡を見つけ、男は少し眉を潜めたが。
頭の中を支配する快楽には勝てず、少女の中へ欲望を解き放った。
少女と出逢ったのは、気まぐれに入った風俗店で。
外国の少女という毛色の違ったものに手を出してみた。本当に気まぐれだったのに。
少女の魅力という鎖に捕らえられてしまった。
徐々に通ううちに少女と打ち解けてきて、様々な事を話してくれた。
祖国では混血児として迫害され続けたこと。
父親は名も知らぬ他国の男達で、母親を無理やり犯した後、どこかへといってしまったという事。
そのせいで母親は多大な借金を負わされ、少女は『移民』という肩書きでここに売られてきたという事。
毎日、休みもなく男達の相手をさせられ、時折、店長自信にも無理やり犯されているという事。
それでも明日への希望を失わずに笑う少女。
行為が終わった後、少女は笑ってくれた。
「あ、そうイえば、言ってマせんデスカ? 前に流産サせ……してから、子供のデきない身体になっタんです」
そんな辛い事実を笑いながら話してくれる少女を強く抱きしめる。
「い、痛いテすよ。離してクださい」
「あ、すまん。……そうだ。この前言っていたもの持ってきたんだ。踊りが好きだって言っていただろ」
カバンの中から何かをとりだした。それは鮮やかな黄色のロングドレス。
ドレスを広げた少女は純粋な笑みを浮かべてくれた。年相応の微笑み。
「え、こンなのいいンですか?」
「君のために買ってきたんだから。それ着て踊り見せてくれないか」
「はいっ!」
そして……少女は踊る。ひらひらと。
黄色いドレスが風になびき、躍動感に満ちた踊りが男の前で繰り広げれる。
裸で男の上で乱れる姿も美しかったが、それ以上に目を引かれる光景。
その光景はまるで何かの花のようで。
「……ダンシング・レディ・オーキッド」
「え? 何カ言いマしたか?」
踊りを止め、呟いた言葉を尋ねる少女に、首を横に振り、少女を強く抱き寄せた。
「いいや。なんでもない。また明日もくるから」
頬にキス。顔を赤らめる少女に男は頭を優しく撫でてやり。
幸せな逢瀬はそれでおしまい。
手に黄色い花束を持ち、男は急いでいた。時計を見る。そろそろ店の開店時間だ。
開店時間に少女を指名し、ぎりぎりまで延長する。そうすれば少女の負担を少しは減らせる。
「花屋で少し時間食ったからなぁ」
ぽつりと呟き、更に足を速めた。
特に今日は気合を入れないといけないのに。
前々から考えていた少女の解放。それをこっそりと行おうと思っていた。
あの店から解放されたら、少女には幸せな人生が待っているだろう。
彼女がよければ、自分のパートナーになってもらおうとも思っている。
子供が生まれなくても、少女と同じ境遇の子供達を集めて、一緒に暮らすのも良い。
「ああもう仕様がないから、今日はタクシーを」
「……案内してやる。あの世までだが」
男の耳元に響く誰かの声。腹部に熱が篭る。喉元に上がってくる鉄の香り。
女の悲鳴。膝を地面につく。熱い。身体から力が抜け、地面に横たわる。
かすれ始めた瞳に少女の黄色いドレス姿が映った気がした。手を伸ばし……その黄色い幻覚を掴み取る。
それは先ほど買ったオンシジウムの花束。普通のオンシジウムとは違い、中心に赤みの無いハニードロップという種類らしいが。
手についた赤が純粋な黄色だった花を汚してしまい……
「すまねぇ……綺麗なドレス姿を汚して」
遠ざかる意識の中で、黄色いドレスで蝶のように舞う少女が、自分のために微笑んでくれて……
「……始末したのか?」
「ああ。俺の仕事は完璧だ」
「それでは。これが報酬だ」
暗闇の中、二人の男がいくらか言葉を交わし……大きなスーツケースを持った男が部屋を後にした。
残された小太りの男は葉巻を吹かし、口元にいやらしい笑みを浮かべた。
「全く、あの女をいくらで買ったと思うんだ。あんな輩に奪われたら商売上がったりだよ。
さて、今夜は趣向を変え、一度に多人数の客に奉仕させるとするか。
丁度あの男から貰ったドレスもあるし、良い売りになるだろ」
下劣な笑い声が部屋の中に響き渡り。
「……来ナいな。まタ踊り見て欲シいのに」
少女は来るはずもない男を待ち続け。
――コンコン――
ドアのノック音に顔をほころばせ、満面の笑みで出迎える。
――その日、少女の悲鳴と鳴き声が響き渡り――
店の外にはあでやかな看板に少女の写真。
そして……『ダンシング・レディ・オーキッド入荷しました』の言葉。
男の上で狂い踊る少女。それでも少女は健気にいつまでも愛する男を待ち続け……