「ケセセ! 俺様強いぜ! ハンガリー、俺を讃えろ!」
高らかに笑う少年を睨みつける一対の瞳。
「たく、相変わらず無茶苦茶しやがって。俺が後始末しなくきゃいけないのに」
少年に聞こえるように大きなため息を一つつき、
それから槍の手入れをしようと刃先に目をやり。
「ん? てめぇ怪我してんじゃねーか」
腕に大きな切り傷を見つけ、眉を潜めた。
しかし、少年は傷をちらりと見ただけ。
「あー、こんくらいの傷ならばなめりゃ治るって」
傷口に唾をすりつけ、何事もなかったのように不敵な笑みを浮かべてみせる。
毎日が戦いの彼にとっては、コレくらい傷のうちに入らないのだろう。
「ま、お前のほうが治療には詳しいから、何もいわないけどな」
それでも傷口が痛々しかったのだろう。
彼の傷口をじっと見つめ……不意に視線が彼の顔に移動した。
「口も……怪我してるのか? 血出てるぞ」
言われて初めて気がついたのか、少年は口元を手で拭う。ほんのりと感じる鉄の味。
「あん時やられたか。ちっ、口の中まで切れてるし。あの野郎、今度あったら……んぐっ」
言葉が途中で中断された。唇を塞がれたから。
目の前に広がるハンガリーの顔。
急いで身体を押し返そうとする。
だけれども、胸に触れた途端、柔らかな感触が脳髄に叩き込まれ、
力ずくで抵抗しようという気力が失われた。
まるで口内の酸素すら失われていく感覚。ぬめりとした舌が口内の傷口に触れる。
口の傷口に更に触れようと、身体を押し付けられる。
服越しに感じる柔らかな胸。
ぼんやりとしてくる頭の中、忘れていた事実を思い出した。

――喧嘩ばかりで忘れていたが、こいつも女なんだよな――

初めて、ハンガリーが女だと知った衝撃。それからしばらくはぎくしゃくしてしまったが。
度重なる戦いの中、女という事を徐々に忘れていき。

唇が離れる。
大きく息を吸い、にまっと笑ってみせる彼女に、彼は頬が熱くなるのを感じた。
それを隠す為、そっぽを向く。
そしてどうにか張り詰めていた力が抜けてしまい、地面に座り込んでしまう。
「ば、馬鹿が! なんでお前はそう!」
「あ? 傷は舐めりゃ治るんだろ。一応、俺の為に戦ってくれたわけだし、今回だけはな。
だが、次はこうもいかねぇからな。もっと俺の話を聞け!」
自信に満ちた声で言い放つと、彼女は満足げに頷き、その場を後にした。


その場に残された彼はぼりぼりと頭をかき、大きくため息をつく。
「……女の自覚云々の前に、変なとこで常識が欠けてんだよな」
火照った頬に風が気持ちよい。息を吸い込み……自らの唇に触れた。
自分の唇とは違う柔らかい感触。身体もやはり男のものとは違い。
「……青春だねぇ」
誰かの声に、彼はぴくりと反応した。
急いで周りを見回すと、生暖かい笑みを浮かべた兵士達の姿。

――すっかりと忘れていたが、ここは部屋の中ではなく、外で。
沢山の兵士がいるのも当たり前で。

顔全体が赤くなり、それから真っ青になった。
「ぐっ! お前ら!」
「はっはっは、神聖ローマとか、オーストリアには言わないぞ。
ハンガリーちゃんとキスしてただなんて」
「にしても、生意気なお子様かと思っていましたが、結構可愛いとこもあるんですね」
「美味しいもの見せてもらったぜ。ごちそーさん」
次々と投げかけられる兵士達のおちょくりに、瞳に段々と涙がたまっていき。
「畜生! てめぇら覚えてろ!」
「ああ、しっかりと覚えておくからな。ちゅーの事」
涙をこらえ、駆け出す時の捨て台詞すらもしっかりとからかわれる。
だから彼は顔を更に真っ赤にし、その場を後にした。

和やかな笑いがこぼれる。
毎日が戦いだというのに、殺伐とした雰囲気にならないのは。
「全く、あいつらと一緒にいると飽きねぇな」
誰かが呟いた言葉に、一同は大きく頷いたのだった。


 





初出 約一年前
拍手第一弾なちびプロイセン×ちびガリーさんでした。
ちび達は騎士や戦士達にかわいがられていたでしょうね。


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