「ん……待ってほしい」
ここにきて、初めてギリシャがはっきりと発言した。
一同は顔を見合わせ、進行役のアメリカに指示を促す。
「あー、ギリシャ。何か言いたい事があるんだったらどうぞ。
だが、そう簡単に審議はくつろがないぞ」
「それを言うならば、覆せないだろ」
さり気無いイギリスの突っ込みは気にも止めず、アメリカはギリシャに視線を向け。
「……この資料を見てくれればわかる」
いつの間にか手にしていた資料を配り始めた。
一同はそれに目を通し……言葉を失った。
その資料とは、各国の性交渉に対する調査だ。
それに乗っていた結果に数人の目が泳いだのを、ギリシャは見逃さなかった。
「俺が回数多いのは認める……でも、特記する点は……スイスとオーストリア」
ずばり言われた二人は、金魚のように口をぱくぱくと動かし、
「わぁ〜オーストリアさんって、紳士に見えて、SMとか道具使うんだね」
いまだにイカ墨パスタなイタリアがさらりと言う。
その横で、ドイツが何かを思い出したかのように呟いた。
「そういえば……たまに俺の部屋から手錠とか縄とかが消えてた時もあったな。ついでにそういう映像資料も」
もうすでにドイツのSM好きは知られているため、誰も突っ込みはしなかったが、
いつの間にか戻ってきていたプロイセンが、何かをいいかけ、口ごもり首を横に振った。
「それに……経験人数がとてつもないてすね。約30人ですよ」
「ちょっと待ってください! さすがに30人は……」
フィンランドの素直な突っ込みに、オーストリアはなにやら考えながら指を折り曲げ
「あの時の幼女は、まだ入れてなかったからセーフとして……その数はまだ超えてませんよ!」
「ちょっと待て。幼女ってのはなんだ!」
反射的にキューバが突っ込み、オーストリアの目が再び泳いだ。
「まあ、いろいろ結婚してたし、たくさん部下抱えていたから、しょうがないよね」
「そうだねぇ。そんないたら、可愛い子みんな食べちゃってもしょうがないよね」
『ねぇ〜』
ほのぼのとカナダとフィンランドが顔を見合わせ、声をそろえる。
にっこりと笑っている割には、目は笑っていないのが少し怖いところだ。
「あーとえっと……た、たまに名前が出てきているロシアはどうなんですか!」
どうにか話題転換しようとして、ロシアの名前を出す。
……が、ロシアは微笑み、
「エッチが好きで何が悪いのかな? それに、僕は普通のしかしないし」
「その普通が意外と普通じゃ……」
後ろでラトビアが何かをいいかけ、エストニアが口を手でふさぐ。
だが、もうすでに遅し。首根っこをつかまれ、部屋の外へと引きずられていく。
涙するエストニアも、いつの間にか部屋に戻ってきていたロシアにがしっとつかまれていて、やはり外に引きずられていった。
唯一逃れたリトアニアが、安堵のため息をつく。改めて手元の資料をボーっと眺め、
隣で馬鹿笑いをしているポーランドにたずねた。
「そーいや、ポーランド、君も名前のってたね。あーと、前戯にかける時間がどーのって」
純粋なのか、少し顔を赤らめるリトアニアを指差し、ひとしきり笑うと、急に真顔になった。
「女の子を楽しませるのは基本だし。女の子を大事にするのは、男の役目じゃね。
女の子の方が色々負担大きいし、中に入れるだけがセックスじゃないしー」
口調は軽いが、真剣に女の子の事を考えている親友に、少しだけ心が温かくなり
「やっぱり、入れる前の恥じらいの顔が良いじゃん。ウクとかベラとか、胸とかいじるときが妙にエロくて」
「ちょっ! ウクライナさんはともかく、ベラルーシちゃんと!」
前言撤回。やはりポーランドはポーランドだった。
妙な殺気が親友ズに流れ始めたのも一興。
更に、オーストリアが冷や汗をかきつつ、救いを探しているのも一興。
そして……
「ん、どごいくん?」
騒ぎの中、そっと抜け出そうとしていたスイスを、スウェーデンが目ざとく見つけ、声をかけた。
いっせいにドアの方を見る一同。
「HEY、何処行くのかな? スイスー」
「……妄想、自慰、週一の自慰、前戯……ナンバー1ばかり」
楽しそうに笑うアメリカに、ぼそっとスイスの遍歴を述べるエジプト。
「はははは! ギリシャなんぞに勝っちゃ、どーしようもねぇな」
トルコが手を叩き、笑い声を上げる。
スイスの顔は見る間に赤くなっていく。手の振るえが激しくなり、ぎゅっとライフルを握り締めた。
「ぐっ、わ、我輩だって、好きでそんな事ばかりしているわけではない!
リヒテンシュタインが大事すぎて、前戯だけで終わってしまったのは紳士的であろう!
それにそれ以降、どうしても手出せなくて、リヒテンを相手にした想像で毎日満足するしか……って!」
壮大に自分の一人楽しすぎな性生活を披露してしまい、自爆したスイス。
一同の瞳が、妙に哀れに満ちているのは気のせいではないだろう。
「……リヒちゃん、俺んちで保護しよか?」
「いや、この野郎に預けると、あっという間に食われるからやめとけ!」
「そうですよ。ベルギーさんも毎日食われてるですよ。それもいろんな方法で。シー君、見たことのない技豊富でした」
「だから、お前はどこで見ているんだぜ! ……覗きポイント、俺にも教えろだぜ」
途方にくれるスイスを放っておいて、妹の保護先に立候補する親分に突っ込む子分。
それに混ざるのは、妙な覗きを特技としているシーランドと、まだ性年真っ盛りな韓国。
そして、無言でスペインの首を絞め始めるシスコンなオランダ。
「……livelyだな」
「だな。全く、落ち着きのない」
騒がしい一同とは一歩はなれ、香港とアイスランドが茶をすすっていた。
「……にしても、お前は亜細亜の中では、意外にエロいんだな」
ランクインしている二項目を指差す。香港は眉をひそめ、不思議そうに言う。
「moodはimportantだ。それに、longでやるには、精力はnecessityだ」
「納得」
「youも初体験の時期がyoungすぎないか?」
別資料の『初体験年齢 アイスランド:15.6歳』という欄を指差すと、アイスランドは肩をすくめた。
「楽しい事は、早くやった方がいいだろ」
「agreeだ。意外に気が合うかもしれないな」
妙な連帯感が一つ生まれたのは、誰にも気がつかれなかったが、ソレはソレとしておこう。
「ふふふっ、皆さん若いですねぇ」
「そうある……若いことは羨ましいある」
完全に枯れ切った仙人と爺が、会議の真ん中でのほほんする。
この区域はまるで別世界のような空気が流れていた。
特に日本はぶっちぎりで様々な最下位を独占しつづけているのだから、口の挟みようがない。
「にしても、日本、枯れすぎじゃないあるか?」
中国の言葉に、悟りきった顔で、静かに首を横に振った。
「いいえ。まだまだ萌えてますよ。二次元方向には」
勇者のような微笑に、中国は昔の日本を思い出す。
古代から、引きこもってみたり、動物を擬人化してみたり、幼子を慈しんでみたり、
様々な萌えを見出してみたりと、今と変わらぬ体質に、納得した。
「ああ、日本は日本だったあるな……」
「恐れ入ります」
何千年付き合ってみても、どうも付き合い方がわかりにくい日本に、
中国は今日何度目かの大きなため息をついたのだった。
「って事で」
いきなりの大声に、各場所で喧々囂々していた各国は口黙り、その声の持ち主を探す。
それはすぐに見つかった。
白板の前で、生き生きとした表情で肩を抱き合っている二人の男。頭には大きなたんこぶ。
「世界のエロ担当は、お前に譲る! オーストリア!」
眉毛がさわやかに微笑むと、いまだ冷や汗をかきつつ、言い訳を探しているオーストリアを指差す。
「そして、お兄さんの代わりに、エロを振りまいてくれ。スイス」
薔薇を一輪投げつけると、呆然としているスイスに突き刺さった。
指名された二人は、まるでからくり人形のようにぎぎっと首を動かし……
『嫌(です・である)!!』
見事なほど、声がはもったのだった。
――そこからはまるで混沌だった――
慌てる貴族が弁明しようと口を開いたのがきっかけとなった。
「ちょっと待ってください! そんなのいりませんって!
ああ、こんなことならば素直に幼い頃のリヒテンシュタインをもいただいておけば30人は超えたのに」
「ちょっと待つである。
先ほどの幼女というのは、貴様に仕えていた頃のリヒテン……あの頃にはハンガリーもいたであろう!」
「ヴェ〜……やっぱり、ハンガリーさん、ロリコンの気もあるオーストリアさんに渡したくないな」
「juvenileでやるのはhappyだ。そーいえば、まだ未熟な台湾は中々deliciousだったな」
「台湾が初めてじゃなかったのは、お前か! 謝罪と賠償を要求するんだぜ!」
「ハンガリーの初は俺様だぜ……って、そうだったら、どんなに二人楽しかったか」
「……すまん。兄貴。そのハンガリーは……」
「セーシェルの初を奪ったのはだれだぁぁぁっ! この髭か!」
「お兄さんじゃないって。お兄さんだって、もう少し成熟してからにしようと思っていたのに」
「ん、すまん。俺」
「スーさんったら、ウクライナさんだけじゃなく、セーシェルさんも食べちゃったんですか」
「笑ってる場合じゃないですよ! ああああ、ロシアさんを止めてくださぁぁい」
「……ま、いいけど。気分転換にベルギーでも狙ってみようかな。どんな声で鳴いてくれるか楽しみだな」
「ちょまてや! ベルギーは俺んもんやぁぁっ!!」
「ベルはおメぇーのもんでもねェー、俺のモノだ。あのおぼけェぇ恥じらいの姿はイイもので」
「ああ、ベルギーさんって、意外といい声で鳴いてくれるんですよね」
「……なんで知ってるあるか? ラトビア」
「意外にラトビア、手はえぇな。……寂しいから俺も誰かに手だすとすっか」
「キューバさん、先に言っておきますけれど、ベラルーシちゃんだけはダメですからね」
「……ベトナム……肌綺麗。声可愛い」
「そうだよね。日焼けしてるけど、肌綺麗なんだよね。ちょっと傷跡もあるけど、そこも魅力的で」
「エジプト、カナダ、ちょっと俺んとここいや」
「ahahahah……トルコ、二人殺るんだったら、俺も協力するぞ」
「で、お勧めは? 先輩」
「シー君のお勧めはハンガリーとロマーノの野郎ですよ。ばっちり映像編集済みですよ」
「な、ちょっとまて、そんなの何処で撮ってた……ちぎぃぃっ」
「で、日本は誰がいいし?」
「二次元万歳」
カオス過ぎる会議室。その片隅で、元凶となったギリシャが猫とともに眠りこける。
微かに眉を動かし、小さく
「……煩い」
それだけ言うと、再びまどろみの中に入り込み……
バァァン!
混沌の扉は開かれた。
一同は、ドアの方に目をやり……瞬間的に凍りついた。
そのドアの外には……にこやかな笑みを浮かべている女性陣がいたからだ。
頬を膨らませ、目じりに涙を浮かべる台湾が最初に口を開いた。
「……皆さん、ひどいです……」
きらりと手に持っていたお玉が光を放つ。
「とりあえず、くたばってろです」
冷凍カジキを肩に抱え、にこやかに物騒な事を言うセーシェル。
「お休みの時間ね」
鋭い光を宿したベトナムが大きな弓を構えた。赤い唇が妙に色っぽい。
「ゆっくり休みなはれ」
身体には似合わぬぐらいの大剣を構えるベルギー。
「……殺す」
数本のナイフがきらりと光る。ベラルーシのスカートの中にもまだナイフはあることだろう。
「えっと……ちょっと調子乗りすぎだと思うかな」
温和な笑みのまま、クワを構えてみせるウクライナ。
「……何も言い残すことありませんよね」
兄の家から持ってきたのだろう。小型のライフルを構えてみせるリヒテンシュタイン。
そして……隠すことなく、殺気を放ち続けるハンガリーが一歩前に出た。
手には槍を持ち、戦闘モードに切り替わっている。
「小便は済ませたか、神様にお祈りは?
部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
顔は笑顔なのだが、声は震えるほど恐ろしい。
男達は一歩二歩と、後ずさり……
そして、部屋に響き渡る男達の叫び声。
――その後の男達はどうなったかは……誰にもわからない。
まあ、ギリシャだけは、猫にまみれたまま、何故かいまだ幸せな夢の中なのだが。
2009/05/24初出
http://www.sex-times.net/hakusyo2.htmlより、エロ代表二人よりも、
ちょっと堅物のオーストリアとスイスの結果が面白い事になっていたので。
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