「だーから、あたしんちの方が美味しいんだって!
王妃様の作る料理食べたら、その事わかるって」
「ふふーん。シー君ちの方が美味しいに決まってるですよ。
だから、今日はシー君ちにくるですよ」
やいやいと口喧嘩するシーランドとワイ公国。
原因は料理の美味しさらしいのだが。
正直、どちらにも眉毛の呪い……
いや、イギリスのメシマズが遺伝されているため、あまり美味しいとはいえない。
周りで和やかに眺めているもの達は、何度も突っ込みを入れたくなったが、どうにか押さえ続け。
少女が頬を膨らませる。
意志の強そうな眉毛が顰められた。
「シー君、分からず屋だな。
なんでそんなに強情なの」
それに答えるかのよう、シーランドも頬を膨らませた。
「君こそ頑固なんですよ。
全く、誰に似たですか」
『イギリスだよ』
と、一同は突っ込みかけたが、どうにか言葉を飲み込んだ。
中々面白い対決なのだから、邪魔しては勿体無い。
二人ともしばらく睨み合い……やがてそっぽを向いた。
「ふんだ。シー君何て嫌いだもん」
「それはこっちのセリフですよ。
ワガママワイちゃんなんか……」
気まずそうにちらりと少女の様子を見て……すぐに頬を膨らませ、そっぽを向いた。
完全にこじれてしまったミクロ国家同士。
しかし、傍観者は介入しようとしない。
なぜならば……
長い横ポニーテールが揺れる。申し訳なさそうな瞳でシーランドを眺め、
不機嫌そうな顔をしている少年に、すぐに顔を背ける。
それに一瞬遅れ、少年も振り返る。
こちらは泣きそうな瞳で、何か言いたげに口を動かし。
やはり顔を背ける。帽子を引っ張り、泣きそうな顔を隠した。
次に少女が振り返り……
それの繰り返し。
ある意味仲が良いのだろう。
振り返るタイミングは見事なもので、相手が戻った直後に合わせるかのように動く。
何度も何度も。
あまりに微笑ましい光景に、一同は笑いを押さえきれず、肩を振るわせるものも出ていた。
しかし……やがて振り返る回数が少なくなり。
「…………」
「………………」
沈黙の時が流れ始めた。
時折、少女は瞳を拳で拭うような仕草をする。
少年は段々と俯きはじめ。
「よしっ」
先に動いたのはシーランドだった。
自らの頬を両手で叩き、気合いをいれる。
それから体ごと振り返り。
「ワイちゃん!」
少年の強い声に、少女は反射的に振り返り。
肩を捕まれる。
顔が近づき。
唇に何か当たる感触と、瞳一杯にうつる少年の顔。
「これで水に流すですよ」
唇の感触がなくなり、得意げな少年の顔。
少女は何が起こったのか理解できず、固まっているだけ。
「あれ?
やり方が違ってたですか?
確かイギリスの野郎はこうやって」
首を傾げ、少女を観察する。
動かない少女に、もう一度、顔を近づけ。
――バチン!――
「な、何をするですか!
シー君虐待反対ですよ」
赤くなった頬を押さえ、少年は涙目で叫んだ。
「うるさいうるさいうるさい!
君が悪いの!
何であんな事!」
怒りなのか、羞恥なのか、その両方なのか。
赤くなった顔で少年を睨みつける。
それに只ならぬ空気を感じ取ったのか、少年は一歩後ずさり。
「シー君悪くないですよ!
悪いのはイギリスの野郎で!」
「うるさい!
君が悪い!
あたしの初めて返せ!」
あまりの形相に逃げ出すシーランドと、手を振り回し、追いかけるワイ公国。
微笑ましい鬼ごっこが始まりをつげ。
それを見守っていた者達は苦笑を浮かべてから、止まっていた仕事に取りかかる事にしたのだった。
初出 一年前くらい
ミクロ同士、仲良くしていればいいです。はい。
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