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| イケナイ温泉 |
| 今日は、皆さまとご一緒に、温泉へ旅行にやってまいりました。 申し遅れました。わたくし、綾里春美と申します。 倉院流霊媒術総本家、綾里真宵さまの従妹にあたります。 先日、十になりました。 まだまだ修行が足りない若輩ものでございます。 お見知りおきくださいませ。 つい先日、商店街のくじ引きで、御剣検事さまが二等の宿泊券を引き当てたのが そもそもの始まりでした。 当然のように成歩堂さまが一緒に行くといっておりましたのですが、 わたくしが「みなさまで行く旅行というものをしてみたいと思います」といったので、 真宵さまとわたくしも、一緒に連れて行ってもらえることになりました。 わたくしは、家族旅行というものをしたことがありませんので、 それはこんなものではないのかしら、と思っており、 それもあって、その日を大変楽しみにしていたのです。 旅館までは、御剣検事が運転してくれました。 御剣検事の車は大変きれいな色と、なめらかでしなやかなボディの車で、 御剣検事は運転がたいそうお上手でした。 そうやっているうちに、やがて宿につきました。 ついた先の温泉旅館はたいへん大きく、 お部屋がまるで迷路の奥にあるかのようにふくざつな場所にありました。 成歩堂さまは「たいへんだ、迷っちゃう」と文句をいっていましたが、 御剣検事とわたくしたちはわくわくしておりました。 さっそくわたしたちは探検にいこうと思いました。 真宵さまは「あたしたちだけで平気だよ！」とおっしゃっておりましたが、 御剣検事はたいそう心配性で、絶対にいっしょについてゆく、といって聞きません。 わたくしは御剣検事とご一緒できるのがとてもたのしそうだったので、 こころよくおねがいいたしました。 御剣検事と真宵さまと三人で、宿の中をくまなく探検いたしましたところ、 この宿には合計でなんと十三もお風呂があり、それぞれにきれいな名前がついています。 しかも、すべてのお湯が、このお宿の地下からわいている温泉を引いているというのです。 真宵さまはそういうことにはあまり興味がないようでしたが、 御剣検事はひどく感心しておられました。 「こういう温泉が本当によい温泉なのだ。 湯は生き物なのだから、わいた湯にそのまま入るのが一番湯の力を身に取り込む方法なのだよ」 などといっております。 御剣検事は、たいへん温泉がお好きなようで、わたくしも勉強になりました。 夕飯まで少し時間がありましたので、さっそく皆でお風呂に入ることにいたしました。 旅館は川にそって細長く作られていて、一番上のほうにあるお風呂から 順番に入ることにいたしました。 お風呂から出ると、御剣検事が待っていてくださいました。 もう夕飯の時間だったので、三人で下におりていきました。 夕飯は大きなレストランでとることになっておりました。 わたしたちは御剣検事の名前で宿を予約しておりましたので、 広い部屋の中をぐるぐる歩きながら自分たちのテーブルを探しました。 そうしたら、奥から成歩堂さまが手をふってくれたではありませんか。 どうやら成歩堂さまは先にきていたようです。 遅くなってすいません、とみんなで謝ると、 成歩堂さまはもうお酒を召されているようで、早くご飯食べようよ、といってくれました。 みんなで食べた夕飯は、大変おいしかったです。 ご飯を食べ終わると、真宵さまはまだこのお宿の中を探検したいといい出しました。 わたくしもまだまだ見ていないところがあるので、一緒に行きたいというと、 成歩堂さまは「ぼくたちは先に帰るから」といいます。 「子供たちだけでこの広い建物の中を探検させるわけにはいかない」と御剣検事がいうと、 成歩堂くんは何かをいい、おふたりは言い争いを始めてしまいました。 「どうしましょう、真宵さま」 わたくしが驚いていますと、真宵さまは「あー、別に喧嘩じゃないからいいよほっとけば。 部屋の番号はわかるし、あたしらの方が記憶力がいいんだし、平気平気！」と言い放って、 わたくしの手を取ってお部屋を出て行こうとします。 あわてて御剣検事がケンカをやめてかけよってきて、 「なにかあったら困るから」と自分の携帯電話とお金を少し渡してくれました。 真宵さまは携帯を部屋に置いてきてしまっていたのです。 「御剣検事は少し心配性ですね」 「そうだねー、御剣検事ってさー、なんだかお父さんみたいじゃない？」 「お父さん、ですか？」 「そう。私もよく知らないけどさ、漫画とかでよく出てくるお父さんって、あんなカンジだと思わない？」 「では成歩堂さまがお母さんですか」 「えー？ あんなぐうたらなお母さんだったらイヤだなー」 → |
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