「コミュマックス編」(主人公×里中千枝)
*主人公の名前は、便宜的に説明書に掲載されている「月森孝介」としています
1.
(今日も……来て……くれるかな……)
あたしは学校の屋上で一人腰を下ろしたまま空を見上げてつぶやく。
今までずっと恋なんて縁がなかった。
子供の頃から正義の味方。男の子達には感謝されることはあってもそれ以上のことはなかった。
だって……いつも男の子達は雪子に夢中だったから。
でも、それは仕方ないって思ってた。雪子は女のあたしから見てもとてもキレイで守ってあげたくなる。
それに比べてあたしは……。
あたしはまた空を見上げる。
最初のうちは特訓に付き合ってもらってるだけだった。
なんで特訓に付き合ってくれるのかも分からなかった。
冷静なリーダーである彼はあたしがヒマそうにしてるといつも声をかけてくれた。
雪子ではなくあたしに……。
あたしは嬉しかった。
こんな格闘技が趣味なんていう変な女に親しくしてくれる異性が現れたことが。
彼と二人だけの時間を過ごすうちに……当然のように彼のことが好きになっていった。
でもあたし達のリーダーで皆から頼りにされ、試験があれば学年トップの彼があたしになんか興味を持つはずはない。
だから彼はあたしが強くなるとシャドウとの戦闘が有利になるから特訓に付き合ってくれてる。
……そう心に決め付けてた。そうやって自分の気持ちをごまかしてきた。
でも……彼はこんなあたしに言ってくれた。
付き合って欲しいって……。
気がつくと近くに人の気配がする。
あたしに気配を悟られずにこんな近寄れる人は彼しかいない。
気配がする方向を見ると……彼は笑いながらあたしに手を振ってくれた。
「あっ、月森くん……」
あたしは彼に手を振ってこたえる。
今までならなんてことなかったはずなのになんだか少しぎこちない。
やっぱり意識してしまう。恋人ができたのなんて生まれて初めてなんだから仕方ないと自分に言い聞かせる。
「え、えと、なにやってんの?」
あたしは心にもないセリフを口にする。
あたしに会いに来てくれた彼にこんなことを言ってしまう自分が心底いやになる。
「特訓……する?」
言葉少なめな彼がいつものようにあたしに尋ねてくる。
「……うん」
あたしは素直にうなずく。でも今日は言わなきゃいけないことがある。
「えっと、さ、その……」
あたしは少しどもりながら彼に尋ねてみる。
「……っていい?」
彼が顔をしかめてみせる。どうやらうまく聞き取れないみたい。
「へ、部屋……。キミの部屋、行ってもいい?」
あたしは思い切って尋ねる。
彼と正式に付き合うことになってからずっと思ってた。彼の部屋に行ってみたいって。
「……あ、と、とと特訓の後でだから!」
あたしはもしかして大胆なことを言ってしまったかと少し後悔する。
自分でも挙動不審だなって思いひとりで勝手にへこんでしまう。
でも彼は……そんなあたしに優しくうなずいてくれた。
「うん、じゃ、い、行こ!!」
あたしは恥ずかしさに顔が真っ赤になっていることを自覚して彼の手を引く。
男の人の手を引く自分に驚きながらもあたしはそんな自分が嫌じゃない……。
2.
>月森孝介の部屋……
「これ……あげる」
そう言ってあたしは昨日買ったリストバンドを彼に手渡す。
「あっ、新品だから、キレイだよ!」
なんだろうとじっくりと眺める彼の姿に思わず新品だって説明してしまうあたし。
「実はおそろい……だったりして。あはは……」
今時おそろいのリストバンドなんて恥ずかしすぎるかなと思いあたしは顔を赤くしながら俯く。
しばらくして顔を上げると……彼は微笑みながら既に両手にしたリストバンドを見せてくれた。
「あ、ありがと……」
あたしはどう言っていいかわからず感謝の言葉を口にする。
すぐに身に着けてくれるなんて思わなかったからつい動揺してしまう。
彼は口数が少ないから二人でいるときはどうしてもあたしが話すことが多くなる。
彼を異性として意識し始めてからはついとんちんかんなことを言ってしまうことが多いけど彼はそんなあたしを優しく受け入れてくれる。
そして今も彼はあたしを優しく見つめてくれている。
(なにも恥ずかしくなんてない……)
あたしは心の中でそう思い一人うなずく。
「あたしね、思うんだ。この力は、きっと欲しくて得た力だって」
彼はあたしの言葉をきちんと聞いてくれている。
「もっと、ちゃんと守るために」
あたしはちょっと興奮した口調で言葉を続ける。
「今なら分かる。この力は、ただもっと頼りにされるためみたいな、自分のための力じゃない……。雪子や、仲間や、家族や、この町……それに孝介……くんを守る力なんだって……」
そう口にした瞬間、あたしの体をなにかが走り抜ける。
「!?」
あたしは違和感に思わず天井を見上げる。
>弱さを受け入れ、乗り越えた強い意志が、新たな力を呼び覚ます……
>千枝のペルソナが新たな姿に生まれ変わった……!
>トモエはスズカゴンゲンへと転生した!
「あたしの……新しい力……」
あたしは思わずつぶやく。
なんだか体から力が湧いてくるのを感じる。これからは……もっともっと強くなれそうな気がする。
「キミのおかげだね」
心からそう思いあたしは感謝の言葉を口にする。
彼のおかげであたしは自分でも驚くほど成長できたと思う。
みんなに頼りにされたいんじゃない……。
みんなを……そして孝介くんを守りたい。
心からそう思える。
でも……それ以上に伝えたい……伝えなきゃいけない言葉がある。
3.
「ねぇ……」
あたしは彼をしっかりと見つめる。
この気持ちはちゃんと伝えないといけないってそう思うから。
「キミが……好きだよ」
あたしはしっかりとした口調で彼に想いを告げる。
こんなにも恥ずかしいのに……どこかすがすがしい。
彼は……そんなあたしを今まで以上に優しく見つめてくれる。
(やだ、そんなふうに見つめられると……)
さっきまでの気持ちはどこに行ってしまったのかあたしは恥ずかしさに勝てずついモジモジしてしまう。
そんなあたしを……彼は優しく抱きしめてくれた。
「あ、あたし、と、特訓帰りだよ……」
あたしは彼に抱きしめられたまま少し慌てる。
特訓した後だからどうしても体は汗臭い。
「めちゃめちゃ汗かいたし……」
彼に汗臭い女なんて思われたらと思うとあたしは必死に言い訳する。
そんなあたしの様子に彼はいたずらっぽく笑ってみせる。
「ち、違っ!や、その、そうじゃなくって……」
彼が何を考えているのかが分かってあたしの動揺は頂点に達する。
「な、何言ってんだろ、あたしっ……」
あたしは恥ずかしさのあまり彼をまともに見れなくなる。
ただでさえ、彼に抱きしめられるなんて初めてなのに……。
「千枝らしくていいよ」
彼があたしの体を強く押し付けて耳元で囁く。
「らしい、って何よぅ……」
あたしはつい彼に口答えする。
あたしのことを本当にわかってくれる彼にあたしはどうしても素直な言葉を口にできない。
結局口から出た言葉は……
4.
「……バカ」
こんな言葉しか口にできない。
でもそんなの本心じゃない。
あたしは口でそんなことを言いながら彼に強く抱きつく。
そんなあたしを彼もまた強く抱きしめてくれる。
もうどうなってもいい……心からそう思う。
そんなあたしの心を見透かしたように彼は俯くあたしの顔をあげさせて優しく口づけしてくれた。
あたしも素直に彼を受け入れる。
しばらくして唇を離す。
「キス……しちゃったね……」
あたしは顔を真っ赤にしたまま思わずつぶやく。
「雪子より先にキスしちゃうなんて……」
あたしは雪子のことを思い出す。
絶対に雪子が先に彼を作るって思ってたけど自分の方が先だなんてなんだか驚きだ。
「千枝……」
彼があたしの名を呼ぶ。
「ん……?」
あたしは彼を見上げる。
「千枝が……欲しい……」
彼がいつもより少し興奮した口調でつぶやく。
彼が発したその言葉の意味。
それがわからないほどあたしも子供じゃない。
「ダメ……かな……?」
彼が少し声を小さくしてつぶやく。
あたしは彼にそんな自信のないセリフを口にして欲しくない。
あたしの大好きな孝介くんにはいつも自信を持っていて欲しい。
だから……あたしは彼にこたえる。
「あ、あのね……。いいよ、孝介くんが……したいようにして」
自分の言葉が緊張で震えているのが自分でも分かる。
でも後悔はない。
だって、孝介くんのことが……本当に好きだから……。
5.
彼は布団を敷き終えるとまたもあたしを抱きしめ……口づけしてきた。
そのまま身を任せていると……彼があたしの乳房を服の上からゆっくり撫で始める。
「あっ……」
その感触にあたしは思わず声をあげる。
「力を抜いて……」
彼が至近距離であたしに囁く。
「う、うん……」
あたしは顔を赤くしてうなずく。
そのまま彼はあたしに再度口づけをすると今度はあたしの口の中に舌を入れてくる。
「ひっ……」
あたしはその経験したこともない感触に思わず悲鳴をあげる。
しかし彼はそんなあたしに構わずあたしの舌に舌を絡ませてくる。
あたしはどうしたらいいかわからず彼がするように彼の舌にあたしの舌を絡ませる。
「はぁはぁ……」
彼とあたしの呼吸が荒くなる。
彼に胸を愛撫されながら舌を吸われる感覚にあたしは一気にエッチな気分になってしまう。
「千枝、万歳して」
彼があたしに万歳しろと言う。
わけが分からず万歳すると……彼はあたしのセーラー服を脱がせようとする。
「ダ、ダメ……」
あたしは無意識のうちに彼を拒絶する。
そんなあたしを彼は再度強く抱きしめる。
彼の厚い胸板にあたしの乳房が押し付けられる感触にあたしは顔を赤くする。
「千枝……」
彼があたしの名をつぶやく。
わかってる。
今さら後戻りできないってことぐらい……。
「じ、自分で脱ぐから……」
あたしはそう言って彼から体を離すと背を向ける。
緊張に震える手でスカーフをほどこうとする。
何度か失敗しながらなんとかほどくとそのままセーラー服を脱ぎ床に落とす。
そしてスカートも脱いで下着だけの姿になっておそるおそる振り向くと……彼もTシャツとトランクスだけになっていた。
「千枝……」
彼があたしに一歩近づく。
でもあたしは彼の視線があたしの胸の谷間に注がれていることに気づくと恥ずかしさのあまり布団の上にぺたんと座り込んでしまう。
6.
「千枝、すごくきれいだよ」
彼はあたしの肩に手を乗せてあたしをほめてくれる。
「そ、そんなことないよ」
あたしは嬉しいのについそっけない返事をしてしまう。
「すごくきれいだ」
彼はそういうとまたあたしを抱きしめ口づけしてくれる。
あたしはいつの間にか彼に抱きしめられキスされることが好きになっていた。
だって今彼はあたしのことだけを考えていてくれるのがはっきりと感じられるから。
「あっ……」
あたしは彼があたしのブラを外そうとしていることに気づく。
でももう抵抗なんてしない。
これ以上彼を困らせたくないから。
彼は結構苦戦して最後にはあたしの後ろに回ってなんとかあたしのブラのホックを外した。
ブラが床に落ちるとあたしの乳房がむき出しになる。
そのむき出しなったあたしの乳房を……彼は後ろからゆっくりと揉み始める。
「や、やだ、くすぐったい……」
あたしは彼の手首を思わず掴む。
でも彼は構わずあたしの胸を揉み続ける。
(あたし……胸を揉まれてる……)
男の人に胸をもまれる感覚にいつの間にかあたしは陶酔する。
自分が女であることの象徴ともいる乳房を彼に揉みしだかれているとあたしはますますエッチな気分になる。
彼の荒い息遣いがあたしの耳元に響く。
彼はすっかり興奮しているみたい。
そしてその彼の興奮が自然にあたしにも乗り移る。
「はぁ……」
あたしは思わずため息をつく。
体の奥底から熱いものがこみ上げてきて体中を満たしていく感覚が心地いい。
しかしその陶酔はすぐに破られた。
彼があたしの乳房のつぼみをこりこりとつまみ刺激し始めたからだ。
7.
「あ、あんっっ……!」
あたしの口から信じられないくらいエッチな声がでる。
さっきまでとは全く違う甘い刺激。
「や、やだ……」
あたしはまたも彼を拒絶しようとする。
でも彼は愛撫を止めない。
まるであたしの本心が分かっているかのように……。
彼は中指と親指であたしの胸のつぼみをはさみ刺激する。
その刺激にあたしは自分のそこが少しずつ硬くなっていく様が手に取るように分かる。
「あんっ……!!」
あたしは思わず天を仰ぐ。
インターネットでエッチな動画を見たことはあったけど女の人の反応は全部演技だと思ってた。
だってあんなエッチな声を自分が出すはずがないと思ってたから。
でもそんなことなかった。
彼に触られていると信じられないくらい気持ちいい。
自分でも聞いたことのないエッチで甘い声が自然に口からこぼれでる。
それを止める術は……あたしには全くなかった。
気がつくとあたしは彼に体を完全に預けてその快感を全身で受け入れていた。
乳首をつままれると声をあげ、彼の中指で乳首を乳房の中に押し込まれぐりぐりされるとあたしは快感のあまりどうしていいかわからず頭を振っていやいやした。
いつの間にか彼にそんな姿を見せることも恥ずかしくなくなっていた。
もっともっと気持ちよくしてほしいと思い始めていた。
彼に胸を弄られながら首筋を舐められると思わず体が震えた。
……もうあたしは彼のなすがままだった……。
8.
「千枝……胸が……いいんだね……」
彼があたしの耳元で囁くとあたしの顔は一気に羞恥で赤くなる。
彼はそんなあたしを布団に押し倒すとあたしの乳房に吸い付いてきた。
「あっ……」
思わず声をあげる。
彼は舌ですっかり硬くさせられてしまったあたしの乳首を舐めまわす。
でもどっちかというとさっきみたいに指で同時に弄られた方が気持ちいい。
少し余裕ができたあたしは彼に思い切って尋ねてみる。
「孝介くんは……経験がある……?」
彼はあたしの言葉に少し驚いた表情を見せると首を振ってみせる。
「じゃあ……お互い初めてなんだ……」
あたしは何故か思わず嬉しくなる。
彼の初めての女が自分であること、あたしの初めての男が彼であることがとても素敵なことに思えてくる。
「でも初めてなのに……どうしてそんなに冷静なの……?」
あたしはずっと思ってたことを彼に尋ねる。
彼の息遣いは荒いもののあたしを愛撫するその指の動きは終始優しい。
自分ばかり彼の愛撫に興奮してしまうのが安っぽい女みたいでちょっと気になってたのだ。
でも彼はあたしの言葉に予想以上に反応する。
彼はあたしの胸から離れると少し体を動かしあたしの手首を押さえつけてあたしの顔を覗き込む。
「これでも……必死……なんだ……」
彼がつぶやく。
「千枝を相手に失敗したくなくて……ほんとはいっぱいいっぱいなんだ……」
彼の思わぬセリフに我が耳を疑う。
「どんなシャドウと戦ってるときより……余裕がないんだ……」
彼はあたしに告白を続ける。
「千枝に……千枝に嫌われたくないんだ……」
初めて聞く彼の生身の人間としての声。
彼のこんな言葉が聞けるのはあたしだけなんだと思うと胸がいっぱいになる。
「きて……」
あたしは両手を彼にむかって伸ばしてみせる。
彼はそれにこたえてあたしを抱きしめてくれる。
あたしも彼にこたえ強く抱きしめかえす。
「嫌いになるわけないじゃない……」
あたしはつぶやく。
「なにがあっても……あたしはキミの味方だよ」
あたしは素直に今の気持ちを彼に伝える。
全てを見せてくれた彼にあたしも自分の気持ちをありのままに伝えたかったのかもしれない。
抱きしめあってる彼の表情はあたしには見えないけど……彼が微笑んでくれているような気がしてならない。
「ねえ……。あ、あのね……」
あたしは今の気持ちを彼に伝えるべきだと思い口を開くがつい口ごもってしまう。
そんなあたしの顔を彼がどうしたのかと覗きこむ。
(やだ、そんな風に見られるといえなくなっちゃう……)
あたしは言葉が続けられなくなる。
するとそんなあたしの様子を見ていた彼が口を開く。
「千枝と……一つになりたい……」
そうつぶやくと彼は視線を逸らす。
あたしはちょっと驚く。だってそれはあたしが今まさに自分が言おうとしたことなのだから……。
あたしは言いたかったことを言ってくれた彼を更に愛しく思い始める。
「大丈夫だから」
あたしは彼につぶやく。
「あなたのものに……して……」
9.
彼が彼の男をあたしの女にあてがっている。
「いくよ」
彼はそうつぶやくと返事も確認せず少しだけあたしの中に彼の男を侵入させた。
「ううっ……」
あたしは思いもよらない激痛に驚き耐える。
「ちょ、ちょっと待って……」
彼はまだ半分も挿れてないのにその激痛にあたしはすでに涙ぐんでる。
「だ、大丈夫……?」
彼があたしを心配して尋ねてくる。
「もう抜こうか?」
「いいから……そのままじっとしてて!」
あたしは自分でも驚くほど大きな声で彼にこたえる。
彼に抜かれてしまうと彼を失ってしまうような気がしたのかもしれない。
「多分、もう……大丈夫……」
しばらくしてあたしは小さな声で彼に告げる。
さっきよりかなり痛みは引いたように思えたから。
「でも……」
彼はあたしが痛がる様子にちょっと躊躇しているみたい。
「いいから……最後まで……」
あたしは彼を後押しする。
あたしは一人の女として……彼を最後まで迎え入れたい。
「わかったよ」
彼はそういうと……ついに根元まで彼の男をあたしの中に突き入れた……。
「……!!」
あたしは言葉が出ない。
そのあまりの激痛に意識が飛んでしまいそうだ。
でもそれを彼に知られたくない。
知ったら最後、彼は絶対に抜いてしまうから。
あたしは涙を必死に堪えようとしたけど……結局抑えることができなかった。
「千枝……無理しないで」
彼はあたしの髪を撫でながらあたしの反応をうかがっている。
「だ、大丈夫……大丈夫だから!」
あたしは彼に強がって見せるけど……その激痛に頬をつたう涙を隠すことはできない。
「これ以上……千枝を見てられないよ……」
彼はそうつぶやくとあたしの中から彼の男を抜いてしまった。
あたしの中でほっとした気持ちと残念な気持ちが入り混じる。
「こんなんでごめんね……」
あたしはほんとに彼に申し訳なく思い謝る。
そんなことないと彼はあたしに首を振ってみせる。
「よかった……」
あたしは彼の優しさに触れ安心からか自然に笑顔になる。
でもそれが視界に入ったときあたしは思わずはっとする。
10.
彼の男は……まだ完全に戦闘状態なのだ。
行き場を失ってしまったそれを彼が持て余していることは女のあたしから見ても明らかだった。
「あ、あのね……」
あたしはそうつぶやくと体を起こし大胆にも彼を押し倒す。
「えっ……?」
彼は突然のことに呆然としている。
あたしは考えたらダメだと思って彼の男を右手に掴む。
「これじゃ生殺しだよね」
あたしがそうつぶやいて右手を動かそうとした瞬間、それは起こった。
「えっ……」
あたしは目の前の状況が信じられない。
彼の男から白い粘つく液体が大量にあふれ出ている。
その白い液体があたしの右手に垂れる様子をあたしは別世界のものを見るように呆然として見つめる。
しばらくして彼を見ると……彼はばつの悪そうな表情であたしを見てる。
そんな彼の表情を見てあたしは思わず笑ってしまう。
釣られて彼も笑い始める。
その後、彼は自分の股間周りとあたしの右手と……あたしの大事なところをティッシュでキレイにしてくれた。
恥ずかしかったけど彼の優しさが嬉しくてあたしは彼がするままになった。
「もう……痛くない……?」
彼の言葉に現実に引き戻される。
あたしは布団の中で彼に抱きしめられたままついうとうとしてたみたい。
「まだちょっと……」
あたしは少しはにかんでみせる。
「千枝……」
彼があたしの顔を見つめてくる。
あたしは黙って彼の言葉の続きを待つ。
「千枝のことが……好き……」
そうつぶやくと彼は照れて顔をそらせる。
あたしは彼の言葉を嬉しく思うと同時にそんな彼をなんだかとてもかわいく思う。
「初めてね」
あたしは体全体を彼に押し付けながら言う。
「あたしのこと、好きって言ってくれたの」
彼は照れて返事をしない。
あたしはそんな彼につい意地悪したくなる。
「もう一回言って!」
あたしは彼に甘えてみる。
「なっ……」
彼の動揺する様子が楽しい。
「ねえ、言って」
あたしは彼の首に手をまわしてしがみついてみる。
「……」
いつも冷静な彼が戸惑う姿はなんだかとても新鮮。
「言ってくれないから帰るね、もうすっかり暗くなってるし」
そういってあたしは布団からでて衣服を身に着け始める。
彼は呆然とした様子であたしの様子を見ている。
彼がそんなことを何度も言う人じゃないことぐらいわかってる。
ただ、今日はすごく痛い思いをしたからついちょっといじめてみたくなっただけ。
だって、彼があたしのことを大切に思ってくれていることは、十分に感じることができたから……。
11.
「送っていくよ」
彼がつぶやく。
「その格好で?」
すっかり衣服を身に付けたあたしは腰に手を当ててまだ全裸の彼を見る。
「あっ……」
彼は顔を赤くして服を身に付け始める。
そんな彼をあたしはソファーに座ってにやにやしながら見つめる。
「早くしないとおいてくよ」
あたしは彼をからかうように声をかける。
彼にこんな風に声をかけれるなんてなんだか信じられない。
一度肌を重ねるとこんなにも変わるものかと自分の変化に少し驚く。
彼を前より一層身近に感じるのがとても嬉しい。
「じゃあ、いたいけな少女が変質者に襲われないよううちまで送って行って」
あたしは彼に笑いながら声をかける。
彼は苦笑いを浮かべたままだ。
あたしは部屋を出ようとドアノブを手にする。
するとその瞬間、あたしは彼に後ろから抱きしめられる。
「な、なに……?」
あたしはちょっと顔を赤くしてつぶやく。
彼は何も言わずあたしを振り向かせると……あたしに口づけしてくれた。
あたしも彼に素直に抱きつく。
彼と身も心も本当に恋人同士になったんだと思うと胸が熱くなる。
今日は彼とずっと一緒にいたいって気持ちがこみ上げてきてそれを我慢するのは大変。
でもあたしはそれを我慢して彼に告げる。
「帰るね」
12.
帰り道、なんだかあまり会話が弾まなかった。
もっと一緒にいたいって言いたいけどそれは無理。
今日はもうお別れだって思うとなんだか気が滅入ってくる。
気がつくとあたし達はあたしの家の前についていた。
「じゃあ……また明日……」
あたしはそう告げると彼に背を向け門を開けようとする。
「千枝……」
彼が突然、あたしを呼び止める。
「な、なに……?」
あたしは振り返る。
彼はあたしに近づきあたしの両肩に手を添えると一言だけつぶやいてくれた。
世界中であたしにしか聞こえない声でただ一度だけ。
「孝介くん……」
あたしは思わず笑顔になる。
彼はあたしの笑顔に安心したのか、それじゃって言うとあたしに背を向けて走っていった。
「たっだいまー!」
あたしはうちに入るなり元気に声を張り上げる。
「お帰り千枝、ご機嫌だね」
父と母があたしをみて笑顔になる。
「ちょっとね」
あたしは両親ににかっと笑いそうこたえると二階の自分の部屋に入る。
かばんをなげ捨てベッドに飛び込むと、さっき孝介くんに言われた言葉を思い出す。
「くくく……」
自然ににやにやしてしまう。
こんな表情人に見せられないと思い、誰もいない自分の部屋で枕に顔を埋める。
彼の言葉が脳内で何度も何度も繰り返される。
あたしは、その夜、彼の夢を見た……。
「世界で一番、千枝のことが好きだよ」
夢の中でも彼は……同じ言葉をあたしに囁いてくれた。
夢の中でもあたしは……最高に幸せだった……。
「主人公×千枝 コミュマックス編 完」