第4回



        *


「あたしは……ちゃんと、し、処女……だよ」
 朋美は一瞬──いや数瞬のタイムラグを置いて、そう答えた。
 ピンク色の唇が小刻みに震えていた。
 彼女もまた動揺しているのだろう。
「本当に?」
「……本当よ。誠くんとするのが、初めて……」
 朋美が弱々しくうなずく。心なしか、可憐な容貌が青ざめているように見えた。


 ──じゃあ、どうして即答しなかったんだ?


 誠は新たな疑問を覚える。
 ドス黒い疑念は胸の奥で、刺のように突き刺さる。
 だがこれ以上追求すると、雰囲気が悪くなりそうだった。せっかくの初体験を、嫌な思い出にするわけにはいかない。
 このことはいずれ追求するとして、誠は腰を動かし始めた。
「処女だよ、あたし。初めて、好きな人に抱かれたんだから──」
 朋美の目の端には涙が浮かんでいた。喜びと、感動の涙。恋人の思いを感じ取り、誠は先ほどの言動を恥じた。
「信じて……くれないの?」
「ぼ、僕は……」
 誠は思わず言葉を詰まらせた。
「……好きな人に抱かれたの、初めてなんだよ?」
 それは後から考えれば、別の解釈が成り立つ言葉だった。
『好きな人に』抱かれたのが初めてなら、好きでもなんでもない男にはすでに抱かれたことがあるのではないか? ……と。
 しかし、そのときの誠にはそこまでの考えは思い至らなかった。
 生まれて初めて経験するセックスに、そして自分の体の下で涙を流し、感動に打ち震えている恋人に。
 誠もまた胸がいっぱいになっていたのだ。
 今はただ、彼女の言葉を信じたかった。
 自分が彼女の初めての男になったのだ、と誇りたかった。
(馬鹿だ、僕は。朋美ちゃんが非処女のはずないじゃないか)
 彼女は、そこらを歩いているような軽い女とは違う。
 いとも簡単に肌を許し、処女を捨ててしまうような馬鹿女どもとは違うのだ。
「疑ってごめんね、朋美ちゃん。本当にごめん。大好きだよ」
 誠は正面から愛しい恋人を見つめ、そう告げた。
 頭の中がカッと灼熱する。
 愛しい思いをそのままに、ラストスパートに入った。


 じゅくっ、じゅくっ、じゅくっ!


 濁った水音が連続して鳴り響く。朋美の内部をかきまぜ、攪拌しながら己の分身を深々と差し込んでいく。
 亀頭の辺りから竿にいたるまで、ジン、とした熱感が突き上げた。
 今まで感じたこともないほど強烈な射精衝動に駆られ、誠は激しく下腹をピストンさせる。
 やがて射精感が最高潮に達したところで、誠は吼えた。
「くうっ、出すよ! 出すよ、朋美ちゃん!」
「きてぇっ……ああ、んっ!」
 二人の声がひとつに溶けあった瞬間、誠は最深部までペニスを突き入れた。コンドーム越しに、どくっ、どくっ、と射精する。スキンが破れてしまうほどの勢いで、熱い子種を思う存分放出する。
「誠くんの……あたしの中で、ドクドクいってるぅ……」
 朋美はギュッと恋人の体を抱きしめた。
 絶対に離さない、とばかりにきつく引き寄せた。


        *


「誠くん……」
 アパートの自室で、朋美はうっとりした顔でつぶやいた。
 時間はすでに十一時を回っている。ラブホテルを出た後、誠にアパートまで送ってもらったのだ。
 恋人のぬくもりがまだ肌に残っていた。
 そのときだった。
 ピンポーン♪ と場違いなほどに明るい音色のチャイムが鳴り、浮かれていた朋美の意識は現実へと引き戻される。
(こんな時間に……誰だろう)
 玄関まで行き、ドアののぞき穴から来訪者の姿を確認する。
「恋人とのデートは堪能されましたか、朋美さん」
 ドア越しに響いた声に、朋美は表情を凍らせた。
「開けてもらえませんか」
「て、店長……」
 朋美は顔を青ざめさせながら、扉を開ける。
 このまま無視するという選択肢は、彼女の中にはなかった。冷静に判断すれば、こんな時間にたずねてきた男を部屋に入れる道理はない。入れるべきでもない。
 だが実際に彼の言葉を聞き、一見して柔和な口調で話しかけられると、まるで催眠術にでもかかったように唯々諾々と従ってしまうのだった。
 すでに体だけでなく、心にまで、北野という男の存在が浸透しているからこそかもしれない──
 恐ろしい想像に苛まれながら、朋美は北野を出迎える。
「お邪魔しますよ」
 店長はいやらしい笑みを浮かべ、室内に入ってきた。
 朋美は、拒否できない。
 ただ全身をガクガクと震わせていた。
 これから何が始まるのか。
 これから何をされるのか。
 不安と恐怖で思考がクラッシュしてしまっている。
「そんなに怖がらなくてもいいでしょう、朋美さん」
 中年男の笑みはますます深まり、朋美のすぐ傍までやって来た。
「さあ、挨拶のキスをしましょうか」
 と、いやらしく唇を突き出す。
 瞬間、カッと頭に血が上った。温和な性格の朋美にとって、これほどの怒りが込み上げたのは、いったい何年ぶりのことだろうか。
「い、嫌ですっ!」
 自分でも思いがけないほど大きな声が出てしまった。
 さすがの北野も少し驚いたような顔をしている。
「今日は──今日だけは、嫌なんです」
 震える声音でそう告げる。
 気弱な女子大生がありったけの勇気を振り絞っていた。たとえ自分の処女を奪い、性感を開発し、体のすべてを支配する男が相手だとしても──
 朋美は退かない。退くわけにはいかない。


 今日という日を、最良の思い出にするために。
 初めて恋人と結ばれた一日を、一生の宝とするために。


「ふむ……」
 北野は得心したような顔で、十九歳の女子大生の体を上から下まで眺めまわした。まるで舐めあげるように何度も何度も見つめる。
「彼に抱かれたのですか?」
「それは……」
「答えなさい、朋美さん」
 にやけた中にも鋭い眼光に、朋美は射すくめられてしまう。
「は、はい」
 ごくり、と息を飲みながら、小さくうなずいた。
「ふふふ、私というものがありながら、他の男に肌を許すとは──とんだ尻軽娘ですね、あなたは」
「誠くんとあたしは、付き合っているんです。お互いの気持ちを確かめ合っただけです」
 朋美は凛とした口調で言った。いつも穏やかな彼女にしては珍しいほどの、力強い口調。
 誠に抱かれたことで、彼女の中に強い芯が芽生えていた。
 今なら、この卑劣な男にも立ち向かっていける──
 そんな気がした。
「こ、恋人同士なんだから自然なことでしょう」
「朋美さんは私のものですよ。あなたがバージンを捧げたのは誰です? その『誠くん』とやらですか?」
「うっ……」
「言ってみなさい。あなたの初めての男は誰です? あなたの、まだどんな男も突っ込んだことがなかったオマ×コに、最初にチ×ポを突き入れたのは誰です?」
「うう……」
 噛み締めた奥歯がガチガチと鳴った。
「私の許可なく他の男に体を与えるとは──これは罰が必要ですね」
「ば、罰って……」
 嫌な予感に、朋美の全身がわなないた。




『寝取られ女子大生・危険なアルバイト2』の連載はここで終了です。
 続きをご希望の場合は、発売中の電子書籍にてお楽しみください。

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