賑やかな会議室。
いつものように暴走する者達を眺め、ドイツは大きくため息をついた。
毎回の恒例行事。あまりにも恒例すぎて、怒鳴るのも飽きてきた。
相変わらず酒で暴走するイギリスとか、男女問わずセクハラをかますフランスとか。
もう少し暴走する予定だろうから。
「……まあ、もう少ししてからにするか」
大きくため息を一つ。今注意したところで騒ぎが大きくなるだけだろうから。
目の前の書類に目を通し……
手に触れる柔らかな感触。
その正体を探ろうと、書類から顔を上げた。
そこにはほんのりと頬を染めるリヒテンシュタインの姿が。
手に触れたのは彼女の白い手であり、潤んだ瞳で彼を見つめていた。
彼女と付き合い始めてそれなりになる。
だから、この表情をした時、何をして欲しいかは理解している。
――しかし――
「リヒ、こんなとこでは流石に」
周りに聞こえないよう、小さくささやく。
こんな場面見られては、ある意味彼の命の危機なのだから。
でも、彼女は拗ねた瞳でちらりと見て、静かに目をつぶった。
「あーあ……」
しばし彼は迷った。彼女の可愛いお願いは聞いてあげたい。
だが、このような場所でやるには抵抗がある。
固まる彼。しばし時間が過ぎ。
「ドイツ様……私の事、嫌いですか?」
寂しそうに言い放つ少女の表情に、彼は覚悟を決めた。
まだ騒いでいる一同を眺める。
丁度、皆の視線がセーシェルにカジキアタックを食らっているフランスに集中していた。
――今だ――
瞳を閉じている彼女の頬にそっと手を沿え、顔を近づける。
頬が熱い。何度やっても慣れない気恥ずかしさ。
ふっくらとした唇の感触。ここでは軽い口付けだけ。
「……ん」
唇が離れた途端、小さな可愛らしい吐息が漏れた。
それだけで襲いたいという欲望に負けそうになるが、理性でどうにか押さえ込み。
ソレを見つめる一対の瞳があったのに彼は今気がついた。
何も言わないが、口元ににやにやとした笑みを浮かべている。
途端に彼の顔が青ざめた。
弁解をしようとするが、中々言葉が出ない。
ただ黙っている観察者の肩を掴み、がくがくと前後に揺さぶる。
「ああああああ、あれはそのあっと幻覚であってなっ!!」
混乱し、引きつった声で叫ぶドイツに、一同の視線が集中し。
「えっと、だからその、違わないが違うんだぁぁぁっ」
珍しいドイツの困惑した叫び声。それでその日の会議は幕を閉じたのだった。