泣き濡れる少年。いつも草原の片隅で泣いていて。
だから放っておけなかった。側で寄り添って、泣き止むまでずっと近くにいて。

「畜生! あいつら覚えておけ!」
いつものよう、頭から湯気がでそうなほどに怒りまくり、イギリスは家へと帰ってきた。
ブラウニーが用意してくれていた紅茶を勢いよく飲み干すと、大きく息を吐いた。
肩の力が抜け、椅子の背もたれに身体を預ける。
「……どうせ、俺は汚れだよ。しかたねぇじゃねーか。
民の為、どんな汚い事をしたって栄えなければ……」
意思の強い瞳が一瞬陰る。寂しげな色が宿り……それから口元に笑みが浮かんだ。
肩が小刻みに震える。瞳を隠すかのように、顔を手で覆い隠し。
「わかってる。俺が正義だ。強いのが正義なんだから。あいつらが弱いのがいけないんだ」
押し殺すような笑い声。寂しい笑い声が部屋の中に響き渡る。

それから彼は無言のまま、ベッドに横たわり、そのまま眠りにつく。
荒れた生活。最近はいつもそうだ。

妖精達がそっと彼のベッドの周りに集まってきた。
彼を起こさないように静かに。
眉を潜め、今にも泣いてしまいそうな瞳。でも、最後に彼の涙を見たのはいつだったのか。
いつも無理やり笑って。泣きそうな笑いを浮かべ。

ピクシーが彼の頬に軽く口付けをする。
幼い頃のおまじない。これをするといつも泣き止んでくれたから。
頬に当たった感触に、少しだけ額の皺が消えた気がした。
ほっと安堵のため息をつく。
ケット・シーが彼の隣に横たわる。柔らかな尻尾が彼の頬に当たるよう。
ユニコーンは足元に。足に顎を乗っけて。
ラナンシーが竪琴で優しい音楽を奏ではじめると、シルフが爽やかな風を操り、音楽を広げていく。
窓の外からは心地よい海のさざ波と、微かに聞こえるマーメイドの歌声。

誰もが彼を愛しているから。
彼の笑い顔を見たいから。
優しい子守唄を奏でる。幼い頃のように。

「ん……あ? 朝か……」
久しぶりに寝起きが良いように感じる。身体も少し軽く……
とも思ったのだが、現実にはかなり重かった。
しかたがないだろう。妖精達が彼の周りに寄せ集まっていたのだから。
いつもは部屋の片隅で寝るはずのユニコーンですら、彼の足の上で気持ちよさそうに眠っていた。
「しかたねぇな。こいつら寂しがりやだから」
横で丸まっていたケット・シーの顎を指で撫でると、ケット・シーは気持ちよさそうに喉を鳴らす。
爽やかな風が部屋の中に吹いてくる。その風に乗り、紅茶の香りが彼の所まで漂ってきた。
どんな忙しくても、しっかりと料理を作ってくれるブラウニーの仕業だろう。
途端におなかの虫がなった。昨晩は紅茶のみで何も腹に入れていなかったから。

そっとベッドから起き上がり……安らかに眠る妖精達を見て、悪戯心が芽生えた。
シーツを掴み、勢いよくひっぱる。
ベッドからずり落ち、何が起こったのか理解できない妖精たちが辺りを見回し。
そんな姿に彼の顔に自然な笑みが浮かぶ。
最初は小さく。そして腹の底から笑い出し。
「ははははっ、す、すまねぇ。あまりにも気持ちよさそうに寝てたから……くくくっ」
笑いは中々収まりそうに無い。
妖精達は、彼のそんな表情に顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべ。

――そして、家の中に笑い声が響き渡ったのだった――






初出 一年前ほど
寂しがりやなくせに表には出せない。そんなイメージです。


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