ステップファザーステップ |
「あ、パパ! 来たよ!」 「ああ〜、思ったより早かったね、御剣」 へらへらと笑う成歩堂の顔は日に焼けていた。 半袖のシャツの下から見える二の腕も同じように黒くなっていて、 前は真っ白でふよふよしてということを思い出す。 帽子をかぶると成歩堂は、年齢よりもずっと若く、幼く見えて、 小学生の女の子と一緒に歩いていると、ちょっと変質者に見えなくもない。 なんにしろ、今の成歩堂は、 隣の子供の親としては、あまりにも若く見えすぎた。 母親になるべき女性の姿がないから、いっそう不審な感が増している。 「……………」 「ナニ、そのあからさまに不審者を見るような目は」 「あのね』 子供が嬉しそうに話をし始めた。 御剣に話しかけているのだ。 「パパは今日もしょくむしつもんされてたよ。 みぬきが『パパ、はやく行こうよ』ってよばなかったら、ちょっとあぶなかったねぇ! この公園にくるまでに二回しつもんされたし、公園でもあぶなかったね!」 「いやいやいやいや、それは違うから! そんなことはないってば、御剣。 みぬき、そういう余分なこと言わないの」 「学校でもならったんだよ、このまえ。 『ふしんしゃに対するこころえ』っての。 ええと、さしすせそ? だっけ?」 「そうか、防犯訓練をしたのだな。後で教えてくれないか?」 「はい!」 「あ、御剣、ついでにお金ちょーだい」 「…………なんだその態度は」 「ははははは、財布持ってきたつもりだったんだけどねぇ、忘れたみたい。 喉渇いたから、なんか買って」 「……昼食はとったのか?」 「まだ。今日は起きたの遅かったし、ご飯食べたの十時過ぎてたから」 「子供にそんな不摂生な生活をさせるな!」 「一緒にホットケーキ作るってきかないんだから、しょうがないだろう」 「……そうなのか?」 「そうでーす! ホットケーキが好きでーす」 「少なくとも卵を割るのは、御剣よりみぬきのほうが上手だよ。な?」 「殻入らないで割れるよ!」 「……うムム………」 そういいながら成歩堂は芝生から立ち上がって砂を払った。 子供は薄いTシャツ一枚で、袖口が濡れて色が変わっている。 「袖が濡れているぞ? 大丈夫か?」 「ああ、ずいぶん乾いたみたいだねぇ。 さっきそこの水場で遊んでたら転んじゃってさ ……遊んでいれば乾くと思ってそのまんまなんだけど」 「貴様、着替えくらい持ってきたまえ!」 そういって慌てて子供の腕をとれば、かさついた肌はぞっとするほど冷たかった。 「…! こんなに腕が冷えて…!」 触ったこちらのほうが鳥肌が立ちそうだ。 「ああ、平気平気。子供だし」 「なんだその言い方は! 早く家に戻って着替えたまえ!」 「みぬき、今日は御剣が車で送ってくれるって」 「え、ホントですか?」 「成歩堂……」 「頼むよ」 そういって笑う成歩堂は、やはりかなり疲れた顔をしていて、 肌が黒いのは日に焼けたせいばかりではないことがわかった。 「…荷物があるから、二人とも後ろの席だぞ」 「文句は言わないよ。乗せてくれるなら」 「わーい! 車だぁ!」 子供は無邪気にはしゃいで走り出した。 ものすごい速度で小さくなる後姿に、転ぶなよと言い放っておきながら、 成歩堂は追いかけるつもりは毛頭ないようだ。 「どっちのほうに車止めたんだ?」 「すぐそこだ」 「そうか…じゃ、ちょっとトイレ寄らせてから乗せるよ。待ってて」 そういいながら、成歩堂は手にしていたものを御剣に押し付けて、 子供の後を少しだけ早足で追いかけた。 やれやれ、と御剣が手にしたものを見れば、 子供の上着と成歩堂のパーカーが濡れて汚れてほこりまみれになっている。 青臭い芝生と、乾いた土、 そしていくぶん生臭い水の匂いが交じり合って、 そこから立ちのぼってきた。 少し離れたところで、成歩堂が子供を 山小屋の形をしたトイレに連れて行っているのが見えた。 御剣は先に車を回そうと、駐車場に歩いていく。 背中の方でで子供が成歩堂を呼ぶ声が聞こえた。 |
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