「ん、寝ちゃったみたいだね」
イタリアが机につっぷしてしまっていた主賓を見つけた。
すでに限界突破して数時間たっていたが、この騒ぎの中、中々気がつかれることがなかったのだ。
「しゃーねーな。おきっべ」
酔っているのか酔っていないのか、判断がつきにくいスウェーデンが主賓の頬を軽く叩くが、反応はない。
肩をすくめ、首を横に振る。
「疲れているんでしょう。もう少し寝かしてあげたらいかがでしょうか」
幸せそうに眠る姿を見て、フィンランドが微笑を浮かべるが、ドイツは首を横に振った。
「こんなとこで寝られて、風邪でも引いたら困る。部屋に寝かせるか」
持ち上げようと、主賓者の肩に触れた。しかし、笑顔のベルギーが静止する。
「ん前に……おせんどさん。たーんとお眠りなはれ Merci」
ベルギーは主賓者の頬に軽くキスをする。それを見ていた女性陣は顔を見合わせ、
「いつもお疲れ様です。Köszönöm」
ハンガリーも唇を落とした。後ろでオーストリアやプロイセンがむっとしていたが、気がつかない振りをする。
「君は身体を大切にしてくれ。Je vous
remercie」
モナコは戸惑い気味に頬に唇を落とす。フランスが微かに眉をひそめた。
「あまり無理をなさらないでくださいまし。Danke」
やはり、リヒテンシュタインがキスをした途端、スイスの手が銃に伸びたが、どうにかこらえた。
「ゆっくり寝てね。大好きよ。Спасибо ほら、ベラルーシちゃんも」
「なんで私が……まあ一応……ДЯКУI」
姉妹の唇が頬に。ロシアとリトアニアの視線が怖いのはきっと気のせい……しておこう。
「んーと、まあ、色々助かってるかな? Thank
you」
おでこに軽くキス。シーランドとゼボルガが悔しそうに見ていたが、彼女は気づかない。
「えっと……そのうまくいえませんが……謝謝」
台湾は頬を赤らめながら戸惑い気味に頬にキス。
中国は不機嫌な顔で。韓国は頬を膨らませ。香港は小さく舌打ちし。
そして日本は笑顔だったが、少しだけ八橋から餡がもれ気味の笑顔だ。
「へへっ、ちょっと照れますね。だーいすきですよ。Mèsi♪」
小麦色の肌が頬に近づく。イギリスやらフランスが少々涙目なのはお約束。
幸せそうな女性陣とは対照的に、一部の男性陣の機嫌があからさまに悪くなっていたが、
主賓者の寝顔をみたとたんに、肩の力が抜けた。
「今夜は俺じゃなくて、あの人がヒーローだからな。しょうがない」
「たまには気あうな。本当なら死ぬほど嫌だが」
いつもは仲の悪いアメリカとキューバさえ、今日ばかりは喧嘩をする気もないらしい。
喧嘩を力づくで止めようとしていたのだろう。腕まくりしていたカメルーンも、二人の様子見て、穏やかな笑みを浮かべていた。
「こーいうのも、幸せやなぁ〜」
「離せ! ちくしょー」
のほほんとした空気に、スペインが幸せの元であるロマーノを抱きしめているが、
言葉だけの抵抗しかしていない事に、更なるふそそそーな空気が流れた。
その後ろで、いまだ酒盛りをしている三人組。
「ま、俺らもこういう日ぐれぇは仲良くしようや」
「ん……仲良くしたくないけど……しょうがない」
「酒…グラスこっち」
一歩間違えば火花が散るギリシャトルコ間で、エジプトが仲を取り持つように酒を二人に勧める。
かと思えば、眠りこけている主賓者に、油性ペンを持って近づく者もいた。
「なんで止めるしー? ピンクの顔おしゃれだと思わん?」
「思いませんって! なんで僕が止めなきゃいけないんですかー! エストニアさん、手伝ってくださいー」
いつものブレーキ役がそこにはいないため、涙目でラトビアがポーランドの腕にしがみつく。
助けを求められたエストニアは、聞こえない振りでヴィル・ヴァルゲ・ウォッカの水割りを傾けている。
「はは、平和だね」
「あまりそーも見えないけれど、まあ平和って事にしておくですよ」
「そうだな……」
賑やかな騒動の中、クマ二郎さんを抱きしめたカナダがニコニコ顔で呟き、
スウェーディングされ、カナダそっくりにしたシーランドが横で頷く。
そして、珍しくアイスランドがシーランドの言葉に同意した。
切りのない饗宴に区切りをつけるために、ドイツが立ち上がった。
「さて、風邪引かせる前に、部屋へ運ぶぞ」
主役を背負う。背後でハンガリーの『折角だからお姫様抱っこで』とか呟きが聞こえたが、華麗に流し、部屋へと歩き出す。
さりげなく扉を開けてくれた日本に礼を言う。
後ろからいつの間にかイタリアがにこやかな笑顔でついてきていた。
「ヴェ〜やっぱパーティって楽しいね」
「そうですね。賑やかのは少し苦手でしたけれど、こういうのならば……あ、そういえば」
何かを考えるかのように、しばらく沈黙し……日本は微笑んだ。穏やかな笑みで。
「今日は『母の日』でしたね」
「そうだね。
あ、もしかしたら、この人って、俺らの『マンマ』みたいなものかもしれないね」
「母親か……まあ、そういうものか」
背中で眠る主賓者のぬくもりを感じつつ、ドイツも微かな笑みを浮かべた。
部屋に到着すると、主賓者をベッドに横にすると、布団をかけてやる。
「いつも俺らの事、考えてくれて感謝している。Danke Mama」
「俺達を愛してくれて嬉しいよ♪ Grazie♪Mamma」
「私達は幸せです。こんな素敵な母親をもてて。本当にありがとうございます」
幸せそうな寝顔に個々の感謝の言葉を口にし……部屋のドアを閉じたのだった。