1120・本文サンプル
本文サンプル(一部)

ふっと音が掻き消えた。
 
はっとして青年が目をやれば、演奏者はゆっくりと青年を振り返っていた。
堂々とした体躯、日に焼けた精悍な肌。
色の薄い瞳はどこか異国の人形のようでいて、人の熱を感じさせない。
長い手指が鍵盤を離れ、すらりとした足が椅子を立ってこちらに歩み寄ってくる。
男の背は高い。
青年は同じ年齢の青年男子の中では、それほど見劣る姿ではなかったが、
その青年が見上げるほどに立派な上背を持っていた。
たくましく鍛え上げられた立派な肉体を包む衣服は、
お仕着せのありあわせのものだが、
それを補ってあまりある権力のオーラを、
男は身に纏っていた。

「どうだったかな? 気に入ってもらえた?」

権力者にしては似合わない、ひどく明るい声で男はそう問いかけた。
青年はなにかリアクションをしなければと思い、
しかしようやく木偶のように頭を上下に振っただけだった。
体が動かない。いや、動かすことが出来なかった。
今一歩でも動いたら、…腰から崩れて、この場にうずくまってしまいそうだった。

「どうしたの? 顔、赤いよ? ―――ちゃん」

青年の名を、そんな親しげに呼ぶ人間は今までにだれもいなかった。
そう呼びかけながら男は、青年に近づいていって、その肩を抱いた。
青年は大げさに背中を震わせる。

「なに震えてるのかな? どうしたの、熱もであるのかな―――顔が赤い」

男は大きい指輪の嵌った太い指で、青年の額に手をかざした。
顎を掴んで持ち上げると、汗ばんだ額に青年の前髪が張り付く。

「………っ」
「熱もあるみたいだね。…風邪でもひいたかな?」

男は心配そうに、しかし目に情欲の炎を隠しもせずに青年に聞いた。
青年はそれに答えようと、ごくりと喉をうごめかす。唇が渇いていた。

「目も、こんなに潤んで。…かわいそうにね」
「……っ、……――――、あなた、…に……」
「ん? そういえば、何か用事があったようだね? 何の用かな?」
「……あなたに………私の、……―――を」
「よく聞こえないなぁ」
「…熱を……計って……もらう…ように、と……」
「熱があるんだ? うん、確かに」

そういって、男は熟練の手つきで青年の腰を撫で回し、
目的のものがそこにあることを確認し、耳たぶに吐息を吹き込んだ。
ぞくりと身をすくませる青年の体から、発情した匂いが立ち上るのを、嬉しそうに嗅ぎながら。

「注射……あなたに、…注射を、……してもらって……くるように、……と、……っ」

青年が荒い呼吸の合間から、用件をなんとか口にしている間にも、
男は青年の腰を撫で回し、ジャケットの下に手を入れ、尻たぶを服の上から掴んだ。
ごつごつとした指輪が肌を擦り、青年はあらぬ声をあげた。

「注射をしてもらってくるようにって? 
 君の先生はずいぶんいい見立てをしてくれているようじゃないか、驚いたよ。
 ボクの注射が太いってこと、知ってるよね、―――ちゃんは」
「……っ、! ……は、…はい……前に、いただいた…ことが…」
「そう。ちゃんと覚えてくれているんだ。
 そのときは困ったよねぇ、―――ちゃんったらちゃんと準備してないんだもの。
 先生だってそれくらい前に言っておいてくれればよかったのにさ、ひどいよね。
 おかげで―――ちゃんの大切なトコロが裂けちゃって、
 ボクの注射が血まみれになっちゃったよね?」
「その―――切は、…大変、申し訳…ありませんでした………」
「絨毯は汚れるし。ちゃんと染み抜いた?」
「は、……はい……っ」
「―――ちゃんは、案外不器用だからね。口は―――どっちも上手なのに」
「……そんな……こと、は……」
「ホントホント。…すごいイイよ。
 さすが、センセイのお仕込みなだけのことはあるな、って感心しちゃうよ、うん」
「……ん…っ」
「あ、ゴメンゴメン。熱があって大変だったよね。
 ボクもあんまり時間がないんだ、早くお注射してあげないと、
 今度はキミがセンセイに折檻されちゃうよね」











ブラウザバックでお戻りください。









テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル