「バカ野郎! てめぇが全部悪いんだぁぁぁ」
手当たり次第に物を投げつけてやる。
一瞬、『これ投げたら、片付けめんどくせぇな』と昔の召使い根性も出てきやがったが、無視した。
大きな物は避けながら、へらへらと笑う姿に更に腹が立つ。
「ロマーノ、そんな投げたら片付けめんどいんよ。
それよりも、何でそんなに怒って」
「うっせぇ!お前なんかトマトに頭つっこんで『ふそそ』してろ!」
「いや、ロマーノが涙目でお願いしてくれれば、そんくらいやるけど……ぶっ」
俺の投げたトマトが見事にスペインの顔にヒットした。
ざまーみろ。全部お前が悪いんだ。
彼女をあんなに泣かしてしまったのも、彼女に暴力ふるってしまったのも。
全部全部こいつのせいだ!
こいつがスパンキングなんで変態的なプレイを好まなければ、あの時、俺だって手を出さなかった。
こいつが。こいつが……いつもやってたから、女にやると気持ちいいのかと思って。
だからブレーキがきかず……わかってる。人のせいにしたいだけってーのは。
止められなかった俺が悪いのはわかってるが。
……ちくしょう……
「お?ロマーノ、泣いてるんか?」
「泣いてねぇ!」
近寄ってきたスペインの腹を狙って頭突きを繰り出した。
油断していたらしく、もろに鳩尾に入ったようで、腹を押さえて動きを止めた。ざまーみろ。
トドメとばかりに、俺は空になったトマトの箱をかぶせた。
「ちくしょう!てめぇなんて嫌いだ!」
潤んだ瞳を見られたくない一心で、あいつの家を飛び出し。

 

 


「で、なんで私のところなんですか?」
少し呆れた表情でカップを傾けるオーストリアを睨みつけてやる。
「しょうがねぇだろ! スペインは諸悪の根源だし、フランスの野郎はイギリスと変態対決の真っ最中だったし」
そこでエロ本やら大人の玩具やらを無理やり押し付けられ、二人を叩きのめしたのは心の中だけに押しとどめておく。
「ロシアんとこはいきたくねぇし、中国には鼻で笑われておしまいだったし、日本とこ行ったら、漫画薦められるし」
中国からは怪しい媚薬、日本とこからはエッチの仕方の漫画渡された事は、こいつには秘密だ。
「……女んとこ聞くわけにもいかねーし……俺だって来たくはなかったが、後はお前しか……」
段々と落ち込んできたが、どうにか気合を振り絞り、オーストリアをにらみつけた。
な、なんだ。その笑いを押し殺しているような顔は! ちくしょう! やっぱこいつ嫌いだ!

「仕方がありませんね。そんなに頼られては断る訳にもいきませんし」
澄ました笑みを浮かべ、後ろに立っていたハンガリーを側に呼び寄せた。
手にしていた本を机に置くと、軽く咳払いを一つ。
「まずは女性の心理について、説明をしなければいけませんね」
ハンガリーを膝の上に抱きかかえ、柔らかそうな髪を指で梳く。
ちくしょう、うらやましくなんてないぞ。
貴族に抱きかかえられて、すごい幸せそうな顔を見せてるのなんて、全然羨ましくねーぞ。
……あいつのあんな表情、見たかったのにな。
「女性と付き合う為にはコミュニケーションが大切です。
雰囲気をうまく作らないと、押し倒してもはねのけられるだけですから」
彼女の手を取り、軽くキス。そのまま、お互いの手のひらを絡め合う。
指先がお互いを求めるように動き、一つ、また一つと指同士が絡む。
「慣れれば手を握るだけでイかせる事も可能ですが」
長い指が彼女の手のひらで踊る。
指が動く度にとろけるような笑みを浮かべ、彼に寄りかかる。
指先を手のひらで握りしめたり、マッサージするかのように指の根元を関節で軽く押す。
……手を握ってるだけのはずなのに、何であんなにエロいんだ?
自分の手のひらで試してみるが、全然気持ちよくねぇ。
やっぱテクの差なのか?

「見てごらんなさい。
もうハンガリーはこんなとろとろな表情をして。
……もしかして、ロマーノに見られて興奮してるんですか?」
耳元で囁くと、彼女は顔を赤らめ、大きく身体を震わせた。
「そんな……オーストリアさんの動きが……やぁん」
はっきりと言葉に出す前に、耳朶を唇で挟む。
舌先で耳の縁をなぞり、息を吹き込む。
「耳は情報を入れるための機関。そして、性感体にもなります」
耳の後ろに舌を這わすと、身をよじり、甘い声を出す。
反対の耳を指でいじりながら、俺の方をちらりと見た。
「相手にもよりますが、羞恥も場合によっては快楽の一つになります。
耳元で現状を言葉にしてあげるのも良いかもしれません。
例えば……」
スカートの中に手を入れ……っておいっ! ちょっと待て!
俺の動揺に気がつかず……いや、気がついて、尚且つからかってやがる。
魅惑の場所に進入した指がゆっくりと動く。
その度にちらりと見える白い布。
……パンツぐらいじゃ、どうってことねぇ!
もう少し上、そうそう、そのまま指を立てて。もうちょいで見えそうなんだが。
「もうこんなに濡れて。ロマーノが興奮して見てますよ。
貴女の魅力的な場所を食い入るようにね」
「ばっ!んなこ……」
「やぁ……見ちゃダメぇ」
彼女の甘ったるい吐息で、反論の言葉が途切れた。
恥ずかしそうに彼の手を払いのけようとしているが、全然力が入っていない。
それどころが、彼女の手は彼を更に奥へと導くかのように動く。
だが、その手はあっさりと撤退した。

「もっといじって欲しいんですか?お願いしてくださったら考えますよ」
指先に絡んだ蜜を彼女の唇に塗りつける。
……その蜜は中からすくい取ったのか?それともパンツの上から?
あああ、ダメだ。深く考えれば考えるほど、熱くなっていかやがる。
特に下半身が。
テラテラと光る唇が妙にエッチだ。
腰の辺りを撫でる手がエロい。
切なそうに漏らす吐息が甘くて。
ああもう! 貴族がいなけりゃ、襲ってるとこだが。
……いや、ダメだ。この間も、勢いだけで襲って泣かしちまったじゃねーか。
「で、どうして欲しいんですか?」
ちらりと俺の方を見てから、再び彼女の首筋にキスを一つ。
「ふぁ……お願いします。もっと触ってください」
トロントした瞳で、貴族を見つめ、すぐに俺の視線に気がついて顔を赤面させた。
「とまあ、羞恥でこんなにも濡れる事が証明できましたね。
相手にもよりますが、愛があれば軽い羞恥は萌え……じゃなくて、一つの快楽に繋がります。お互いに
次は実際に交わる方法ですが」
スカートをめくり上げると、彼女の白い清楚なパンツが露わになった。
……いや、清楚かと思ったが意外にエロい。横にリボンがついていて、これをひっぱればあっさりと脱げるようになっている。
これも貴族の趣味なのか?
もうしっとりと濡れていて、貴族のズボンに蜜による染みが広がっていた。
パンツを横にずらし、蜜が溢れる泉へと指を滑らした。
「入れる際の注意点ですが、女性がしっかりと濡れている事を確認してくださいね」
割れ目を指で開いてみせる。指の感触にさらにとろりと溢れ出す蜜。
彼女はスカートで隠そうとするが、逆にスカートの裾を唇に挟まれ、自ら露わにする事になった。
こんな事されても、彼女は嫌がっていない。
むしろ、頬を赤らめ、期待した瞳で貴族を見ていた。
「もう十分に濡れていますね。では……いきますから、ちゃんと見ていてください」
パンツの紐を片方ほどくと、うっすらと茂ったアソコが露わにな……な?

「つるつる……」

思わず声が出てしまった。
リヒテンシュタインもつるつるだったが、あいつはいろんな意味で小さかったから違和感はなかったが、
ハンガリーは前に見たとこき、それなりに生えていた気がする。
貴族はちらりと俺の方を見ると、
「ええ。昨晩剃らせていただきました。
……お仕置きとして……ね」
少し貴族の瞳に殺意がこもっていた気がしたが……気のせいだよな。
あん時、彼女のおっぱいを吸っただなんてこいつに知られてみろ。
弟と共に折檻を受けるに決まってる。
このどS貴族が!
「それに生えていない方が見やすいでしょう。
しっかりと学習してくださいね」
ちらりとハンガリーに目を向けた。
それだけで彼女は何を言いたかったのか理解できたらしく、するりと服を脱ぎ捨てた。
しなやかな白い肌が露になる。少しだけ俺の方をみて……すぐに貴族の前にしゃがみこんだ。
唇でズボンのチャックを下ろし、ぎんぎんになったモノを取り出す。
もう臨戦態勢は整ってるってことか。
……ちくしょう。お坊ちゃん貴族の癖に剥けてやがる。く、くやしくなんかねーよ。……畜生。
貴族の口元が歪む。笑ってるんだろ! ちぎぃ! どーせ俺は包茎だよ! こんちくしょう!!
彼女を膝の上に誘うと、足を大きく開かせた。
「さーて、中に入れますよ。
しっかり目を見開いて、おちんちんがエッチなおまんこにずぶずぶと入っていく様子を観察していてください」
わざとだろう。卑猥な言葉を口に出し、彼女の羞恥をあおった。
顔を赤らめ首を横に振ったが、本当は喜んでいるのだろう。
その証拠に、彼女から尻を持ち上げ、ゆっくりとモノの上へと腰を落としていった。
「ふぁ…やぁん。オーストリアさんのが……んんっ、入っちゃう」
ひどく甘い声が部屋に響き渡る。
股を大きく開き、貴族のモノを飲み込んでいく。結合部が俺の目にはっきりと見えた。
……AVとかで見た事はあるが……モザイク無しではじっくり見たのは初めてだな。
あの小さな穴が大きく開き、モノを包み込んでいく姿は何となく神秘的で。
モノが入るんだったら、子供ぐらいは確かに出てこれるな。
身体が熱くなる前に、妙な冷静さが頭を支配していた。
「この姿勢だと奥まで入って良いのですが……弱点は感じてくれている顔を見れないことですかね。
胸への刺激はやりやすいですが」
大きな胸が貴族の手によって形を変えられる。
その度にとろりと蜜があふれ出し、結合部で水音を立てる。
「ほら、ハンガリー、こちらを向きなさい」
唇を貪り食いながら、彼女の身体を向かい合わせにする。……中に入れたままで。
「ひゃっ、中で擦れて……やぁ」
身体が動くたび、彼女は肩を震わせ声を上げた。
腕を首の後ろにまわし、強く貴族を求める姿は美しく扇情的で。
「しっかりと腰を動かして。そうそう、お利口さんですね」
貴族の言葉に反応し、自ら腰を動かしはじめる。
身体を上下に動かすたびに、大きな胸がプリンのように揺れ続ける。
しかし……こんな状況なのに、何故か貴族は妙に冷静だ。
やっぱヤりなれているとこんなにも余裕があるのか。
「この姿勢だと女性が優位ですね。男が腰を動かしてもいいですけれど」
大きく腰を突き動かすと、彼女の身体が跳ね上がり、
「っ! ダメ! や、イっちゃ……ふぁあっん!」
抱きしめる腕に力が入り、身体が一瞬硬直した。そして大きく息を吐くと、唇を重ねる。
……あれがイくって奴か。とろとろの表情をして。本気で気持ちよいんだな。
あいつは……あん時はイったのか?
精を放つ事だけに夢中で……あいつを気にする事ができなかっただなんて……やっぱ俺、最低だ。

「……ロマーノ? 聞いていますか?」
貴族の声に我に返った。
慌てて声のした方向を見ると、いつの間にか二人はソファーに移動し、横たわっていた。
彼女を仰向けにし、膝頭を押さえる。膝を曲げさせることにより、より深くに挿入できるのだろうか。
大きく一度腰を打ち付けてから、今度はじらすようにゆっくりと動かす。
さっきイったばかりなのに、もう彼女は気持ちよさそうな声を上げていた。
「初心者にはこの体位をお勧めします。これならば女性経験が少なくてもそれなりに感じてもらえますし」
「悪かったな」
そっぽを向きたかったのだが、淫らな彼女の姿に股間が熱くなり始め、動けそうに無い。
ちくしょう……ある意味拷問だぞ。コレ。
「ふふっ、私たちの行為で熱くなりましたか?
女性と交わる場合、あまりに早く出してしまってもいけませんから、一度抜いておくというのも一種の方法ですね」
嫌味ったらしい貴族の言葉。くそー、やっぱこいつなんかに聞きにくるんじゃなかったぞ!
腹が立つが……やはり慣れているだけあって、あんなに余裕で……え?
また位置を変えるつもりなのか?
さりげない動きで彼女をうつぶせにすると、覆いかぶさるよう腰を浮かせた。
その体位はまるで獣同士の交尾のようで。
身体をぴったりとくっつけ……何やら彼女の耳元で何かを呟いた。
驚いた表情を見せ……彼女は俺を手招きした。
何か伝えたいことがあるのかと、彼女に歩み寄り。
「……んっ、ロマーノちゃん、おねーさんにミルク頂戴ね」

え? ちょっ、ま!!

………………
何でだろうか。なんでこうなったのか。
下半身に走る刺激に頭がぼーっとしてきた。
何故かハンガリーは俺のズボンを下ろし、モノを口に含んだ。
後ろから突かれているから、手も使えず口だけのはずなのに……なんでこんな気持ちいいんだ?
「もっと刺激が欲しければ、彼女の頭を押さえつけて腰を振ってもいいですよ。
そういう行為は慣れていますからね」
……それっていわゆる『イマラチオ』ってやつだよな。AVとかで見たことがあったが……
あれってかなり女が苦しいはずだよな。それなのに慣れているって。
少しだけ彼女の顔を見て……すぐに涙目のあの時のあいつを思い出してしまった。
女の泣き顔は嫌いだ。……嫌いなものを作ってしまった自分が一番嫌いだ。
「……ロマーノちゃん?」
心配そうな彼女の声に我に返った。彼女を不安にさせるわけにもいかない。
「なんでもない。……離してくれ」
俺の言葉に彼女は口を離した。それなのにまだ痛々しく反応しているモノ。

……ああ、もう情けねぇ。

彼女に背を向け、床に座り込む。熱くなったモノを自分の手で包み、すり上げる。
口の中や……あいつの中よりは刺激が少ないが、今の俺には十分だ。
こんな最低な男にはこれで十分なんだ。
「……くっ、はっ…ふぁ?」
畜生! なんでか視界が霞んできやがった。熱い雫が床を濡らしていく。
「ロマーノちゃん、泣いてるの?」
「泣いてねぇ! こ、これはトマトが目に染みてるだけだ!!」
瞳を袖で拭い取る。
……どうせ貴族の野郎は呆れた顔で見てるんだろう。
ああ、もうどうせ俺は弱くて情けなくて最低の男だよ!
「全く……折角実演して差し上げたのに、テンションが下がってしまいましたよ」
予想通り呆れた声の貴族。微かな水音と彼女の甘い声。そしてチャックが上げられる音。
「今回はこれでおしまいにしますね。ハンガリー後片付けをお願いします」
そっけない言葉。ドアが開く音。きっと貴族が出て行ったのだろう。
もう一度、目を拭い……
「ちぎ?」
突然、顔に柔らかな感触が広がった。
目に入ってきたのは白い肌。
「ロマーノちゃん、泣いてもいいのよ。ね」
優しい手が俺の頭を撫で……
ダメだ。もうダメだ。
溢れ出す涙が彼女の胸を濡らしていく。
情けないが、涙は止められそうにない。
強く彼女の身体に抱きつく。
「畜生畜生!! あいつを泣かした。泣かしたんだよ!」
「うんうん。そうね……でも、今は後悔してて、こんなにも泣いて……優しいわね。ロマーノちゃん」
頬を暖かな手が包み、額にキスを落とされた。
そのせいで更に瞼が熱くなり……畜生。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
――その日、久しぶりに俺は声を上げて泣いた。

……泣いた後って、どうしてこんなに照れくさいんだろうか。
服を着始めている彼女に背を向け、がしがしと頭をかく。
どういう顔していいのかわからねぇから、まだまともに彼女の顔をみれていない。
「よし、終わりっと。ロマーノちゃんそろそろ泣き止んだ? それとも高い高いして上げましょうか」
「な! もう俺はガキじゃねぇ!」
子供をあやすような言葉に、反射的に振り向いて彼女の方を見てしまい。
……畜生……やっぱ照れくさい。女の前であんなに泣いてしまったんだな。
「よし、いつものロマーノちゃんに戻ったみたいね」
陽だまりのような笑顔を向けてくれる彼女に、思わず釣られて笑みが浮かぶ。
顔を見合わせて少しだけ笑うと、自然と顔が近づき……唇と唇が重な……

――コンコン――

ノックの音に我に返り、慌てて顔を離す。
ちっ、もう少しだったのに。誰だ! 空気を読まない奴は!
ドアを開けて入ってくる人物をにらみつけ、
「すみませんねぇ。お邪魔でしたか?」
嫌味ったらしい貴族の声。何やら手には数冊の本を抱えていた。
俺の前までゆっくりと歩み寄り、抱えていた本を俺の上で……まて!
「ぐはっ」
本の雪崩で潰された俺を一睨みすると、傍らに座っていたハンガリーの手をとった。
「本お貸しします。女性との付き合い方初級編から、性交渉のノウハウ本まで多数あります。
それでお勉強なさい」
ハンガリーの肩を抱き、つぶれた俺を気にすることもなく部屋を後にしていった。
一冊手に取り、目を通す。

――ハンガリー、サービスしすぎですよ。これはまたお仕置きが必要みたいですね――
――えっと……その……たくさんお仕置きお願いします。ご主人様――

ドアの外から微かな声が聞こえた気もしたが……とにかく、本を読むことに俺は夢中になっていた。

「あの……私、何か至らぬ点がありましたか?」
可愛い少女が不安そうな表情を浮かべ、問いかけてきた。
一瞬だけ、頭の中が真っ白になったが、すぐさま読んだ本を反芻する。
どうにかデートに誘い、あの本通りに10分前に待ち合わせ場所に到着……したのは良かったが、俺より先にすでに到着していて、
んで、アマルフィの海岸をのんびりと散歩していたら、海風であいつのスカートがめくれかけたり、
ナポリで軽く飯を食おうとすりゃ、手が滑ってピザをあいつの服につけてしまうし、
慌てて拭こうとすれば、足を滑らせて胸にダイブしてしまい……柔らかかったな。
服を買おうと思ったら、ことごとくサイズがあわねぇ。……特に胸が。
で、ついでに予約していた車に乗り遅れて、バスで次の場所に向かうことになり。
あー……至らないのは俺の方だよ。
「……すまん」
あまりに気まずくてまともに顔を見れやしない。
肩を落とし、とぼとぼと歩き続ける。無言のまま。
その後を必死に追いかけてくるあいつに気がついて、少し歩みを遅くした。
あー畜生。本気で俺はダメな奴だな。こんなにもあいつに気遣わせてしまうだなんて。
白い砂浜をただ歩みを進め……不意に手に当たった何かの感触。
振り返ると、俺の手を恥ずかしそうに握り締めるあいつの姿。
目が合うと頬を赤らめ、微笑んできた。
「これからどちらに連れて行ってくださるのですか?」
一般的な観光地から離れているのだから、疑問に思うのはしょうがないだろう。
こういう時は何か嬉しい。
俺は不敵な笑みを浮かべ、あいつの手をぎゅっと握り返した。
「南イタリアっていったら、青の洞窟だろ。そこ連れて行ってやる」
「え、でもあれはカプリ島に……」
「いきゃわかるって。ほら、ついて来い」
ああ、この不思議そうな顔がたまらない。この顔がアレを見た途端に驚愕の表情に変わるんだろうな。
心踊りながら、俺はその場所へと歩みを進めた。


「ほぅ……」
神秘的な青に包まれ、彼女は感嘆のため息を漏らす。
澄んだ海水が揺れるたび、洞窟の壁に映る青が静かに揺らぐ。
言葉を失い、ただ辺りを見回すあいつ。
そう、この表情が見たかったんだ。
「綺麗だろ。ここ、パリヌーロの青の洞窟は隠れた名所なんだぞ。
カプリ島の洞窟より観光客が少なくてゆっくりできるから、俺は好きだ」
息をする事すら忘れたかのように、静かに神秘的な青を見つめ……
「私も……好きです」
ぐっ!!
真っ直ぐに俺を見つめて言い放った言葉に、息を呑む。
きっと顔も真っ赤になっている事だろう。
い、いや、あいつが好きっていったのは、この青い洞窟の事であって。
畜生! この火照りをとるために水の中に顔を突っ込みたい衝動に襲われたが、ここでやっては雰囲気が台無しだろう。
どうにか冷静さを保ち、深く深呼吸を一つ。
大きく息を吸い、
「ん? んんっ!」
吸ったまま、あいつの顔が目の前に広がった。唇に触れる何か。
すぐに顔が離れ、真っ赤になるあいつの顔。
えーっと……あいつの顔が近づいて、離れて、唇が何かに触れたという事は。
「なななななな!」
混乱し、彼女から少し離れ、
「きゃっ」
……ボートの上という事をすっかり忘れてて、大きく体勢を崩し、あいつを押し倒す形になってしまった。
驚愕したあいつの瞳。手に触れるのは柔らかな肌。シャンプーの香りだろうか、鼻をくすぐる甘い香り。
「すまねぇ……」
しばらくの沈黙後、やっと出た言葉は謝罪の言葉だった。
目を逸らし、あいつの上からどけようと身体を起こし、
「……お願いします」
首の後ろに回された腕によって、俺は束縛されてしまった。
潤んだ瞳で真っ直ぐに俺を見つめてくるあいつ。頬を真っ赤にし、微かに震えていた。
きっと女の方から求めてくるだなんてそうとうの勇気が必要だろう。
そんなあいつの勇気を無駄にするわけにもいかねぇ。ここで跳ね除けたら男じゃねぇ!
まだ午前中なのにとか、人が来たらどうするかとか、船の上でなんて難しそうだとか、
夜に雰囲気のあるホテルでやろうと思っていたのにとか
いろいろ頭の中で問題は出てきやしたが、もうこんな状況ではそんな問題も些細な事だ。
今度は俺から唇を重ねる。きっと拙い動きなんだろうが、それでも精一杯、あいつの口の中を味わう。
瞳を閉じれば波に漂う感覚。瞳を開ければ、幸せそうに俺に身を任せてくれているあいつの姿。
呼吸する為に一度唇を離し、
「あっと……嫌じゃないか? 背中痛くないか? それからえっと」
周りの青い光に少しだけ冷静になった。
俺の身体の下で、健気に俺を見つめていてくれるあいつをもう泣かせたくないから。
小さく頷いてくれたのを確認すると、首筋にキスを一つ。
「ふぁっ」
敏感に反応してくれたのがすげぇ嬉しい。
耳の後ろを舌で舐め、耳たぶを口に含む。
耳をしゃぶるたびに、切なそうな吐息があいつの可愛らしい唇から漏れた。
やっぱり、耳も性感帯になるんだな。貴族の言っていた事が今、はっきりと思い出された。
耳、そして首筋を舐めつつ、胸にそっと触れた。
……くぅ、小さいが本気でやわらけぇ。女ってなんでこんなに柔らかいんだ?
それに……服の上からだってのに、こんなに敏感に反応してくれる。
胸のふくらみに触れる度に、とろけるような声を上げてくれる。
もう少し……もう少し肌に触れたい。
だが、確かあいつの服はワンピース式で、背中のファスナーを下ろさないと肌に触れられない。
……船の上、押し倒したこの状況でどうやれば服を脱がせられるのだろうか。
ちっ、替えの服を選ぶ時、もう少し脱がしやすい服を選んでおけばよかった。
貴族がいたら、『こういう所が甘いんですよ』といわれるに違いない。
頭の中で様々な行動をシュミレーションをしてみて……

「ロマーノさん?」
不安げな表情で俺を見上げてきた。
畜生……また不安そうな顔にしちまった。ああもう、俺はやっぱ駄目な奴だ。
さっきまで気持ちよかった青い光ですら、今は俺をせせら笑っているかのように思えてきたぞ。
あいつは少しだけ笑みを浮かべ、俺の首に腕を回し、
「抱き上げて……ください。そうすれば……下ろしやすいでしょう」
蚊の鳴くような小さな声。……なんで俺は女に心配されてんだか。情けねぇ。
腰に手を回しゆっくりと抱き上げる。座った状態で抱き合うような格好になり。
「……脱がすぞ」
耳に軽く息を吹きかけ、背中に手を伸ばす。
いつもはすっと伸びている背筋が、今日は丸まってしまっている。きっと緊張しているせいだろう。
……ちょっと悪戯してやるか。
指先で背中に線を引き、
「ひゃっ!」
予想通り大きく身体を震わせた。大きく目を見開いて俺の顔を見てくる。
「……ぷっ、くくくっ、す、すまん」
俺の反応にあいつは頬を膨らまし、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
あー本当に可愛い。可愛すぎた! こんちくしょう!
抱き合ったまま、あいつの頬に手を沿え、もう一度唇を重ねる。今度は軽く。
唇から離れても、頬、そして額にキスをしていき、可愛らしく反応を見せるあいつを楽しむ。
背中に回した手でゆっくりとファスナーを下ろしていく。
真っ白な肩、しなやかな背中が露になり、服が下に落ちた。
こんな状況になっても、腕で胸を隠そうとする恥じらいが、俺の中の何かをくすぐった。
耳元に口を寄せ、あいつだけに聞こえる声でささやく。

「……愛している。リヒテンシュタイン……」

お互いに産まれた時の姿となる。
肌と肌を重ね、キスを何度も交わす。
熱くなって暴走しそうな心を、洞窟の青が鎮めてくれる。
前の時は違う。今回は冷静にあいつを抱ける。
全身を指でなぞり、あいつの感じる場所を探り当てていく。
痛々しく尖った胸の先端を唇で転がすと、身じろぎして快楽を表現してくれた。
あまりに素直な身体。
もうすでに大事な所はしっかりと濡れていて。
指で軽く撫でるだけで、蜜を留めなく溢れさせる。
胸を吸う音、蜜を指で絡める音。そして彼女の甘い声。
それらが洞窟に反響し、増幅させる。
結果、一種の羞恥をあおる事となり、
「や……恥ずかしいです……ふぁ」
耳に入る音を遮断しようと、手で押さえようとする。が、耳に口を近づけ、軽くキス。
びくりと身体を震わせ、潤んだ瞳で俺を見てきた。
……大丈夫。今回は気持ちよいだけ。あいつは悦んでいる。
涙に動揺しかけたが、深呼吸し冷静さを保った。
ワレメを指でかき分け、ぷっくりと主張する豆を軽く指でつまむ。
最初は痛みと快楽が混じった表情で俺を見つめてきたが、すぐに鋭い刺激に甘い声を上げた。
蜜を指で掻き出し、ゆっくりと中をほぐしていく。
できる限り優しく。できる限り快楽を与えるように。
蜜壷は呼吸するかのように収縮し、留めなく蜜を溢れさせていく。
……そろそろか。
えっと、中にいれる時の注意点は、あいつの状態を確認しながら……
顔を見ると、あいつも真っ直ぐに俺を見つめていた。目が合うと、小さく頷いた。
つまり準備はできているという事だろう。
震えそうになる手を押さえながら、モノに手を沿え、あいつの蜜壷へ狙いを定めた。
唇に軽いキス。そして耳元でささやく。
「……入れるぞ」
身体を強く抱きしめたまま、静かに腰を動かし……
「……んっ」
今度は小さな変化も見逃がさねぇ。痛みを見せれば動きを止める。
体中にキスを散らし、痛みを快楽へと変換してやる。
そして時間をかけ、ゆっくりと根元まで侵入した。
俺は大きく息を吐き……
「痛くないか?」
「はい……大丈夫です。だから…くぅん…動いてください」
やっぱり痛いのか、少し眉を潜め、俺の身体を強く抱きしめた。
俺の動きを待つ前に、自ら身体を動かし始める。
「ああ、もう痛いなら無理すんな」
柔らかなあいつの髪を梳き、髪先にキス。
目じりに浮かんだ涙を唇で拭い、あいつに負担をかけぬよう腰を動かす。
あいつが感じるよう、あいつが気持ち良いように。

耳元にキス。唇にキス。あいつがさっき感じてくれた胸にキス。首筋にキス。

甘い声を上げてくれるよう、あいつの表情を逐一確認しながら、身体を動かす。
俺自信への刺激は少ないが、それで十分。
今度こそはあいつをイかせてやるんだ。

あいつの息が荒くなる。俺を求める腕が身体を締め付ける。背中に爪が立てられる。

「ふぁ……もう……んっ!!」
……声が一段と大きくなり、大きく身体を震わせあいつは果てた。
これでいい。俺は出せなかったが。出さなかったが。
あいつがイってくれたから、俺はそれで十分。
最後に唇を重ね、俺は腰を引き、モノを取り出そうとした。

だが……

「……ロマーノ様、一緒にいってくれなーいと嫌……です」
いつの間にか腰に腕がまわされていた。潤んだ瞳で俺を見上げてきた。
深い深い翠玉の瞳の中に俺の顔が映りこむ。
「……俺は泣きそうな顔してるか? 情けない顔してないか?」
映りこんだ俺の顔がとても情けなく見えて、あいつに問いかける。
こんな事聞くのが情けないのだろうが。
けれど、あいつは微笑む。女神のような優しい笑みで。
「今までで一番素敵です……」
あいつの瞳から俺の顔が消えた。
だって、あいつの顔が俺に触れているから。唇と唇が重なり。

――俺は理性を失くした。

腰を強く打ち付ける。強く強く、激しく激しく。
濡れた音が洞窟に響き渡る。二人分の荒い息が反響する。
頭の芯がぼんやりとしてきた。
どちらかが手を伸ばし、どちらかがその手を握り。
重なり合う手。

幸せそうに微笑むあいつの顔。
あいつが好きだ。無邪気なあいつが好きだ。可愛いあいつが好きだ。あいつの全部が好きだ。
好きだ。好きだ。好きだ。好きだ。愛してる。愛してる。愛してる。

「……愛してる……ぐっ」
「わ、私も……んっ、愛してます……ふぁっ!」
深く重なった瞬間、俺は精を放ち。
同時にあいつも二度目の絶頂を迎えた。


――お互い背を向けて服をまとう。
大人の対応を見せてやると思っていたのに、やっぱり流されてしまった俺が少し情けねぇ。
布が擦れる音が途切れた。着替え終わったのか?
ちらりと振り返り……目に入ってきたのはワンピースの合間から見えた白い背中。ファスナーに手間取っていたのか。
こういう時はさりげなくファスナーを上げてやるのが男ってもんだろうか。
いや、それとも女の肌から目を逸らすのが良いのか。
畜生。どっちがいいんだか。……しかし、やっぱりあいつの肌は白くて柔らかくて気持ちよかった……って!
ちょっとまて! 終わったばかりなのにもう反応してんじゃねぇ! 折角しまったのに、また元気になりやがって!
必死にきつくなった股間と格闘し……不意にあいつの視線があった。
「えっと……その……」
顔を赤らめ、すぐに視線を逸らした。そして耳をふさぎ、
「耳ふさいでますから、そ、その……『抜く』ならばどうぞ」
「抜かねぇぇぇっ! う? ちぎぃぃぃぃっ!!」
俺の叫び声。大きな水音。そしてあいつの悲鳴。

……船の上という事を忘れ、勢い良く立ち上がって、バランスを崩し、水に落ちてしまったのは俺ら二人だけの秘密だ。畜生……
くっ……最後まで格好わりぃ……

 

 

 

「アイガー、ユングフラウ、メンヒ! 侵入者の排除である!」
アルプスにライフルの銃声が響きわたり……白い悪魔が俺に襲い掛かってきた。
『めぇ!』
「畜生! 踏むな噛むな舐めるな!!」
俺は勇敢にもその白い悪魔に立ち向かったが……一対三では分が悪かった。
白い悪魔その1が俺の背中を踏み、その2が手の中の手紙に噛み付いた。その3は悪の根源への手紙を運び。
とうとうその手紙は悪の根源……可愛いあいつの全く似ていない兄貴へと渡ってしまった。
乱暴に封を開けられ、中身を確認し……見る見る間にトマトのように真っ赤な顔になった。
「こ、こ、こんな破廉恥な手紙、リヒテンに渡そうとしていただなんて……言語道断だ!」
「こんな文章なんて、イタリアじゃ当たり前だろーが! 返せ畜生!!」
悪の根源へと戦いを挑……む前に背後をしっかりと確認した。
逃げる準備というな!! 戦略的撤退の準備をしているだけだ!
1歩、2歩、後ずさり……ちらりと諸悪の根源に囚われているあいつに目を向けた。
やはり、この目の前の敵を倒さないと救出は無理か。
だが、時間的にはそろそろ最終兵器が到着するはずだ。
時計としばしにらみ合いをし……
……きた!!
近づいてくる足音と男の泣き声。
反射的に諸悪の根源はその声に向かってライフルを構え、
「ヴェェェェェェ! ドイツぅぅぅ!」
予想通り時間通り。
シエスタから目覚めて寝ぼけた状態の弟が、諸悪の根源の家を横切ってジャガイモ野郎の家に向かっていく。
それも下半身出したまま。
「きゃっ……」
頬を赤らめ、目を隠すあいつに、ライフルを向けて追いかけようとする諸悪の根源。
よし、今だ!!
あいつの手をとり、全力後退!! 戦略的撤退だ!!
諸悪の根源が気がついた時にはもう遅い!
「リヒ行くぞ!」
戸惑い、足を止めるあいつ。このままじゃ追いつかれるから、素早く抱きかかえた。
あいつを抱きかかえた俺と、ライフルを構える諸悪の根源。
「待て! リヒテンを離すのである!!」
「いーやーだ! こんちくしょうめ!!」
俺の全力後退に勝てるとでも思ってるのか? 前進の時の三倍のスピードだぞ。
「ははははははっ!!」
俺の勝利の笑い声と、悔しそうなライフルの銃声がこだまとなって響き渡り。

俺はそっとリヒテンシュタインの頬に勝利のキスをした。

 

 

2009.10.13初出
カッコいい(当社比)ロマーノを目指しましたが……やっぱり格好はつきませんでした。





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