「へぇ、君んトコでもフィッシュ・アンド・チップス人気なんだ」
「当たり前だろ。俺の家で作られた料理なんだから」
楽しそうに台所に立つイギリスとワイ公国。
手に様々な調理器具を持ってはいるが……
「んしょっと、パイ生地ならば任せて。王妃様のお手伝いしてたから」
少女はオーブンを覗き込む。得たいの知れない黒い物体が沸騰し、辺りに瘴気を放ち続けていた。
「俺のフィッシュ・アンド・チップスを食って腰抜かすなよ。最高に美味いからな」
やはり黒い物体が油の中で浮き沈みしている。油の色さえ、怪しげな色に変化しているのは幻ではないだろう。

……一見、何かの実験をしているようにも見えるのだが、一応は料理をしているらしい。

「さてっと、出来上がったよ。王妃様直伝、ミートパイ」
自身ありげに机の上に広げられたミートパイらしき黒い物体。
一応は固体になっていたが、だいぶ焦げ付いている。
「俺もできたぞ。フィッシュ・アンド・チップス。特製タルタルソースをつけて食え」
こちらも同じく、フィッシュ・アンド・チップスらしき黒い物体。
よくもまあこんなに焦がす事ができたというべきか。

だが、当の本人達は満足げにその物体を切り分け、机に並べる。
「ワイもエールでいい……っと」
幼く見える彼女にアルコールを勧めるのは紳士的でないと感じたのだろう。軽く咳払いをし
「紅茶にしておくか。いい葉が手に入ったから」
「子供扱いしないで。あたしはれっきとしたレディよ。
でも、紅茶の方がいいな」
手際よく紅茶を入れ始めるイギリスの姿を、頬杖をつき、ゆっくり眺める。
洒落たカップから白い湯気が立ち上る。
ほんのりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「ほら、できたぞ。熱いから気をつけろ」
さり気無い気遣いに、彼女はころころと笑いを零す。
つられて彼の顔にも笑みが浮かび……紅茶を片手にお茶会が開かれた。

話すのは自分の国の事やらいろんな美味しいものの話題。
黒い物体もおいしそうに頬張り、それでも話題は尽きず。

「……そういえばさ」
ミートパイの最後の一切れを飲み下し、彼女はぽつりと呟いた。
彼女の話を聞こうとカップを置き、真剣な眼差しで顔を見つめ。
「こうやって手料理つくりあって、お茶したのって初めてかもしんないな。
ほら、あたしんちの料理って皆に美味しくないって言われてるし」
彼にも覚えがあったのか、苦笑を浮かべた。
「ばーか。俺直伝の料理が美味しくないわけないだろ。
俺の妹のようなもんだから、俺の料理の腕を持っているはずだし」
手を伸ばし、頭をくしゃりと撫でてやる。
最初は幸せそうに頬を緩めたが、すぐに我に返り、頬を膨らませた。
「レディの頭撫でるのって失礼だよ」
「わーった。悪かったよ。んじゃ、もう一杯紅茶いかがですか? レディ」
「貰う。今度はミルクティがいいな」
「了解です。レディ」
笑いながら、席を立ち、彼は台所へと向かった。

大きく見える彼の後姿に少しだけ頬を赤らめ、すぐに大きく頭を横に振る。
「違う! あたしが好きなのは国王なの! あんな眉毛なんて」
「誰が眉毛だ!」
台所から聞こえてきたツッコミに、あっけに取られ。
それから彼女は声を上げて笑い出し。


その日から、二人だけのお茶会が開かれる事が多くなったりもしたのだった。




初出 一年ぐらい前
眉毛一族のイギリスとワイちゃんでした。
眉毛だけでなく、素直じゃない所もそっくりだと思います。



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