「ベルギー、俺と遊べ!」
仕事から帰ってきたベルギーを待ち構えていたのは、小さく可愛く、それでもかなり生意気そうな少年。
彼女に抱きつき、にんまりと笑みを浮かべる。
彼女も楽しそうに微笑み、彼を抱き上げて頬ずりした。
「はいはい。お掃除は終わったん?
親分に怒られんうちにやっとこうな」
ちらりと家の中を見て……出てきた時より散らかっている惨状に苦笑を浮かべた。
「またやな。ロマーノ君はやる気はあるんやけど、やり方が悪いだけや。
手伝ってあげるから、さっさと終わらそうな」
慈愛に満ちた笑みを浮かべ、彼の頭をなでてやる。
それから、腕まくりし、大きく息を吸い込む。
「さ、ちゃっちゃと終わらそう」
手際よく片づけ始める彼女の動きを真似し、ぎこちないながらも仕事し始める少年。

それからしばしの時が過ぎ……

部屋の中は見違えるほど綺麗になった。
辺りを見回し、満足げに息を吐く。
「よし。こんでいいやろ。
親分も満足してくれるはずや」
「当たり前だろ。俺が掃除してやったんだ。
これで文句言うならば、頭突きくらわして……ちぎ?」
口の中に何かを放りこまれ、彼の言葉が途切れた。
それをころころと転がすと、口の中に甘い味が広がっていく。
それを放り込んだ人物……ベルギーを見上げる。
彼女はいたずらな笑みを浮かべ、彼の前にしゃがみこんだ。
「お掃除のご褒美よ。
私んちのチョコ。特別やからね」
口元に指を当て、ウイング一つ。
少年はもごもごと口を動かしながら、しばらく何かを考えるかのように彼女の顔を眺め。
突然、彼女の髪の一房を握りしめ、引っ張った。
バランスを崩し、前のめりになる彼女の目の前でにやりと笑い、素早く唇を重ねた。
彼女の鼻を甘い香りがくすぐる。
しばし何が起こったのか理解できない彼女と、満足げに笑みを浮かべる少年。
「俺からもお礼だ。
よし、ベルギー、俺の嫁になってもいいぞ」
生意気なセリフに、固まっていたベルギーの顔が緩む。
くすくすと笑い出し、少年のおでこに軽くキスをしてやる。
「おねしょが治ったら、考える」
「ち、ちぎぃ!
あ、あれはリスのおねしょで俺のじゃねぇ」
顔を真っ赤にして反論する少年が可愛くて、再び笑い出す。
それにつられ、少年も笑い出し……

 

「って事あったんや。
あん時のロマーノ君可愛かったわ」
久しぶりにロマーノに出会い、思い出話に華を咲かせているベルギー。
あの小さかった少年が、こんなに大きくなって。
まるで姉のような感覚に陥るのは仕方がない事だろう。
しかし、当の本人は、昔の汚点に近い昔話をされ、少々不機嫌になっていた。
そんな感情があからさまに顔にでる所は昔から変わっておらず、彼女は更に笑みを深くした。
トマトのように膨れる彼の頬を指でつつき、意地悪な考えが頭に浮かんだ。
少しだけ顔を近付け、すねた顔をしてみせた。
「ね、私の事、お嫁さんにしてくれるって約束したやね。
あれまだ有効?」
彼女の予想通り、困った顔を見せる彼。
言葉を失い、視線をさまよわせる姿が可愛くて、再び笑みを浮かべた。
「あ、もう。ロマーノ君ったら冗談よ。
だからそんな困った顔しない……んっ」
あの時と同じように、彼の顔が近づいた。
唇に触れる感触。
何が起こったか理解できない彼女の瞳を真っ直ぐに見据え。
「俺の方はそのつもりだったが……ベルギーの方はまだ有効か?」
からかうはずが、真っ直ぐな瞳で、真面目に答えられ。
ベルギーは顔を真っ赤にしたのだった。





初出 一年前くらい?
生意気なちびロマーノは可愛いと思います。


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