だからその手を取って本文サンプル



練習だと言ったのは確かなようで、
普段は通らない道もゆっくりと二人で並んで歩いた。
あまり高低の差のない道を選んでいるのだと気がついたのは、
だいぶ後になってからだ。

普段ならもっと早い時間に通り抜ける公園のしげみも、
昼の光の中では目に心地よく、なにもかもが新鮮に感じられる。
光を見ると目が痛いのは、充血しているからなのかとも思った。
出てくる時に目薬をさせばよかった。
たぶん今、二人ともひどく真っ赤な目をしているに違いない。
それも自分のほうがよりひどいのではないのかと御剣は思う。
 
ゆっくりと公園を抜ける。

日曜日の午後、大きな遊具のある公園は、子供の声でにぎわっている。
子供の数が少なくなっているというが、この公園は遊びやすいらしく、
公園の駐車場には車がたくさん並んでいて、
わざわざ遠くからやってくる家族連れもいるようだ。父親の姿も多い。

そんなでもないと思っていた食事の時間は、予想以上に長くかかったようで、
店に入る前にはまだ明るかった日差しも、少し傾きはじめている。

子供を連れて帰宅する家族の姿も、ちらほら見えた。

その合間を散歩している大人も多かった。
ここは動物を連れて公園の中に入れないが、
少し離れたところにドッグランがあるらしく、
大型の犬を連れた年配の男性や小型犬のリードを引いた女性が、
あちこちで立ち話をしている姿も見えた。
木陰で横になっている猫も数匹いた。


日本にいるころ、御剣が成歩堂と一緒に歩くときは、大抵が夜だった。

別に意図してそうしたわけではなく、
待ち合わせて時間をつくるといつも夜だった。
休日の人の多い街に出ることを二人とも厭ったので、
たまの休みに外に出るときは、
夕方になって人の姿が少なくなってからのことも多かった。

それでも手を繋ぐとか、肩に手を置かれることがどこか気恥ずかしく、
つい足早に行過ぎるはずのこんな風景も、
身体に異物を抱えているこんな状況では、
ゆっくりと歩きながら過ぎるしかすべがない。
気を紛らわすために、そちらを見ることが多くなる。
だが、それは決して不愉快なことではなかった。

「…こういうところを、君と歩くのは初めてだな」

「そうだっけ?」

「ああ。歩くのはいつも夜だったから」

「……そうだね。……日が出ている間から、こんなところをのんびり歩くのなんて初めてかも」

「こういうのも悪くはない」

 振り返る成歩堂にそっと笑いかける。

「……そんな顔するの反則だな」

困ったように成歩堂が笑う。

そういえば、いつの間にか成歩堂はひどく老成した表情をするようになった。

前に帰国した折に見たときよりも少し痩せたようで、
頬の線が少し細くなっている。
そのせいでどことなく精悍な雰囲気が増していて、
笑い方に妙な色気があった。
心臓の鼓動が早くなるのを知られているような気がして、
御剣は少しうろたえる。

「……そうか?」

「キスしたくなって困る」

「……それは、ここでは無理だ」

「そうだね」












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