『Trick or treat♪』
楽しそうな声が響き渡る。
毎年行われるハロウィンパーティの会場。そこに現れたのはにこやかに微笑む一人の女性。
男性の視線が彼女に注がれた。
赤いナース服。大きく開いた胸元から魅惑の谷間がちらりと見える。
手に持っているのは何故かスコップで。
「わぁ〜ハンガリーさん可愛い♪ ナースだナース。血まみれナースだね」
最速で誉めてきたのは、狼男の仮装をしたイタリア。
落ち着き無く彼女の周りを回り、思いつく限りの誉め言葉を注ぎまくる。
イタリアにとってはそれは日常運転だから、ハンガリーは幸せそうな笑みを浮かべ、彼の頭に手を置く。「ありがと。イタちゃん。あなたも可愛いわよ」
少々背伸びをし、彼の頭を撫でる。
昔は彼女の方が大きくて、いつも撫でていたのに……と、少しだけ物思いにふけ。
目を細め、幸せそうな笑みを浮かべるイタリアの姿に苦笑した。
「これじゃ、狼男じゃなくてわんこね」
「ハンガリーさんに可愛がってもらえるならば、わんこでもいいや」
「あーもう可愛いんだから」
少々テンションの上がったハンガリーがイタリアを抱き寄せ、胸に抱く。
丁度、胸元に顔があたっていたのだが、彼女はあまり気にせず。
イタリアは……一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべたのだが、すぐに胸の感触に酔いしれた。
そして、パーティは徐々に盛り上がりを見せ。
「Trick or treat?」
背後から聞こえた声に振り返ると、頬に冷たい感触があった。
上を見上げると、シャンパングラスを持ったイタリアの姿。「疲れたの? はい、冷たいの持ってきたよ」
さり気無い気遣いをしてくれるイタリアに、ハンガリーはグラスを受け取った。
イタリアは横にちょこんと座り込み、手袋を外す。そして自らのグラスの中身を一気に飲み干した。
ハンガリーはグラスを傾けず、光にかざす。
ゆらりと揺れる澄んだ液体。その先には騒ぎまくる一同の姿。「疲れたってわけじゃないけれどね」
少しだけ静かな会場の片隅で、ハンガリーは小さくため息をついた。
「賑やかなのっていいわね。こんな集まっても嫌な喧嘩にはならないし」
時折、ぎすぎすとした雰囲気にもなったりするが、それでもすぐに笑いに包まれる。
少し前は、喧嘩していた仲だというのに。「あ、そうだ。イタちゃんちは最近ど……んっ」
言葉が途中で途切れた。唇を誰かに塞がれたから。
目の前に広がるのは、澄ました顔のイタリア。
舌先が彼女の唇をわって入り、軽く口の中へと侵入した。
「ふぁ……んっ、やぁ、イタちゃんダメぇ」
彼の身体を押し、逃れようとするが、がっしりと背中を抱きしめられ、逃げられそうに無い。
「ダメだよ。Trick or treatって言ったよね。お菓子くれなかったから悪戯するよ」
意地悪な笑みを浮かべ、もう一度、唇を重ねる。
股の合間に脚を差し入れ、彼女の身体を浮かせる。
唇を重ねたまま腰に手を回し、壁際へと身体を移動させ、賑やかな会場をちらりと見つめた。
「ハンガリーさん、声出したら見つかっちゃうから、静かにしててね」
窓にかけてあるカーテンの紐をほどき、大きなカーテンを翻した。
ふわりと二人の身体が覆い隠される。これで騒ぐ一同からは二人の姿は見えないはず。
薄暗いカーテンの内側で大きく開いた胸元に軽く吸い付いた。
鼻先をくすぐる甘い香りに、彼の頬が緩む。「ハンガリーさんってやっぱいい香りだね。この香り俺好きだな」
耳元で囁くと、首筋に舌を這わせた。
彼女の身体に走る刺激。声を抑えようとしても、くぐもった甘い声が漏れてしまう。
「ほら、声抑えないとみんなに気がつかれちゃうよ」
「や……ふぅ……んっ、イタちゃんな……んでぇ」
身体を襲う快楽に耐えながら彼の身体を押し返すが、男の力には敵いそうにない。
更に強く背中を抱きしめられ、滑らかな腰を通り、スカートの中へと手を侵入させてきた。「何でって……俺、狼男なんだよ」
頬に触れる彼の手。大きな手はやはり男なのであって。
「もう昔の俺じゃないんだよ。いつになったら『男』としてみてくれるの?」
スカートをめくり揚げ、脚を差し入れた。これでスカートは元に戻せない。
大事な所を隠すのは、ピンク色の下着。横のリボンを片方解き、指で上からなぞった。「いつもいつも……俺の事を『ちび』としてしか見てなくて。
本当はこうしたかったのに。俺だってもっと……」
彼女の胸元をずらし、大きな胸を解放する。しっとりと汗に濡れた肌はとても魅力的で。「ね、知ってる? 俺がどんな風に見ていたか。ハンガリーさんとオーストリアさんのエッチを」
びくりと肩を震わせると、桃色の胸もおおきく揺れた。
すでに硬く尖った突起を指でつまみ、胸の合間を舌でなぞり上げる。
「いっつも大きな声であえいで……
本当は見たくなかった。ハンガリーさんは俺の聖域だったから」
溢れ出す蜜が彼のズボンに染みを作り上げていくが、彼は気にせず胸をしゃぶり続ける。
「オーストリアさんを嫌いになりたかったけど……嫌いになれない自分が一番嫌いだった。
だってあんなにハンガリーさんを泣かして……それなのに俺はハンガリーさんもオーストリアさんも大好きで」
彼女の膝に温かい何かが落ちてきた。その正体を探ろうと顔を上げ。
肩を震わし、ぼろぼろと涙を流すイタリアの姿があった。「弱い俺が嫌い。もっともっと強かったら、もっとハンガリーさんを守れたかもしれないのに」
しゃくりあげる彼の顔が昔の姿と重なり、彼女の肩から力が抜けた。
どんな時間が過ぎても、昔と変わらない泣き虫の頭を優しく撫でてやる。
「もう、どこが狼なのよ。泣き虫わんこじゃない」
涙を流すイタリアの頬にキスを一つし、彼の背中を強く抱きしめた。
「はいはい。泣き止みなさい。いたずらわんこ。
泣き止まないといたーいお注射しちゃうわよ」
「注射ならば……うぐ、俺のは?」
涙をどうにか押さえ、笑みを浮かべてくる彼のおでこを軽く指で弾く。
「そういうギャグはお洒落じゃないわよ。全くもう」
今度は彼女から顔を近づけた。軽く唇を合わせてから、おでこをくっつける。
「あまーい口付けのお菓子で満足して頂戴ね。狼男さん」
「うーん、もっと欲しいけど……」
彼女の身体を解放し、にこりと微笑む。手に何かを持って。
「じゃ、満足しない代わりにこれ貰っておくから。今度、とびっきりの治療お願いします。血まみれナースさん」
白旗代わりにピンク色の布を振り、楽しそうに一同の騒ぎの中へと飛び込んでいった。
彼女が静止するのも聞かないで。
「あーもう、最後はきっちり狼男になって。ま、しょうがないか」
小さくため息をつくと、先ほど飲み損ねたシャンパンのグラスを手に取った。
「さてっと。フランスあたりにスカートめくられないよう気をつけなきゃな」
かなりスースーするスカートを押さえ、彼女も輪の中へと入っていった。
初出 2010/10/21
ハロウィンネタ一段目。
去年の仮装ネタでした。
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