扉を開けると、何故かフランスがいた。
しばらく視線を宙にさ迷わせてから、勢い良く扉を閉め、
「ちょっ、ハンガリーちゃん、それはひどいんじゃないかな」
閉まる扉を手で押さえ、甘い笑顔を浮かべてくる彼に、彼女は満面の笑みを返す。
「とっとと消えて」
笑ってはいるが、凍りつくような恐ろしい声。
そして、どこから出るのか不思議なほどの力で、ドアを閉じ始める。
数分間、その攻防が続き、ふと彼女がある事に気がついた。
「そういえば、オーストリアさんは? ま、まさか美味しく頂いちゃったとか。ハァハァハァ」
よからぬ妄想を繰り広げ始めた彼女と、呆れ顔の彼。
彼は軽くため息をつくと、触りごたえの良い亜麻色の髪を一房とり、軽く口付ける。
「俺は野郎は興味は……美しいは性戯……じゃなくて正義だけれども、
こんな可愛い女の子を前にして、オートリアを食えるわけねーだろ」
耳元にかかる彼の吐息に、頬が熱くなるのを感じたが、どうにか表情に出さないようにした。
さすがは愛の国のフランス。さり気無い仕草ですら、色気を感じてしまう。
だけれども、ここで流されてはいけない。
彼のペースに飲まれたら、ひどい目に合うこと間違いないのだから。
にこにこと微笑んでいる彼とは対称的に、彼女の頬は引きつっていた、
しばし、彼の顔を見つめ……大きなため息を一つ。
「あなたの事ははっきり言って嫌いですが、オーストリアさんの為です。
ところで、オーストリアさんは?」
「そこでぶっ倒れてる」
間髪いれず答えてくるフランスの視線を追い……動きが止まった。
愛おしいオーストリアが床に倒れこんでいたから。
熱くなった頬が急激に冷め、今度は青ざめた。
慌てて彼の元に駆け寄る。
「オーストリアさん! どうしたんですか!」
抱き起こし……彼を取り巻くアルコールの香りに眉を潜めた。
ほんのりと赤くなった頬。軽く開いた胸元からは、妙な色気が放たれており。
「もしかして……」
「ああ。新年だから美味しいワイン持ってきてやったんだけれども……どうも飲みすぎたようだな」
『アルコールが強いワインをあえて持ってきたんだけど』という呟きは、心の中だけで秘めておいた。
「オーストリアが目覚めるまで、俺達も楽しもうよ。なっ」
さり気無く腰に手を回し……フランスの脳天にフライパンが落ちてきた。
もちろん、ハンガリー愛用のフライパンである。
頭を抱え、涙目になっているフランスはおいといて、
彼女はオーストリアをしばらく見つめ続けていた。
息が荒くなり、少々目つきが怖くなっている事は言うまでもない。
「こんな無防備でハァハァハァ。これは襲ってくれといっているんですよね」
暴走寸前のハンガリー。
フランスは痛む頭を撫でながら、ふぅと長く息を吐く。
「俺の目の前でオースリアといちゃいちゃは辞めてくれな。
ああ、そうだ。ハンガリーちゃん、これ新年のプレゼントだ。受け取ってくれ」
投げられた袋を反射的に受け取り……良い音を立て、オーストリアの頭が床と衝突した。
しかし、その衝撃にも目覚める事無く、
安らかな寝息を立てる貴族に、ほっと安堵のため息をついた。
そして袋を怪訝そうに開き、顔をほころばせた。
中には華やかなドレスが一着。派手すぎず、地味すぎず、品の良い美しさをもつドレス。
「これは……?」
「どうせオーストリアはケチ……っと、節制してるだろ。
ハンガリーちゃんは綺麗なんだから、こういうドレスが似合うだろうなっておもったわけさ」
ウインクを一つ。
こういう女性に律儀な所は尊敬はする。
だが、何か裏があるのではと少しフランスを睨んでみたが、
手の中のドレスが気になってしょうがない。
ここまで艶やかなドレスは初めてだから。
「……えっと、少し席外しますね」
浮き足立ちそうになるのをどうにか押さえ、ハンガリーは部屋の奥に消えていった。
途中、フランスがついてこない事を確認しながら。
一人残ったフランスは――泥酔したオーストリアもいるにはいるが――
深い笑みをかみ殺し、ワインを傾ける。
紅い液体に映る彼の瞳には、熱い炎が宿っていた。
「おおっ、やっぱり予想通り似合うね」
ドレスを身にまとったハンガリーが姿を現すと、フランスは拍手喝采で出迎えた。
照れで頬が赤く染まる彼女にそっと手を差し出し、席へと誘う。
最初は警戒していたハンガリーだったが、非常に紳士的に振舞うフランスに毒を抜かれたのか、
楽しそうに彼と話し始めていた。
様々な話。時折昔話も交え、その時間はしばらくつづいた。
フランスの持ってきたワインが次々と空になる。
差し出される度に、ワインの説明をしてくれるので話題に欠く事はない。
どれくらいたった頃だろうか。
不意にフランスが席を立った。部屋の片隅にあるレコードに手を伸ばすと、スイッチを入れた。
部屋の中に響き渡る軽やかなワルツが流れ始めた。
あっけにとられる彼女に手を差し伸べてくる。
「プリンセス、ダンスを」
素敵なドレス、ほろ酔い気分、そしてこの雰囲気で彼の誘いを断れるはずも無い。
少し躊躇したが、小さく息を吐き、肩の力を抜く。
「それじゃあ少しだけ」
彼の手をとり、颯爽と立ち上がる。
音楽に合わせ回ると、ドレスの裾がふわりと風になびく。
時折、オーストリアとも踊りもしたが、やはり女性のリードに慣れているフランスだけあって、
かなり踊りやすかった。
「Vous
êtes
beau♪ やはりハンガリーちゃんは素敵だね」
さり気無く腰に手を回してきたが、今度は抵抗はしない。
ダンスの途中だからというのもあったが、何故か彼の腕が妙に魅力的で。
顔が火照る。身体中に熱が篭る。膝が震える。そして徐々に息が荒くなる。
「あれ? ハンガリーちゃん具合悪そうだね」
動きを止め、彼女の頬に手を当ててきた。
彼に触れられた頬が妙に熱い。
ここでやっと気がついた。この身体の熱さの原因を。
それにフランスも気がついたのか、にっこりと微笑んだ。しっかりと彼女の腰を押さえつけたまま。
「お酒飲んだ後、急激な運動は避けたほうがいいんだよな。ま、遅いか」
すでに足腰が立たない状況に陥っている彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。
突然の行為に最初は何が起こったのか理解できなかったのだが、
彼の舌が進入してきた頃にやっと理解した。
必死に彼から離れようと胸を拳で叩くが、酒が回ったせいだろう。力が入らない。
それどころか、彼が与えてくる刺激と酒のせいで、一人ではまともに立っていられない。
唇から送られてくる快楽に、意識が遠くなっていく。
このまま流されてもいいかと少しだけ心が揺らいだ時。
「……うぅ……ん」
部屋の片隅に転がっているオーストリアのうめき声で目が覚めた。
そう、ここには愛するオーストリアがいるのだ。なのに、こんな男に唇を奪われてしまうとは。
「たくっ、そんな目で見なくたっていいじゃん。
お兄さんとたっぷり楽しもうよ」
唇から離れた途端に出てきたのは、緊張感の欠片もないそんな言葉で。
「馬鹿! 早く離れなさい! ……んぐっ」
罵声の一つでも浴びせようとしたのだが、すぐに再び唇をふさがれた。
無理やり唇をこじ開けられ、何か液体を注ぎ込まれた。
上質のワインの味。しかし、口の中がかなり熱い。
喉を鳴らし、口の中のワインを飲み込んだのを確認すると、彼は唇を解放した。
一度、腰に回した腕を離してみたが、すでに全身にアルコールが回ってしまった彼女は
一人で立っている事はできず、
すぐに彼の胸に倒れこんでしまった。
「ははっ、結構お酒弱いんだね。それじゃ、頂きます♪」
彼に抱きかかえられるが、もう抵抗する力は残っていない。
それでもやっと手を彼の頬に向かって振りかざし。
「はい、到着。ってことで……」
手のひらが彼の頬に届くことはなかった。
ソファーに優しく下ろされ、振りかざした手にキスが降って来た。
酒のせいで敏感になってしまった肌には、そのキスだけで十分だ。
頭を駆け巡る刺激に、甘い声が唇から漏れてしまった。
「可愛いな。もっと可愛い声聞かせてくれるよな」
「誰が……あんた何かにぃ……うぅん」
口では抵抗して見せても、体はすでに準備はできていた。
熱く火照る身体。本当ならばすぐにでも抱いて欲しいぐらいなのに。
新年を向かえ、数々の行事でハンガリーもオーストリアも忙しかった。
だから、しばらく行為を致していないわけで。
今宵こそはと気合をいれてきたはずなのに。
胸元のドレスがずらされ、スカートもめくられる。
肌に触れられるたびに熱い吐息が漏れる。潤んだ瞳で彼を睨みつけた。
「おっ、上品なブラだね。下もおそろいで……もしかして今日ヤるつもりだったのかな」
先ほどとは打って変わり、いつもの変態なフランスの態度に、腹が立ってくる。
それ以上に、彼の手の動きに下半身が熱くなってくる自分が腹ただしい。
乱暴にブラを外され……と覚悟していたのだが、意外に優しい手つきでブラをずらされた。
腐っても愛の国の男というわけか。
露になった胸の突起が空気にさらされる。つんと立った突起に軽く口付けを一つ。
念入りに先端を指で弄り、唇で挟む。
その間に、もう一つの手はスカートの中に進入しており、
清楚な下着の上から執拗に指でなぞり揚げる。
思考が蕩けてくる。指先の動きに意識が集中してしまう。
押さえていた声が少しずつ部屋の中に響き渡り。
「おや、こんなに濡れて……オーストリアがいるのに感じてるのか」
耳元でささやかれる悪魔のような声に、一瞬だけ現実に引き戻された。
片隅で眠り続けるオーストリアの姿。
いつ彼が起きてしまうかわからないのに。
「やめなさ……あぁぁっ、やぁっ、そんな吸っちゃやぁ」
押さえようとしても、逆に声が出てしまう。
抵抗しようとしても、逆に胸に吸い付くフランスの頭を腕で抱き寄せてしまう。
もっと刺激が欲しいから。
「オーストリアの野郎、こんな可愛い声毎晩聞いているのか。ちくしょう、ずるいぞ」
非常に楽しそうに彼女の唇を胸を、そして下半身を攻め続ける。
甘い声が出れば、そのポイントを的確に掴み、更なる刺激を与える。
その動きに翻弄されつづける彼女。
「や、止めて……そこは! ふぁ、もっと指で……はぅ」
徐々に快楽を享受する声が多くなってくる。
とろりとした瞳はすでにフランスしか見えておらず、
大きくめくられたスカートの下はソファーまで濡らすほどに感じていた。
それなのに。
「いいねぇ。その相反する感情。最高に美しいよ。ハンガリーちゃん」
本当に欲しい場所は下着の上からの刺激のみ。
ぷっくりと腫れた豆は痛々しく主張を繰り返しているのに。それにすら直接触ってくれようとしない。
このまま快楽に飲まれてしまえれば気持ちよいのに。
絶頂を迎える寸前で指が動きを止める。
身体の火照りが収まった頃、再び彼の手はなぞり始め。
じれったさに自ら慰めようと手を動かそうとするが、腕を押さえつけられる。
それが何度繰り返されただろうか。
耳元に息を吹きかけられ、大きく身体を震わせた。
「そろそろオーストリアも起きる頃じゃないか? そろそろおしまいにするか」
彼女の体から降りる。やっと解放されたはずなのに、
うかない表情を見せる彼女に、彼は深い笑みを浮かべた。
「なんだい? 言いたい事があるんだったら言ってごらん。
だけど、おにーさん頭悪いから、具体的に言ってくれないとこのまま帰っちゃうからね」
もぞもぞと身体を動かす彼女。何かを口に出そうとし、すぐに飲み込んだ。
ちらりと眠りこけるオーストリアの姿を確認し、こくりと唾を飲み込む。
そして俯いて、頬を赤らめた。
「……もっとください」
「何を?」
とぼけた顔をするフランスをきっと睨みつける。
「あんたのお……おちんちんを入れろっていってるの! 馬鹿!」
感情に任せて大声になってしまい、慌てて口を手で塞ぎ、もう一度オーストリアを確認した。
まだ安らかな寝息を立てている。ほっと安堵のため息をつき。
「どこにいれればいいのかな? しっかりとそこ見せてくれるとわかるんたぜけどな」
卑下た笑いを浮かべる男の頬を殴りつけたい衝動に襲われもしたが、
身体の熱には勝てそうに無い。
下着のリボンを解き、とろりと蜜を溢れさせる花弁をさらけ出した。
「ここに入れろっていってんのよ!」
いつもは強気な女性が泣きそうな瞳で大事な所を露にする姿。
そんな姿はかなり魅力的で。
「やっと素直になったな。じゃ、いただきまーす♪」
魅惑の腰を引き寄せ、膝の上へと誘う。
すでに熱くそそり立った男性器を取り出し、花弁に数回擦り付ける。
蜜を十分に絡ませてから、ゆっくりと進入させ。
「やっ! 入ってくるぅっ! んんっ! ああっ」
身をよじらせ、体中を走りめぐる快楽を素直に受け止める。
すっかりと収まってしまうと、大きく息を吐き、彼女の首もとにキスを一つ。
「やめ! そこつけちゃだ……んっ」
抵抗はしてみたのだが、すでに遅い。首元にしっかりと残された紅い痕。
「馬鹿っ! フランスの馬鹿! んっあっ! そんなゆすっちゃ嫌ぁっ!」
下から突き上げる感触に、甘い声が響き渡った。
もうこの快楽におぼれてしまおうと目をつぶろうとした瞬間、
眠っていたはずのオーストリアと目が合った。
冷水をかけられたかのように背筋が冷たくなった。
慌てて自らの状況を確認する。
半分胸ははだけていたが、オーストリアの位置からはフランスの腕が障害となって見えないだろう。
結合部分は……長いスカートによって隠されている。
しかし……
「オーストリアさん、違うんです! これはフランスが!」
「……フランス……またセクハラですか……後で覚悟しておきなさ……」
言い訳をする間もなく、再びオーストラリアの瞳は閉ざされ、深い眠りに落ちた。
セクハラと思ってくれた事に、安堵のため息をつき。
「よし、んじゃ再開だ。たっぷり突いてやるから」
繋がったまま抱え起こされ、机に手を突かされる。
大きくスカートをめくりあげ、腰を掴まれた。
「はぁ……後ろはい……んっ! ああっ」
激しく後ろから突かれ、もう思考回路は閉ざされてしまった。
ただ、体中を襲う快楽に甘い声を上げ続け。
「そういえば、姫初めって知ってるか? 日本とこで年の初めにやるエッチの事言うなんだけど」
深く腰を押し付けられ、耳元でささやかれる。
「プリンセスハンガリー、今年初めてのエッチは気持ちいいかい?」
悪魔のささやきの声。
それなのに抵抗できやしない。
フランスの手によって、愛する者の傍らで何度も絶頂を迎えさせられ。
女の匂いが漂う部屋の中、男女の交わりは日が変わってからも繰り広げられる。
それでも、そんな事は露知らず、幸せそうに眠るオーストリア。
「やぁっ! またイっちゃ……んんんんっ!」
大きく身体を震わせるハンガリーを抱きしめると、頬にキスを一つ。
ちらりと眠り続けるオーストリアを見つめ、勝利の笑みを浮かべたのだった。
「えっと、その、こんな夜も更けてしまった事ですし、また明日ということで」
「ダメです。オーストリアさんも溜まっているでしょう。だから私が処理してあげます」
彼の前に跪き、まだ大きくなっていない陰茎を愛おしそうに頬張るハンガリー。
いつも以上に丁寧に竿を舐め、吸い上げる。
時折、ちらりと上目遣いで彼の表情を確認し。
「そういえば……その首筋はどうしたんですか?」
長い髪からちらりと見えた首筋の絆創膏を見つけ、首をかしげた。
慌てて手で隠すと、少しだけ瞳を逸らし
「えっとその……虫刺されです。気にしないでください」
少々不自然さを感じもしたが、愛する彼女が自分に嘘をつくはずもないと考え直し、
優しく頭を撫でてあげた。
そして、再び彼女の舌の感触に意識を集中し……
――ごめんなさい。大きな虫に刺されました。フランスという馬鹿虫に――
ハンガリーは心の中で謝罪し、口の中の陰茎を強く吸い上げた。
びくりと反応を見せ、口の中に生暖かい液体が吐き出された。
いつもよりかなり濃い味。一滴も零さぬよう、口元を押さえ、こくりと飲み込む。
陰茎の周りに残った精液まで残さないように丁寧に舐めあげ。
「もう一度どうぞ。今夜はたっぷり飲みたい気分なんです」
罪悪感と酒の影響の頭痛をどうにか隠し、もう一度彼のモノを頬張り……
――明日はフランスの家にお礼参りいかないとね。そりゃもうたっぷりと――
少しだけ昔のやんちゃが戻った表情で、彼女は微笑んだのだった。