「こいつが弟のヴェ……ドイツだ。
俺に似て可愛いだろ」
プロイセンが彼を連れてきたのは、突然だった。
兄貴風をふかし、誇らしげに皆に見せ回る姿はどこかほほえましくて。
少し照れた顔をしながらも、冷静を保とうとする彼もどこか可愛らしくて。
悪戯心が湧いたのも仕方がない事だろう。


「ね、ドイツ君の好きなタイプってどんなの?」
ティータイム、遅れてくるプロイセンと、お菓子を取りに行って迷子になってるかもしれないオーストリアがいないうちに、
ハンガリーはさりげなく聞いてみた。
最初は何を問われたのかわからない様子で、まばたきを数回し、すぐに質問の内容を理解して顔を赤く染めた。
体格のよい男が頬を染めるだなんて予想もしていなかったが、意外な姿に彼女は頬を緩めた。
「あ、ごめんさないね。ドイツ君。
不躾な質問だったかしら?」
「い、いや……気にしないでくれ」
視線を逸らし、冷静を保とうとしたのだろう。コーヒーに手を伸ばした。
だが、かなり動揺してしまい、手を滑らし、コーヒーを膝の上にこぼしてしまった。
あまり熱くなかったのか、眉をひそめただけで懐からハンカチを取り出す。
だが、彼女も同じ行動を起こし、少しだけ早かった。
「火傷してない?もう、結構ドジなんだから」
手早くコーヒーをふき取ると、微笑んで彼を見上げる。
そんな彼女にどう反応していいのかわからず、彼は顔を逸らし立ち上がった。
彼女の顔をなるべく見ないよう、背を向け、先ほど取り出したハンカチを机の上に置いた。
「すまない。今度新しいハンカチを買って贈らせてもらう。それまで俺のハンカチをつかってくれ。
返却は結構だ」
ただそれだけ言うと、そそくさに部屋を痕にした。
途中、遅れてきたプロイセンに呼び止められもしたのだが、視線を合わさず、謝罪の言葉のみを口にし、家へと戻っていった。
「ぶー、ヴェストってばつまんねぇなぁ。折角可愛がってやろうと思ったのに」
つまらなそうに机の上につっぷすプロイセンのあたまを軽くはたきながら、彼女は少しだけ笑った。
しっかりと彼にもらったハンカチを握り締めながら。


 

「出逢った頃のドイツ君って、人との付き合い方に慣れていない感じがして可愛かったなぁ」
「今だって可愛いだろうが。俺の弟が可愛くないはずがない」
次々と褒め称える二人に、彼はむっつりとした顔でコーヒーを傾ける。
「しょうがないだろ。兄さん以外の人に会ったのはあれが初めてで」
「今もちょっと不器用よね。人付き合いは」
からかうような彼女の言葉に、視線を逸らし、空になったカップに新たなコーヒーを注ぐ。
少しだけ手が震えているのは動揺しているのだろう。
わざとらしく時計に視線を向け、ため息を一つ。
「オーストリアはまた家の中で迷子か? それにイタリアもまだ……」
「オーストリアさんはさっき台所からこちらに向かっていたから、そろそろ着くと思うわよ。
イタちゃんはシエスタ終わった頃だからきっとそろそろ」
「それだったらイタリアを迎えに行くか」
きっとこの微妙な空気から抜け出したかったのだろう。席を立ち、足早に部屋を後にしようとし。
「あ、私も迎えに行くわ。まって。ドイツ君」
彼女も席をたち、彼の後を追いかけてきた。
淡々と歩みを続けるドイツ。
やや早足だが、いつもよりは遅い。それは彼女がついてきているからだろう。
大きな背中を眺めながら、あの日と変わらぬ後姿に自然と笑みが浮かぶ。
「……そういえば」
ぽつりと呟いた彼女の言葉に、彼の足がぴたりと止まった。
振り返る彼の瞳を真っ直ぐに見つめ、満面の笑みを浮かべて見せた。
「結局さ、あの日の質問にまだ答えてもらってないよね。
ドイツ君の好きな女性のタイプってどんなの?」
「なっ!」
顔を赤らめ、言葉に詰まる姿に、初めて出逢った日の事が鮮明に思い出され。
「やっぱり、ドイツ君って可愛いね」
彼女の言葉に、彼の顔は更に赤くなったのだった。





初出 一年前くらい
初めての出会いでした。
ドイツ=神聖ローマか、それとも否か。
未だに謎なんですよね。


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