A01 二人の夜

 

1.

「あなたしか抱きたくないんですっ!!」
五代はこれまでの6年間の想いを響子さんにぶつける。

「あたしが……いやだといったら……?」
素直になれない響子さんはいつものように心にもないことを口走る。

しかし五代は響子さんの言葉に自分があまりに一方的ではないかと自己嫌悪に陥ってしまう。
そしてそんな自分のために響子さんが一刻館に戻らないのは心苦しく、なにより他の住人に申し訳ないと思い始める。
(響子さんはおれだけじゃなくて……一刻館のみんなに必要なんだ……)
一の瀬さんたちのことを思いうかべ、五代はなんとか言葉を捻り出す。
「管理人やめないでください。おれの方が近いうちに出て行きますから……」


五代はもうこの場にいることさえつらい。
(結局響子さんは振り返向いてくれなかった……)
五代は思わず目の前が真っ暗になる。今まで持ち続けてきた微かな希望。
それが今、完全に潰えてしまったのだ。

「そ、それじゃ……」
五代は自分が何を口にしているのか理解できないまま響子さんに背を向ける。
そして急いで立ち去ろうとしたその瞬間、五代のジャンバーが後ろからつかまれる。
(ん……?)
五代は思わず振り返る。
すると自分のジャンパーを掴む響子さんの手が目に入る。


2.

「え……?」
五代はつぶやく。
そして視線を響子さんの手から顔に上げると俯いたままの響子さんの姿に気づく。
思わず五代のジャンパーをつかんだ響子さんだったが、黙り込んでしまっているのだ。
(このまま五代さんを帰したら一刻館を出て行ってしまう……)
響子さんは五代に出て行って欲しくない。
しかしその言葉を口にするのはどうしてもためらわれてしまう。

二人の間にぎこちない空気が漂う。
そして長い沈黙の末、響子さんが口を開く。

「もっと素直になりたいけど……きっかけがつかめないんです。……だから……」

(だから……?)
戸惑いながらも響子さんの言葉を反芻する五代。
(……きっかけって……まさか……?)

「あ……の……」
響子さんの言葉が信じられず言葉がうまく続かない五代。
しかし響子さんはうつむいたままこくりと頷く。
「!」
五代は手を震わせながら響子さんの手を握る。

 

チキ……
五代がドアを閉める。
二人はラブホテルの一室にいる。しかし…二人ともずっと押し黙ったままだ。
あまりにきまずい雰囲気に五代が思わず口走る。
「本当にいいんですね?やけっぱちとか同情とか……そういうのおれ……なんだか……」
「そんな……どうしてそんなこと」
コートを脱いだ響子さんが五代を見つめて言う。
「だって……なんかウソみたいで……」
まだこの状況が信じられない五代。
響子さんは返事をするかわりに五代の正面に立ち五代の瞳をみつめる。
五代の言葉を否定するかのように……。
ずっと想い続けてきた女性がいま自分のことだけを見つめてくれている。
五代は思い切って愛しい人を抱きしめる。
いつもなら飛んでくるはずの平手打ちもなく……響子さんは黙って五代に抱きしめられる。
(夢じゃない……)
五代はさらに強く抱きしめ叫ぶ。
「響子さん!」

「シャワー、浴びてきますから……」
響子さんは五代をそっと押し返し浴室に向かう。


3.

それぞれにシャワーを終えた響子さんと五代。
しかしあまりの急展開に二人とも何を話せばいいのかわからず椅子に座ったまま黙り込んでしまう。
「なにか飲みます?」
慣れない五代が重い空気を振り払うように口を開く。
「いえ……五代さん、あんまり時間ないんでしょ」
響子さんがちらりと時計を見る。

「それにあたしも惣一郎さんが気になるから……」

響子さんが何気なくつぶやいたその言葉に……五代は激しく動揺する。
「あっ、いいえ違うんです。犬のほう……」
その様子を見た響子さんが釈明する。
「ごめんなさいあたし……変なこと……」

「あの、それじゃそろそろ……」
五代は思い切って口を開く。
「は……い……」
響子さんも五代の言葉に覚悟を決め静かにうなずく。


生まれたままの姿になりベットに入る二人。
(本当に犬のことだったんだろうか……)
思わず余計なことを考えてしまう五代。
(い、いかん。精神統一……)
「響子さん。響子さん!」
五代は響子さんを強く抱きしめ、叫ぶ。
(おれのことだけ考えて……だんなさんのことは忘れて……)
響子さんも五代の背中に手を回し五代を受け入れる。


4.

五代は響子さんに何度も口づけする。響子さんもそれに黙ってこたえる。

響子さんとのキスはいままで2回だけ。
一度目はアクシデント、二度目は響子さんからの不意打ちであった。
五代にとってあのときの喜びはなにものにも変え難い。
しかし恋人同士のような口づけは今夜が初めてだ。
だからこそ五代は感動していた。ここまでの道のりはあまりに長かった。
しかしその分、感動が深くなっているようにも思える。

五代は夢中になって響子さんの首筋に口づけする。
響子さんも五代の情熱的な口づけに思わずぴくりと反応する。
視界には響子さんのみずみずしい張りのある乳房が見える。
五代は首筋に口づけしながら響子さんの乳房にそっと包み込むように手を添えゆっくりと愛撫を始める。
「くぅ……」
響子さんの息が乱れ始めたのに力を得た五代は、そのまま響子さんの乳首を舐め始める。
それはすでに少し固くなりはじめており、口や指で刺激すると響子さんはつい声を上げてしまう。
(響子さんも感じてくれている……)
日ごろから何度も妄想してきた響子さんとの夜。
本物の響子さんの反応に五代は体中の血が沸騰し始めたような感覚を覚える。

一方響子さんも五代と同様に興奮していた。惣一郎と死に別れて数年、操を守り続けてきた。
しかし響子さんも未亡人である前に一人の女、誰かの温もりが欲しい夜も何度かあった。
そんな状態での現在最も大切な男性である五代との初めての夜。
興奮するなというほうが無理であった。
実は最初の口づけの段階で響子さんはもうすっかりその気になってしまっていた。
ずっと我慢してきたが五代に乳房を刺激され声まであげてしまった。
こうなってしまうと自分が五代に夢中になってしまっていることに嫌でも気づかされてしまう。
早く五代に貫かれたいとすら思った。
そしてその二人の結ばれる瞬間は刻一刻と近づきつつある……はずであった……。


5.

五代は響子さんと肌を重ねていることに感動していた。
響子さんも感動してくれているはずとの確信もあった。
しかし……五代はふと先ほどの響子さんの言葉を思い出してしまう。

「それにあたしも惣一郎さんが気になるから……」

ふと思い出してしまった響子さんの何気ない一言。
その何気ないたった一言に、五代は響子さんの気持ちがわからなくなってしまう。
先ほどまで響子さんとの絆みたいなものに確信があった。
しかし、ふと惣一郎のことを思い出すとその確信が脆くも崩れ落ちてしまう。
長年の間、響子さんの心を縛り付けていた惣一郎の存在。
その存在は響子さんだけでなくいつの間にか五代までも縛り付けていた。
五代はなんとか立て直そうとする。
しかし五代のものはすっかり萎縮してしまい復活する気配もない。

「……?」
響子さんもその違和感に気づく。
「どうしたの……?」
響子さんは何が起こっているのかとっさに理解できない。
「す、すみません」
五代が響子さんから目をそらす。
そんな五代の様子に響子さんは思い出す。自分の軽率な発言を。
「あの……あたしがいけないんでしょうか……?」
「い、いえ、そんな……」
五代が響子さんの言葉を否定する。
しかしそれが嘘だということぐらい響子さんにもわかる。
どうすればいいのかわからず響子さんはこの場から逃げ出そうとして五代に背を向ける。
そしてさきほど脱ぎ捨てたガウンを手にした瞬間、本当にこれでいいのかと思いなおす。

(さっきまで五代さんに喜んで抱かれていたのにあたし……五代さんを置き去りにして……)
響子さんは振り返り五代を見る。するとベッドに手をつき呆然としたままの五代の姿が目に入る。
(ここであたしが逃げてしまったらこの人は……一人で苦しみ続ける……)
響子は五代のことを考える。
(それでも心優しいこの人は……きっとあたしを責めたりしない……)
響子さんは目をつぶり今自分がどうすべきか考える。

「好きです響子さん……初めて会った時からずっと……今も、これからも……」
響子さんの脳裏に五代の言葉がよぎる。
(あたしはこの人の想いに……何一つこたえていない……)

響子さんは意を決してベッドに戻ると五代の手にそっと自分の手を添える。
「えっ……」
五代が思わず顔を上げる。
その五代の自信のすっかり失われてしまった頼りない表情に……響子さんは改めて自分の言葉の罪深さを思い知る。

「五代さん……何考えてたんですか……?」
「…………」
五代はこたえることすらできない。
「五代さん……あたしのこと……好きですよね」
響子さんがさらに尋ねる。
「す、好きです……」
五代がこたえる。
そんなの当たり前で今さら言うまでもないことだ。
しかし五代は同時に心の中でつぶやく。

(好きなのに……)

五代の精神的ダメージは大きい。
そんな五代に響子さんが口を開く。
「五代さん、あなた惣一郎さんのこと考えてるんでしょ」
響子さんが落ち着いた口調で言葉を続ける。
「…………」
五代は沈黙を守ったままだ。
響子さんは五代の答えを待っている。
「響子さんがおれに抱かれながら、亡くなっただんなさんのこと思い出してたらどうしよう……なんてしょーもないことを……」
五代は……言葉に詰まりながら応える。


6.

響子さんは一度深呼吸をすると……ゆっくりと自分の想いを言葉に変えていく。
「惣一郎さんを消すことなんてできるはずもないのかもしれません。あなたからも私からも……」
五代は響子さんの言葉を黙って聞いている。
響子さんは五代の手を優しく握り締め言葉を続ける。
「ホテルに入る前に、初めて会った時から好きです、っていってくれましたね……」
そこまでいって一瞬、響子さんは躊躇する。
しかし響子さんは勇気を振り絞り自分の気持ちを伝えようとする。
「でもあたしだって……あたしだって……」
響子さんは喉まででかかった言葉をどうしても口にできない。
ここまで来てまだ躊躇ってしまう自分に響子さんは自分が情けない。
しかしそれでも五代は響子さんの言葉に驚く。
その後に続くはずの言葉はあまりにも明白だから。
しかし……だからこそ今の自分が不甲斐なく瞳を伏せてしまう。
そんな五代の様子に響子さんが言葉を続ける。
「さっき”響子さんは全然信用してくれてない”って……言ってたけど、あなただってあたしを全然信用してくれてないんじゃないですか」
「…………」
五代は返す言葉もない。

「確かにあたしは今まで五代さんのことを信用してなかったかもしれません。
だってあたし達の関係って本当にはっきりしなくて不安定で……。
でもこのままじゃあたし達いつまでたっても前に進めないと思うんです。
だから……黙ってあたしのやることを見ててください。信用してもらえるかどうかわかりませんけど……」
そういうと響子さんは布団を剥ぎ五代の下半身に顔を近づける。
五代は響子さんの気配に響子さんの意図を悟る。
しかし……そんなことが現実にあるとは信じることができない。
響子さんが自分のものを口にする光景を五代は想像できないのだ。

「……」
響子さんは五代のものを目の前にして躊躇する。
男性の性器をはっきりと目にするのはほとんど初めての経験だ。
かつて惣一郎のものを見たことはあるがそんなにはっきりと見たわけではない。
もちろん口にするのも初めての経験になる。
しかし今さら後に引くわけには行かない。
響子さんは五代のものに手を添える。
「あたし、あなたを失うくらいなら……なんだってやります……」
そういうと響子さんは元気がなくなった五代のものを思い切って自分の口に含む。


7.

五代はどちらかというと控えめな響子さんがこのような行動をとったことに衝撃を受ける。
実際響子さんが口に含むのは初めての経験であり、五代がかつてソープで経験したものとは比べようがない。
だがあの響子さんが自分のためにここまで……と考えると五代は下半身に情熱が戻るのを感じる。
響子さんも五代のものが大きくなっていくのを感じ、そしてまたそれが嬉しくもある。
「響子さん、ありがとう……」
五代は響子さんに感謝してもしきれない。
そして上気した表情で口に含む響子さんを見てるうちにもっとうまくやって欲しいという男本来の欲望がみなぎってくる。
「すいません、あの……舌で……いろいろしてもらえませんか?」
思い切って響子さんに頼んでみる。
「えっ……」
顔を真っ赤にする響子さん。
(そんな……恥ずかしい……。でも五代さんのためなら……)
響子さんは恥ずかしがりながらも五代のいうとおりにしてみようと思う。
しかし何をどうすればいいのかわからない。
とりあえずゆっくりと舌で舐めてみる。
「……響子さん……とてもいいです」
五代が満足そうにつぶやく。
(こ、これでいいの……?)
響子さんは勝手が分からぬまま舌で五代のものを刺激する。
「先端の部分を舌の先で刺激してもらえますか」
「ん……」
響子さんは黙って従う。
これからこれが自分の中に入るのだと想像するだけで響子さんも大事なところがうずいてしまう。
実際五代のものは惣一郎のものより立派に思えて仕方がない。
そして響子さんが情熱的になるにつれて更なる快感が五代を襲う。

「あっ、しまった……」
そもそも素人童貞でそんなに余裕があるわけでもない五代はあまりの快感に耐えられなくなりあっさり響子さんの口に出してしまう。
「んー……!!」
突然のことにどうしたらいいかわからず、とりあえず受け止める響子さん。
「すいません響子さん、あまりに気持ちよくて……」
五代が小さくなって謝るが響子さんはそれどころではない。
むげに吐き出すのも申し訳なくて手で口を押さえたままどうしようかきょろきょろする。
五代もあわてて辺りを見渡し
「えと……響子さんこれ!」
近くにあったティッシュを渡しそこに吐き出させる。

ようやく落ち着いたところで五代が再度響子さんに詫びる。
「すいません、調子に乗っちゃって……」
「もう!信じられません!!」
響子さんが怒って見せる。
しかし予想外の事態から脱してほっとしているのもまた事実であった。
「でもまぁ……仕方ありませんわね……」
と響子さん。


8.

「それで……あの……」
五代がどもりながらいう。
「俺、やっぱり響子さんのこともう一度きちんと抱きたいんです!」
顔を真っ赤にしながら五代は響子さんにいまの素直な気持ちを伝える。
響子さんもうつむいたままうなずく。
二人の心はもう完全にひとつであった。

そしてついに結ばれる二人。

「ええと、ここかな……」
「そこじゃありません!!」
響子さんが顔を真っ赤にして抗議する。
「すいません……あ、ここだ」
「……そこです……」
響子さんが小さな声で答える。
五代のものが響子さんの中に侵入し、暖かい感触に包まれる。
<ついに響子さんとひとつになれた…>
五代は感動のあまり号泣しそうな勢いだ。
「……」
響子さんは目を瞑ったまま顔を赤らめている。
そんな響子さんを五代は心底愛しいと思う。

「じゃあ動かしますね……その……もしも痛かったりしたらいってください」
「は……い……」

五代には響子さんが少し痛みを我慢しているように見える。
しかし、長年あこがれてきた響子さんと自分が……と思うと五代は自分を抑えることができない。
五代は6年間の想いと男の欲望を込めて腰を動かす。
「んっ……あん……」
その動きにあわせて響子さんの口からも艶かしい声が漏れる。
そんな響子さんの反応を楽しんでいると五代はすぐに限界近くなる。
「響子さん、俺……もう……」
「五代さん……その……あたしの中に……」
響子さんはもう五代とどうなってもいいと思う。
だからこそ五代を直接受け入れたいと思う。
「響子さん……」
五代はしばし考えた末、響子さんのおなかの上に射精する。

「ど、どうして……?」
響子さんが尋ねる。
「やっぱりまだ俺無職だから……。響子さんのことが大事だからこそケジメをつけときたいん
です。実際今できてしまったら大変で響子さんに迷惑がかかってしまいますから……」
「……」
それを聞いて響子さんは改めてこの人を好きになって良かったと思う。
そして五代の腕に抱かれまどろみながらながら今までの誤解とすれ違いの日々を思い返しつぶやく。

「あたしね……ずっと言えなかったことがあるんです。」
「え……?なんですか?」

「本当はね……」
そこまで言って響子さんが思わせぶりに言葉をとめる。
五代もどきどきしながら響子さんの言葉を待つ。

「ずっと前から五代さんのこと好きだったの」

そう言って響子さんは五代に軽くキスする。
「!!」

「ずっと前からって……いつから?」
「忘れちゃった!」
二人は声をだして笑う。


9.

響子さんはお気に入りの歌を口ずさみながらシャワーを浴びる。
「手のひらのそよ風が♪」
響子さんはいつも何気なく口ずさむ歌詞を思い返す。
(悲しみよこんにちは、か……あたしもやっと本当の笑顔になれたのかな……)
響子さんはちょっと自問してみる。
しかしすぐには答えが出そうにないので考えることをやめてシャワーを終える。

「五代さん、お仕事いいんですか?」
シャワーを終え着替え中の響子さんが尋ねる。
「あっ!急がないと遅刻だ……」
五代がため息をついて急いで着替えはじめる。
「はいはい、急いで着替えて」
着替えを終えた響子さんはいつも以上に五代の世話をやく。
二人で勘定を終えホテルを出る。
「それじゃあ急いでお仕事行ってくださいね、もし遅れちゃったら飯岡さんにもきちんと謝って……」
「すいません、響子さん、こんなとこでも心配かけて」
「いいんですよ、お仕事がんばってくださいね」
「はい、じゃあがんばって行ってきます!」
「あっ、五代さんちょっと……」
「?」
「お夜食作っときますんで仕事終わったら管理人室まできてください」
響子さんが小さい声で言う。
五代は笑顔でうなずくと職場に向かい駆けだす。
響子もそんな五代を笑顔で見送る。
二人の笑顔はそのとき世界で一番幸せな笑顔に違いなかった。


[完]

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル