「私にもケーキ作ってくださいますよね」
少し拗ねた感じで、オーストリアが傍に寄り添ってきた。
よほど寂しかったのだろう。あのトルコだけにケーキを作っていたことが。
マリアツェルさえ元気がないように見える。
自分だけに見せる拗ねた表情。それがあまりに愛おしすぎて。
「当たり前です。美味しいケーキ作りますから、覚悟しておいてくださいね」
少しだけ背伸びして、頬に軽くキス。
「それじゃ、待っていてくださいね」

髪を一つまとめにし、エプロンを身に着けた。
まずは生地作り。粉をふるい、タマゴをあわ立てる。
湯煎していたチョコレートが甘い香りとなり、あたりに漂う。
それらを合わせ、さっくりと混ぜ合わせる。
今度はたくさんの愛情を込め、たくさんの願いをこめ、生地を作り上げ……型へと注ぎ込んだ。
あらかじめ温めておいたオーブンに生地を入れる。
後は焼きあがるまで時間がある。
中に塗るアプリコットジャムと飾るための生クリームを用意すれば良い。
生クリームをあわ立て……

「おや、美味しそうなもの発見しましたよ」
あわ立てる途中の生クリームを指で掬い取ったのは、いつの間にか背後にいたオーストリアだった。
指についた生クリームを自らの口に運び、深い笑みを浮かべた。
「ん、甘いです。ほら、味見いかがですか?」
素早く彼女の唇を奪う。クリームのさっぱりとした甘さが口の中に広がる。
口内をじっくりと味わいつつも、手はドレスを脱がしにかかっていた。
服が軽い音を立て、床に落ちる。ただし、エプロンは外さずに。
滑らかな身体を指でなぞり、首に唇を落とす。
指が動く度に甘い声を出すハンガリーが可愛くて、絶え間なく刺激を与え続けた。
そっと腰を支え、机へと座らせる。ケーキの材料をこぼさぬ様、慎重に。
零して、台所が汚れるのがイヤなわけではない。折角の美味しい材料がもったいないからだ。

――彼女を飾りつけする為の美味しい材料なのだから――

エプロンからちらりと見える豊かな胸。エプロンの胸元をずらし、乳房を露にした。
まるで熟した果実のように美しい。
この胸にクリームを乗せたらきっと栄えるだろう。
泡だて器についたクリームを先端に乗せる。ぴくっと反応する彼女。
「や…冷たい……ぅん…」
「もう少し我慢してください。今、飾り付けてあげますからね」
机の上に彼女を転がすと、ショーツに手をかけた。
前に彼がプレゼントした清楚なものをつけていてくれている。
彼がこれをプレゼントしたのには理由がある。
一見清楚に見えるが……
「…やっ、そんなとこ、唇を……ひゃっ」
脇についたリボンを解けば、はらりと布が外れる。そう、指一つで……
いや、唇一つで脱がせられる下着なのだ。
片方だけ解くのも色っぽい。

しっとりと濡れた蜜壷が絶え間なく蜜を溢れさせる。
この蜜はどんなケーキよりも甘くて。
蜜壷を指で探り、新たな蜜を生み出す。そこに甘酸っぱいアプリコットジャムを塗りつける。
胸には生クリーム。そのクリームの先端には、痛々しく主張する小さなさくらんぼが一つ。
緩やかな曲線を描き、腰を彩るのはエプロンのリボン。白い肌に赤いリボンがよく栄える。
大事な所を隠すように閉じる足を、そっとどければ茂みの中に溢れる蜜壷。
彼女の頭の先から、つま先まで、全てが芸術的で美しい。

こういう時は、あの浪費家であったメッテルニヒに感謝したくなる。
彼がいなければ、この甘いザッハトルテは作られなかったのだから。

「飾りつけはこれで終了です。それでは、特製ザッハトルテを頂くとしましょう」
熱をもったせいだろう。胸の上のクリームが溶けかけている。胸の間に垂れたクリームを舌で拭い、
「くぅ…ん…くすぐったい…あぅ…んんっ」
「ほどよく甘く、ソレでいて微かに塩味が効いていて最高です」
つんと天を仰ぐさくらんぼを舌で転がすと、蜜壷から蜜が溢れ、足を伝い落ちた。
甘酸っぱい香りが台所に漂い……それが彼の情欲を刺激する。
クリームを口に含み、もう一度唇を重ねる。
切なそうに唇を求める姿が愛おしい。
エプロンを解き、それを使って閉じようとする足を机に軽く縛り付ける。
これでどんなに動いても、蜜壷は丸見えだ。
「やだ…オーストリアさんのいじわる……」
「こんな美しいものを隠す方が意地悪です。美味しいケーキを思う存分味あわせてくださいね」
蜜壷に舌を這わした。
アプリコットの甘酸っぱさ、そして蜜のしょっぱさが混ざり合い、絶妙な味わいを生み出す。
指で中を開くと、蜜できらきらと光る。指を差し入れれば、吸い付くようにまとわり突く壁。
不意にチョコレートは強壮剤として使われていたという事が頭の片隅に浮かぶ。
甘い香りに頭がくらくらとしてくる。もう限界が近いという事だろう。

「それでは、中もじっくりと味あわせていただきますね」
ズボンを下ろし、陰茎を露にする。
すでに臨戦態勢は取れている。後は中にいれるだけだ。

だから、素直に蜜壷に数回擦り付け、ゆっくりと腰を落とす。
「入れますよ」
彼女が拒否するわけがないが、一応断りを入れた。
しっとりとした感触。丁度出来立てのケーキに似ている。
ふんわりとしていて、しかし弾力があり、甘い香りがする。
「ひゃっ! あぁ! オーストリアさぁん! ぎゅっとしててくださ……ふぁ」
甘えるよう手を伸ばし、彼を求める彼女を優しく抱きとめる。
唇の端に残っていたクリームを拭い取り、何度目かの口付け。
中に入れるのは気持ちよいが、それよりも彼は口付けの方が好きだった。
唇を合わせれば、頬を赤らめ拙いながらも反応を示してくれる。
甘い吐息を唇でふさぎ、腰を動かす。
濡れた音が響き渡り……
「はぅ…んっ! ふぁ…ぁぁく……くるぅっ」
「私もですっ! いきますよ」
二人の身体は大きく反り返り……そして大きな息を吐く。
肩で息をするハンガリーのおでこにキスを落とし、足を押さえていたエプロンを解く。
少しだけ腰を浮かせると、中からあふれ出る白濁液。
彼女の身体はクリームやジャムでベトベト。

――せっかくだから――

行為の余韻に浸る彼女を強く抱きしめる。
「はぁ…オーストリアさ……きゃっ」
身体を抱き上げられ、思わず彼の肩を抱きしめた。
まるでコアラのように抱きつかれた状態で、彼は歩き出す。
……まだ挿入したままで。
一度いったとはいえ、歩くたびに新たな刺激が彼女を襲い、きゅっと彼を抱きしめる。
「ちょっ、やだ…オーストリアさん、抜いて…」
「ダメです。このまま浴室に行きますよ。ベトベトなんですから」
落ちないよう、強く彼の肩を抱く。
彼もお尻をしっかりと支えてはくれている。
しかし、時折刺激を与えるように撫でまわされ、力が抜けそうになった。

そんな攻撃にも耐え、どうにか浴室までたどり着く。
バスタブに腰透けさせ、ここにきて初めて陰茎を抜いた。
中から溢れ出してくる精液に、彼女は少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに身体を隠す。
可愛らしい行動に服を脱ぎかけていた彼は頬を緩める。
服を脱ぎ終え、几帳面に畳むと、石鹸を手にした。
水に軽く濡らし、しっかりとあわ立てる。
手のひらいっぱいに泡を作ると、その泡を彼女の身体に擦りつける。
つんと象徴する突起を隠すかのように泡を置き、臍にも泡、
そして大事な所にも泡をたくさん盛り付けた。
見たいところが隠れているというのは、妙に色っぽい。
改めて彼女の妖艶さに唾を飲み込み……ここで初めて彼女から動いた。

「たまには私に奉仕させてください」
さりげない動作で彼を床に座らせると、膝の上にのり、胸を押し付けた。
身体を上下に動かし、彼の身体を泡だらけにする。
たわわに揺れる胸が、胸板に辺り淫靡に形を変える。
柔らかい中に、硬くなった突起が胸板を刺激し、一度は元気を失っていた陰茎を復活させた。
それを確認すると、腕を胸ではさみ泡立てる。

「ん…ふぁ……」
時折、自らの動きに甘い声を出し、動きが止まることもあったが、
それでも健気に彼に刺激を与え続ける。
背後に回り、強く彼を抱きしめる。密着する肌。
大きな背中に抱きつくのは好きだ。ずっとこのままでいたい。
だが、もっと深く繋がりたいという欲求もある。
身体を擦りつけ……無意識に自分の蜜壷に手をやる。
溢れ出す精液とともに、新たな蜜もあふれ出していた。
彼の身体を一蹴し終えると、もう一度膝の上に座り、そっと目をつぶる。
もちろん、口付けを求めていたのだが、中々彼の唇がこない。
かわりに鼻をつままれる感触に、目を開け、頬を膨らませた。
「む〜こういう時はちゅーです。ね、ください」
「はいはい。わがままですね」
鼻の頭に軽くキスをしてから、唇を合わせる。
熱い口の中、ゆっくりと舌を絡ませ、お互いの口の中を味わいつくす。
長い間、唇を重ね……そしてどちらかともなく唇を離す。

潤んだ瞳で彼をまっすぐに見つめ
「……入れてもいいですか?」
「イヤというとでも?」
「言うわけないですよね」
少しだけ腰を浮かし、そそり立って主張する陰茎を中へと誘導した。
ゆっくりと中に入っていく感触に、彼の綺麗な眉が少し歪み
「…ん…オーストリアさんも感じて……ふぁ…くれてますね」
根元まで沈むと、強く強く彼を抱きしめる。
「愛してます。大好きです。言葉じゃ足りないくらい愛してます」
「そんなに愛してくださっていつも感謝してますよ」
頭を撫でてくれる手が気持ちよい。
愛してくれる男性のため、砕けそうになる腰をどうにか上下に動かし……

――そして、二度目の昇天を迎えた――

 

熱いお湯が気持ちよい。
二人抱き合った状態でシャワーを浴びる。
本来ならばもう一度でもやりたいところだが、そうもいかない。
そろそろ同居人が帰ってくる時間だから。
さすがにこんな姿をみられるわけもいかず、とりあえず後始末を始めていた。
身体の汚れをシャワーで洗い落とし、お互いの身体をタオルでふき取る。
そういえば……と、彼女の服は台所に落としたままだったなとか、
自分の服もクリームで汚れたなとか思いつつ、
まだ同居人が帰るには時間があるため、裸で服を取りに行けば良いかと自己完結をしながら、
浴室のドアを開けた。

……何故か、そこにはきっちりと畳まれた男女二人分の服。しっかりと下着まで揃っていた。

「あれ? オーストリアさんお洋服用意してくださったんですか?」
状況を理解できていない彼女は、彼が用意してくれたものだと思ったのだろう。
しかし、彼には覚えがない。
こんな几帳面に服をそろえてくれる人物といえば……
「まさか!」
服をひっかけると、脱衣所を後にし……妙に綺麗になっている台所を発見し、肩を落とした。
クリームやらジャムやらチョコレートやら精液やら愛液が散乱していたはずの台所が綺麗になっている。
それどころか、焼きかけだったザッハトルテが綺麗に仕上がり、皿の上に乗っかっていた。

「……もしかして……」
「もしかしてだ」
背後から聞こえた声。そして肩に置かれるごつい手。
それだけで振り向かずとも正体はわかる。
「えーと……お早いお帰りですね」
「ああ。仕事が思いのほか速く終わったものでな」
予想通りむっつり顔のドイツがいた。腕を組み、威圧的に彼を見下ろす姿に中々言葉が出てこない。
「あっとその、早く終わってよかったです。それでは私はこれから用事あるので」
回れ右をし、ドイツの前から早々に立ち去ろうとするが……すでに遅し。
がっしりと肩をつかまれてしまっていた。
「……俺は言ってたよな。お前の性癖や趣味に口出す気は無い。
だが、共用の場所は使ったら片付けろと」
「いや、それはその」
「男だったら、言い訳するな! そこ座れ! 今日こそはたっぷりと!」
「やめてください! ドイツさん! それは私が……」
慌てて止めに入るハンガリーの顔を見て、ドイツの肩の力が抜けた。
それを見て、オーストリアは助かったと思ったのか、一つため息をつき
「どうせ、ケーキ作りの途中でこいつに襲われたんだろ」
図星をつかれ、オーストリアは顔を青ざめ、対照的にハンガリーは顔を赤らめた。
あまりに予想通りの結果に、ドイツは大きくため息をつく。
「やはり今日は徹底的に教育するぞ。
……ハンガリーは今夜はゆっくりと休め。どうせ無茶させられただろうからな」
彼女は優しい声にこくりと頷く。
ここでかばった所で、火に油を注ぐ結果になるだけだとわかっていたから。
一礼すると、自室へと向かう。途中、オーストリアだけに聞こえる声で呟くのは忘れない。

――終わったらまたお願いします――

その言葉を心の支えにし、日本直伝の正座をさせられながら、ドイツの説教は一晩続いたのだった。



2009/06/22初出
父の日の続編。
今度は貴族とラブラブでした。



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