真っ直ぐに前を見すえる瞳。
まずはそれに惹かれた。
次は美しい姿。古代の神々ですら霞むぐらいの美しさ。
それから強い意志。どんな時も希望を失わず、挑んでくる強さ。
だから手に入れたかった。どんな方法を使ってでも。
一種の初恋だったのかもしれない。
そして――手に入れた。愛おしい彼女を。

「いい様だなぁ。ビザンツ。あんなに威勢が良かったのに、今じゃこんなんか」
男が女性を見下しながら吐き捨てた。
だけれども、女性の瞳には怒りも悲しみも無い。ただ、強い光が宿っているだけ。
彼女の身体を隠すものもなく、無防備な状態なのに、恐れすら見せない気高さ。
背中を走る感触に、ぞくりと身体を震わせた。
やっとこの女性を自分のものにできる喜び。この女性を征服できる幸福感。
少し癖のある栗色の髪を一房とり、口付けしてみた。
初めて彼女に触れられた。緩みそうになる頬をどうにか押さえ、髪に指を通し……
手を振り払われた。
痛みで熱くなる手の甲を軽く撫で、彼女を睨みつける。

「こんな状況でも、逆らおうと言うのか。気ぃの強い女は好きだぜぇ」
乱暴に腕を掴み、唇を奪う。初めての侵攻に早まる心を押さえつけ、じっくりと口内を味わう。
薄い唇を舌で拭い、歯並びの良い歯茎をねっとりと舐め揚げる。
唾液を彼女の中に注ぎ込み、じんわりと自分の領土を広げていく。
柔らかな舌を絡め、上あごを擦り揚げる。

それなのに、全く反応を見せてくれない彼女に、心の奥に苛立ちが募っていく。

いつもならば女の反応なんて気にしないのに。
ただ穴に突っ込んで、胸の感触を味わって、射精して、自分だけで満足して。それでおしまい。
それだけだが、しっかりと女は感じて、淫らに踊ってくれる。
なのに、目の前の女は反応を見せてくれない。

それならば……

「全く、もしかしてあのローマの爺とヤりまくって、不感症になっちまったんか?」
『ローマ』という名前に微かに反応を示した。

当たり前だろう。
ローマといえば、世界の覇者だった男。
彼女との関わりは深い。
やっとこちらに意識を向けてくれたのだから、もう少し。

嘲笑を浮かべ、肩をすくめる。
「あぁんのエロ馬鹿には困ったもんだ。ビザンツを使いものにならんようにしてくれてな。
消えてくれて清々したぜぇ」
こんな言葉をはいたら、殺されても文句は言えないだろう。
だが、彼女の反応が見たいから。
怒りでも良い。自分に感心を持って欲しいから。
鋭く睨みつけてくる瞳。

「あ?もしかしてあのエロ爺の事、まだ忘れられねぇのか?
それならば、俺が忘れさせてやる」
手首を押さえつけ、床へと押し倒した。
柔らかな胸が、押し倒された衝撃で大きく震える。
キスによって刺激されたのか、天を仰ぐ胸の突起を彼は口に含んだ。
舌で転がすと、ほんのりと女の香りが鼻をくすぐる。
少しだけ甘い味にも感じる。

そういえば、息子がいるんだよなと、少し強めに胸を吸い上げる。
ぴくりと身体をふるわせ、彼の頭を押しのけようとするので、更に強く胸を揉みしだく。
舌に触る何かの液体。甘いミルクのような。
「んを?もしかして母乳か?
あのクソガキ、まだかーちゃんのおっぱい飲んでるのか?」
息子に授乳している時はどんな表情をしているのだろうか。
きっと今とは正反対の顔をしているんだろうなと思いながら、突起を指先でつまみ上げる。
刺激があったせいだろう。勢いよく白い液体が迸った。
その母乳は彼のズボンを白く汚す。
辺りに広がった甘い香りに少しだけ眉をひそめ、小さくため息をつく。

「たくっ、汚しやがって。
てめぇ、責任もってきれいにしやがれ」
ズボンを勢いよくおろし、そそり立ったモノを彼女の唇に押し当てた。
男のモノを目の当たりにしても、さほど動揺を見せない。
ただ、薄い唇を強くかみしめるだけ。
「ほれ、お前の愛してる『息子』だぜ。たっぷり愛してやれ」
指で柔らかな唇をこじ開け、モノを押し込める。
噛み千切られても仕方がない行為だが。

「あのクソガキ……ギリシャが母親のこんな姿見たら、どう想うかねぇ」
はっきりと口には出さないが、それは脅しだった。
もし、抵抗するならば、息子をこの場につれてくると言うこと。
そして、息子が連れてこれる状況下にあるということ。
それを彼女も理解したのか、抵抗はせず、口にねじ込まれた異物の感触に黙って耐え続けた。
「全く、美しい親子愛だなぁ」
心から憎らしげに呟き、彼女を抱え起こす。

椅子に腰掛け、彼女は彼の目の前に跪かせ、モノを頬張らせる。
完全に服従の行動……本来ならば。
だけれども、彼女の瞳からは、まだ強い意志が失われていない。
少し気を抜くと、あっさりと殺されてしまいそうなぐらい。

だけれども。
だからこそ良い。

口の粘膜でこすれる音。
苦しそうに呼吸する声。
時折、鼻から漏れる甘い声に、彼の感情は激しく揺さぶられる。
熱病に侵されたような全身のけだる感。
それでもモノはまだ刺激を求め続け。
「いいねぇ〜この感触。
で、口の中と胎内、どっちに出してほしいんだ?」
からかうような彼の口調に、彼女の動きが止まった。
憎らしげに彼を睨みつけると、ここで初めて彼女から動いた。
モノを強く吸い上げ、亀頭を刺激するよう、舌先で舐めまわす。
女に慣れている彼ですら、あまりの刺激に目を固くつぶり、快楽に耐えようとした。
しかし、理性はあっさりと崩壊した。
身体を走る快楽に、彼は小さく呻き声をあげ、彼女の口内に精を吐き出した。
口の中を完全に支配された感触に、彼女は眉をひそめる。
だが、それだけ。
憎々しく精を床に吐き捨てる。
これだけされても、屈服しない心の強さ。

「畜生。本気でいい女じゃねぇか! やっぱり俺のものにしたくなったぜ」
彼女の腰を掴み、後ろから勢い良く男のモノが彼女の聖域へと侵攻した。
最初小さくうめき声を上げただけ。唇をかみ締め、刺激に耐え続ける。
壁に手をつき、崩れ落ちそうになる膝をどうにか押さえ込み。
とうとう聖域に進入されたのに、抵抗も許しを請う事もしない。
ただ、自らを失わぬようこらえているだけ。
だけれども、身体は非常に正直で。
接合部分から溢れ出す濃厚な蜜。あわ立つ音が部屋に響き渡る。
「たくっ、もう少し声聞かせろよや。俺はお前の声が聞きてぇんだ」
いらただしそうに荒く彼女の胸を両手で掴み、更なる刺激を与えた。
乳首から滴り落ちる母乳が床を濡らす。
きゅっと締めてくる感触に、彼は何度も何度も精を解き放ち。
気が遠くなるぐらいの長い時間、彼の侵攻は続いた。
それなのに、愛おしい彼女は一度も彼に気を許すことはなく。

――彼は、もう一度、彼女に恋をした――

だけれども……

まぶしい光が彼の眠りを妨げる。
けだるい身体をどうにか起こし、窓の外を眺めた。
すでに太陽は高く上っており、カーテンの隙間から光がさしている。
傍らで眠っているはずの彼女を抱き寄せ……腕が空回りした。
乱れたベッドの上には彼しかいなかった。
皺だらけのシーツには、昨晩の痕は残っているのに。肝心の彼女の姿はなく。
「ちっ、あいつ逃げやかったんか?」
――いや、それはありえない。だって彼女の息子はこちらに囚われているのだから――
吐き捨てた言葉を思いなおし、もう一度部屋の中を見回し……

『……ギリシャ……ごめんね……』

脳内に響いた彼女の言葉。
そういえばと、昨晩のある出来事を思い出した。
戦いつかれ、深い眠りについている時、頬に当たった温かな雫。
そして彼女の声。

あの時、起きていれば。
あの時、彼女を捕まえていれば。
あの時、彼女に愛を伝えていれば。

「ばーろぉ……馬鹿野郎が……俺が嫌いだからって、消える事ねぇだろぅが!」
最期に聞いた彼女の言葉。
それは恨み言でも許しを請う言葉でもなく。
息子を案じる言葉。
最期の最期まで、彼女の心の中に彼が侵入する事はできずに。

「……ガキなんて嫌ぇだ」

ぽつりと呟いた言葉。
壁に飾られた白い仮面。
今の情けない顔を隠してしまいたいから、それを手に取り、顔につけ……

――そして1453年、ビザンツは歴史から姿を消した――

「トルコ……死ね」
「俺はそう簡単にゃ死なねぇよ。たく、殺したけりゃ、もっと腕を上げてこいや」
剣を手にした少年を踏み潰した状態で、彼……トルコは高らかに笑い声を上げていた。
毎日の光景。ギリシャがトルコにくってかかり、あっさりと叩きのめされる。
あまりにも日常的な光景のため、トルコの部下達は何事もなかったかのように仕事を続ける。
手にした酒をあおり、片手にいた女性に軽く口付け。
「んじゃ、今日もやるとすっか」
踏みつけたままでハレムの女といちゃいちゃし始めるトルコと、不服そうなギリシャ。
しかし、しっかりとその行為をみているのは、性少年だからだろうか。
その視線に気がつき、酒をギリシャの頭の上に注く。
「何する……」
「ほらよ。てめぇもいちゃつきたいんだろ。
おい、こいつを風呂にいれてやんな」
にやにやと笑うトルコの指示に、黄色い声をあげ女性達がギリシャを取り囲む。
抵抗はしてみせるが、腕に当たる胸の感触に顔を赤らめ、すぐに抵抗をしなくなる。
女性たちに引きずられていくギリシャを見送って、トルコは女と口付けをし。
「こんな事してても、アイツは嫉妬なんてしてくんねぇんだろぅな」
ぽつりと呟いた言葉に、女は首をかしげ
「いや、なんでもねぇ。さ、やるか」
胸元に手を入れ、豊かな胸を揉みしだく。
簡単に甘い声を出してくれる女に、苦笑をして寝室へと連れ込んで。

寝室の壁に飾られた白い仮面。
目元から流れた何かの痕は、永遠に消える事もなく











2009/12/15初出
たまには活躍させてみようということで、トルコさんの出番でした。
台詞無し、外見などの細かい表現無しでどこまでできるかを目指してみた。







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