第1回



        *


 室内にはムッとした生臭さがたちこめていた。
 栗の花にも似た香り。
 海の磯にも似た匂い。
 性臭──とでも呼ぶべき臭いが、室内いっぱいに漂っていた。
「ああっ……はぁぁぁんっ!」
 刈谷朋美(かりや・ともみ)は正常位で貫かれながら、熱っぽい嬌声を上げていた。
 大きく開脚した両足は、膝裏に自分の手を置いて固定している。
 男にピストンを受けるたびに、可憐な童顔とはアンバランスに発達した豊かな双丘が、ぷるん、ぷるん、と揺れはずむ。
「あ、う、くっ……あうん」
 はしたない声をあげるのが恥ずかしくて、唇をかみ締める。それでも上下の唇の隙間から、どうしても艶めいた声がこぼれてしまう。
 朋美は十九歳の女子大生だ。
 いまだに中学生と見間違われることもあるほどの、あどけない童顔。
 キラキラとした瞳や林檎色の頬。
 ショートカットにした綺麗な黒髪が、そんな可憐な容姿によく似合う。
 だが幼げな容貌とは裏腹に、純白の肢体は成熟した女の艶を発散していた。
「どう? 気持ちいいでしょう、朋美」
 二人の結合部を覗き込みながら、アルバイト先の先輩である福本梨奈(ふくもと・りな)が微笑む。
 笑顔が印象的な、美しい娘だった。明るく知的な容貌にスタイリッシュな眼鏡がよく似合っている。
「は、はい……き、気持ちいい……ですぅ」
 清らかな相貌を紅潮させて、朋美が喘ぐ。
 郷里にいたときは、自分がこんな女になるとは思ってもいなかった。
 恋人の誠と交際を続け、いずれは結婚して幸せな家庭を築くのだと──
 信じて疑わなかった。
 運命の歯車が狂ったのは、大学に進学し、上京してからのことだ。
 喫茶店でのアルバイト、そして店長である北野哲夫(きたの・てつお)との出会いが、すべての始まりだった。
 ──北野に睡眠薬入りのミルクティーを飲まされ、意識もうろうとした状態でバージンを奪われてしまったのだ。


 あたしには、付き合っている人がいるのに──


 恋人以外の男に処女を捧げてしまった罪悪感で、朋美は激しく動揺した。
 その後も何度となく迫られ、柔和な性格の彼女は押し切られてしまった。高校時代からの恋人である河島誠(かわしま・まこと)への罪悪感を、上手く利用されてしまったのだ。
 ただし、それは甘美きわまりない体験だった。
 北野のテクニックは図抜けている。無垢だった体に、セックスの悦楽を刻み込まれてしまった。
 そして今──朋美はとうとう誘惑に負け。みずから股を開いて北野を受け入れている。
 騙されて、でも、無理やりに、でもなく。
 自らの意志で秘処をさらし、恋人以外の男に貫かれている。
 北野が腰をローリングさせるように動かすと、膣の内壁を張り出した肉エラによって押しつぶされ、腰の髄にまで悦楽が響いた。
「ああっ、は、あう!」
 朋美は背中を弓なりにし、断続的に喘ぎ声をもらす。
 正常位のまま、北野が体を前傾させた。
 男の顔が近づいてくると、朋美は自分から顔を突き出して口づけに応じた。


 ちゅっ……


 と音が鳴って、二人の唇が深く重なり合う。
 ぬるりとした舌が入ってくると、朋美は夢中で自分の舌をからめていった。これも北野に教わったキステクニックだ。
 恋人の誠は、こんなキスの作法は教えてくれなかった。
 誠と交わすキスはもっと稚拙で、もっと初々しい……ただ唇を触れ合わせる程度の、口づけだった。
 北野のような大人の、ディープキスとは根本的に違う。
「あら、私は放ったらかしですか、店長」
 横から梨奈が体を寄せてきた。
 豊かに熟れた裸身を、中年男の体にすりつける。ボリュームにあふれたバストが、北野の腕と彼女自身の体とに挟まれ、淫靡な扁平にひしゃげていた。
「うわ……あ」
 朋美は店長とのキスを中断し、思わずため息をもらした。
 自分と二歳しか違わないというのに、梨奈はすでに成熟した大人の色香を漂わせている。
 その色香は、北野によって開発されて醸し出しているのか、それとも社会人の彼氏に愛されているおかげなのか──
 いまだ恋人とは一線を越えていない朋美には、分からない。
 北野は朋美にもう一度、軽く口づけすると、今度は梨奈とキスを交わしはじめた。ぴったりと唇を重ね、さらに、くちゅ、くちゅ、と音を立てて舌を絡めあう。
 互いの唾液が口腔を行きかい、唇の端にまで垂れ落ちる。見ているだけで、朋美までジンとしてくるような、淫猥な接吻だった。


 自分を貫いている男が、自分以外の女と熱烈な口づけを交わしている──


 そんな光景を目の当たりにすると、不思議な嫉妬感がわいてくる。
 北野には、恋愛感情を持っているわけではない。
 それどころかバージンを騙し取られ、セックスの魔悦を無理やりに刻み込んだ、憎むべき男だった。
 なのに──
 胸の奥に湧き上がる、この気持ちはなんなのだろうか。
 朋美は激しく戸惑ってしまう。
「ふふ、焼きもちを焼いているのかしら、朋美」
 梨奈は店長と唇を重ね、舌を絡ませながら、朋美にささやいた。
「では、次は梨奈さんの番ですね」
 北野が朋美の中から肉棒を抜き取った。
「あ……」
 己の内部からペニスが去っていった瞬間、朋美は切なげな声をもらす。
 北野は、朋美の横で寝そべっていた梨奈の元に移動し、のしかかった。正常位の体勢で貫く。
「はあんっ、くるぅ!」
 深々と差し込まれると、梨奈は艶っぽい嬌声を上げた。
 両腕を伸ばし、北野の上体を抱きしめる。自分から顔を伸ばして、中年男にキスを浴びせていく。
 他にちゃんとした恋人がいるとはとても思えない、濃厚にして熱烈な交わり方だった。
 朋美と比しても、あまりにも激しいセックスに、思わず魅入られてしまう。


 ぱんっ、ぱんっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ!


 肉のぶつかる音と、体液が混じりあう濁った音とが淫らなハーモニーを奏でた。
 二人の腰と腰とが衝突するたびに汗のしずくが飛び散り、ツンとした性臭があたり一面に漂う。
「梨奈さん、気持ちよさそう……」
 朋美は羨望を隠せず、そうつぶやいた。
 ふらふらと夢遊病者のように近づくと、二人の結合部に顔を寄せていく。誰かに教えられたわけでも、命令されたわけでもない。
 その場に漂う淫猥な空気が、朋美に自然とその行動を取らせていた。
 梨奈の赤い花びらを割って、北野の巨根が深々とはまりこんでいる。白濁した体液にまみれた結合部に、そっと舌を這わせた。
「んっ……」
 朋美はかすかに顔をしかめる。
 苦く、それでいて甘みを含んだ味。
 無論、北野が高速でピストンしている最中なので、それほど結合部に密着することはできないし、唇や舌を密着させることも難しい。
 それでも濃密に交わりあう二人に置いていかれまい、と朋美は懸命に口唇愛撫を続けていく。
「ああっ、そうよ、朋美! もっと……してぇっ」
 クリトリスのあたりを集中的になぶると、梨奈の声がひときわ高く、切なく響いた。


 あたしよりもずっと性体験の豊かな先輩女子大生を、気持ちよくさせている──


 それは奇妙な優越感となって、朋美の自尊心をくすぐった。
 胸がスッとなるような爽快感だった。
 結合部にもっと顔を寄せ、舌先を尖らせて梨奈の性器に這わせていく。
 左右に割り広げられている秘唇を交互になぞり、その上部にある肉芽をチロチロと舐めあげる。
「んっ、はぁんっ!」
 眉間に皺を寄せて、梨奈は喘いだ。
 喘ぎ続けた。
 豊満そのものの裸身がガクガクと痙攣し、白い肌に珠の汗がびっしりと浮かぶ。
 薔薇を思わせる紅に染まった雪肌に、朋美は口唇愛撫を続けることも忘れ、見とれてしまう。
「梨奈さん、綺麗……」
「だめ、私、もうっ……だめ、店長!」
 唇を半開きにして、ハアハアと喘ぐ。
 朋美は結合部から顔を離し、今度は梨奈の上体に顔を寄せた。
 豊かに揺れる乳房に口づけし、頂点の紅い尖りを唇に含む。性には未熟な朋美だが、同性だけに乳房の感じるポイントはよく分かる。
 乳首を口の中で転がしつつ、優しく吸いつけた。舌の先でニプルを突き、いたぶりながら、徐々に吸いつけを強くする。
「い、いやぁっ! 朋美も、そんなに……ちくび、吸わないでぇ……ああ、気持ちいいっ!」
 梨奈の喘ぎは、すでに叫び声へと変わっていた。
 両乳房を交互に嬲り、それから年上の女子大生の頬にそっとキスをする。唇にスベスベの肌の感触を感じ取り、うっとりとした。
「梨奈さぁん」
「と、とも……み……キスしてぇ」
 二人の美人女子大生は互いの裸身を絡ませあい、無我夢中で口づけを交わした。同性同士の妖しいディープキス。
 北野は梨奈を貫いた姿勢のまま、小刻みなピストンへと移行し、二人を見下ろしている。
 レズのカップルさながらに抱き合い、絡み合う二人は、互いの手を互いの裸身へと這わせ、より強い快楽を与え合った。
「も、もうだめっ。私……私、もうイク!」
 とうとう梨奈が登りつめようとしている。
 自分以外の女性がオルガスムスに達する姿を見るのは、もちろん初めてだ。
 知性的な容姿が真っ赤に染まり、喉を震わせて牝の叫びをあげる。
「ああっ、イッてしまうわ! もう、イッちゃううっ!」
 普段の知的な梨奈とのギャップに、朋美は妖しい興奮を覚えていた。梨奈を見つめているだけで、胸がドキドキと高鳴ってしまう。
 無我夢中で先輩女子大生の唇に貪りつき、熱烈なキスを何度も与える。
 やがて──そのときがやってきた。
「だめ、くるっ、ああああああ、梨奈、イク! イクう! イクう!」
 イク、イク、と派手に連呼しながら、グラマラスな裸身が絶頂の痙攣を繰り返した。
「本当に……イッちゃったんだ、梨奈さん」
 朋美はなかば呆然と、なかば感動に打ち震えながら、梨奈の肢体を見下ろしていた。
 中年男に深々と貫かれ、薄く涙を浮かべながら絶叫する女子大生は、たとえようもなく美しく、妖しかった。
「綺麗……梨奈さん」
「はあ、はあ、はあ……」
 吐息をこぼしながら、梨奈は細かい痙攣を繰り返している。
 首を伸ばして朋美や北のにキスを繰り返し、自身のエクスタシーの余韻を分け与えようとしているかのようだった。
「先にイッてしまいましたか。やれやれ、それでは続きは朋美さんにしていただきましょうか」
 ぬるぬるになった女穴から、北野が肉棒を引き抜いた。
 たくましいペニスは白く濁った体液でべっとりとコーティングされている。
(欲しい……)
 己の中にさらなる欲望が込み上げてくるのを、無垢な女子大生は感じていた。





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