大きな木に寄りかかり、寝息を立てる。
手足は傷だらけ、肌も髪も荒れた少し幼さの残る少女。
いつも大人びた表情を見せているのに。
「……こういうとこはお子様だよな」
転寝している少女を見つけた男は苦笑交じりに呟く。
まだ太陽は高い。次の作戦まではまだ時間はある。
彼女の隣に腰を下ろし、大きく息を吐き出す。
「全く、馬鹿な奴だ。
俺なんかの為に……普通の女の子としての生活を投げ出すだなんて」
短い金髪に指を通す。さらりと揺れる金色の波。
頬に触れてみる。
くすぐったそうに身じろぎ、すぐに手の感触に幸せそうに笑みを浮かべる。
そっと顔を近づける。吐息がかかるぐらい。
長い睫が、ほんのりとそまった頬が、柔らかそうな唇が。
もう少しで触れられるぐらい近い。
いつもならば、そのまま唇を奪うのだが。
ぎりぎりまで唇を近づけ……眉をひそめた。
どこか寂しそうな表情。顔を離し、大きくため息をつく。

「触れられるわけ……ないよな。お前は聖女で俺は国で」

本当ならばもっと触れたい。もっと深く深く求めたい。
『聖女』である以上、これから先も争いに身をおき……
幸せな生活に戻れる事は無いだろう。
彼女にその立場を捨てさせたい。普通の少女として、生活させてあげたい。
だけれども、『聖女』であったから、彼女と会えたわけで。
矛盾した心の内に彼は寂しそうに笑みを浮かべた。

「どうせ、『聖女辞めろ』っていっても、聞いてくれないんだろうなぁ。
『貴方の為に戦っているんです』って言ってたし」
穏やかな微笑みを湛え、眠りについている少女の顔を見て、
男の肩から少し力が抜けた。
「ま、頬ぐらいおにーさんが貰ってもいいだろ。焼きもち焼くなよ。神様」
眠っている少女の頬に唇を近づけ。
「ん…うぅん」
小さなうめき声とともに、彼女の顔が偶然動き、彼の顔と対峙する事になり。
「っ!!」
唇をかすめた柔らかな感触。微かに感じる甘い香り。
「ふぁ? ……んーっ、あ、すみません。私、寝てしまっていました。
あれ? フランスさん、どうかしましたか? 顔真っ赤ですよ」
大きくあくびをし、目覚めた少女は、目の前で起こっている彼の変化に首をかしげた。
あのいつもおちゃらけている男が、顔を赤らめ、唇を押さえていたから。
何が起こったのか理解できていない少女と、
まるで純情な少年のように顔を赤らめている男。
「あのー、どうかしたんですか? 具合悪いんですか?」
顔を覗き込んでくる少女から、瞳を逸らし、どうにか動揺を押さえようとするが……
動悸は中々治まりそうに無い。

高鳴る胸音が煩い位。
たかがキスの一つや二つ、何て事もないはずなのに。
もっと凄い事だって好きだ。それなのに。
「フランスさん、大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫だから、ちょっとお兄さんから離れて」
心配する彼女に腕を掴まれ、声が裏返ってしまう。更に顔が熱くなる。
必死にその顔を見せぬよう、どうにかごまかし続け。

「あーあ、愛のおにーさんがなさけねぇ。
こんな少女一人に動揺させられるだなんてさ」
彼女に聞こえないよう、小さく呟いたのだった。



初出 約一年前
不意打ちキスでした。
フランス兄ちゃんはジャンヌを前にすると青臭くなってればいいです。



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