――眠る時間が増えたように思える。
今までも昼まで寝過ごす事もあったが、そんな程度ではない。
いつもならば、おやつの甘い香りに誘われて呼びもしないのに現れて……

「……馬鹿」
気持ちよさそうに眠る彼のおでこをつつく。
それでもまだ眠り続けて。
「このままじゃ、みんなあんたの事忘れちゃうわよ。
いつものように馬鹿な事やって、いつものように不敵な笑み浮かべて……
私達はみんなに忘れられたらおしまいなんだから」
もう一度、おでこに触れ、顔を近づけた。
軽い口づけ。そっと触れるだけ。

「本当に……馬鹿」
「……馬鹿じゃねぇ」
唇が離れた途端、彼の口からこぼれる言葉。
腕が動き、私を強く抱きしめる。
頭を抱きかかえ、無理やり唇を塞ぐ。
口の中を動き回る舌。歯茎を舐められ、舌を吸われる。
だけれども逃げようと思えば、逃げれたのに抵抗はしなかった。
「……あ〜だりぃ」

久しぶりに聞いた気がする彼の声。
「キスしといてだるいはないでしょうが」
今度は私から長い口づけを捧ぐ。
本来ならば目を瞑る所だが、動いている彼を目に焼き付けたいから、真っ直ぐに彼の顔を見つめ続ける。
きっと情けない顔だと思う。
だって、何故か視界が歪んでいるから。目から水がこぼれているから。

「なーに泣いてるんだよ。ばーか」
気だるそうな彼の言葉に、私は精一杯笑ってみせた。
「バカはあんたでしょ」
強く体を抱きしめた。懐かしい幼なじみの体温。
小さい頃は喧嘩もしたけれど、それなりに仲が良くて。
で、空気なんて読む気もなく、バカなセクハラもよくやって。
こんな所は何時までも変わらないのね。
お尻に触れている彼の手の甲を指でつまむ。
「変態。全く……もう少し雰囲気読みなさいよ」
「読んでるから……触ったんだ。今日はフライパンで殴る気はないだろ」
不敵な彼の微笑みに脱力感を覚えた。

しょうがないわねぇ。
今日は我慢してあげる。
横になっている彼の上にのし掛かり、ワイシャツのボタンをはずしていく。
しっかりと筋肉がついた胸板。
傷だらけなのは戦いの中、生きてきたからだろう。
もしかしたらもうこの傷跡は増えないかもしれない。
それは平和な世になるからじゃない。
……もう彼が表舞台から消えてしまうかもしれないから。

「……えっち」
雰囲気をぶち壊す彼の言葉に、私も笑顔が浮かんだ。
「バカ……」
胸に赤い跡を残す。今、二人がいる証を。
胸をなだらかにくだり、意外に細い腰を通り過ぎ、下半身へと手を伸ばした。
まだ元気の無いモノに唇を落とし、口に含んだ。

……そういえば、こうするの初めてかもしれない。
たまに肌を重ねたりもしたけれど、いつもあいつから襲ってきて。
だから、口にいれたら、噛み切られるとでも思っていたのか。
「いつもと逆だな……すっげぇいい。
ついでだからおっぱいでもやってくれよ」
「本気でデリカシーも何もないわね」
憎まれ口を叩きながらも、今日は素直にこいつの言うことを聞いてあげる。
ブラウスのボタンを外し、ブラをずらして胸を露にする。
二つのふくらみを寄せ、モノを包み込んでやった。

「くはぁ、暖かけぇ。やっぱお前のおっぱいは最高だな」
気持ちよさそうに声を上げる馬鹿の声に、私の体は熱を持ち始めた。
胸の間に優しく包み、揉みあげる。時折、口に含み、潤滑を良くするために唾液をつけた。
私が身体を動かせば、濡れた音が部屋に響き渡る。徐々に堅さを得てくるあいつのモノ。
「こんな状況でも……んっ、しっかりと立てて……ふぁっ」
「当たり前だろ……こんな状況……でたたないと……男じゃねぇ」
かなりだるそうなのに、いつもとかわらぬふざけた言葉。
今にも目を閉じてしまいそうだから、少し強めに刺激を与える。
胸を貫いて顔を出す亀頭に口付けし、全体を口に含む。
少し苦しいけれど、できる限り奥まで。
本当ならば根元までしゃぶってあげたかったけれど、口には入りそうに無い。
だから吸いながら何度も何度も上下に動く。
口の中で段々と堅くなっていく。びくびくと反応する所とか、浮き出た血管とかが舌でわかるのは結構嬉しい。
あの生意気な馬鹿だけど、こういう反応を見せてくれると可愛くも思ってしまうじゃない。
でも、アイツはぼんやりと天井を見上げるだけで。

もっと強く、もっと反応して。
もっともっとたくさん刺激して……眠ってしまわぬよう。


「ん……うぐっ…ちゅ…ね、気持ちいい? ねぇ、返事しなさい。ふぁ……声聞かせてよ」
「んあ……わりぃ、気持ち良いから、そんな泣きそうな顔すんな」
頭を撫でてくれるあいつの手。優しく頭を撫でてくれて……それから私の頬に当たる。
大きな手……少しだけ体温を失いかけているのがわかった。

「まだダメよ! まだ寝ちゃだめ! 馬鹿!」

ああ、我ながら情けない。
あの馬鹿にこんな……必死な顔を見せちゃうだなんて。
どこか冷静な私が頭の中で呟いたけれど、心の大半は馬鹿を失いたくない一心で。
下着を脱ぎ捨てる。
「ほら見なさいよ。あんたのせいでもうこんななんだから
ちゃんと責任とりなさい」
とろとろと溢れ出す蜜を指で拭い、アソコを開いて見せつける。
本当にいつもと逆。
いつもは無理やり私の足を支え、鏡に溢れ出す蜜を映し出したり、
嫌がって目を瞑ってるのに、水音をわざと立て、いじり回したり。
……もう、そんな事もできないくらい弱って……

ダメ……私が弱気になってどうするの!

馬鹿は個人的に殴り倒したい相手。そう、喧嘩相手なんだから。
私がこんなんじゃ、あいつだって喧嘩売ってこない。
だから、強気にあいつをにらみつける。
「ほら、欲しいんでしょ!それならばいつものように無理やりやりなさいよ」
いきり立ったモノの頭だけがアソコの入り口にこすれる程度に腰を落とす。
もうかなり敏感になったから、触れるだけでもキツいけれど。
本当は奥までいれたいけれど。

――許さない――

散々、私を襲って、オーストリアさんをバカにして、
イタちゃんをかまい倒して、ドイツ君に迷惑ばかりかけて。
「独りで消えようだなんて許さないんだから!!聞いているの!馬鹿!」
「……だから、馬鹿言うな。
俺は馬鹿って名前じゃねぇ。俺の名はプロイセンだ」
自信に満ちた声と共に、私の腰をつかみ、勢いよく彼に押しつけられた。
「ふぁ……馬鹿ぁ、止めなさ……うぅん…」
ずるりと中に入っていく感触に身をふるわせる。
あいつは無言でお尻を撫で回し、胸に手を伸ばす。
好戦的な瞳で私を見つめる。
その瞳は私が感じている事を責めているようで。
「あ、あんたなんかに……ふぁ、感じるわけ……ないでしょ」
時折、動くあいつの腰に合わせ、私も体を揺さぶる。
襲い来る快楽に身を委ねたくなるけれど、ここで飲まれてしまってはいけない気がして。
溢れ出す蜜が淫らな音をたて、部屋に響く。
私の吐息と甘い声。
でも、あいつはいつもより無口で。
熱くなる身体。まだ少しだけ冷静な心までが、あいつに支配されつつある。
大事な所を奪われたくないのに……
「馬鹿馬鹿馬鹿!あんた何か嫌い!」
どうにか口にできた言葉。
だけれども。
「すまねぇな……」
私の涙を少しだけ冷たくなった手がぬぐい取り。

熱いものが体を駆け巡る。
私を支配した証の白い液体が中に侵入し。


……馬鹿の力が抜けた。

 

 


辺りに鐘の音が響き渡る。
皆の悲しみを歌うように。

あれから、あいつは目覚めなくなった。
誰が来ても、どんなに話しかけても、反応を見せない。
ただ、静かに眠り続けるだけで。
そして、私達は悟った。プロイセン王国の崩壊を。
唯一の救いは、他の国のように消えてしまわなかった事。
それは皆に微かな希望を抱かせる。
「……兄さん」
棺のような石のベッドの中で眠る彼をドイツ君が泣きそうな瞳で見つめていた。
「大丈夫よ。あの馬鹿だもの。きっと『あ〜腹減った』って起きてくるわよ。寝坊助なんだから」
笑っては見せるが、私の中で一抹の不安を覚えていた。
姿形は変わらなくとも、もしかしたら記憶を失い、他の誰かになってしまう可能性がある。

――『彼』のように――

いつの間にか、ドイツ君を見つめてしまっていたのか、微かな笑みを私に向けてきた。
だから、私は強気な笑みを浮かべ、泣きじゃくるイタちゃんの背中をさすってあげた。
「ほら、泣かないの。あの馬鹿は消えたわけじゃないんだから。
今はただ寝てるだけよ。起きたらたっぷり皆で怒ってやりましょうよ」
涙を唇で拭い、頬にキス。
いつもなら、あいつは嫉妬して、間に割り込んでくるのに。
……そういえば、どっちに嫉妬してたのかしら。
もしかしたら、イタちゃんと仲が良い事だったり。

バカな事を考えていたら、少しだけ心が軽くなった気がした。
そう、ここで私が落ち込んでどうする。
「イタちゃん、聖歌お願い。きっとあいつもイタちゃんの綺麗な声を聴きたいはずだから」
「う、うん……
……Ave Maria, gratia plena…」

澄んだ声が教会に響き渡る。
沈黙の彼にただ涙するもの、悪い考えにならないよう働き続けるもの、苛立ちを隠せずにいるもの、
皆がイタちゃんの歌声に手を止め、美しいメロディに心酔いしれる。

……こんなにもあいつを慕ってくれる人達がいるのに……
まだあいつが必要なはずなのに。
何で何で何で!

「……ハンガリーさん?」
いつの間にか聖歌は終わり、心配そうにイタちゃんが私の顔を覗きこんでいた。
だから、私が落ち込んでいられないんだってば!
私が皆を支えてあげないと。
砕けそうになる膝に活をいれ、真っ直ぐに前を向いた。幾分か上向きに。

「さてっと、今日はご馳走作らないとね。
オーストリアさんやイタちゃん、ドイツ君と……今日手伝ってくれた兵士の皆の為にも。
あの馬鹿が寝てるの後悔するぐらい美味しいのをつくるわよ」
「……ハンガリー……」
優しいオーストリアさんの声。ダメ、ここで振り返っては。
ここでオーストリアさんの顔見たら、感情が崩壊してしまうから。
私は笑わないといけないの。皆の為に。
「何ですか?あ、料理のリクエストですか?それならば」
無理に明るく振る舞ってみたものの、自分でも言葉尻が震えているのがわかった。
オーストリアさんは何か言いたそうに息を吸い、だが何も発しなかった。
少し安心した。ここで優しい言葉をかけられたら、声を上げて泣いてしまうと思う。

「それじゃ、先に戻ってますね」
なるべく皆の顔を見ないよう、足早にその場を後にし……
「ちょっと待ってくれ」
ドイツ君に手を掴まれ、足を止めた。理由を問おうと声を出しかけた途端、ぎゅっとハグされてしまった。
大きなドイツ君の胸に押し付けられる。
「すまない……少しだけ付き合ってくれ。……泣き顔を見られたくないから」
震える胸。押し殺した声。私の上に降り注ぐ涙。

……ずるいなぁ。こんな事されたら、私まで……
丁度、顔を隠せるから少しだけ……本当に少しだけ。今日だけだから。

私はあいつの為に少しだけ泣いた。

 

「そういえば、聞きました? 教会で噂になっている怪談話」
「ヴェ、あ、あれでしょ。誰もいないのに声が聞こえたり、何かにぶつかる音が聞こえたりするんだよね」
私の話に、イタちゃんが乗ってきてくれた。
ドイツ君が持ってきてくれたヴルストをフォークに刺し、ぴこぴこと動かす。
「ああ、あれですか」
オーストリアさんが苦笑を浮かべた。きっと原因を知っているのでしょうね。
それはドイツ君も一緒だったらしく、呆れたような笑みを浮かべる。
「兄さん、寝相悪かったから……
そのせいで、新兵を警備につかせるのが兵士達の一種の楽しみになっているみたいでな」
「全く、眠っていても迷惑な男ですね」
「きっと頭にこぶできてたりするんじゃないかな」
イタちゃんの言葉に、私たちは笑い声を上げる。

……あの日以降、自然と私たちは一つの食卓に集まることが増えた。
あいつがいなくなった寂しさを紛らわすかのように。
毎日あいつの話題が出て、笑いあって。

私たちの周りを流れている不穏な空気を払拭するように、できる限り明るく装って。
それでも、徐々にその空気は嵐となって私たちを、世界全体を襲うのはわかっている。
でも、それでももう少しだけ……この時が続きますように。

 

 

「……馬鹿。いい加減に起きなさいよ」
冷たい空気の中、私はあいつが眠っている石のベッドを見下ろしていた。
教会の周囲は荒廃してしまったけれど、教会には手を出さなかったのは信仰心故なのだろうね。
ドイツ君の兵士達も、最期の最期までこの教会を守ってくれて。

こんなにも愛されているのに。

あいつの上にかけられている国章の布をそっと剥がす。
水晶の窓から見えるあいつの寝顔。
「全く、間抜けな顔で寝てて……早く起きなさいよ! ドイツ君が大変な事になってるのよ! 
ドイツ君もイタちゃんもオーストリアさんもぼろぼろなのに……
なのになのになのに、何であんたはそんな気持ちよさそうに!」
強く拳を握り締め、振りかざし、
「……大丈夫だ。お前まで傷つくことは無い」
優しいドイツ君の手によって、私の腕は掴まれた。
彼の後ろには心配そうに私を見つめるイタちゃんとオーストリアさんの姿。

「……ドイツ君……ドイツ君……」
あちこち傷だらけなのに。何でそんなに優しく笑っていられるんだろう。
「……大丈夫。俺はどんな状況でもやっていける。
そして……この場所だけは絶対に守って見せるから……ハンガリーは泣かなくていい」
大きな手が私の頬に触れる。傷だらけの手。それでもとても温かくて。
もしかしたらこのままドイツ君まで消えてしまうかもしれない。
強い不安が胸を占める。頬に一筋の涙が流れ落ち、水晶のベッドを濡らしていく。
泣いては泣けない。本当に辛いのはドイツ君なのだから。でも、涙が止まりそうにない。
「もうヤダ……ドイツ君行かないで…寂しいよぉ」
まるで子供のようにしゃくりあげる。教会に私の泣き声だけが響き渡り。

「……俺のハンガリーを泣かすんじゃねぇよ。ヴェスト」

――懐かしい馬鹿の声。
中を覗くと、不敵な笑みを浮かべたあいつがいて。

――ゴァァン――

何かが派手にぶつかった音。
水晶の窓に額をぶつけたのだろう。瞳に涙をため、赤くなった額をさすり。
「……ぷっ……」
誰ともなく噴出し、やがて大きな笑いとなって教会に響き渡った。
ここまで腹の底から笑ったのは久しぶりかもしれない。
今まで戦いばかりだったから、笑う余裕なんてなくて。
溢れ出す涙。今回は笑いすぎた涙。それと同時に嬉し涙もあるかもしれない。

「あーもう、本当に馬鹿なんだから」
笑ったまま、私は水晶から彼を解放してあげる。
あいつは久しぶりの外の空気を肺一杯に吸い込み、背中を伸ばす。
それから大きなあくびをして、私たちの方を見た。
「あ〜腹減った。何か食うもんないか?」
聞き覚えのある言葉に、私たちは顔を見合わせ、もう一度大きく笑い声をあげる。
「え? あ、何笑ってるんだよ。説明しろ。
だから俺を無視すんなって! 一人楽しすぎて寂しすぎだぞ」
戸惑うあいつを置いてけぼりで、私たちはいつまでも笑い続けた。

 


「そういうわけか。大変だったんだな。ヴェストも」
たくさん作った料理を全て平らげ、満足しきった顔でビールを傾ける。
その間に今まで起こった出来事を説明し続け。

「まあ……しょうがないさ。できることはやる……少しだけ皆と会えなくなるのは少し寂しいが」
悲しそうな瞳で小さくため息をつくと、泣いているイタちゃんの頭を大きな手で撫でてあげた。
「というわけで、兄さん、しばらく俺がいない間、西側の民をオーストリア達と守ってやってく……」
「嫌だ」
きっぱりと言い切る馬鹿の言葉に、ドイツ君は苦笑を浮かべた。
あいつの気まぐれはいつもの事。きっと予想はしていたのだろう。

ああもう! いつまでたっても空気を読む気ない馬鹿ねぇ!
私は怒鳴りつけてやろうと大きく息を吸い込み、
「東側は任せろ。ロシアに対抗できるのはこの俺様しかいないだろ」
不敵な笑み。
みんなの瞳が丸くなっている。それはしょうがないでしょう。
私だって馬鹿の発言に言葉を失っているんだから。

「ってことで、腹も膨れたしちょっと行ってくるわ」
椅子を蹴り倒し、私たちに背を向けた。
「ちょっ、馬鹿! 勝手に決めるんじゃない……!!」
「あー、説教は帰ってからな。スィルワーシュ レピーニュ付でよろしく」
いつもと変わらない馬鹿なアイツの言葉。手を振るだけで、振り向きもせず私たちの前から姿を消した。
今度は絶対に帰ってくる。そんな確信があったから。
私は大きく息を吸い込む。
「あんたなんかフライパンをご馳走してやるわよぉっ!!」
叫び声が家の中に響き渡った。


それからというもの、世界はどんどん変わっていった。
大きな傷跡も徐々に癒えてきた頃、あいつは帰ってきた。壁をしっかりと破壊して。
前と変わらないふてぶてしい笑み。
だから私はフライパンを振りかざし、逃げ惑う馬鹿を追いかけて。
笑うイタちゃん、呆れ顔のドイツ君、そして幸せそうに笑うオーストリアさん。
そして、私たちの生活に平穏が訪れた……
……だったらよかったんだけど。

 


ネットサーフィンをしていた時、不思議なものを見つけた。
「『俺様ブログ』?」
こんな馬鹿な事をやるといえば、あいつしかいないわよね。
そういえば今朝、しつこくメールが来ていたけれど、もしかしたらこの件に関してだったのかしら。

今度来た時にからかうネタにしようと、ページを開き、
「ちょっと!! まさか今朝のやつを!」
画面に映し出されたのは、オーストリアさんの頬を引っ張っている写真と、私がフライパンを振りかざしている写真。
確かにカメラ持ってたけれど、まさかこんな事に使うだなんて。
もう、この写真じゃ、私がフライパンをすぐに振り回す怖い女みたいじゃない。
……私だってアイツが馬鹿やんなければこんな事しないのに。

「全く、一言文句言ってやんなきゃ気がすまないわよ。
えーっと、確かコメントを書く場所があったような」
ページを更新し、最新の記事に文句を書いてやろうと思い。
目を疑う光景があった。

「……イギリス君のご飯を食べるですって?」
そんな命知らずの事やるだなんて! 
馬鹿だとは思っていたけれど、ここまで本当の馬鹿だとは思わなかったわ。
ここにコメントを書いてもすぐには読んでもらえないとは思うけれど。

「えっと……『たしかに鬱陶しかったけれど、いなくなると寂しいかも…大丈夫かなぁ?』っと」
慌ててエンターキーを押し、数秒後、自分が少し本音を書いてしまったことに気がついた。
あいつの前では絶対に出さない、出してやらない彼を気遣う気持ち。
ま、まあ、みんなのコメントもあるし、きっと気がつかないわよね。
それよりも、あいつはどうなったの?
カチカチと何度も更新を押し、やっと新しい記事が現れた。
イギリス君が青ざめた顔をしてる写真。
ああ、生きていたみたいね。
ほっと安堵のため息を一つ。
「『大丈夫だった!すごい!ヽ(〃^-^)/★*☆』……よしっと」
書き込むコメントを何度か推敲し、先ほどの本音を隠すため、顔文字を入れてみた。
それから改めてブログの内容を確認し……自然と笑みがこぼれた。
意外にあいつ、好かれているのね。皆がこんなにコメントをくれて。
大きく息を吐き、窓の空を眺める。

今日は良い天気だ。
馬鹿な事をやって、笑っていられて。
昔はこんな事できなかったのに……誰かと顔を見合わせるたび、喧嘩ばかりで。
今の幸せをかみ締め、背伸びをする。
「買い物にでも行こうかしら。
どうせ明日にでもオーストリアさんの家にあのパンダを持ってくるだろうから……」
――スィルワーシュ レピーニュでも作ってあげよう――
その言葉は口に出さず、私は街へと繰り出す準備をし始めた。

 

 

2009/11/14初出
強くて弱いけれど、やっぱり強いハンガリーさんが好きです。



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