真っ直ぐに見つめてくる一対の瞳。
まだ幼いのに、意志の強い光が宿っていて。
しばらく、釘付けになる。その瞳に。
「あれ? ポー、どうしたんだ?」
珍しく静かなポーランドの姿に、ハンガリーは首を傾げる。
「あ、何でもないし。で、あのお子様はどこの誰?」
ハンガリーに連れられてやってきた宮廷。
そこにいるという事はそれなりの位にいる者なのだろう。
ハンガリーは一瞬不思議そうな顔をし、それから小さなため息をついた。
「あの子はヤドヴィガだろ。
ポーとこの王族だ。記憶にねえか?」
「記憶にない」
きっぱりと言い切るポーランドに、ハンガリーはもう一度大きなため息をつき……苦笑を浮かべた。
「ポーらしいな」
それだけで、ハンガリーはさらりと流した。
ポーランドがマイペースなのはいつもの事だ。
あまりつっこんでも疲れるだけだし。
だから、ハンガリーは次の場所を案内しようと先を行き。
不意に少女がポーランドに手を振った。
少女らしい柔らかな笑みを浮かべて。
珍しく戸惑いを見せるポーランド。
彼が国だと、少女が理解できているとは思えない。
だから、目に入った知らない人と認識しているのだろう。
少し躊躇してから、ポーランドも手を振りかえし。
幸せそうに笑う少女の姿に、妙な満足感を得て、
「もっといい国にならんといけないし」
先を行くハンガリーには聞こえないよう、小さく呟いたのだった。
――それがヤドヴィガとの出会い。
それから、二人の距離は段々と近づいていき。
膨れ面でヤドヴィガを見つめるポーランド。
白いドレスに包まれた彼女はとても美しいのだが。
「なー本気で結婚するん?
こんなおっさんと」
「おっさんとは失礼だな。否定はできないが」
彼女の隣で苦笑する年壮の男。
王族に対してかなり非礼な態度だが、男は別段気にする様子は無かった。
なんたって出会った時のインパクトが強烈だったから、これくらいの非礼は軽く笑って流せるのだ。
それに、今日は彼の大切な者を貰うわけだから、不機嫌になるのは仕方がないだろう。
あまり深く気にしない。このポーランドという国を背負って立つにはちょうど良いのかもしれない。
まあ、男の横に立つリトアニアの胃にはいくつか穴が開いてそうだが。
神父が祝辞を述べ……幸せそうな笑みを浮かべる少女と更に不機嫌になるポーランド。
「では、誓いの口付けを」
神父の言葉に新郎新婦二人は向き合い。
「あ、ピンクのドイツ騎士団が踊りながら襲って来たし」
宿敵の名前に、リトアニアを始め、兵士達がざわめき、窓の外に視線を向け。
その隙にポーランドは少女の頬に触れ、唇を素早く奪った。
目を目開き、しばらく何が起こったかわからずに戸惑う少女に、
ポーランドは満面の笑みを浮かべて見せた。
「神に誓うし。どんな事があったって、ヤドヴィガは幸せにしてやるって。
あのおっさんよりも」
不敵な笑みを浮かべるポーランドに、やっと何が起こったのか理解した少女は顔を真っ赤にし。
「んーまあ、今回はしょうがないか。見なかった事にしてやる」
窓の外に視線を向けた振りをしていた新郎はぽつりと呟き、
本日何度目かの大きなため息をついたのだった。
初出 一年ぐらい前?
ポーランドとヤドヴィガ様の二人は好きです。
半オリキャラとなりかけてますが、大公も絡むとすっごく書きやすかったりします。
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