「日本さん、これはどうしたらいいですか?」
「えっと、ソレはあっちに……」
「日本〜これは?」
「それは……えっと、もう少しお待ちください」
師が走り回るとはよくいったもの。師走の日本の家では皆が慌しく駆け回っていた。
年末の大掃除やら業務整理など、休む暇はない。
この時期だから、各地域の皆も集まり、日本の家は少しだけ賑やかだった。
そんな家の片隅で少し寂しそうに日本を眺めているものがいた。
可愛らしい着物を身にまとい、傍らで眠る犬を撫でながら座り込む少女。
この家の護りであり、日本と長年一緒に過ごしてきた座敷童子という存在だ。
「……日本ちゃんがんばりすぎだよ。壊れちゃうよぉ」
呟く言葉に誰も反応を見せず、忙しく走り回るだけ。
いつもの事だが、この大人数の中だからか、少しだけ寂しさが募り、大きくため息をつく。
着物の袂で溢れそうになった涙を拭いとり。
不意に光が遮断された。彼女の目の前に誰かが立ったからだ。
羽織を身にまとった無表情気味の男。
しゃがみ込んでいる少女をじーっと眺めているようにも見える。
「イギリスちゃんじゃないよね。それだったらボクが見えるはずな……」
男の腕が動いた。袖が揺れ、彼女の頭の方へ移動し。
「ふぇ?」
びっくりとする彼女の頭を優しく撫でる。
あっけに取られ、見上げるが、男は表情を変えず、手を動かすだけ。
やや強い力だが、非常に心地よい。久しぶりに誰かに頭を撫でてもらう感触。
懐かしい何かを思い出し、目頭が徐々に熱くなってきて。
溢れ出す少女の涙に、男は初めて動揺を見せた。わたわたと少女の周りを回りだし、眉をしかめる。
「何一人でばたばたしておるんだ?
まだ仕事が山ほど残っておるんじゃから、手伝え」
少し目つきの怖い男が着物の男に向かって言い放つ。だが、深くは気にしない様子で再び仕事へと戻った。
ぽつんと残された着物姿の男は泣き続ける少女を眺め。
「ちょんぼしこちら来て」
少女の手を引っ張り、書庫となっている一室へと移動する。
びっくりとした表情で見上げる少女の前に座り込み、瞳を真っ直ぐに見つめた。
「ほんなま泣き止め。
何で泣いちょ〜のか話を聞かせろ」
「えっと、あのね」
彼女は素直に話し始めた。――自分が誰で、日本の事がどれだけ大切なのかも含め――
話し終わるまで、男はただ黙って聞いていてくれた。
彼女の言葉を疑う事もなく。
逆に時折涙ぐむ彼女の背中を優しく撫でてくれる。「そうか。日本の事が心配だらか。
それほんなら、俺に任せてみろ」
話終わった時、一番最初に出たのはそんな言葉だった。
男は着物の袂からお札を取り出し、少女のおでこに貼り付けた。
大きく息を吸い込み、瞳を閉じてから口を開く。
「掛介麻久母畏伎 伊邪那岐大神……」
謳うかのような声に、少女も自然と瞳を閉じ。
身体に温かな光が入り込むような感覚に襲われる。とても心地の良い感覚。
「よし、こ〜でいい」
満足げな男の声に、彼女は瞳を開けた。
いつの間にか謳のような言葉は終わっていたらしい。
まばたきを数回。おでこに張っていたお札を取り外すと、男は小さく頷く。
少女の手を引っ張ると、皆が仕事している居間へとやってきた。
一同の視線が着物の男に向けられ、それから手を繋がれている少女に集中した。
「ちょっと! 何ですか! その着物幼女は!!
今の時代、ロリには厳しいというのに! 私の家だったら即効逮捕ですよ!
それでなくても変な条例のせいで、漫画ですらも消滅の危機に陥ってるのに」
スーツ姿の青年が興奮気味に迫り来るが、すかさず虎柄の少女がハリセンを頭に叩き落した。
「暴走するんやないの。アホ」
その横で着物姿の女性が少女の顔をじっと見つめ、それから小さくため息をついた。
「厄介ぐちつれてきたのな。
しょうがへんさかい、責任はあんはんとりよし」
少女の手を掴み、あまりの出来事に呆然としている日本に押し付けた。
「え、この少女は?」
「日本を慕っちょ〜子だ。今日一日一緒に遊んでやれ」
着物姿の男はそれだけ言うと、日本の手にしていた書類を奪い取り、目を通し始める。
他の者も目を丸くしていたが、着物姿の男の有無を言わさぬ空気に黙り込み、それから各自仕事を再開する。取り残された日本と少女は顔を見合わせ。
「……ここにいると邪魔になりそうですね。どこか行くとしますか」
「そうだね」
彼は少女の手をとり、家の外へと出て行く。
その後ろをぽち君もついていきながら。
大きく息を吐く。目の前に白い空気ができ、風に溶けて消える。
流石に冬だから鼻の先が冷たい。もう少し厚着をしてくればよかったなと考えながら、少女を見下ろし。
真っ直ぐに顔を見つめていた少女の姿に、彼は少しだけ頬を赤らめた。
「えーと、初めまして。私は日本と申します。貴女のお名前……」
とりあえず、社交辞令の挨拶から初めてみたのだが。
少女の悲しそうな瞳に言葉がつまり、しばし沈黙する。
二人とも黙ったまま、賑やかな街中を歩き。
不意に彼女の足が止まった。
何があったのかと彼女をみつめ。
そこには目を輝かせた少女の姿があった。
視線の先には賑やかなイルミネーション。その周りで楽しそうに身を寄せるカップルの姿。
「ねーねー、日本ちゃん、あれなーに? あのきらきらしたの」
「あれはイルミネーションといいまして……ああ、そういえばそろそろクリスマスですね」
あまりに忙しすぎて、12月の賑やかさを忘れかけていたことに気がついた。
小さくため息をつくと、少女の温かな手をぎゅっと握り締める。
「わかりました。今日は仕事の事を忘れて、徹底的に遊ぶとしますか」
きょとんとした顔で彼の顔を見つめ、それから段々と少女の顔に笑みが浮かんできた。
「うん。一緒に遊ぼうね。昔みたいにさ」
駆け出す少女の手を握り、彼は街中へと繰り出していく。
……その感触にどこか懐かしい記憶を呼び起こされ、彼は少しだけ首をかしげたのだった。
「はぁ、楽しかった」
二人で精一杯遊び惚け、少女は満足げな声をあげる。
灯りの消えた家へと仲良く帰ってくると、死屍累々となった一同が眠りこけている姿を見つける。
苦笑を浮かべ、彼らを起こさぬよう忍び足で奥の部屋へと向かった。
家の一番奥にあるのは寝室。
誰かが気を利かせて敷いてくれていたのだろう。ふかふかの布団に倒れこみ。
「えへへっ、気持ちいいね」
一緒になって倒れこんできた少女に、彼は目を丸くした。
慌てて起き上がり、布団の上に正座し、咳払い。
「すみません。あまりの疲れにこのような場所に案内してしまって。
ああ、遅くなりましたから、ご自宅までお送りします。えっと……」
そこで彼女の名前を呼ぼうとしたのだが、名前を知らない事に改めて気がついた。
布団に倒れこんでいる少女に手を差し伸べ。
「ところで貴女はどなたで……」
「忘れちゃ嫌だよ。日本ちゃん」
差し伸べられた手を強く引き寄せる。
バランスの崩れた彼の体は、彼女の隣に横たわり。
代わりに彼女が身体を起こし、彼の上に圧し掛かった。
「ボクはずっと忘れなかったのに。日本ちゃんが見えなくなっても、ずっと側にいたのに……」
涙を浮かべ、彼の頬に触れる。硬直する彼に顔を近づけ、軽く唇を合わせた。
「こうやってキスだってしたよ。でも、日本ちゃんは全然気がついてくれなくて」
何度も何度も唇をあわせながら、彼の着物の裾をずらす。
少女の刺激に自然と硬くなったのだろう。大きくなった股間を小さな手で撫でた。
やっとここで思考回路が繋がったのだろう。日本は顔を赤くし、少女の身体を押し返そうとする。
が、丁度胸の部分に触れてしまい、柔らかな感触にすぐに手を引っ込めた。
「ちょっ、待ってください。女性がそんな事を……」
「やだ。もう時間がないかもしんないだもん。
ボク、日本ちゃんが欲しい。日本ちゃん大好きなんだもん」
少し興奮した表情で、彼女は少し腰を上げる。
着物をたぐりあげ、小さな下着を脱ぎ捨てた。
まだ生えてもいない幼い割れ目に彼の瞳は釘付けになった。
生唾を飲み込む音が部屋に響き渡った。やや息も荒くなって、彼の下着の先端部分に染みができてくる。
「知ってるよ。これ、喜んでくれているんだよね。
ボクの中に入れれば、もっともっと喜んでくれるよね。昔のようにさ」
彼の下着をずらし、元気になったモノの頭を指で撫で、それからもう一度腰を浮かせた。
「女性ならば身体を大切に……っ!」
狙いを定め、腰をゆっくりと下ろしていく。
彼の頭に叩き込まれる快楽という感触。
かなりきついが、それ以上に非常に気持ちよい。
「ん……ふぁ……日本ちゃん、ボクの事、忘れちゃ……やだよぉ……んっ」
大きな瞳に涙を浮かべ、健気に腰を動かす。
水音と少女の甘い声が響き渡り。
静止をしようとする彼の唇を奪い、拙い動きで口内を荒らす。
あまり女性になれていない彼にとって、そんな事でもかなりの刺激で。
下半身に熱いものがこみ上げてくる。
彼女が深く飲み込み、根元を強く締め付けてきて。
「……ああっ」
我慢できず、彼女の胎内に精液を出してしまう。
酷い疲労感に意識が白濁してくる。それなのに、溜まった精液は勝手に彼女の中へと送り出され。
「……んっ、日本ちゃん、大好きだよ」
唇に触れる柔らかな感触。
それが彼の最後の記憶だった。
日差しがまぶしい。
珍しく日が差し込むまで寝ていたらしく、小さく身じろぎをし。
寝ぼけ眼でまわりを見回す。
隣で眠りこけるぽち君に頬を緩め。
「って、昨晩の少女は!」
勢いよく起き上がり、部屋の中を見回すすが、少女の姿は無かった。
それどころか、あんな事をしたはずなのに、着物には乱れはない。
きちんと寝巻きに着替えてもあった。
「……もしかして夢……ですか?」
身体のけだるさは気にもなったが、きっと年末の疲れのせいだろうと自己完結し。
大きく背伸びをする。気持ちよい朝なのだから、あまり寝ているのももったいない。――それに――
賑やかな家の中。昨日の皆が仕事を手伝ってくれているのだろう。
「さてっと、では私も動かないといけませんね」
痛む腰を軽く叩き、寝巻きを着替え。
鏡に映された自分の首元に赤い痕があった事に気がつき、首をかしげ。
「こんな時期に虫さされですかね」
あまり気にしない事にして、部屋を出て行ったのだった。部屋の中に響く誰かの足音。少女の笑い声。
『……日本さんの忘れんぼさん』
誰かの声に、ぽち君は大きくしっぽをふってから。
日本の後を追いかけていった。
書き下ろし
座敷童子ちゃんものでした。
建国記念日なので日本ネタ。
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