第三回



        *



「ち、ちょっと生で入れる気?」
 美咲があわてて叫んだ。
 彼はコンドームをつけていない。付ける気配もない。
「いいでしょ、別に。この間だってナマでやったじゃない」
 増田は平然とした様子で、剥き身のペニスを膣の入り口に押し付けてくる。あと少しでも力を入れれば、切っ先が美咲の内部に侵入するだろう。
「でも……」
「もしかして危険日なの?」
 増田が状況を面白がるような口調でたずねた。
 美咲は唇をかみ締めて告げる。
「……そうよ」
「スリルがあっていいじゃない。当たるか、外れるか。ふふふ、命中したら、できちゃった結婚でもしようか?」
「ふ、ふ、ふ、ふざけないでっ!」
 美咲が怒鳴った。
 よりによってこんな男と『できちゃった結婚』などとは──おぞましいにも程がある。
「ちゃんとゴムつけなさいよ。最低限のマナーでしょ」
「あいにくだけど、僕のマナーは生ハメ中出しなんだ。そらっ」


 ぐちゅ


 異様なほど大きな水音がして、熱い先端部が入り口を通過する。
「きゃあっ」
 美咲は柄にもなく女の子らしい悲鳴を上げてしまった。
 太った体に組み敷かれて、ロクに身動きも取れない。まるでデブの巨体に押しつぶされるような状態で、ずぶり、ずぶり、と肉茎が彼女の胎内を突き進んでいく。
 深々と最奥まで貫かれると、増田は満足げに息を吐き出した。
「生ハメ完了、と♪ うふふ、やっぱりナマが一番気持ちいいよねぇ」
「駄目だって言ったのに……!」
 美咲は恨みがましく彼をにらみつける。
「だいじょーぶだってば。中には出さないから」
「ふざけてないで、早く抜きなさいよ! 中出ししなくても妊娠することはあるんだからね」
 増田はにやにやと笑ったまま、まるで取り合わない。丸々とした腹を揺するようにして、ピストン運動を開始した。
 最初はゆるく、徐々にスピードを上げて。
 美咲は体をよじって逃れようとしたが、重量感のある体に組み伏せられていては、脱出することは困難だ。やむを得ず、彼のパワフルなセックスに身を任せることになった。
「ねえ、さっきの盗撮写真なんだけど──」
 強烈なピストンを受けながら、美咲が攻めに転じる。
「本当はハッタリなんでしょう」
 こんな男に、何もかも言いようにされるなど彼女のプライドが許さない。
「さあ、どうかな」
 増田もさるもの、そう簡単には尻尾をつかませない。女体を堪能するように、浅く深く、抽送を繰り返す。角度を変えて、彼女にとって気持ちのいい場所を探っていく。
「うっ……あぁっ」
 快感のツボ──俗に言うGスポットを直撃され、美咲の声が甘く高まった。
「どうして……うんっ……ハ、ハッタリだと思うの?」
「あのとき盗撮写真を取り上げて……んっ……何ヶ月も経って、顔も映ってない写真を出されても……説得力がないわよ」
 美咲は喘ぎながら説明する。
「おおかた、またあたしとヤりたくなって適当なことをでっち上げてるんしょ」
「まあ、信じる信じないは君の自由だからね」
 増田はうろたえることもなく悠然とピストンを続けている。
 実に堂々とした態度だった。数ヶ月前、美咲が筆卸ししたときの彼とは別人のようだ。
 上体を抱え込むようにして、唇がかぶさってきた。
「んっ……!」
 ぬめぬめとした感触が、美咲の唇を覆い尽くす。舌が入り込み、口の裏から歯茎まで丹念に嘗め回す。とろり、とした快感に彼女は思わず目を閉じた。
「随分……んっ……キスが、うまくなったじゃないっ……んんっ」
 美咲は悔しげに喘いだ。
 初めて寝たとき、彼は童貞だった。それどころかキスの経験すらなかったのだ。
 だが今では、美咲を喘がせるほどに巧みな口づけを仕掛けてくる。
 ぐちゅ、ぐちゅ、といやらしいハーモニーを奏でながら、太いペニスが肉洞を出入りする。今まで幾人もの男を受け入れた秘孔だった。
 増田の動きに合わせて、きゅっと膣が締まる。十分に開発された牝器官は、男を搾り取ろうとひとりでに柔襞を蠢かせた。
「気持ちいいよ、美咲。いったい、今まで何人の男にココを使わせたのさ」
「あ、あんたの知ったことじゃないわよ……あんっ」
 ぐい、と奥まで突き込まれ、美咲は悲鳴を上げた。
「そ、それ以上動かないでぇ」
 膣の中で自在に動き回る肉棒に、彼女の頬が紅潮する。


 気持ちよかった。


 認めたくはないが、全身が性の悦びを奏でている。恋人の速水に抱かれるよりも、圧倒的に気持ちがいい。
「んっ、んんっ!」
 力強い突き込みを受けるたびに、悦楽の波が下半身全体に広がっていく。
 我慢できずに、すらりとした脚を増田の腰にからみつけた。自分から腰を揺すり、男のピストンを迎え撃つ。
「ああ……来るわ……来る、来ちゃう!」
 美咲が唇を震わせ、快感を訴えかける。
 増田は彼女の体をひっくり返すと、後背位からピストンを再開した。
 屈辱的な獣の体位にも、もはや彼女は抵抗しない。
 ただ今は、この卑劣な男から与えられる快楽を貪りたかった。
 美咲は──一匹の牝と化していた。
 増田も限界が近いのか、一気にスパートをかけた。勢いよく肉を打ち鳴らし、若い膣をえぐっていく。
「もうイク! イクからね!」
 増田が叫んだ。
「ふふ、顔にでもかけてあげようかな」
「だ、出して……」
 美咲がかすれた声でつぶやく。
「ん?」
「出して! あたしの中に!」
 それは──牝としての本能だった。
 妊娠や感染の危険など、どうでもよかった。誇りも体面も、なにもかもをかなぐり捨てた絶叫だった。
 ただ、気持ちよくなりたい……もっと気持ちよくなりたい。シンプルな、牝としての本能。
「あれ、さっきは危険日だって言ってたくせに」
 増田がわざとらしく腰の動きを止める。美咲は彼の律動を催促するように、小刻みに自分の下腹部を揺すった。
「いいから! 早く中にちょうだい!」
 瞳を淫らな期待に輝かせ、美咲は膣内射精をリクエストする。
「お願い! あたしの中にドクドク出してぇ!」
「じゃあ、遠慮なく──」
 増田は深々と己のものを埋め込んだ。
 胎内で男根が脈打ち、膨らんでいくのを実感する。


(あ、来る……)


 淫らな期待で瞳が輝いた次の瞬間、
「うう、出るよ!」
 増田はうめき声とともに、太った体を小刻みに揺すった。ドクドク、とおびただしい量の精液が美咲の膣に注ぎ込まれる。
「ああーっ、出てる! あたしの中に!」
 美咲は快楽と屈辱の狭間でオルガスムスの声を上げた。
 ひく、ひく、と膣全体が震えている。ぷしゃっ、と音がして尿道から薄黄色の液体が漏れ出した。
 あまりの快感に失禁してしまったのだ。
「うふふ、あの美咲がお漏らしするなんてね」
 増田はぶるぶると体を揺すって、最後の一滴まで女子大生の最奥に放出する。
 外に漏らさないよう、念入りに。
 この一回で美咲を妊娠させてやろうと言わんばかりに。
 それは射精というよりも『種付け』そのものだった。
「どう? 気持ちよかったでしょ」
 増田がゆっくりと肉棒を引き抜く。
 ぬぷり、と濡れた音がして、栓の外れた秘孔から大量の精液が逆流し、マットの上に流れ落ちた。美咲が漏らした尿と、精液が混じりあい、浴室の排水溝へと流れていく。
「ねえ、気持ちよかったの? よくなかったの?」
「…………」
 美咲は屈辱のあまり口を利けない。
(こんなヤツに──思いっきりイカされるなんて!)
 圧倒的な絶頂だった。あまつさえ、増田の前で失禁までしてしまったのだ。
 今までに抱かれた、どんな男よりも気持ちがよかった。
 これほどのオルガスムスを感じたのは、生まれて初めてだった。



        *



 控え室の扉を開けて、一人の少女が入ってきた。
「ヒメ」
 音霧咲夜(おとぎり・さくや)は喜びに顔をほころばせて、美しき訪問者を出迎える。
 足元まで届く、漆黒の黒髪。人懐っこい笑顔が印象的な美少女──佐伯姫菜(さえき・ひめな)が、咲夜の元に歩み寄った。
「がんばってね、咲夜ちゃん」
「来てくれたのね」
 咲夜の顔が喜びに輝く。
 彼女もまた姫菜に勝るとも劣らない美少女だ。
 きらきらと輝く、黒目がちの大きな瞳。赤く染めた髪は綺麗なストレートロング。今日はコンサート用の派手な衣装を身につけているせいもあって、現実離れした可憐さをかもし出している。
 まるで──アニメのヒロインが現実の世界に飛び出してきたようだった。
「会場を見てきたけど満員だったね。立ち見の人もいっぱいいたし、相変わらず大人気じゃない」
 姫菜が微笑む。
「みんな、咲夜ちゃんが大好きなんだよ、きっと」
「わたしが好き……? へえ」
 咲夜がつぶやいた。
 自嘲気味の表情に、姫菜は訝しげな顔をする。
「わたしは汚れてる」
「咲夜ちゃん──」
「わたし、知ってるのよ。陰でわたしが何て言われているか」
 咲夜が悲しげにつぶやいた。
「今の地位を築くまでに、汚いことをたくさんしてきたの」
 咲夜は、己の過去を回想する。
 彼女とて、最初からトップアイドルだったわけではない。売れない時代が当然あった。
 実力では負けないと思っていても、番組に起用されなければ実力の示しようがない。いくら番組に出たくても、出演枠は大手のプロダクションに所属する声優たちで固められてしまっている。
 そんな中で出演枠を勝ち取るためには、なりふりなど構っていられなかった。
 いわゆる──枕営業だ。
 プロデューサーや監督を片っ端から誘い、自らの体をエサに役を手に入れた。彼女が仕事を得るために寝た男は、おそらく二桁ではきかないだろう。
 咲夜の『悪行』はそれだけではない。
 彼女は立ちはだかるライバルたちを脅して、のし上がった。そのための脅迫ネタは、とある方法で手に入れていた。
 決して表に出せない、数々の悪行。
 トップアイドル音霧咲夜の黒い一面は、芸能関係者たちに広く知れ渡っていた。つい先日、先輩の麻衣と衝突したのもそんな一面があるからだ。


 自分は、汚い。


 清純派アイドルなどと呼ばれていても、一皮剥けば、勝つために手段を選ばない醜さがある。一般のファンは知る由もないが、彼女自身は自分の醜さを誰よりも知っている。
 そして誰よりも、そんな醜さを嫌悪している。
「清純なアイドルだなんて……嘘で塗り固められた偶像よ。プロデューサーや監督と寝てきた結果に過ぎないもの」
「咲夜ちゃん……」
 姫菜がうつむく。
 咲夜の告白に驚いているわけではないだろう。
 姫菜は──咲夜の背負う過去を知っている。彼女が以前に巻き込まれた『とある脅迫事件』を解決したのは、目の前の美少女探偵なのだから。
「最近も、大手のプロダクションから事務所に圧力がかかったわ。脅迫まがいのね」
 咲夜がため息をつく。
「うちのプロダクションは弱小だから仕方がないのかもしれないけど、脅したり、脅されたり──いい加減、嫌になることもあるわ」
「脅されている……? 誰に?」
 姫菜が心配そうにたずねる。
 咲夜のことを心から案じている表情だった。
 芸能界は打算と妄執が渦巻く世界。彼女の周囲に、こんな顔をして接してくれる人間は少ない。
「誰に、ですって? さあね、相手が多すぎていちいち名前を挙げていられないわ」
 咲夜が自嘲した。
 今までにプロダクションや咲夜自身に対して、脅迫まがいの……あるいは脅迫そのものの圧力は数え切れないほどあった。逆に咲夜がライバルとなる声優たちを脅したこともあった。汚い手段を使ったこともあった。
(因果は巡る、ということかしら)
 達観したようにつぶやく。
「仕方がないことかもしれないわね。わたしは汚れているもの。それは──わたし自身が一番よく知っていることよ」
「あたしも、知ってるよ」
 姫菜が優しく微笑んだ。
「あなたが今の地位を築くために、どれだけ努力してきたか。ボイストレーニングだって、演技の練習だって、同世代のアイドルや女優の何十倍もしてきたってこと。だから音霧咲夜は──誰もが認める、ナンバーワンのアイドルなの」
「ヒメ……」
「自信をもって、咲夜ちゃん。たとえ過去のあなたが何をしてきたとしても──今のあなたがいるのは、あなた自身が勝ち取った実力でしょ」
 姫菜が明るく告げる。
 いつも──いつだって、そうだ。
 目の前の親友の言葉は、いつも咲夜に勇気を与えてくれる。
「わたしの、実力……」
「あなたを脅す人がいるなら、あたしが許さない」
 姫菜の瞳が強い光を宿す。
 相手が何者だろうと立ち向かう、鋼鉄の意思を。
「あたしが必ずあなたを護る」





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