「雪〜雪雪雪〜ゆきです〜」
一面の雪景色に目を輝かし、小麦色の肌の少女がかけていく。
しかし、すぐに身体を震わし、戻ってきた。
室内に入り、暖炉の前で暖を取ると、再び白銀の世界へと駆けていく。薄着のままで。
そんな光景を窓の中から見ていた男は大きくため息をつき、かけてあったコートを手に取った。
外の空気は肌を切るように痛い。だが、男にとってはいつもの事で。
雪なんて見慣れて、逆に今となっては少々厄介な存在なのに。
雪に喜ぶ少女に、微かに頬を緩め。
頬を赤くし、雪だるま制作に入っている少女の背後まで歩み寄る。
ぱさっと手にしていたコートとマフラーを少女の頭にかけてやった。
「……ん、着れ」
「うぃっ、ありがとうございます。スウェーデンさん」
強面の顔にひるむ事無く、満面の笑みで返してくれる。
コートを身に纏い、再び雪だるま作りに集中し始めた。
しばらくその横で立ち尽くし、空を見上げる。
どんよりとした空。空から舞い落ちる白い雪。
いつもならば今後の荒れ具合を予想し、対策を講じるだけ。
こんなに穏やかに雪が舞いちる様を見てられるだなんて思ってもいなかった。
段々と出来上がっていく雪だるま。
少女は初めての雪だるま制作に苦戦しているようで、何度も何度も首を傾げる。
ちょこまかと周りをまわり、前後左右から形を確認し。
気にくわなかったのか、再び雪だるまに手を加え始めた。
この調子だと、雪だるまが完成するのは時間がかかるだろう。
「……んなら」
頭に降り積もった雪を振り払い、彼は家の中へと戻っていった。
コンロに火をつけ、片手鍋に赤ワインを注いでいく。
穏やかな湯気が立ち上った所で、火を止め、厚手の耐熱グラスに注いでいく。
電灯に照らされ、赤い波がゆらりと揺れる。
そこにアーモンドとレーズンを入れ。
「ふぁ、くしゅっ!」
窓の外から可愛らしいクシャミが一つ。
頬を緩め、二つのグラスを手に庭へとでていった。
くしゃみ一つしても、鼻の先を赤らめたまま、雪だるまに最後の仕上げをし始めていた。
手にしていた手袋は、すでに雪だるまに装備されており、彼女の手は真っ赤になっている。
雪だるまを見ながら、満足げに何度も頷き。
「飲め」
背後から彼女の頬にグラスをくっつけてみた。
「ひゃぁぁっ」
大きく肩を震わし、慌てて振り返る彼女に、彼の瞳は細められ。
すぐに顔を背けた。
彼にとっては微笑ましくて目を細めたつもりなのだが、他から見れば睨みつけているようにしか見えないと思われやすいのだ。
彼に臆する事なく、接してくれる彼女を失いたくないから、視線を逸し。
――だが――
「ありがとうございます。スウェーデンさん。
うあぁ〜ぬくいです。幸せです」
彼の恐れとは裏腹に、彼女は無垢な笑みで彼を受け止めてくれた。
幸せそうに温かいワインを傾け……動きの止まっている彼に気がつき、首をかしげた。
「どうかしたんですか?」
「ん、なんでもね」
照れ隠しなのだろう。再び彼女の背後に回り、コートの前をはだける。
そして彼女を胸に押し付け、コートで身体を包み込んだ。
一瞬だけ不思議そうな顔をみせるが、すぐにコートの温かさに頬を緩めた。
「ふぁ〜ぬくぬく〜スウェーデンさん優しいですね」
「俺が優しい? んなごと……」
無邪気な彼女の言葉に反論しようとするが、言葉が途切れる。
顔を赤く染め、彼女の頭の上に顔を乗っける。
――彼女の真っ直ぐさはかなりの武器だなと思いながら、火照った顔を見られぬよう、彼女を抱きしめる手を更に強めたのだった。
初出 一年ぐらい前
というわけで、スーセーでした。
セーちゃんならば、スーさんに会った時、
最初は素直に『怖!』といった後、すぐに慣れてくれることでしょう。
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