第3回



        *


「あ、そうだ紅茶を入れてあげましょうか。実は高級品を仕入れたんですよ」
「え、高級?」
「とっておきの一品ですよ」
 店長の言葉に朋美は目を輝かせた。
「飲みたいけど……いいんですか? 高級品を」
「お店の売り上げに随分と貢献してくれましたし、私からのささやかなお礼です」
 北野がにっこりと笑った。店の奥へと引っ込み、しばらくして淹れたての紅茶を手に戻ってくる。
「どうぞ、朋美さん」
「わあ、ありがとうございますぅ」
 朋美は子供のように歓声をあげた。
 湯気と一緒に、香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。
 一口飲むと、蕩けるような甘みとかすかな苦味が絶妙にブレンドされて、舌の上で心地よく踊った。
「美味しい」
 ふう、と至福の吐息をこぼした。
「でしょう?」
 北野が嬉しそうに笑う。
「あれ、店長は飲まないんですか」
「ええ、これは朋美ちゃんのために淹れたので」
 口元の笑みが、深くなる。
 いつもの穏やかな笑みとは違う。
 どことなく邪まさを感じさせる嘲笑。
(店長?)
 訝しげに北野を見つめる。
 一瞬、背筋にいやな予感が走り抜けた。


 次の瞬間、目の前の景色がぐにゃりと歪む。


「なに、これは……」
 朋美は訝しげにつぶやいた。
 ──いや、つぶやいたつもりだった。
「こ……れ……は……?」
 すでに言葉はかすれ、舌がもつれて、呂律が回っていなかった。
 ゆっくりと意識が薄れていく。
 思考が真っ白に塗りつぶされていく。
 瞼が重く閉じていき……
 朋美の意識は途絶えた。


        *


「目が覚めましたか?」
 気がつくと、ベッドの上に横たえられていた。
「う……」
 朋美の口から小さな呻きがもれる。
 天井から降り注ぐライトが、寝起きの瞳には強烈だった。
 両手に圧迫感を感じる。
 首をひねると、後ろ手に両手を縛られていた。
「な、なに、これ」
「ふふふ、待っていましたよ、このときを」
 北野の顔がにやけていた。
「どうして、あたし……」
「よく眠れたでしょう。特製の睡眠薬入りミルクティーは」
 男の口元が大きく釣り上がり、三日月形の笑みが深くなる。
 いつもの、紳士的な店長ではなかった。
 欲望にまみれた、獣の顔──
「店長、なに言ってるんですか」
 朋美は愕然とつぶやく。
 目の前で、世界がぐるぐると回っているようだった。
 現実の光景なのか、それとも悪い夢を見ているのか……思考が混乱し、理性が崩壊していく。
 北野は邪まな笑みを浮かべたまま、朋美の上にのしかかってきた。
 力強い手で服の上から胸元をさする。思いきり揉みしだかれ、量感溢れる乳房がぐにゅ、と歪んだ。
「いや、いやぁ」
 朋美は悲鳴を上げた。
 首を左右に振り、拒絶の意思を示す。
 北野は顔を近づけ、首筋に軽く唇を触れた。


 ちゅっ……


 静まり返った室内に、キスの音が異様なほど大きく響く。
「ふふ、朋美さんは男とこういうことをしたことはあるんですか」
「…………」
「どうなんです?」
「あ、ありません……だから、許してぇ」
「ふふふ、それはいい事を聞きました。私が朋美さんの初めての男性になれるとは光栄ですよ」
「そ、そんな、あたしは──ぐっ」
 店長の右手が朋美の乳房にのびた。


 ぐにっ、ぐにぃっ……


 童顔とは裏腹のボリュームある双丘を好き放題に揉みしだかれる。
「これはすごいですね。蕩けるように柔らかくて、それでいてしっかりとした弾力感があって……なんてオッパイだ」
 店長が感嘆の声を上げる。
「やめてください」
「ふふふ、やめられませんよ。手に吸い付いてくるようだ」
 朋美の懇願を無視して、店長は愛撫を続ける。
 両手で頬を挟み込まれ、がっちりと固定された。
 北野の顔が近づいてくる。
 荒々しい鼻息が顔にかかり、肌が粟立った。
 ぶちゅ、と音を立てて、北野の唇が押し付けられる。
「んんーっ!」
 唇をぴったりと塞がれ、朋美はくぐもった悲鳴を上げた。
 中年男の、ぶよぶよとした唇が自分の唇を塞いでいる。
 気味が悪くて、目の前がチカチカとした。
 上唇と下唇を交互に挟むようにして、北野は女子大生の唇を吸いつけている。
 まるで吸血ヒルのような、不気味なキスだった。舌先で朋美の唇の外縁をたっぷりとなぶる。
 そのたびに唇が震え、背筋にぞくりとした痺れが走った。やがて口を離すと、北野は満足そうに息をついた。
「ふふふ、キスも初めてですか?」
「…………」
 驚きとショックで朋美は言葉が出てこない。
「おや、初めてではなさそうですね」
「……付き合っている人が、いますから……」
 朋美は恥ずかしさをこらえて告白する。
 もっとも誠とはキス止まりの関係で、それ以上の行為には及んでいない。せいぜい軽いペッティングまでだった。


 本当のセックスは未経験の、無垢な処女なのだ。


「それは残念。せっかく乙女のファーストキッスを奪えたと思ったのですが」
 北野はぺろりと自分の唇を舐めた。
「キス以上のことはどうです? 男を知っているのですか」
「えっと……」
 朋美は口ごもった。
 大学生にもなってバージンだと告白することが恥ずかしかった。
 押し黙った彼女に対し、北野はかすかに眉をしかめる。
「正直に話さないとお仕置きですよ。そうら」
 五指を鍵爪のように曲げて、はちきれんばかりの乳房に食い込ませる。
 快楽を与えるための愛撫ではない。
 苦痛を与えるための責めだった。
「いっ……痛い」
 乱暴にバストを鷲づかみされて、瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「答えなさい。朋美ちゃんは男を知っているのですか」
「し、知らない……ですぅ」
 悲鳴混じりに告白した。
「バージンなんですね」
「はい……」
 恥をかなぐり捨てて、朋美は正直に告げる。
「では私が初体験をさせてあげましょう。そろそろご開帳といきましょうか」
 男の手が制服のスカートにかかった。
 ひらひらのフリルがついたウェイトレスのスカートを、ゆっくりと、いたぶるようにまくっていく。
 ピンク色の、可愛らしい下着があらわになった。
「やぁ……」
 朋美は口を半開きにして嗚咽をもらした。
 激しい羞恥で頬が燃えている。
「可愛いパンティですね。ふふふ、初々しいですよ」
「見ないでください。お願いだからスカートをまくらないで……」
「無理ですよ。スカートめくりは男のロマンですからね」
「そんな……きゃあっ」
 朋美はふたたび悲鳴を上げた。
 男がショーツの縁をつかみ、一気にずり下ろしたのだ。
 ピンクの下着が足首の辺りまで下ろされる。
「ついでに生パンティもゲットしておきましょうか」
 北野は完全に脱がせたショーツをつかみ、クロッチ部分を自分の鼻先に押し当てた。ふんふんという生暖かい鼻息が初々しいクレヴァスをくすぐった。
 嫌々をするように腰を左右によじる。
「いい匂いだ。処女の香りと、おしっこの匂いが入り混じっていて……たまりませんね」
 変態的な台詞におぞましさを感じた。店長のことを善良な男性だと思って敬愛してきたが、裏切られた気分だった。


 紳士の仮面をかぶった変態男──


 それが北野哲夫の正体だったのだ。
 北野はショーツの股間部分をぺろりと舐め、口の端を吊り上げる。ぬめぬめとした舌が布地を縦横に嘗め回った。
 そこに染み付いた尿や汗を味わっているようだ。
「やめて……やめて……」
 あまりの恥辱に、朋美はうわごとのように拒絶の言葉を繰り返した。己れの分泌物を他人に賞味されるタブー感に背筋が寒くなる。
「美味しいですよ、朋美さん」
 北野は鼻と舌でショーツをたっぷりと味わい、床に置いた。
 朋美の両脚を左右に押し開く。
 抵抗しようと太ももに力を入れる。
 が、両手を封じられていてはどうにもならなかった。
 男の力の前にじりじりと両脚を広げられ、やがて大股開きにされてしまう。
「ほう、やはり処女だけあって、きれいなアソコをしていますね」
 北野は身を屈めると、舌なめずりしながら女子大生の秘処を覗き込んだ。
 美しい桃色の花弁の周囲を、淡い恥毛が彩っている。かすかに汗ばんだ秘唇はぴったりと閉じ、ひくひくとかすかに震えている。
「いや……言わないでぇ」
 朋美は顔から火の出るような思いでうめいた。じっくりと性器を視姦される恥ずかしさで、背筋に汗がにじむ。
 北野が、ごくり、と息を飲む音が耳を打った。
 欲情にまみれた視線が体のもっとも奥底に突き刺さるようだ。
 北野が性急な動きで腰を割り込ませた。


 カチャ、カチャ……


 スラックスのベルトを外す音が異様に大きく響く。朋美は身じろぎひとつせず、男が下半身をむき出しにするのを見つめていた。
「ふふふ、見たのは初めてですか」
 北野が腰を逸らせて笑った。
 黒光りする男性器が眼前で屹立している。
「うう……」
 朋美は喉を引きつらせてうめいた。
 子供の頃、父親と一緒に入浴したときを除けば、生まれて初めて目にした男性器だった。
 天に向かってそそり立つ器官は想像以上に雄々しく、たくましく、妖しいフォルムを備えている。
「これが男の人の……」
 朋美の口から熱いため息が漏れた。
 北野がさらににじり寄った。
 お互いの腰が密着する。
 驚くほど熱く火照ったものが肉腔に押し当てられる。
「あっ」
 人間の体の一部とは思えないほどの熱さに、朋美は身をすくませた。
 生まれて初めてセックスを経験しようとしている、そんな状況を前にして体の震えが止まない。
(助けて……誠君)
 今ここに最愛の恋人がいれば。
 この不埒な男から、自分を助け出してくれるのに。
「ふふふ、後悔しないでくださいね。一生に一度のロストバージンを、恋人ではなく私のために捧げることを」
「だ、駄目……!」


 いよいよ入ってくる──


 朋美が体を硬くした瞬間、
「んっ!」
 男は小さく息を吐き出し、腰を突き出した。グイグイとねじこむようにして、ペニスの切っ先が膣の中に沈んでいく。
 疼痛と痺れが同時に走った。
「うっ、ああ……」
 生まれて初めて味わう、妖しい感触。
 自分の胎内を異物が侵入していく圧迫感に、朋美は呼吸を止めて耐えた。身じろぎひとつせず、処女を奪われていく過程を感じ取っていた。





『寝取られ女子大生・危険なアルバイト』の連載はここで終了です。
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